6話 囁き少女と登校
菖蒲との通話を一方的に切った響のスマホが再度バイブする。明るくなった画面に目を向けると、二人から連絡が来ていた。
「道元さんいきなり切るなんて酷いです!寒空の下に女の子一人にして放置するなんて!あとの細かい文句はまた明日対面で!おやすみなさい!!」
「響、グループに誘っておいたぞー」
それぞれ、菖蒲からは響を非難する旨の連絡、佑馬からはグループの招待の連絡きていた。菖蒲には、簡易的におやすみのスタンプを送り、グループに招待しておいた。佑馬にも感謝のスタンプを送った。
グループにはもう既に、クラスの九割の人数が参加しており、響が入ったタイミングでは蓮央と女子の会話が繰り広げられていた。途中で割り込む勇気など響にはないため、そっとスマホを閉じる。
一日の疲れがどっと出たのか瞼が重くなる。明日も通常通り学校があるため、重い身体を起こし風呂場に向かう。
風呂から上がり、ドライヤーと一応のスキンケアを終える。一度目が覚めたものの再び眠気を抑えられなくなり、素直にベッドに身体を委ねる。
カーテン越しに響の顔を朝日が照らし出す。昨夜、目を閉じたどのタイミングで入眠したのか、そんな不毛なことを考えながら身体を起こす。学校までの距離は歩いて15分程度で、だいぶ時間に余裕があるため、ゆっくりと身支度をする。
マンションの上階に住んでいる響は、エレベーターを使い下に下がっていく。
マンションのエントランスの自動ドアが開き、まだ寒さが残る春風が響の身体を撫でる。
「ぶぇーくしょん!!」
鼻をすすりながらポケットに手を突っ込み、歩みを進めようとするとまたもや見知った顔が玄関の外にいた。
「おはようございます!」
「なんでいるんだ?」
「今日は学校ですよ?」
「それは知ってる。俺は源さんがここにいる理由を聞いてるんだ」
「せっかくご近所さんなんですから、一緒に登校するのは当たり前じゃないですか!」
「………」
「ちょっ、待ってください!!」
たった数時間程度、話した間柄のはずだが近すぎる距離感に少しドギマギしながらも、気恥しさを隠すためやや大股気味に学校へ向かう。
「道元さん!ちょっと早いです!」
「小学校の時は運動会でアンカーしてたからな」
「そんなこと今はどうでもいいです!」
菖蒲は小走り気味に響に駆け寄り、制服を引っ張る。菖蒲の顔は、寒さと走ったことによりほのかに赤くなっていた。そんな小動物のような愛らしさに免じて、歩きのスピードを落とす。
「そういえば昨日なんでいきなり電話切ったんですか?!」
「ポルターガイストが起きたんだ」
「ひぇっ…本当ですか?」
「冗談だ」
「……ふんっ!」
「いてててっ!つねるな!」
ちょっとした冗談のつもりだったが、怖いものが苦手なのか強めにつねられた。すると菖蒲は何かを思い出したのか、手をポンっと叩き響に話しかける。
「あ、グループに誘ってくれてありがとうございました!」
「俺も佑馬に誘われただけだから気にするな、その件で今回のことは許してくれ」
「多目に見てあげますっ」
「そりゃどうも」
そこからは、近所の美味しい店や、菖蒲が知っているクラスメイトの情報を聞きながら進んで行った。
しばらく歩いていると校舎が見えてきた。同じ方向に向かって歩いていく他の学生たちが、響と菖蒲を見て何かコソコソ話しているのが目に入った。
「源さん」
「はい、源さんです。どうしたんですか?」
「俺が先を歩くよ」
「?一緒に行かないんですか?」
「周りを見てみろ」
「周り?」
菖蒲は周囲を見渡すと、学生たちの視線が自分たちに向かっていることに気づいたのか、頭から煙が出る勢いで顔を真っ赤にさせる。
「わ、私!先に行ってます!!」
「お、おい」
響の声は届かず、足早に学校に走っていく菖蒲の後ろ姿を目で追いながら響自身も歩みを進めていく。




