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62話 無気力少女の家柄

 響は自室で、たわいもない会話が繰り広げられるスマホを机に置き、夏休みの課題を進めていた。


『道元何してんの?話し合い参加してよ』

『あやっち大胆なパジャマー』


 響はスマホを素早く確認するが、菖蒲の画面には筆談用のノートしか置いておらず、『っぷぷ』と笑いを堪える有咲が目に入った。


『響っちが悪いんだよー』

『よっしゃ!響も参加したし話進めるか!』


 今現在、話し合われている議題は『海水浴』についてで、遂に試験期間の目標が現実になろうとしていた。


『でもさー海って言っても、ここら辺の海じゃあーねぇ』

『私は青い海水!燦々と輝く太陽!白くどこまでも広がる砂浜!みたいな海がいいです!』

『そんな場所そうそう無いぞ』


 菖蒲は『ガビーン』とショックそうに萎んでしまった。

 そんな菖蒲を見兼ねてか、有咲は突拍子もないことを言い出す。


『ならさー()()()()に行く?』

『は?』


 有咲の『うちの海』という発言に、動揺していると有咲が発言を続ける。


『別荘の近くにうちが所有してる海があってさ、そこがめちゃくちゃ綺麗なの』

『待って待って!有咲ちゃん、『うちの海』とか『別荘』ってどういうこと!?』


 響以外のメンバーも知らない話のようで、皆で有咲に質問を飛ばす。


『あー言ってなかったかー、うち実はめっちゃお金持ちっ』


 有咲はマネーポーズをし、『うっかりしてたー』と何事も無いように笑っていた。


『待て待てっ!全然話についていけないんだが、今までそんな素振り見せたこと無かったろ!?』

『うん、だって普通の高校生の身の丈にあった生活を心掛けてたからね』


 普段の学校生活では、たまにしか購買を利用しているのを見たことがなく、なんなら少し前まで『今月金欠ー』と言っていた。

 別荘があるほどのお金持ちならば、そんなことは有り得ないだろう。


『透子ちゃんは知ってたの!?』

『裕福なことは知ってたけど…ここまでとは知らなかった…てかっ!あたしにぐらい言えし!』

『だって透子、別にうちがお金持ちだろうが無かろうが、今まで通りっしょ?なら特に言わなくてもいいかなーって』


 どこまでも掴めない有咲に、驚いていると有咲がリップを塗る菖蒲を指さす。


『なんなら、あやっちが使ってるそのリップ、うちのパパのとこが作ってるやつだよー』

『え!これですか!?これ有名な会社のやつですよ!?』

『うん、『KJ・bloom(ケージェー・ブルーム)』はうちのとこのやつ』


 菖蒲は、はわわっと慌てて『いつもお世話になってます!』と有咲にぺこりと一礼をした。


『ってことは、社名のKJって』

『うちの苗字の久慈(くじ)から取ってるみたいだよ』


 透子が苗字で呼ぶなと言うため、流れで有咲も下で呼んでおり、苗字などすっかり忘れていた。

 有咲は少し恥ずかしくなったのか、『もうこの話止めっ』と話を無理やり終わらせた。


『話戻るけど、その海に行くとして泊まる場所はどうする?』

『うちの別荘に泊まればいいよ、部屋数はあるし、ある程度の設備は整ってるよ』


 至れり尽くせりすぎる有咲が、今までよりも輝かしく見えた。

 行く海と、泊まる場所が一瞬で決まり、話し合いが一段落つき、そこからは有咲の話で持ち切りだった。


『有咲の家って普通の一軒家じゃなかったっけ?』

『あれは高校に近いとこに建てたやつらしい』

『次元が違うな…』


 有咲の家は高校に通うためだけに作られたものらしく、そこそこ良いマンションに住んでいた響は少し萎縮する。

 マンションで一つ思い出し、有咲に気になったことを尋ねる。


『前に俺の家に来た時『部屋広ーい』って言ってたけど、あれは本心だったのか…?』

『今うちが住んでる家の一室と同じくらいかな?もちろん一人暮らしにしては十分すぎるし本心に決まってるじゃーん』

『…今の家の前に住んでたとこは、どのくらいの大きさなんだ…?』


 有咲は『うーん』と考えながら、だいたいの大きさを表す。


『響っちのマンションを一層ごとに敷き詰めたぐらいかなー』

『…響さんのマンションって結構上の階までありましたよね?それに一つの階層に十部屋ぐらいありましたし…』


 考えるのが怖くなり、思考をそこで止めた。


『まぁ細かい日程は、またみんなで決めよー。うち眠くなってきちゃった』

『確かにもう十二時回りますね』

『ならまた今度ー』


 皆におやすみを伝え、スマホで『KJ・bloom』について軽く調べた。


『…これも有咲さんの家が作ってんのかよ…』


 有咲について一つ知識が増えたが、きっとまだまだ氷山の一角なのであろうと感じながらベッドに身を委ねた。


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