四十一、小休止
境界の入り口を出てすぐのところ。
「みーちゃん」
朝凪がそう言うと強い風が吹いた。
「乱火さんのところに連れていってね」
ガサッと足下の雑草を荒らして姿を現した大蛇。恐らく10メートル弱。派手な黄色をベースに、深紅の模様を持つ。
「……おい、みーちゃんって、…」
フユは嫌な予感が的中しないことを祈りながら—望みが薄いとは知りつつ—聞いた。
「あっ、この子です!みーちゃん」
「…その蛇か」
「はい!」
朝凪のからりと笑う表情に悪意はひとかけらも無い。
「…そいつが案内してくれるって?」
「はい!みーちゃんの第六感は凄まじいですよ!」
第六感か。仮に彼岸の蛇の第六感が百発百中だったとしても、だ。
「俺たちはそいつの後を付いていくのか?」
この教会は廃墟だから良いとして、まさか乱火のところへ辿り着くまでに誰とも出会わないなんて保証はない。
「一応聞くが、そいつは普通の人間には見えないんだろうな?」
「えっ、あっ!」
—見えるのかよ。
「すっ…すみません!」
「見えるんだな」
「はい」
「なんでだよ…お前達の姿は誰にも見えないのに…」
フユは深い溜め息をつく。厄介なことこの上ない。
「すみません。飼い主の私の力が到らないばかりに」
しゅんとする朝凪。
「—たく、境目がわかんねぇ。さっきの奴の攻撃だって簡単に教会を破壊したし。見えないけど殺傷能力はあるってふざけた話だな…。お前達どこまで人間界に関われるんだよ」
「すみません。私もよく知らないんです。今までこんな風に関わったことなんてありませんでしたし…」
ますますしゅんとする朝凪。
思案しかけて、フユは匙を投げた。
「まぁいいや、考えたって仕方ない。さっさと乱火たちと合流しようぜ」
「え、でもみーちゃんは、」
怪訝そうな朝凪にフユが気怠い一瞥を加える。
「なぁ、少しはこっちの世界のルールを勉強してもいいんじゃねぇ?」
そう言って、ジーンズのポケットから青い携帯を取り出した。