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神話21世紀  作者: 風月莢
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四、心の内

でも。あなたには。

「ハル、ねえ…」

 本当に良いの。そう聞きたい。

「シュリがあなたに懐かないってことは」

 それはつまり。

 ねえ。

「あなたに生きる力が」

 あるって、ハル。

「あなたの魂が『生』を願っているって」

 そういうこと。

 だってシュリは、あなたの精神の一部なのだから。


 ホタルは理性。シュリは本能。ハルの精神を反映している。

 理性なんて、強い程辛いだけなのに。

 人を優先して、自分が押し潰されて、どんな言い訳を重ねればあなたは救われるって言うの。


 本当は嫌だと。


 そう言ってくれさえすれば。


 死にたくなんてない。


 千秋から目を逸らせて。

 このまま、あなたを生かして千秋を黙殺する事を正義だと主張出来たなら。 


「詩月さん。シュリを懐かせる方法を」

 教えて下さい。

 ハルあなたは違う。

 放っておけばきっとシュリを手なずけて、私達の失態さえ赦して死を受け入れてしまう。

 理不尽だと声を荒げる事もなく、それが世界のシステムだと割り切って。


「未練を、消しなさい」

 それでもどうして私はこんなに汚い言葉を口に出来るのだろう。

「この世界の心残りを捨てなさい」

「捨てるって…」

「あなたが死ねない一番の理由を消化するのよ」

 ハルが腑に落ちた、という顔をした。

 ああ。そうか、そう続くように小さく声を漏らした。

 彼女が現世に残したいもの。それは余りに明確で、

「それじゃあ、まだ私が死ぬのはずっと先ですね」

 安堵と絶望を織りまぜて、微笑した。私はこんな微笑をこれまでも、恐らくこの先も二度と見る事はない。ハルの瞳は、そこに存在する景色の断片の一つも映していなかった。全く別の色をその目に宿して、幻を追いかけて。

 美しい。

 そう思った。

 虐殺だ、略奪だ、その一方でこうやって凛と微笑む人間がいる。

 だから。

 私達「彼岸」が優れている、なんて下らない。

 こんなに、危険なくらいに美しいものを「管理」の一言で括るなんて、そんな事。


 ねえハル。やっぱり私はあなたを死なせるなんて出来そうもない。



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