4話 お前も連絡先増えたのついさっきだろ
集合写真を終えた後、だいぶ早い放課後を迎えた響は、帰りの準備をするため自分の席に戻る。席に戻ると、トボトボと菖蒲も歩いてくる。
「どうしたんだ?」
「写真…」
「写真?」
「隣の子がはしゃぐから私…顔が写ってなかった…」
「おぉ、それはなかなかに悲惨だな」
目立ちたがりではなさそうな菖蒲も、集合写真などの記録は、しっかりと残して起きたかったのだろう。菖蒲は、元々小さい声を更に小さくし、机に指で『の』の字を複製する。
「ちょっとみんないいかな?」
突然クラスに響くほどの声を上げた男が、生徒たちの視線を集める。清潔感があり、女性が理想とする男性像のお手本のようで、並大抵の女性であれば惚れ込んでしまうであろう。
「四郎先生が写真を送ってくれたんだけど、僕も含めて満足してる子が少ないみたいだから、今から撮り直さないかい?」
「蓮央様ーー!!!」
「天乃君やるぅ!」
「イケメンだからって図に乗るなー!!」
天乃蓮央は女生徒からの支持率が高いらしく、女生徒の歓声で男たちの僻みが霞んでいた。
響はすっかり名前を忘れていたが、他の生徒たちが丁寧にも苗字、名前を叫んでくれたので名前を思い出すことができた。
ふと、隣を見てみると目をキラキラと輝かせながら、まるで仏が目の前に現れたかのように手を合わせる菖蒲がいた。
「源さんもああいうイケメンがタイプなのか?」
「いえ?特には。私は撮り直しの機会をくれた事に感謝の意を示しているのです」
世論ではイケメン至上主義が一般的だが、そうでは無いらしい菖蒲を眺め、見識を深める。
「それじゃあみんな前に集まってくれるかな?」
「キャーー!」
「指図するなぁーー!」
またもや黄色い歓声の中に野太いヤジが混じる。ブツブツと文句を言いながらも素直に前に向かう。
「そろそろ俺たちも行くか」
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
そういうと、菖蒲は慌てて響の制服の袖を引っ張る。
「どうした?」
「さっきの写りが悪かったのは隣人の運が悪かったからですっ」
「つまり?」
「……道元さんがボディーガードになってくださいっ」
菖蒲同様、あまり目立ちたくない響にとってちょっとした有名人と仲良くしていることは、響の意に反する行為だが、菖蒲のうるうるとした助けを求めるような瞳には抗うことが出来なかった。
「今回だけだぞ」
「さすが道元さん!私が認めただけの事はありますね!」
「いつの間に認められたんだ?!」
知らない間に認められていた響はぽかんと立ち尽くす。そんな響の手を引っ張ると、はにかんだ顔で響に笑いかける。
「行きますよっ」
「ちょっ、手!」
言われるがままに手を引かれた響は、集合写真の集団の端から二番目に配置され、その響の隣でめいいっぱい背をのばし直立する。
「響っ、一緒に撮ろーぜ!あ……ふぅーん?」
響と写真を撮ろうとした佑馬は、菖蒲に手を引かれ、隣あって並んでいる響をニヤニヤと何かを察したような表情で眺める。うんうん、と頷く佑馬に後で誤解を解かなければと響はため息をつく。
「源さん、今完全に勘違いされたぞ」
「道元さん!前!前!」
菖蒲の言葉に前に目をやると、スマホのセットが完了した蓮央がタイマーをつけ、写真を撮る準備を終わらせていた。
「それじゃあ撮るよー!はい、チーズ!」
急に始まった写真撮影に、どんなポーズをするべきかと迷った響は、控えめにサムズアップをした。四郎の時とは違い、その後も何枚かポーズを変え、写真撮影が行われた。
「後でグループに上げておくねー!」
蓮央がそういうと、スマホでポチポチと何かを打ち込んでいる。
「今グループ作ったから、僕が知ってる人は入れておくねー!知らない人は連絡先を教えてくれると助かるな」
陰のものにも気を利かせてくれる蓮央に涙を禁じ得ない。すると響の元に佑馬が駆けてくる。
「響!連絡先交換しようぜ!」
「あぁ、いいぞ」
「サンキュ!後でグループ誘っとくわ!」
「助かる」
佑馬のおかげで話しかけるという、難易度鬼のミッションをこなさなくて済んだが、何かを言いたげなニヤつく佑馬の顔に響は眉を歪める。その横で菖蒲が恨めしそうに響を見上げていた。おそろくこれだろうと、菖蒲が求めることを推測する。
「源さんも連絡先、交換しない?」
「っっもちろん!」
食い気味に返事をする菖蒲のスマホのQRコードを読み取る。
連絡先に響の名前が増えたことで、満足気な顔で菖蒲はスマホを見つめていた。響は、連絡先が増えたことにそこまで喜ぶものかと、暖かい目を向けていた。
しかし、先程の佑馬の連絡先を除くと、響と菖蒲お互いの連絡先に家族以外が追加されたのはこれが初めての瞬間だった。
前回までの3話はまとめて投稿しましたが、これからの投稿は恐らく毎日1話ずつの投稿になると思います。どんなコメントでも嬉しいのでいいねなどをつけてくださると幸いです!