四十八、彼にだけ見えるもの
どこまでも続く白い建物。ここにあるどの建物も、ただ白い事だけが存在意義でもあるかのようにその色を主張している。
どの建物もフユの目にはほとんど同じに見える。白く美しく、狂気を覚えるほどに整然としている。フユはこの無数にある建物の中の一つから外の景色を見ているが、恐らくそこからではなくても、この世界の景色は同じ姿を見せるのだろう。
このままずっとこの風景を眺め続けたら、いずれはこの世界の全てが—今唯一青く色付く空さえも全て—白に侵食され、染め上げられていくのではないだろうか。
この世界は気高くて綺麗だ。そして寂しい。他者と慣れ合う事のできない孤独を、内包している。
—何度目だろう、この夢は。
フユは自問した。
これはいつも見る悪夢だと、夢の中で理解出来るほど何度も見た夢だ。
だからもう、先を見なくても結末を知っている。
—ここはたぶん、彼岸の世界だ。
夢でしか見た事の無いこの白い世界がきっと彼岸なのだと、フユには確信があった。
乱火の力を手にしてから見るようになった、酷い夢。
日を重ねるごとに、同じ夢を見る回数が増えた。
—乱火。
鋭い閃光が視界を塞ぐ。
小学生の時、授業で見た原爆の映像によく似ている。
フユはじっと佇んだまま、それを見ていた。
重たそうな煙が上がって行くさまと。
衝撃波までが目に見えた。
—助からない。誰も。
気高い白も空の青も、何もかもが呑み込まれて行く。
陰という名の衝撃があらゆるものを包んで行く。
そして、思い出したように聞こえてくる地鳴り。
—ああやっぱり、音は光よりも遅いんだな。
そんな素っ気ない思考が、いつもこの夢の最後だった。
「っ、……」
目を覚ますとそこは、ホテルの一室。
暗がりの中で冷えきった指先は毎回のことだが、あまりに見慣れ過ぎた悪夢に、酷く冷静に分析しようとする自分がいる。
—あれを予知夢じゃないって思おうとする方が、無茶だ。
夢を鵜呑みにするなんて、馬鹿らしい。だがあの夢はそんな風に無関心を装えるレベルを越えている。
—乱火の力を奪った弊害か。
—それとも。
「……罰、か」
暗闇の中、フユは諦めたように囁いた。