8話 四郎と共闘
その事件が起きる一日前、四郎の要望で早い段階での体育祭準備に取り掛かっていた。入学してまだ日が浅いとはいえ、既に部活に参加している者もいるため、全員とはいかなかったが、集まれる人たちだけで体育祭の準備を進めていた。
「じゃあ、それぞれの役職のグループで集まって進めれることをやろうか」
「よっし!みんな別れろー!!」
体育祭の男女代表の二人がクラスメイトたちに呼びかける。響たち裏方は、一年の教室がある二階から少し距離がある三階の空き教室に移動した。教室は物置に使われているため、多少ホコリが積もっており、まず初めに掃除をする羽目となった。
掃除が終わり一段落ついたタイミングで、まだ来ていなかったメンバーも集まったので一華を中心に改めて自己紹介が行われた。
「じゃあ、私から!私は兎佐美一華!よろしくね!」
「僕は天乃蓮央改めてよろしく」
「次うちかぁ…有咲でーす、よろー。あと今日は来てないけど透子って子もいるから」
「道元響です。こっちは源菖蒲さん」
喋るのが苦手な菖蒲に代わって、響が菖蒲の自己紹介もする。響が自己紹介をしている隣で菖蒲はペコペコと会釈をしていた。自己紹介もあと一人となったタイミングで、まだ名を明かしていない男が席を立つ。
「自己紹介は入学式にやっただろ、二回目をする意味は無い。僕には時間があまりないから今日はこれで失礼するよ」
「ちょ!」
一華の声が届く前に扉が閉まる音が響いた。
「あー、行っちゃったー」
「みんなごめんね、気分を害したら申し訳ないんだけど彼は笹倉洋太、僕の友達なんだ」
自己紹介を跳ね除けた洋太に変わって、友達だという蓮央が代わりに名前を伝える。洋太は短髪にメガネで見るからに真面目そうな身なりをしていた。
「じゃあ気を取り直して作業をしようか、と言っても今日は簡単な交流と何をしていくかを決めるだけなんだけどね」
「あ、ごめん。うち透子から連絡きたから今日は帰るわ、何か決まったら連絡してちょー」
今日は集まりを休んでいた透子から連絡が来た有咲は、多少の申し訳なさを見せながら教室を出ていく。
「…行っちゃったね」
「そう…だね」
本来は七人いるはずの教室には今は四人しかいない。気まずい雰囲気が教室に充満する中、一華が空気を変えようと話題を振る。
「そういえばさ、響君と菖蒲ちゃん二人一緒に登校してたのってほんと?」
「それには深い事情があるんだ」
「深い事情ねぇ、なるほどなるほど」
「悪いけど兎佐美さんが思ってるような面白い関係ではないよ」
「なーんだ」
まさかここまで朝のことが知れ渡っているとは思っていなかったため、焦りながらも丁重に誤解を解く。突然、蓮央は菖蒲の正面に座ると口を開いた。
「菖蒲さん昨日、田谷公園に居なかった?菖蒲さんぽい人影が見えたんだよね」
「…………」
案の定、喋るのが苦手な菖蒲は突然のことに慌てているが、慌て方が見るからに異常だった。その不自然な慌てようの菖蒲に響が話しかけようとすると蓮央が割って入ってくる。
「あぁ、無理に話そうとしなくても大丈夫だよ。多分見間違えだけかな、しかも見られてたとしたら恥ずかしいしね」
「恥ずかしいって何をしてたんだ?」
「ちょっと猫とじゃれたんだ」
照れくさそうにする蓮央に、イケメンで動物好きなんて女子の心を掴んで離さないだろうと響は軽く嫉妬した。
「よし、今日はあまり時間ないし人もいないから、また明日にしようか。」
「そうだね、なら今日は解散!」
空き教室の扉を閉めたあと、蓮央と一華と別れた。菖蒲はというと額に冷や汗が流れ、少し呼吸が荒くなっていた。
「大丈夫か?」
「うん…大丈夫、でも今日はちょっと疲れたから早めに帰ります…」
「本当に大丈夫か?送っていくぞ?」
「本当に大丈夫です、また明日会いましょう」
「そうか、また明日」
そう言うと菖蒲は駆け足で帰って行った。
翌日、蓮央から朝に少しだけ作業をしたいとの連絡がきていたため少し早めに登校をする。学校に着く前に蓮央と会った響は軽い世間話をしながら空き教室へ向かう。空き教室の前には先に来ていた一華たちが立ち尽くしていた。
そうして今に繋がる。破かれた服と上履きが菖蒲のものだとわかったタイミングで、タイミングが良いのか悪いのか菖蒲が教室に入ってくる。その破かれたものが一瞬で自分のものだと分かった菖蒲は、ヘタリと座り込み地面を見つめてしまう。
「源さん大丈夫か?」
「…………」
「ここは僕たちが見ておくから、響君は先生のとこに相談しに行って」
「あぁ分かった、源さんとりあえず行くぞ」
現場は蓮央たちに任せ、響は菖蒲を支えながら職員室へ向かう。仮眠をしていた四郎を叩き起こし現状報告をする。
「なるほど源の物が…分かった、とりあえず校長に掛け合ってくる」
「!!!」
「ど、どうした?」
四郎が校長へ報告しに行くタイミングで、菖蒲がそれを阻止する。菖蒲は周りにノートを探したが見つからなかったため、響に伝えてほしい内容を話す。
「このことは大事にしないで欲しい、と伝えてくれますか?」
「わかった」
菖蒲の要望をその後も四郎に代弁していく。菖蒲の要望はまず『大事にして欲しくない』、『体操服は予備があるから大丈夫』、『上履きは学校のスリッパを貸してほしい』との事だった。四郎はその場は菖蒲の要望を承諾し、響とは別件で話があると言い、体操服とスリッパがある保健室に菖蒲を向かわせる。
菖蒲が保健室に向かいに職員室を出た後、四郎は響を見つめたあと、重い口を開いた。
「道元、俺に協力しろ」
「?……はい!」
最初は何を言っているか分からなかったが、四郎のいつもより真面目な目と強めの口調に、犯人探しに協力しろという意味だと理解し、響は四郎の目を見つめて四郎の頼みを引き受ける。
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