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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
囁き少女との出会い
3/231

3話 友人?×友人?

菖蒲のいじらしくも愛らしい、野良の子猫のような振る舞いに、響の口角は弧を描く。


「すまん、なかなか返事がなかったから」

「自己紹介に次いでまた恥かいたじゃないですか!」


 腕をプルプルと震わせながらぽつりと呟く。


「あぁ…花の学生ライフがぁ…」


 菖蒲の学生ライフが音を立てながら崩れている横で、響はどうしたら良いものかと、一応のフォローをする。


「まぁでも、これでみんな賑やかな人だと思って話しかけてくれるんじゃないか?」


 響の精一杯のフォローに、菖蒲は自虐的に愚痴をこぼす。


「さっきも言いましたが、私声がすごく小さいんです。だから、今のも急に立ち上がった変な人だって、みんなの目には映ってると思います」

「確かに声は小さいと思うがそこまでか?」


 今まで何度も言われてきたことなのか、ため息混じりにコホンと喉を鳴らす。菖蒲はめいいっぱい息を吸い込むと、両手をメガホンの形にして叫ぶ。


「道元さんはロリコンです!!」

「ば、馬鹿!」


 慌てて菖蒲の口を塞ぐが、響以外は気に留める様子はなかった。そんな二人を遮るように前の方からパンパンと乾いた音がする。


「よぉーし、そろそろ時間も頃合いだし黒板の前で写真撮るぞぉ」


 四郎の言葉に続くように、入学式の最後の行事である写真撮影のため、急に前髪を気にしだす者や、リップを塗り直す者も目に入る。


「んぐぅ!?んん!」

「あぁ、すまん忘れた」


 四郎のせいで口を塞いでいたことを忘れていた響は素早く手を離す。口だけを塞いでいたつもりが、顔の小さい菖蒲には響の手は大きすぎたのか、顔の八割が塞がっていた。


「はぁ…はぁ……はぁ!!」

「いたぁっ!?」


 今まで吸えていなかった空気を取り戻すように吸い込んだ菖蒲は、響の脛を勢いよく蹴り飛ばす。当たり所が悪かったのか、弁慶も転げ回るほどの衝撃を受けた響は、足を抱えながら痛みの本拠地を優しく撫でる。


 一息ついたのか菖蒲はスっと立ち上がり、教卓の前に向かって歩いていく。響も菖蒲の後を追うように進んでいく。


「じゃ、とりあえず身長低い順に並べー」


 男子高校生の平均よりほんの少し高く、クラス内では背の高い方の部類に入る響は、一番後ろの列に並ぶ。知らない顔ぶれの中、小さく縮こまる響の隣で、黒板に寄りかかり、顔にかかる髪を指で分ける、見るからに陽系の男が話しかけてくる。


「なぁ、源さんと仲良いのか?」

「んぁ?!いや普通…?」


 いきなりの呼びかけに多少動揺しながらも返事をする。人との関わりを持つことに抵抗がある響は、それ以上のことは話さなかった。


「あ、俺佑馬(ゆうま)な、夏目佑馬(なつめゆうま)。確か響だよな?」

「そうだけど」

「源さんと話してる人見たことなかったからさ、気になって」


 響の反応を気にする素振りを見せず、佑馬は続けるように言葉を重ねる。


「俺も源さんとは、今日初めて会ったばっかだからまだ何も知らないんだ」

「そうなのか?なんか仲良さそうにしてたからさ、てか源さんの声分かるんだな」

「まぁな、夏目さんは源さんと仲良いのか?」

「佑馬でいいよ、俺は中学が同じなだけで話したことは無いな。中学の時、源さん有名人だったから知ってたってだけ」


 やはり声の小ささは気になる点らしく、菖蒲は少なくとも中学の時代から有名人だったらしい。菖蒲と会話できる人数は分からないが、菖蒲曰く、ノートを介さずに会話が出来たのは響だけらしい。そのためか、佑馬は響を稀有な生き物を見るような目で観察する。


「それじゃ撮るぞぉー」


 四郎は、スマホを黒板から少し離れている机の上に立てかけ、タイマーをセットする。そんな簡易的な集合写真の撮影があるものかと響は頭の中で疑問を呈する。


「響、肩!」


 そう言うと佑馬は、響の肩に手を回し、同じ動作を響がするのを今か今かと待っている。一方的に拒むのも悪いと思い、控えめに佑馬の肩に手をかける。佑馬はニヤリと笑い、前のスマホに目を向ける。


 ――パシャ、っとスマホのライトが光り輝くと、四郎は写真の確認をするため、スマホを取りに向かい、生徒たちにスマホの画面を見せる。


「まぁ、こんなもんでいいか」


 大抵、集合写真などの記念的な写真は複数枚取るのが相場だが、ものぐさな性格の四郎は一枚で集合写真を終える。


「目開いてないじゃん!」

「うわっ、髪乱れてる!」

「お前どこ向いてんだよっ」


 様々な感想が出る中、四郎はスマホをポケットにしまい、あくびを噛み殺しながら手を叩く。


「記念写真ってのは何度も撮ると記念の質が落ちるんだ、後で誰かしらに送るから、グループでも作って共有しといてくれ。あ、あとこの後何も無いからかもう帰っていいぞぉ」


 口々に文句を言う生徒たちから逃げるように四郎は廊下に出ていく。入学式の日程を思い出し、思ったよりも早い下校に嬉しさが込み上げる。すると隣にいる佑馬が拳を突き出してくる。


「じゃ、一年間よろしくっ!」

「あぁ、よろしくな」


 佑馬の拳に自分の拳を合わせ、簡単な友人関係を結ぶ。









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― 新着の感想 ―
ヒロインが可愛くて個性的だなと思いました。ASMRとかと相性良さそうだなとも思いました(笑)
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