238話 答え合わせ
まだ校門は開いておらず、手に息を吹きかけながら開門までの時間をただ待つ。
既に来ている新一年生らしき生徒たちは、一年前の響たちを彷彿とさせる。
「あれ二人とも今日早いんだ?」
「やっぱ考えることはみんな同じってことっしょ」
マフラーにモコモコの手袋、上半身は重装備。しかし腐ってもギャル。スカートは短く折られており、下半身は身軽だった。
『奇遇ですねっ!…お二人もクラス替えが気になってですか?』
「そうなんだよぉ…菖蒲ちゃんと離れたら、あたし…リアルに転校まで考えるわ」
透子は菖蒲に頬ずりしながら、飛躍した選択肢を吐露する。
有咲は白いため息を吐き、菖蒲から透子を引き剥がしていた。
「余裕そうにしてるけど、響っちもだいぶ緊張してんじゃないのー?」
「余裕?俺がか?」
響のブルブルと震える脚は、寒さによるものではない。
前日から、心臓が張り裂けるほど緊張しているのだ。
「まぁ、なるようになるよっ。って、あの集団…うさっちたちじゃね?」
有咲の指差す方向に目線を変えようとした瞬間、とてつもない勢いで何かが飛びついて来た。
「響殿!響殿っ!!びびぎどのぉぉ!!」
「だいたい全部分かったからっ!鼻水をクリーニングに出した、学ランに付けんな!!」
遅れてやってきた一華に引き剥がされた美神は、ようやく大人しくなった。
その後ろから、やれやれと言ったような顔をした、佑馬と洋太が到着した。
「なんか全員集合って感じだな」
「このメンツ落ち着くわぁ。てか、響チャット見ろよな」
佑馬からスマホを突かれ、チャットを開くと、数十件の通知が溜まっていた。
だがほとんどは、美神からの『びびぎどのぉぉ』だった。
「僕にも朝から天使さんから怒涛の連絡が来て、流れでみんなで登校することになったんだ」
「だって…一人では怖いではないか…仲のいい友達もここぐらいであるし…」
ぐすんと涙を流しながら、可愛いことを言う美神は皆に撫でられ、最終的に響の背中に落ち着いた。
「まぁ、もうなるようになるしかないよね」
「ごめんうさっち、もうさっきそれうち言ったわ」
やはり考えることは同じなのだろう。
そんなことを考えていると、ピシッとしたスーツに身を包んだ教師が門を開きに来た。
「あわわっ!もう答え合わせですかっ!?」
「そうみたいだな。じゃ、行くとするか」
さっさと確認し校舎に入っていく者や、友達と喜びを分かちあっている者たちが、響の足をどんどんと重くする。
いや、美神が乗っているのだ、重いのは当然だった。
「去年は特になんも気にせず見れたのに、今年は心臓やべーわっ」
「っね。あたしは有咲と同じならいーなーぐらいだったけど、こんなに大所帯になったら、そうもいかないって」
各学年ごとに別れた四枚の紙を見つけ、恐る恐る近づいていく。
順番にA組から確認しようと、大人数で一枚の紙を覗き込んだ。
「僕たちの名前はー…無いね」
「うしっ、これで三分の一!!」
珍しくガッツポーズをする有咲は、周りの視線に気づき『つっつ、次行くよっ!』と強引に背中を押した。
だがしかし、それよりも先に響に声をかけて来る巨漢な男が近付いて来た。
「あ、響くんおはよう。また同じC組よろしくね」
彼は去年の体育祭で大活躍をした富士山、こんなに身体が大きいのだが、優しい性格なせいで少し存在を忘れかけていた。
「お、うん。また一年よろしくな、ごーれむ」
「ごーれむ?」
しまった。これは響の心の中でのあだ名だった。すぐに訂正し、首を傾げたごーれむは、大きな足音ともに階段を登って行った。
「B組はいいのかよ」
『響さんが居るクラスから見るのが得策です!!!』
次のページまで跡が付くほどの筆圧で書かれた文字に、一同も大きく頷く。
「じゃ、じゃあ…上から名前確認するぞ!!」
「「「了解!」」」
一番上から目を凝らすと、背中から美神が大きな声を出した。
「我の名前があるっ!!やったっ!響殿とまたいっしょぉ!」
「良かったね美神ちゃん!あっ『兎佐美』もあった!」
美神と一華は無事に三分の一をくぐり抜けた。
「うわーまた有咲と一緒じゃん、さいあくー」
「透子さん笑顔が溢れてるけど」
『うっさい道元!また一年よろしく!!』と強烈なキックを食らったが、ギャル二人も勝ち取ったようだ。
これだけでもすごい確率だ。
「僕もあった!…ここのみんなと一緒じゃなかったら…ううぅ」
「仮に別クラスでも遊びに行ってから安心しろってっ」
佑馬に背中を叩かれた洋太もC組確定。
「ここに響の名前があって…うっしゃあ!俺もC組だ!透子さーん!!!」
「はいはい、あたしはいいから道元とイチャイチャしてきてよ」
透子にあしらわれた佑馬は、響とグータッチを決め『また一年よろしくな親友っ』とキザな台詞を吐いた。
「ってことは…」
「残るは菖蒲ちゃん…のみっ!」
菖蒲の肩に手を置き、菖蒲の震える手を支え、一人一人名簿を辿っていく。
「ほほほほ…ままま…みみ…」
「おーお前ら朝早いなー」
どんどんビートが早くなる心臓を抑えていると、ガラスのドアに寄りかかった四郎が声を掛けてきた。
「今ちょっといいとこだから黙ってて!!」
「京極…せっかくお前ら全員俺のクラスに入れてやったのに、なんて言い草だ」
その言葉にその場全員が固まった。
「どうしたお前ら?まだ名簿確認してなかったのか?」
「あ、私の名前ありました」
肝心の菖蒲の名前確認は、あっさり終わった。
だが、そんなあっさりと終わらせる響では無かった。
「やったぞ菖蒲!!!」
「っわぁ!!おっ、降ろしてくださいぃぃ!!」
菖蒲を脇腹から抱え、ぐるぐると宙を舞わせた。
こんなに嬉しいことは人生初だ。
であれば、これだけ喜んでも許されるだろう。
「やっぱお前ら付き合ってんだろー。ま、お前らには色々お世話になったし、そのお礼的なやつだ。良い一年にしろよー」
「しろ先、めっちゃ良い奴じゃんか」
この時の四郎は、今までのどんな時よりも輝いて見えた。
「ふえぇぇ…やっと地面に降りれましたぁ…」
「悪い、ちょっとだけテンション上がっちゃって」
『どこがちょっとなんですか!!』とポカポカと殴りかかってきた菖蒲は、響の懐にすっぽりと埋まった。
「…また、よろしくお願いしますね?」
「こちらこそな」
登校当初は想像もしていなかった、全員揃って同じクラスという、最高の滑り出しをした二年生。
慣れ親しんだ担任とメンバーに囲まれた響の学生生活は、怒涛の勢いで駆け抜けて行った。
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今回も時間割いて読んで下さりありがとうございました!!
今回の話を読んでお気づきの方もいるかと思いますが、これにて一年生編が完結致しました!!
二年、三年のストーリーは、内容が似通ったものになってしまい、蛇足になってしまいそうなので、当初の予定通り、一年生編のみとさせていただきます…
そのため、おそらく次回が「囁き少女のシークレットボイス」の最終話になります。途中だれてしまったり、投稿頻度が空いたりなど、読者の皆様にはご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ございませんでした!
改めてここまで読んでくださりありがとうございました!!最終話も全身全霊を込めて、執筆させていただくので最後までお付き合いよろしくお願いします!!!




