カウンセラーのプライド
想像だけの世界です。実際の世界は知らないので、
もしかすると迷惑かけてるような記述もあるかも?
「キチ○イ」の表記はどうなんでしょうか?
気にはしてみましたが、どうしても最低1カ所はでてしまうので・・・・
R15該当の方がよかったのでしょうか?
「あ、あたし、やっぱり、キ○ガイなんですか!?」
ま、待って。いきなり、結論をださないで。
ここは消防学校の会議室。
史佳からの連絡で、学校側が会議室を用意してくれていた。
(なんと言っても、彼女の本部人事担当者という肩書きは重かった)
そこに座って待っていてくれたのは、小柄な若い女性。
写真で見たよりも、もう少し生気があった。
史佳に形どおりの敬礼。「貴船 珠洲香 消防士」と自己紹介。
ちょっとおどおどしているところがまた、新人らしい。
そして、あたしが名前と精神科医を名乗った途端に、
彼女の発言が飛び出してきた。
目にうっすらと涙を浮かべ、握りしめた両手は震えている。
ヤバイな、興奮状態だ。
ここでミスって、良好な関係を築けないとなると、治療は遠い夢となる。
呆然としている史佳に合図を送ると、あたしは話し始めた。
ゆっくりと、落ち着いている印象を与えるように。
「大丈夫。もし、本当におかしい人なら、自分のこと、おかしいなんて思わないものよ。」
あたしの一言で、珠洲香の力がスッと抜けるのがわかった。よし、この調子。
「それに、精神科医といっても、カウンセラーが仕事だから。
お薬も出すことはあるけど、相手の話を聞く、聞かせてもらう。
そういうお仕事だから、安心してね」
そう言っている間にあたしの頭は回転する。
一つ、彼女は自分をキ○ガイと思ったことがある。人に言われたことがある。
そして、そのことについて、強く不安に思っている。
彼女の不安を取り除かないと、落ち着いて話も出来ない。
不安感からくる、情緒不安定の傾向あり。
二つ、精神科医の仕事をある程度知っている。経験がある。
そして、多分そこで自分の言い分を否定されている。
だから、精神科医にあまりいい印象がない。
これでは良好な関係が結びにくい。
珠洲香は変に知識や経験があるだけに、あたしもよく注意して入らないと、
たちまち拒否にあってしまう。
一度閉ざされた心をもう一回開けるのは、並大抵の苦労じゃない。
ここが一番の勝負のところ。
「珠洲香さん、貴方の心、ちょっと不安定なところがあるかも知れないって。
こちらの史佳さんから聞いたの。それで今日、こうやってお会いした訳だけど。
もちろん、誰もが悩みとかかかえているのが普通であって、
とくにあなたが異常とかいうつもりはまったくないのよ。
でも、あなたからいろんな話を伺って、貴方の心が軽くなるのなら、
そして、消防のお仕事により向かい合うようになるのなら、
あたしは話をきかせてもらおうかなって、思ってるの」
あたしの急場しのぎの説明でも、珠洲香は納得したようだった。
その後は雑談に入って、次の面談を決めようとしたときだった。
「あ、あの・・・・先生は、ベテランなんですか?」
ひょっと出たような、軽い質問。何の他意もなさそうな・・・
でも、あたしの頭の中で、警戒音が鳴った。
あたしはポケットからタバコを取り出すと、口にくわえた。
テーブルの上を見渡して、灰皿がないことに気が付いたようなふりをする。
「あ、ごめん。禁煙なんだ、ここ」
そう言うと、タバコを元に戻す。
史佳が呆れたような表情であたしを見た。
もちろん、禁煙だって事は、車から降りたとき、あんたが注意してくれたこと、覚えてますよ。
でも、この時間稼ぎが、自然な形での時間稼ぎがあたしには必要。
この数秒で、猛烈に考えをまとめなきゃいけないんだから。
だから、あたしはタバコを止められない。
意志の弱いあたしの言い訳だけど。
この子の「ベテラン?」の意味は、経験豊かってことじゃない。
”あたしの話、真剣に聞いてくれますか?”
”あたしと真剣にかかわってくれますか?”
彼女が無意識に出している、SOSサインだ。
相手が気がついてくるかどうか、本能的にテストしている。
結論、この子は賢い。
いや、感覚が、勘が鋭いといったほうがいいかもしれない。
史佳が欲しがったのが分かるような気がした。
二つと同じ現場がない消防では、勘の良さというのは、特別の武器なのだから。
あたしはニッコリ微笑むと、大きく肯いた。
珠洲香はホッとしたような表情を浮かべると、少し照れたように笑った。
なんとか、基礎的な関係は作れたようだった。
あたしもホッとしながら、次の面接の期日を決めた。
⁂ ⁂ ⁂
ワイパーの音よりも大きくわめいた。
「あの、小娘は!小娘は!!」
あたしは帰りの車の中で荒れ狂った。
いや、小娘たって、十歳も違わない。
だけど、他にいい形容の仕方が思いつかなかった。
あんな小娘に、ギリギリまで振り回されるなんて!
あんなど素人に、専門のあたしがキリキリ舞いさせられるなんて!!
あたしの怒りをスルーするかのように、史佳は運転席で笑みを浮かべている。
その笑みがあたしの怒りを増大させている。
史佳の笑みの理由も分かっている。
史佳の思惑どおりに事態が動いたからだ。
会いさえすれば、あたしが珠洲香に興味を持つであろう事を。
そして、そのとおりにあたしは珠洲香に関心を持ってしまった。
そして、仕事を引き受けることになってしまった。
「あんな小娘に、いいようにされて、黙ってるなんてこと、あたしにはできない!
この仕事でお金かせいでいる、あたしのプライドが許さない。絶対にあの子を直してやる!」
精神科医と患者がギリギリのところで攻防を繰り広げたこと、
それはあたしの職業上の好奇心を痛く刺激したこと。
そしてそれは、史佳にとってはどうでもいいよって、感じの笑みにしかならなかったこと。
ああ、全部ひっくるめて、腹が立つ。
「まあ、そう荒れないでくださいな」
たった、それだけかよ!
「次の機会に一杯おごりますわよ」
ま、まあ、それなら、許すか。
車から降りるとき、雨は小雨になっていた。
あたしは別れ際、史佳にこう警告した。
「もし、珠洲香がPTSDだと仮定して、その原因が、現時点では分からない。
従って、何の刺激によって、彼女がどのような反応を起こすのか、
まったく予測不可能。
だから、くれぐれも彼女の行動には注意してあげてね。
様子を観察するしか、ないんだけど。
何か、異常な行動があったら、すぐに連絡ちょうだいね」
予言者になったつもりはなかった。
未来を予測したわけではなく、一般的なPTSD患者の行動から推測しただけのことだった。
でも、その連絡が史佳から来たのは、翌日のことだった。
「炎の中に飛び込んでいこうとした!?」
あたしは携帯を握りしめて呆然とした。
予約掲載のありがたみがやっとわかってきました。
「いますぐ掲載」だと、寝るのが1時、2時・・・
ただでも少ない睡眠時間が・・・・
だったのが、予約すればよかったのですね。
これからできるだけそうします。