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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
体育祭と一騒動
23/232

23話 囁き少女のシャワーとベッド下

 考えを巡らせることも束の間、エレベーターが到着の音を奏でながら動きを止める。ドアが自動的に開き、促されるように二人ともエレベーターから降りた。響は菖蒲の前を歩き、先導するように自分の部屋まで歩いていった。


「…ここだ」

「ここが響さんのお部屋…」

「…とりあえず上がってくれ」


 響は洗面所からタオルを持ってくると、菖蒲の頭に放り投げた。滴る雨粒が無くなる程度に拭いた菖蒲を風呂場に案内した。


「ここが風呂場だ、着替えは…俺のパーカーを貸すから」

「至れり尽くせりですね!」

「服は脱いだら、乾燥機に入れておいてくれ」

「了解しました!」

「じゃあごゆっくり」

「…響さん、覗かないでくださいね?」

「当たり前だ」

「決して覗かないでくださいね?」

「布でも織るのか?」

「鶴の恩返し的な話じゃないです!」


 菖蒲がシャワーを浴びるまでの間、リビングで身体を拭き、別の服に着替え、冷えた身体を温めるためコーヒーを入れて一息ついた。窓を見ると既に雨は止んでおり、雨雲に隠れていた太陽が顔を出していた。

 雨音も無くなり、無音なリビングに風呂場からシャワーの音が響いてきた。響の部屋はそこそこの防音対策がしてあり、普通の人間であれば静かに暮らせるのだが響の耳を前にしては防音対策など意味を成さず、菖蒲が浴びるシャワーの音が丸聞こえだった。


「ふんふーふふんふー」


 風呂場から鼻歌が聞こえてきて、改めて菖蒲が居ることを認識し、ソワソワしてしまう。気を抜いてしまったらつい魔が差してしまいそうになり、その度に自分の頬を叩き正気を保つ。



「響さん上がりました!あれ、響さんそんなに顔腫れてましたっけ?」

「気にするな…」

「分かりまし…た?そういえば、響さんはシャワーはいいんですか?」

「今はまだ止めておく」

「風邪は引かないでくださいよ?」

「あぁ」


 シャワーを浴び、いつもよりも妖艶に見えてしまう菖蒲から目を逸らしながら会話を進める。気を紛らわせようと、菖蒲の分のココアを作り始める。


「響さんのお部屋は広いですね!一人じゃ寂しいんじゃないですか?」

「広い分掃除するのが大変だから一長一短だよ」

「それにしては綺麗にしてますよね…まさか、通い妻が?」

「いるわけないだろ、ロボット掃除機に頼ってるんだよ」

「ロボット掃除機さんがいるんですか?!見てみたいです!」

「多分今の時間的に俺の部屋の掃除をしてると思うぞ、だからまた後……」

「響さんのお部屋にいるんですか?!見てきます!!」

「うぉい!ちょっと!!」


 目を輝かせながら響の部屋に向かう菖蒲を止めようと思ったのだが、お湯をココアに注いでいる最中なため咄嗟に動くことが出来なかった。ココアにお湯を注ぎ、急いで自分の部屋に向かうと菖蒲はロボット掃除機の虜になっていた。


「あ、響さん!このロボット掃除機可愛いですね!わたしが近づくと離れていくところが響さんそっくりです!」

「それはどうも」

「響さんに似ているこの子を『 ミニ響さん』と命名します!」

「勝手に命名するな」

「あぁ、ミニ響さんどこ行くんですか!?待ってください!」


 勝手に命名されてしまったロボット掃除機改め、ミニ響はベッド下の掃除に向かい、菖蒲もその後ろをトコトコと着いていく。するとベッドの下に潜って行ったミニ響は何かに引っかかり、音を立てて脱出しようとし、救出のために引っかかりの原因となったものをベッドの下から引っ張り出した。


「これがミニ響さんのお仕事のお邪魔をしていたみたいです!これはなんで…す……」

「何に引っかかって…っ馬鹿!それは!」


 響は慌てて、隠そうとするも間に合わず見られたくない物を見られてしまった。その物は、数日前に透子に布教のためと渡された『 魔法少女いちご♡』のブルーレイと、やや大人向けの二次創作の本だった。


「それは違くて…だな」

「趣味は人それぞれですからね、何も悪いことじゃありません。私こそ勝手にベッドの下を覗いてしまってすみません」

「勘違いなんだよ…」


 すぐにでも菖蒲に訂正をしたいが、透子に釘を刺されてしまっているため躊躇ってしまった。その間に菖蒲は響を宥めさせる言葉をつらつらと呟いていく。

 するとタイミング良く乾燥機が仕事を終わらせたことを音を立て報告する。菖蒲は立ち上がり、乾燥機から服を回収しに行く。


 戻ってきた菖蒲と打ち上げまでの時間をつぶすために会話をしていたのだが、いつもと違い菖蒲の目が温かく、慰められているよう気持ちになりいたたまれなかった。





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