四十五、青色の未来
白を基調としたドーム状の部屋に、白のドレスを着た女が佇んでいる。入り口に背を向けた後ろ姿でも、プラチナブロンドの髪が緩くウェーブを描いて美しい。彼女の傍らに分厚い本が開かれた状態で浮遊している。白紙のそのページの上を、やはり浮遊する羽ペンが動き、青く濡らしていく。その青いインクが記す文字こそ、彼岸の未来の予言。つまりここに浮遊する本が先見の書である。
そして白いドレスの女、彼女が先見の書の番人、風姫。
「あなたは本当にそれで良いのですか、桜…」
入り口へ向き直り、透き通った声で風姫が言った。その視線の先には不敵に微笑する桜の姿がある。
「ええ勿論」
何に動じる様子も無く、桜は笑みを留めたまま続ける。
「現状に問題があるのなら、むしろ聴かせて頂きたいわ。私に取っては何もかもが順調よ。怖いくらいにね」
風姫は少しの間桜を見つめて、ただ一言静かにそうですかと呟いた。桜が苦笑する。
「風姫、あなた考え過ぎよ。訪れる前から後悔なんて馬鹿らしいわ。時は移ろうものよ。たとえ気に入らなくても、」
桜はゆったりと深い息をつく。
「どんな事でも終わりがあるわ」
風姫は桜から目を逸らさなかった。その瞳の奥がそれと気付かないほど僅かに揺れる。目敏い桜は風姫の表情の変化を読み取りながら、敢えてそこに触れはしない。桜は風姫を真っすぐに見据えて諭すように言った。
「いずれ風化するのよ。戦場も楽園も、隔てなくね」