第2話:「消えた部活日誌と影の足音」
朝の学園は、文化祭の余韻を残したまま活気に包まれていた。廊下を歩く生徒たちの声が響く中、バスケットボール部の部室前で、キャプテンの藤原悠斗が眉を寄せて立ち止まった。
「え…ない…?」
部室の扉を開けると、机の上にいつも置かれているはずの日誌が消えていた。試合戦術や選手の記録がぎっしり詰まった、部員たちにとって非常に重要な資料だ。
「翔くん、沙奈ちゃん、助けてくれ!」
藤原は少し焦りながらも、前回の文化祭事件での活躍を思い出したのだろう。信頼を込めて二人に声をかける。翔と沙奈は互いに軽くうなずき、部室の中に入った。
「まずは落ち着こう。現場をしっかり確認することが最優先だ」
翔の低く落ち着いた声が、部室の緊張を少しだけ和らげる。
翔の目はすでに部室のすべてを捕らえていた。机の位置、床の微細な傷、壁のほこりのわずかな偏り。目に入ったものはすべて頭の中に刻まれていく。
沙奈は部員たちの表情や仕草を観察する。誰もが困惑しているが、微かな動揺や目線のずれ、手の震えに、不自然なものを感じ取った。心理分析能力が、無意識の嘘や心の揺れを見逃さない。
「外から持ち出された形跡はない…」翔は低くつぶやく。扉も窓も施錠され、防犯カメラの死角もない。だが、床に残るわずかな擦り傷と、机の微妙な位置のズレが、何かを示している。
「秘密の通路…前回の事件で見つけた通路が関係している可能性があるわ」
沙奈の声に、翔は小さくうなずいた。校舎の古い部分には、誰も知らない細い通路があり、そこを通じて日誌が一時的に隠されたのではないかと考えたのだ。
二人は部員一人ひとりに事情を聞く。証言は食い違い、時間の感覚や行動の説明に矛盾が生じる。沙奈は目線や仕草、声のトーンを細かく分析し、心理的なヒントを拾う。
「あなた…少し緊張してるね」
沙奈は藤原の隣に立つ部員の少年を見つめた。わずかに肩をすくめ、視線を床に落とすその動作が、隠し事をしている証拠だった。
翔は瞬間記憶で再現した部室の状況をもとに、床の傷や机の位置、通路の角度を照合する。そして、部室の一角にある小さな隙間に意識を集中させた。微かに光の反射が違う。回転式のパネルの奥に、日誌が隠されている可能性が高い。
「見つけたぞ」
翔の声で、部員たちは振り返る。沙奈が少年の心理を巧みに誘導すると、少年は小さなため息とともにパネルを開け、日誌を取り出した。
「いたずら心で隠しただけです…誰にも見せたくて…」
少年の言葉に、部室内は静かな納得の空気が流れた。
日誌は無事に回収され、部活は予定通り練習を再開する。だが、翔と沙奈は知っていた。これは単なるいたずらではなく、学園の影に潜む秘密とつながる小さな兆候に過ぎないことを。
放課後、二人は校舎を歩きながら話す。
「小さな事件だったけど、校内の動線や心理の矛盾を見逃さなければ、もっと大きな謎にも気づけるね」
翔は微かに笑みを浮かべる。
「ええ、次はもっと複雑な事件が待っているかもしれないわね」
沙奈も微笑み返す。夕陽に照らされた校舎の陰影が、静かに二人を包み込む。
校舎の奥には、まだ誰も知らない学園の秘密が眠っている――。




