228話 デブ猫との因縁
初っ端から飛ばしすぎた春休み。そのギャップにやられ、鬱屈とした日々を過ごしていた響は、気分転換に街中を闊歩する。
手始めになかなか手を出せずにいた、コーヒーショップで新作と思しきフラペチーノを購入した。
「サイズって『S、M、L』以外にもあったんだなぁ」
難解な呪文を唱える先客を参考に、どうにかフラペチーノにありつけた響は、舌鼓を打ちながら散策を続ける。
すると、目の前を恰幅のいい猫がのそのそと通り過ぎた。
「うぉっデブ猫だ、ん?」
そのデブ猫を追いかけるように、二人の少女が目の前を横切る。
「待てぇー!待つのだ!!」
「っあっちの路地裏に行っちゃったら、逃げられちゃうよぉ!」
暇な時間を潰すにはちょうどいいシチュエーションに遭遇し、バレないようにこっそり後をつけた。
「むむむぅ…せっかく美神お姉ちゃんに選んでもらったハンカチが…」
「双葉殿元気を出すのだっ、必ず我が取り返してみる!っく…ケルベロスめ…高所に逃げるなど卑劣な…」
なかなかに珍しい組み合わせと、デブ猫との因縁に訝しんでいると『こうなったら救世主を呼ぶしかないっ』と、胸騒ぎがする独り言を呟く。
そして、すぐに響のスマホが激しくバイブした。
『おぉ!響殿!今は時間あるだろうか!?』
『今デブ猫の行方を追ってて忙しいな』
勘の鈍い美神は『そうか…なら仕方がないか』と、捜索を応援され、プツリと通話が切れた。
「美神お姉ちゃんどうだったっ?」
「…すまない双葉殿、響殿も急を要する雑務に追われているらしい…」
分かりやすく肩を落とす双葉は、手をいじりながら呟く。
「久しぶりに響お兄ちゃんに会えると思ったのに…双葉に愛想尽かしちゃったのかな?」
こんなに可愛い言葉を呟かれては、響の足が黙っている訳がなかった。
「っ双葉ちゃん、お待たせ」
「えっ!?響お兄ちゃんなんでっ!!?」
もうあえて触れないが、美神はいつものセリフを吐きながら、響の突然の登場に目を丸くしていた。
「響お兄ちゃん忙しいんじゃなかったのっ?」
「妹の助けを求める声に駆けつけないのは、お兄ちゃんとして失格だからな」
『それは理由になっているのであるか?』とツッコミを入れる美神を無視し、デブ猫に視線を移す。
「あの猫ちゃんが双葉のプレゼント取っちゃったの…響お兄ちゃん、取り返してくれない?」
「我からも頼むっ」
ここまで頼まれては、手を貸さないという訳にはいかない。
「お兄ちゃんに任せておけ…『お兄ちゃん』にっ!」
「同じことは二度も言わなくてもいいのだぞ?」
響は勢いよく走り出し、地面を蹴りあげると、過去最高の飛距離を記録した。




