233話 空回り
早朝。と言うには少し微妙な時間。
通常の平日であれば車通りが多くなり始める頃。
響たち三人は源家の前で予定の時刻を待っていた。
「レンタカーを出してもらえるなんて、羽響さんには頭が上がりませんねっ!」
「父さん、運転好きだから特に気にしてないと思うけどな」
羽響たち夫婦はバスを乗り継ぎ、花見まで運んでくれることになっていた。
ワクワクと胸を踊らせる二人を除き、約一名げっそりとした顔で通り過ぎる車に過敏に反応する者がいた。
「…藍李さん、肩の力を抜いてくださいよ」
「っむ、無理なことを言わないでちょうだいっ。ただでさえまだ正式な謝罪もできていないのに、ちゃんとした顔合わせがこんなシチュエーションだなんて…」
『謝罪』とは、おそらく菖蒲の誘拐事件での響の怪我のことについてだろう。
元々仕事で忙しい両親なため、なかなかタイミングが合わないのも頷ける。
『まぁまぁ、心が落ち着かないのはお腹が空いてるからに決まってますっ。お花見用につくりましたが、試食も兼ねてお先にどうぞっ!』
菖蒲がバケットからゴソゴソと取り出したのは、色鮮やかな具材が顔を覗かせるサンドイッチだった。
「車酔いを起こしても迷惑よね…いただくわ」
藍李は小さく口を動かしながら、具材にたどり着く。
「…すごく美味しいわ。少し落ち着いてきた…」
その瞬間、ワゴン車が響たちの前でクラクションを鳴らした。
「っんぐっ!ごほっごほ…」
『っお母さん水っ水!』
藍李は詰まりかけたサンドイッチを水で流すと、あくまで平然を装い小さく会釈をした。
しかし、その顔は完全に引きつっていた。
「菖蒲ちゃん久しぶり!!響も相変わらず元気そうねっ」
『お久しぶりです!って、いつもチャットでお話していたので久しぶり感はあまりありませんねっ』
菖蒲たちは会って早々、波長を合わせほわほわとした空間を作っていく。
「っ本日はお時間を作って頂いて!」
藍李は空回りながらも懇切丁寧に挨拶をしようとするが、荷物を運ぶために降りた羽響に『寒いですしお先に中へ』と促され、またタイミングを逃したように小さく頷いていた。
「源さんっ、何か好きな曲あります?せっかくのドライブなんですから、BGM代わりにどうですか?」
琴音は助手席から顔を出すと、膝に手を置き固まっていた藍李に重要なBGMを委ねる。
「っあ、なら…」
琴音は藍李の口をついて出た曲名を検索し、流し始めた。
「…なぁ、菖蒲」
「…皆までは言わないでください…お母さん、だいぶ…いや、かなり緊張しているみたいです」
車内には、暗い雰囲気のクラシックが流れ始め、とても楽しくおしゃべりとは言えない空気に変わる。
「この曲はちょっと眠くなるな。菖蒲さん、他の曲の候補はあるかな」
「すみません…」
声量と共に小さくなる藍李の横で、菖蒲はドライブに最適なアップテンポな曲をリクエストした。




