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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
バレタインデー
225/239

225話 再び口を塞がせろ

 「あ、藍李さん、ちょっといいですか?」


 藍李はビールで食べ物を流し込むと、首を傾げながら『何かしら?』と響の言葉を待つ。


「…旅行中に菖蒲のスーツケースからこれが出てきたんですけど、入れたのって藍李さんですよね?」


 響は藍李にブツを手渡した。


「あら、余ったの?」

「なんで使うのが前提なんですか?」

「ヤるなら着けなきゃダメよっ!?」


 問題はそこではないのだが、強い剣幕に圧倒され、とりあえず訂正から始めた。


「っいや、まずしてないんで!」

「っなんでよ!?」

「あ、響さん…これ、酔ってますね」


 藍李はビール一缶でベロベロになってしまうほど、お酒に弱いことを忘れていた。

 こうなった藍李を止めるのは、大変難しいことは二人ともよく理解している。


「っせぇぇっかく!お友達がお膳立てしてくれて旅行に行かせてくれたのに…あなたたち何しに旅行に行ったのよ!」

『っ温泉に入って観光するためですよ!!』


 菖蒲は太文字で殴り書かれたノートを藍李の前に突き出すが、視界が狭まってる藍李には眼中にもなかった。


「っぁあなたもあなたよ!こんな千載一遇のチャンスに男魅せないでどこで披露するのよ!ほんとに付いてるのかしら」

「菖蒲、黙らてくれ」

「ラジャーです」


 菖蒲は藍李の口を塞ぎにかかるが、体格に差があるため逆に菖蒲が捕まってしまう。


「っこぉーんなに可愛い女の子と二人きりで、なんにもないなんて信じられないっ」


 その瞬間、二人に戦慄が走る。


「あら、その反応…何かはあったみたいね?」


 口にはしないが、寸前までは進めた二人。

 なんとも言えない時間がただ過ぎる。


「はぁ…菖蒲、こういう時に既成事実を作って、逃げ道を塞ぐのが定石なのよ?」

『どこの世界線の定石ですか!!』


 藍李に頬を揉まれる菖蒲は、目を細めながらツッコミを入れる。


「とりあえず水飲んでください」


 藍李の前に水を差し出すと『まるで酔っ払い相手みたいに…』とブツブツと文句を言いながらも、渋々口に運んでくれた。


「じゃあこれお返ししますので」

「いいわ、これはあなたが持っておきなさい。いつ何時いかなる時でもできるようにしておきなさい」


 藍李はフラフラとした足取りで立ち上がり、菖蒲に洗い物を任せる。


「あなた、今回も菖蒲のこと助かったわ。これからも面倒見てあげてちょうだいね」


 そのまま階段を千鳥足で上って行った。


「はぁ、なんかのらりくらりと交わされた気分だな」

「ですね。とりあえず、食べちゃいましょうかっ」


 若干冷えたハンバーグだが、それでも十分に美味しかった。



「ほんとに送っていかなくていいんですか?」

「そしたら、菖蒲が帰る時も送っていかなきゃ行けないだろ?」


 意味の無い送り合いは避け、響は菖蒲の手に送られ帰宅した。

 旅行帰りの洗濯が一番の手間なのだが、今回はそれもなくゆっくりと眠れそうだ。


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