二十三、テトリス
落ちていくL字形の赤いピースが美しい。テトリスはシンプルで完成されたゲームだ。結局フユは、古いゲーム機を引っ張り出してきて、砂都の要望に付き合っている。
「砂都、どうしてフユを抹殺しようとしたんだ」
画面を見つめる二人の背後から乱火が問えば、フユが不機嫌に吐き捨てる。
「まだその話かよ。うぜぇ」
まるで下らないと言いたげな台詞に乱火が反論する。
「お前は気にならねーのかよ、フユ。うやむやにする気か…」
「『危険だから』だろ。それだけ分かれば充分だ」
フユは冷めた目をしていた。
「俺は、お前たち『彼岸の使い』の存在を知ってる。……ずっと見てきた。お前たちが人間の命奪ってる時も、奪う命探してる時も。ただ黙ってただけだ。正直…お前たちを『消したい』とどれだけ思ったかなんて、もう、……覚えてない」
淡々と語られる言葉は、憎しみより諦めの方が大きく聞こえた。
「俺は何の力も持ってなかった。『見える』以外は、普通の人間と変わらない。勝ち目もないのに抗うほど馬鹿でもない。
けどある日状況が変わった」
乱火をちらと掠めたフユの視線は、縋るような、責めるような、けれどそのどちらでもない色で伏せられる。
「俺は『乱火の力』を手に入れたし…、今はその気になれば彼岸に喧嘩吹っかけることも出来る」
乱火は、彼岸でも持て余されるくらい強い力を持っていた。
けれど彼は、彼岸の仕事にただ一つの価値すら見出すことはなかった。
そうしてどの人間の運命にも関わらずに上層部の怒りを買って、彼岸に居る権限を剥奪された。
彼岸の力を封じられ、人間界に落とされ、決して人間ではなく、彼岸の使いとも呼べない。
封じられた力が、どこへ流れるのか。存在したものを完全に消すことが出来ないのだとしたら、受け入れるだけの容量のあるところへ行き着くのが自然だ。
それが、フユで。
―力が無いから視野に入れなかった『復讐』を、実現出来るだけの状況が訪れたら。
「フユ、でもお前は、」
「彼岸を否定はしねぇ。今ここでテメーらと戦おうとも思わねぇ」
フユにそのつもりが無いとしても、彼岸にとって「危険」と判断するだけの材料が揃ったら。
―抹殺……、全て彼岸が撒いた種なのに…。
危険が積もる前に消去せよ。
―まるで、テトリス。