49話 可愛い妹たちのために一肌脱ぐか
菖蒲とたわいもない雑談をしながら、いつもの見慣れた帰り道をたどる。
この道には、一華の妹である双葉が『響お兄ちゃん!』と声をかけてくる定位置がある。
するとそこには、双葉よりもはるかに背も胸も大きい見慣れた人物が立っていた。
「…兎佐美さん?」
「響お兄ちゃん待ってたよ」
「お兄ちゃん呼びは双葉ちゃんだけにしてくれ、背筋がソワソワする」
いつもは双葉がいる位置に、今回は姉の一華が立っていた。
『一華さんどうしてここにいるんですか?』
「ちょっと響君に用があってね…」
「ふーん、響さんご指名ですよっ」
菖蒲は響の背中を押し、双葉との作戦会議の時同様、菖蒲は空気を読み先に家に帰っていく。
「あちゃー下校デートの邪魔しちゃったかー」
「変な気遣いは止めろ。用があるんだろ?要件を話してくれ」
一華は相談の内容が言い難いことなのか『ちょっと歩いてから話すね』とお茶を濁す。
「そういえば双葉の前では私の事一華さんって呼んでるんでしょ?」
「本人を前にすると下の名前では呼べないが、双葉ちゃんの前ではそうだな」
双葉が家で響の話を良くしていることや、双葉の日頃の愚痴を聞きながら、相談にはうってつけな場所に着いた。
「こんなとこに公園あったんだね」
「菖蒲と体育祭の時に、死ぬほど練習してた馴染みの場所だ」
「それはそれは…菖蒲ちゃんとの大切な思い出の場所ということですな?」
中年オヤジのような口ぶりで響をからかう一華は、ブランコを指さし『あそこで話そうかな』とブランコの方へ向かう。
「ブランコなんて何年ぶりだろー!ひゃー!」
「話は双葉ちゃん関係のことか?」
響のその言葉に、一華のブランコの揺れが如実に小さくなる。
「響君にはなんでもお見通しかー」
一華は、小さくブランコを漕ぎながら重い口を開く。
「この前、双葉が中々帰ってこないから、双葉がいつも遊んでる公園を見に行ったの。そしたら、同級生の子と口喧嘩しててね…止めに入ろうとしたんだけど…」
一華は、声を震わせながら続きを語る。
「…口喧嘩の理由が私の陸上のことについてだったの」
一華はその時の状況を詳しく伝える。
『お前の姉ちゃん、陸上で一歩も走れなかったんだってな!』
『双葉も陸上やってるけど、いっっっつも最下位だし、お前ら似たもの同士だよな!』
同級生は双葉に対して、噂で聞いた程度の知識で馬鹿にする。
『ねぇねは、いっつも一位だもん!あんたたちなんか比べ物にならないくらい速いんだから!』
『うっそだぁー!ならなんで本番に走らなかったんだ?』
『…そ、それは…双葉も分からないけど』
同級生たちは、双葉を囲い罵詈雑言をぶつける。
双葉は、隠れて見ていた一華に気づかず走り去った。
「…そんなことがあったのか」
「いやーお姉ちゃん失格だなー、自分の妹も守れないなんてっ」
一華は、自虐気味に愚痴をこぼす。
「兎佐美さんは、しっかりお姉ちゃんできると思うぞ」
「そんなことないよ…いっつも私が迷惑かけてばっかり…」
一華は足を撫でながら俯き、顔が髪の毛で隠れる。
顔は見えないが、響の耳にはすすり泣く一華の声が聴こえた。
「なら、お兄ちゃんが可愛い妹たちのために協力しようかなー」
「…何言ってんの響君っ」
一華は涙で充血した目を拭きながら、響の冗談にクスリと笑う。
「協力って言っても、私の足はどうしたって走らない…走ろうとすればするほど足が鉛のように重くなる…」
「その鉛を砕くのがこの俺、お兄ちゃんの役目だ」
響の立て続けの冗談に、笑いながら立ち上がり、太陽の光に背中を照らされながら手を差し出す。
「そんなに言うなら最後まで私たちに力貸してよね!お兄ちゃんっ」
響はその手を取り、真っ直ぐな瞳で一華を見つめる。
「あぁ、妹たちのお願いは叶えなきゃいけないからな」
一華は、勢いよく響のブランコに飛び乗り、響の肩に手を置きながら立ち漕ぎをする。
「お、おい危ないって!」
「お兄ちゃんが守ってくれるんでしょっ?」
跳ねる声で響の冗談を逆手に取り、いじらしく問いかける。
その日は童心を思い出し、日が暮れるまで公園で遊び尽くした。
「響さん大丈夫ですか?全身筋肉痛だなんて…一華さんとあの後何してたんですー?」
「…ちょっと公園ではしゃぎすぎてな」
「そんな嘘で私を騙せると思わないでくださいっ」
菖蒲は響の身体をツンツンと無尽蔵に突く。
今の響にはそれを止める筋力すら無かった。
菖蒲の突きを耐え、やっとのことで席に座るのだが、そんな響の肩を思い切り叩く者がいた。
「おはよっー!」
「っぃててぇ!」
『おはようございます!』
一華は朝からテンションが高く、そのテンションに着いていけない。
すると一華は響の耳元で囁く。
『おはよう、響お兄ちゃんっ』




