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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
バレタインデー
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最終話 囁き少女のシークレットボイス

 あのクラス替えから約二年が過ぎた。菖蒲の誕生日を大人数で祝ったり、体育祭で応援団を務めたり、修学旅行では女子部屋に侵入した佑馬が公開処刑になったりと、両手では数え切れない程の思い出が新たに生まれた。


「響っちと今日でお別れかぁ」

「道元、あっち行っても連絡寄越してよね」


 今日は、大学進学をすることになった響の餞別式の日だ。

 引越しトラックに荷物を全て預け、身軽なスーツケースのみで新幹線を待っていた。


「もちろんだ。確か二人も進学だったよな」

「そーそー、うちは親の会社継がなきゃだから、経営学べる大学で」

「あたしは…映像系の専門学校ね」


 響だけに教えてくれたが、透子はアニメ会社に入るために映像系に進んだのだ。

 しかし、周りには『そういう路線もありかなーって』と嘘をついているらしい。

 この三年間バレなかったのは、もはや奇跡に近いだろう。


「兎佐美さんと天使さんは同じ大学なんだったよね?」

「その通りっ!!我は幼稚園の先生になるために見事推薦を勝ち取ったのだ!!これで響殿と我の子どもが生まれても、働きながら育てることが可能であるぞ!!」

「美神ちゃんは相変わらずだなぁ。私はスポーツ推薦で進学だから、体育教師になれたらいいなって感じかなぁ」


 トラウマを克服した一華は、あれから陸上部で数々の記録を残し、大学でも陸上を続けることを前提に、推薦を取れたらしい。

 美神は、永流の病院の近くの施設で子どもたちと遊んでいる中で、将来の夢が決まったらしい。


「仮氏さん、私のことも忘れないでくれますか?」

「忘れるわけが無いだろ。永流は海外の女子大に行くんだったよな…改めて格の違いを思い知らされたな…」


 えへんと胸を張る永流は、記念受験で受けた海外の大学に合格してしまい、環境を変えるのも有りかと、進学を決めたらしい。


「私にもちゃんと連絡くださいね」

「サマエル…困ったらいつでも我を呼ぶのだぞっ!?」


 この二人が離れるところは想像できないが、どれだけ離れていても二人の心は、いつも同じなのだろう。


「こん中で俺と洋太だけが就職組かよぉ」

「二人とも警察官だもんなぁ、もう下手なこと出来ないな」


 女子部屋に忍び込んだりしていた人間が警察官とは、世も末である。


「菖蒲さんの事件から色々考えて、佑馬君の後押しもあって警察官になれたよ。これからは僕がみんなを守るからねっ」

「洋太も立派になって…お父さん嬉しいよぉ」


 おいおいと泣き真似をする佑馬は、脳天気に見えるがかなりの努力をしてきたのだ。

 その点だけは褒められた点である。


「で、そろそろ落ち着いた?菖蒲ちゃん?」


 ここまでの話の中、一度も会話に参加してこなかった菖蒲。

 その理由は明白である。


『っ響さんと離れたくないです!!やっぱり進学なんて辞めて、私と駆け落ちしましょう!!』

「まだ言ってるのか…そもそも俺ら」


 響が言い切る前に菖蒲の『いやいや攻撃』を喰らい、仕方なく頭を撫でながら落ち着きを取り戻させる。


「道元と菖蒲ちゃん、いつまで経っても仲良いよね」

「当たり前だ。めちゃくちゃラブラブだからな」


『きしょ』と透子に一言で切り捨てられたが、事実なのだ仕方がない。


「菖蒲ちゃんも進学するんだもんね。なんか…やっぱり、寂しくなるよね…」

「このメンバーで馬鹿やれるのも、今日までなんだもんな。これから会うとしても、なかなか予定も合わないだろうし」


 これが高校卒業唯一の懸念点だ。

 大学進学組や就職組、こうなると予定を合わせるのも一苦労である。

 あの頃のように、毎日顔を合わせ、たわいもない話をできるのも限られてくる。


「有咲殿?急に後ろを向いてどうしたのだ?」

「っなんでもない。なんでもない…から…」


 隠しているようだが、響の耳は誤魔化せない。

 声の途中、すすり泣くような音が混ざっている。


「有咲ちゃん…そんなの反則だよぉ…うぅぅ」

「あーあ、有咲が兎佐美泣かせたー」


 こうなると悲しみは簡単に伝染する。

 泣くと思っていなかったはずの響だが、無性に目頭が熱くなる。


『皆さん聞いてくださいっ』


 先程まで泣きじゃくっていたはずの菖蒲だが、今はみんなの中心で注目を集めている。


『私たちはこれから、それぞれ別々の場所に離れてしまいます。これは、変えられない現実です。でも、だからといってて、一生離れ離れという訳では無いですっ』


 少し前の菖蒲は、自分から何か行動を起こすことに躊躇う節があったが、それも今では想像もできない。


『みんなと過ごしたこの三年間の経験は、私にとって…とっても、とーっっても!大切な思い出でしたっ。それはきっと、みんなも同じはずですっ』


 高校のどの瞬間を切り取っても、忘れることの出来ない、かけがえのないものである。


『私たちには、距離では分かたれない友情がありますっ!言ってて、少し恥ずかしくなってきましたが…私が言いたいのは、一つです!!』


 菖蒲はみんなの手を引っ張り、重ねられた手の上に響の手を置いた。


『また一緒にお話しましょうね!!』


 菖蒲のそのセリフと同時、響を乗せる新幹線が音を立てて到着した。


「じゃあ、そろそろ俺行くな」

「おうよっ、大学でもはめ外すんじゃねーぞ親友っ」

「夏目、その『親友っ』ての恥ずかしくないの?」


 水を差された佑馬は『全くっ』と笑って見せた。


「響殿っ!たまに…たまになら…いきなり電話してもいいであろうか?」

「いつでも大歓迎だ」


 美神のこの満面の笑みも、しばらく見ることがないのだと考えると、少し寂しい。


「響さん、大学で浮気なんてしたら許しませんからね?」

「できる訳がないだろ?そもそもするつもりもないしな。第一…」

「はいこれっ、新幹線の中で食べてねっ!」


 一華から渡された使い捨ての弁当箱を受けとると、耳元で『次会う時は、もっと可愛くなってるから楽しみにしててっ』といじらしくからかわれた。

 この展開にも慣れたものだ。


『まもなく、三番線に新幹線が到着いたします』


 無機質なアナウンスがホームに響き、冷たい風が線路から吹き上がった。


「響君、身体には気をつけてね?」

「洋太さんお母さんみたいですねっ」


 永流は過保護な洋太を笑いながら、美神の手をぎゅっと握っていた。

 平然を装っていても、滲む寂しさは隠しきれていなかった。


「じゃあそろそろ…っ痛ぁ!」

「っいつまで『そろそろそろそろ』言ってんだし!あたしも泣くの堪えてんだから、さっさと乗って!!」


 透子にキックにより、強制的に乗車させられた。

 タイミングを見計らったかのように、放送と共に扉が閉められた。

 窓のガラスから見える姿は、近くだが遠くも感じる。


『響さん!!最後に一つだけ聞かせてください!!私のことどう思っていますか!!?』


 菖蒲は耳をこちらに傾け、今か今かと待っている。

 新幹線もまもなく動き出すようで、車内が少し揺れる。


「なんで乗る前に言ってくれなかったんだよ…」


 菖蒲の後ろで、一華や永流がニヤニヤと笑っている。

 毎回毎回、こんな役回りになるのは勘弁して欲しい。

 響がいるのは新幹線の連結部分。人は居ないが、両隣の車両にはかなりの人数がいる。


「はぁ…これから数時間の移動を耐えるってのに…」


 響は覚悟を決め、周りの人たちに心の中で謝罪をした。


「っっ大好きに決まってんだろおぉぉ!!!」

「はいっ!私もです!!!」


 あの可愛い笑顔を見れたのなら、これだけの恥ずかしさを犠牲にしてもお釣りがくるだろう。

 いや、紙一重かもしれない。


「どうかお元気で!!」


 菖蒲たちに手を振られ、響の乗る新幹線は走り出した。


「すみません…すみません…」


 自席に座るまでの数十秒間、生温かい視線がキツかった。



 まだ少し違和感があるベッドで目を覚まし、簡単に朝食を終えた響は、大学の入学式に向かっていた。


「花のキャンパスライフ。新一年生。どれをとっても最高だな」


 オープンキャンパスと試験を受ける時だけに入った校舎に入り、入学式の会場へと向かった。



「本日入学の日を迎えられた新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


 懐かしい定型文だ。

 周りを少し確認するが、髪色やピアスを付けているのを除けば、高校の時となんら変化もない。


「それでは新入生は退場してください」


 これから大教室で簡単なガイダンスが行われる。

 見知った人物も見つからず、一人寂しく移動する。



「はぁ…俺馴染めんのかなぁ」


 そんなことをブツブツと呟き、大教室の一番後ろの端席でぼーっとしていた。

 ガイダンスまで残り数分となり、移動してくる人数もどんどんと増えてくる。

 すると、大勢の人たちに紛れ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「やっと来たか」


 その香りの方向に目を向けると、パーマをかけたのか、至極色の髪が緩いカールを描いており、小柄で凹凸は少ないものの、実際には少しだけ膨らみのある、小動物らしさ全開の少女がこちらに微笑んでいた。


「じゃーんっ、大人っぽい私はどうですかっ?」

「最高だな」


 響は変わらず素直な感想を伝えた。

 まだまだ、この囁き少女との生活は続いていくらしい。


「今日はこのガイダンスが終わったら、お休みですよね?」

「その予定だな。午後は履修登録でもしようかなぁ」

「えー、せっかくのキャンパスライフ一日目なんですよー?あ、いいこと思いつきました!」


 そう言うと、少女は響の耳に近づき可愛い吐息と共に囁く。


()()()()()()()()()()()()


 このシークレットボイスは、他の誰にも伝わらない。

 遥か先の未来でも、この声を独り占めしていたいと思う今日この頃。

ここまで読んでいただきありがとうございました!!

これにて「囁き少女のシークレットボイス」は無事に完結致しました!!

二人のストーリーは、これからも変わらず続いていきます。テスト期間や学園祭、二十歳を迎えた二人の関係などなど…上げ出すとキリがありませんが、そこは皆様の想像にお任せ致します!

もしかしたら、どこかで番外編のようにちょっとした一コマを書いたりすることがあるかもしれませんが、その時は『筆が乗ったんだなぁ』と思って読んでいただけると嬉しいです!

最後になりましたが、200話超の長編をご愛読して頂きありがとうございました!!

話の中で気になる点や『これってどうなったの?』などがありましたら、どんどんコメントしていただけるとありがたいです!

ここまでの長編を完結させるのは、かなり寂しいところがありますが…それでも、二人の物語にピリオドを打つため、ここで幕を下ろさせていただきます!!

改めてご愛読ありがとうございました!


(追伸) いつになるかは分かりませんが、近いうちに新作を書く予定です!内容は変わらずラブコメになると思いますので、よろしければ作者フォローをして、待っていていただけると嬉しいです!!

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