7話 体育祭準備と切り刻まれた体操服
響を一人残し、菖蒲が一人で学校に走っていくところを見ていた他の学生たちは、修羅場が起きているのかと朝から目を輝かせていた。そんな学生たちの視線を浴びながら菖蒲に続いて校舎に入っていく。
「源さんおはよう」
「おはっ!おはようございまふ!」
教室に着くとあからさまに目を逸らす菖蒲がいた。一緒に登校してきたが、クラスメイトにその事がバレないようにやや大きめな声で挨拶をした。その響の声が聞こえたのか、後ろから佑馬が腰を小突いてくる。
「おはよぅ!」
「おふっ!……小突くな、おはよう」
「朝からお熱いねぇー」
「何がだ?」
「バレてないと思った?一年の廊下で二人が仲良く登校してたーって、噂してたよ」
「話すと長くなる」
一から説明するのは面倒くさいが、噂に尾ひれが付くよりはマシかと佑馬に菖蒲と近所だったことを説明する。
「なるほどねぇ、これは運命だねぇ」
「偶然だ」
「またまたぁ」
朝から佑馬のノリに付き合ったせいでもう既に疲れが出てきた。
「よぉーしお前らー、席に着けぇ」
佑馬との会話が四郎の掛け声によって遮られる。慌てて席に戻る佑馬と軽い挨拶をして、響も席に着く。
「じゃあ、ホームルーム始めるぞぉ。みんなは一年だから知らないと思うが、我々岩久高校の体育祭は5月の頭に行われる。本当はまだ準備しなくてもいいんだが、B組の朝日奈先生との賭け……じゃなくて、勝負をしているから早めに準備を始めて、このC組には是非優勝をしてほしい」
体育祭は運動部からすれば、異性に良いところを見せる絶好の舞台だが、響を含むインドア派の人間からすると拷問でしかない。
「四郎先生!優勝したら僕たちには何かないんですか!?」
「あー、うーん。まぁ…ギリギリ黒字か…、優勝したら焼肉連れてってやるよ」
「本当ですか?!!」
「俺は嘘と仕事のハンコはつかないで有名なんだ」
四郎の企みは全て聞こえていたが、響以外には聞こえていなかったのか純粋に焼肉を食べれることにクラス中が歓喜する。高校生と言えど、まだまだ子どもな年齢の生徒たちには『焼肉』という単語はとても魅力的に映るのかクラスのやる気がみるみるうちに上がっていく。
「でだ、体育祭の準備をする上で男女の代表を決めたいんだが誰かやりたい人いないかぁ?」
先程まではやる気に満ち溢れていたクラスだったが、代表という責任感が強い役回りは避けたいのか熱気が冷めていく。そんなクラスを見かねてか、勢いよく手が挙がる。
「男子の代表、僕やってもいいですよ」
「本当か?」
「もちろんです。あ、でも他にやりたい人がいたら全然やってもらっても構わないからね」
男子の代表に手を挙げたのは、クラスの人気者である蓮央だった。蓮央が立候補したためか、他の男子の手が挙がることはなく、その反面女子の手は次々に挙がる。
「じゃあ、男子は天乃に任せるとしてぇ、女子どうするかなぁ」
手が全く挙がらないのも問題だか、手が挙がりすぎるのも問題なため四郎は腕を組みながら天を仰ぐ。そんな時に机に手をバンっとつき、勢いよく立ち上がる者がいた。
「私がやります!」
「兎佐美朝から元気だなぁ、元気がいいから兎佐美がやってくれ」
立ち上がったのは、オレンジに近い茶髪の髪が特徴的な、健康的な脚部と、同級生よりも主張が強い胸部が印象的な兎佐美一華だった。クラスの女子からの文句を適当にあしらいながら四郎は話を進める。
「じゃあ、これからはこの二人を代表として進めていくからよろしくぅー。あとはこの紙に何を決めるかが書いてあるからこれ読んで進めてくれ」
「無茶言うなー」
「ま、天乃進めよっ」
四郎からのキラーパスを綺麗に捌いた二人は、次々に役職を決めていく。一人一人何かしらの作業をしなくてはいけないため、響はやる人が一番少ない競技の裏方に手を挙げると、隣で菖蒲も手をピンと伸ばす。裏方は他の人とはノートが無いと会話をすることが難しい菖蒲にとって最も向いてる仕事である。
「よし一通り決まったかな」
「でも裏方が少し少ないよね?」
「確かに、なら僕たちが手伝いをするって形でどうかな?」
「いいね!それで決定ー!」
裏方には響、菖蒲を含む五人に男女の代表をしている二人が参加した。
それから数日後、裏方の作業をしている空き教室で切り刻まれた体操服と上履きが見つかった。
切り刻まれた体操服の名前をくっ付けて見ると『源菖蒲』という文字が確認できた。
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