三十七、手紙の導く先へ
何もかもが幻想であっても
春になれば
翻り咲き綻ぶ
桜吹雪
月夜に乱れ舞う
失った時を追って
過ぎ去った映画だった
そうやって
日ごと思い出は増える
泣いてみるのも洒落た一幕
風流に霞むひとひら
情緒に揺れて少し、弱くなり過ぎたかな
春になれば翻り咲き綻ぶ桜吹雪
世界の終わりまでいざなってくれ
華やかな祭りの如く
何度でも酔いしれる
幻想で構わない
ひとひら
月夜に解けていく
失った記憶
馬鹿げた台本に沿って踊る
君は美しい
幻を幻と呼べない君は
誰にも聞こえない声で叫ぶ
幻を幻と知っている君は
天の邪鬼
今となっては
己の心の在り処も見えない
幻想を幸福と呼んで一興
儚い命
艶やかに染めたい
沈黙の水面に石を投げ
崩れていく視界を讃えよ
さあ
終着に向かって
進め
二度と
振り返ることなく
―――――
鮮やかな赤が散る。
ハルの肩にどさりと倒れ込んだ里雪の背中に、細身の長い刀が付き刺さっていた。
「ハッ、…クソ…ッ、しくじった……ッ」
里雪が呻いた言葉に反応するように、血が流れ出る。
「っ、…う…、」
どくどくと溢れる血が、里雪を支えたハルの柔らかな服に滲んでいく。
「隙だらけだ。里雪。貴様らしくもない」
里雪の様子など意に介さない涼しい声が、鋭くハルの耳を打った。
冷ややかに刀を何本も構えた女が、こちらを見ている。
「…全く、うちのアホは遊びすぎだな。このフィールドが生きているから、まだ辛うじて意識はあるようだが」
苛々と零された言葉は、里雪の攻撃に倒された男のことを言っているようだ。
一息ついて女は続ける。
「挨拶が遅れたな、ハル。彼岸の最上層衛隊、平たく言うところの彼岸の戦闘要員、椿だ」
返す言葉が見つからずハルが見つめる先で、椿が白々と言い放つ。
「名前は覚えなくていい。どの道先のない命だからな」
それを聞いた直後に、ハルの腕の中で、支えた里雪の肩が微かに強張った。
「こんな事の為に…。里雪も馬鹿な男だ。死神は死神らしくしていれば良いものを」
「…、」
俯いた里雪の唇が、自嘲するように弧を描く。
「望めば“彼岸最上層護隊”の“最強”も手に出来る男だったというのに、惜しい話だ」
自力で自分の体を支えるように身を起こした里雪が笑う。
「ハ、…惜しいもんか…、最上層衛隊の“最強”…、は、」
そこで一度息を止めて、里雪はぐっと拳に力を入れた。その瞬間ドガッと地面が砕けて獣が現れ、椿を押しつぶそうと襲いかかる。
ズタズタな状態で攻撃を仕掛ける里雪にハルは声をかけることも出来ない。ただその傷付いた背中と裏腹に、はっとするほど優しい、落ち着いた囁きを聞いた。
「世界のあらゆるものを……破壊するだけだ…」