男女比1対1000の世界のAED
ある日、会社で残業して、最後、一人で会社を出たら、見知らぬ街でした。
「あれ、真っ暗だ」
と後ろを振り返ったら、人とぶつかりました。
ドタン!
「ごめんなさい!男様?申し訳ございませんでした!」
「え、男ですけど」
ぶつかったのは20代の女性、黒髪でスーツを着ていました。下はスカートです。
腰を90度に曲げて謝罪をされました。
「申し訳ありません。男様が倒れたので心肺蘇生をして頂ける男様とAEDを探しています!」
AED?心肺蘇生装置か、実は私も講習を受けた事があったので、
「私が行きます!」
とついていきました。
すぐに、現場に着きました。
「大変!息をしていないよ!」
「こちらの方、やって下さるそうよ」
倒れた人は太った男性でした。
その周りに男性がいましたが、何もしていません。
それどころか。
「ちょっと、服を脱がせるなんてセクハラよ!触りたいだけでしょう!」
「そうよ。氏名を名乗りなさい!公民証を出しなさい」
「ちゃんと本人に許可を取ったの?」
とトンデモない事を言います。患者は意識がないのです。
「あれ、何故、俺が?」
「私達が男様に触ったら、触法になる可能性が強いです!お願いします」
後で聞いたのですが、皆、即興で集まった有志だったそうです。
「みなさ~ん。壁を作って下さい!男様の肌が露出しないように、目隠しをします」
ああ、これは習った。
講習では、もし、女性が倒れたら、呼びかけて、壁になってもらうと習いました。
男でもそうするのか?まあ、人それぞれだ。
「ピー!!」
「キャー!性的搾取!」
男達がピー、ピー騒ぎます。
「AEDが間に合わないわ。心臓マッサージをお願いします!」
「はい!」
これはならった。一応、息を・・・と、青酸カリを飲んで自殺した人がいて、息の確認を患者の口元でやったら、殉職された消防の方がいたとか。
私は首に指をあて、脈がないのと、胸に耳をあてて、鼓動を確認しましたが、動いていません。
「ピー!破廉恥!」
「許可取ったの!」
「豚田君、カワイソー!」
うるさいな。
手をあて、・・・確か、アンパン行進曲の速度で・・・
「申し訳ありません。どなたか、アンパン行進曲のハミングをお願いします」
「ええ、アンパンレディね」
通じたが、アンパンレディ?男だったような。
このときに、違和感がありました。
その後、
「AEDあったよ!」
「ようし!」
周りにいた男達はピー!ピー!叫んでいましたが。
お構いなしにAEDを開け。音声ガイダンス通りにやっていたら、
ボン!
「グギャー!」
目を覚ました。ヨシ、はずそう。
その時、
ピーポー!ピーポー!ウウウウーーーー!
救急車とパトカーのサイレンが聞こえました。
中から、女性警官や女性救急隊員が降りて来ました。
「男様!どうぞこちらへ」
患者は担架に乗せられ、病院に行き。
私と女性達は警察官に事情を聞かれました。
その時。
「え!栃木県?ここは、下野県だよ!」
「会社?!男様で?土田舎商事?そんな会社は見つからない」
「貴方様のご住所は野原になっていますよ」
「ええー」
初めて異世界に来たと分かりました。
そう言えば、会社を出たときから違和感がありました。
この世界は男性と女性の比率は1対1000で男性は保護対象で、幼少期から施設で大事に育てられている。
全ての物資は男優先。
しかし、近年、女性嫌いの男性が急増している・・・
「珍しい現象だ」
「すぐに、保護施設に!」
「君、女性と性交は可能か?」
「出来ますけど・・・誰でも良いと言うわけには・・・向こうも好みがあるのではないですか?」
「君は美青年だ!鏡を見たまえ」
鏡を見ましたが、くたびれた20代後半の俺がいるだけです。
これで美青年?
とんでもない世界にきちゃったな。
しかし。
「君は私達の知っている男様と大きく違う。大災厄前の男性に近い・・・政府の決定が下されるまで隔離をした方が無難だ」
「はい、衣食住を確保していただけるのなら、後、仕事をお願いします」
「分かった。何か事務仕事を探そう」
「はい!」
大災厄とは世界大戦で、男性だけを狙い撃ちをした細菌兵器が使われ、両陣営も男の人口が激減した事件らしい。
そして、何故か俺は告訴された。
助けた患者さんから訴えられた。刑事と民事両方だ。
何故?
理由は。
「グスン、グスン、大勢の女性の前で衣服を脱がされました」
「不起訴!」
となったが・・・・
あの俺が助けた人は豚田呑という名で有名なインフルエンサーみたいだ。
各地で男達による糾弾行動が起きた。
男の提供する精子がなければ、この社会は成り立たない。
だから政府は鎮圧できないでいた。
デモは各地で起きて。
女性警官も女性兵士も男を触れない。
だから、俺は追いかけられて、千葉県、安房県の海沿いの崖まで追い詰められた。後ろは太平洋の荒波だ。
「うもー!私に許可を受けてAEDを使ってないでしょう!傷ついたのだから!」
「「「そうだ。そうだ!」」」
何だ。甘やかされて育った苦労知らずのようだ。
一人一人はたいした事はないけど、数が多い。
皆、太っている。
聞けば男性保護費をもらい。一日中ネットをしているそうだ。
先鋭的な意見ばかり目にして醸成されて、一言で言えば狂っている。
俺は説得を試みる。
「でも、誰かが心肺蘇生をしなければ、豚田さんは死んでいたよ!感謝しろとは言わないが、俺を殺すなんて、おかしいでしょう!」
すると、豚田はヒステリーを起した。
「ウモー!ウモー!ヒドい!ヒドいわ。セカンドレイプよー!」
「呑ちゃん、カワイソー!」
「女に媚びる名誉女性ね!」
「マン〇ツンツンヨシヨシね」
ボロッ!
足下の小石が海に落ちた。
その時、豚田は、ヒステリーを起しすぎて・・・
バタン!と倒れた。
「キャー!どうなっているの?」
「誰か!救急車を呼んで!」
「でも、女に触られるわよ!」
「ねえ、男ならそこにいるじゃない。貴方、豚田さんを助けなさい!」
・・・俺は・・断った。
「断る!」
「「「ヒドーい!」」」
男達は俺に迫る。
「助けなさいよ!」
「「「そーよ。そーよ!」」」
「訴えるわよ!心肺蘇生をしなかったら死刑よ」
何だよ。どっちみち。刑に処されるのではないのか?
ガチャ!
「あっ」
俺は足を滑らせ崖から落ちてしまった。
海に飛び込んでしまった。
バチャーン!
うわ。服をきたままだと、泳ぎづらい。
このまま死ぬのか。
・・・・・・・・・・・・
「「「「良かった!」」」
「グスン、グスン!」
気がついたら、俺は病院の中にいた。
大勢の女性に囲まれている。
「ずっと、海女さんたちが控えていたのよ。真の男様救出計画をしていたの」
「あ、有難うございます。ところで豚田たちはどうなってのですか?」
「そうね・・・豚田は亡くなったわ。その後、仲間たちは罪のなすりつけあいを始めたわ。全く、男々しくて困るわ。あら、ごめんなさい」
「大丈夫です。そうですか・・」
これ以上は聞かなかった。
「貴方は亡くなった事になっています。元々この世界では戸籍がなかったのですもの。政府は貴方を除外男性に指定して、東京で働いてもらいます」
「除外男性?」
「ええ、男性強制管理法が施行されます。男性達に、目くらましのニュースを流しているすきに、男性保護法の一部改正をします。男だけの街に住めるとと言いくるめて、実体は強制集団生活の強制管理になりますね・・貴方だけは別格ですわ」
「そうですか・・」
男の行く末に、同性として不憫に・・・はならなかった。
最後までお読み頂き有難うございました。