225話 再び口を塞がせろ
「あ、藍李さん、ちょっといいですか?」
藍李はビールで食べ物を流し込むと、首を傾げながら『何かしら?』と響の言葉を待つ。
「…旅行中に菖蒲のスーツケースからこれが出てきたんですけど、入れたのって藍李さんですよね?」
響は藍李にブツを手渡した。
「あら、余ったの?」
「なんで使うのが前提なんですか?」
「ヤるなら着けなきゃダメよっ!?」
問題はそこではないのだが、強い剣幕に圧倒され、とりあえず訂正から始めた。
「っいや、まずしてないんで!」
「っなんでよ!?」
「あ、響さん…これ、酔ってますね」
藍李はビール一缶でベロベロになってしまうほど、お酒に弱いことを忘れていた。
こうなった藍李を止めるのは、大変難しいことは二人ともよく理解している。
「っせぇぇっかく!お友達がお膳立てしてくれて旅行に行かせてくれたのに…あなたたち何しに旅行に行ったのよ!」
『っ温泉に入って観光するためですよ!!』
菖蒲は太文字で殴り書かれたノートを藍李の前に突き出すが、視界が狭まってる藍李には眼中にもなかった。
「っぁあなたもあなたよ!こんな千載一遇のチャンスに男魅せないでどこで披露するのよ!ほんとに付いてるのかしら」
「菖蒲、黙らてくれ」
「ラジャーです」
菖蒲は藍李の口を塞ぎにかかるが、体格に差があるため逆に菖蒲が捕まってしまう。
「っこぉーんなに可愛い女の子と二人きりで、なんにもないなんて信じられないっ」
その瞬間、二人に戦慄が走る。
「あら、その反応…何かはあったみたいね?」
口にはしないが、寸前までは進めた二人。
なんとも言えない時間がただ過ぎる。
「はぁ…菖蒲、こういう時に既成事実を作って、逃げ道を塞ぐのが定石なのよ?」
『どこの世界線の定石ですか!!』
藍李に頬を揉まれる菖蒲は、目を細めながらツッコミを入れる。
「とりあえず水飲んでください」
藍李の前に水を差し出すと『まるで酔っ払い相手みたいに…』とブツブツと文句を言いながらも、渋々口に運んでくれた。
「じゃあこれお返ししますので」
「いいわ、これはあなたが持っておきなさい。いつ何時いかなる時でもできるようにしておきなさい」
藍李はフラフラとした足取りで立ち上がり、菖蒲に洗い物を任せる。
「あなた、今回も菖蒲のこと助かったわ。これからも面倒見てあげてちょうだいね」
そのまま階段を千鳥足で上って行った。
「はぁ、なんかのらりくらりと交わされた気分だな」
「ですね。とりあえず、食べちゃいましょうかっ」
若干冷えたハンバーグだが、それでも十分に美味しかった。
「ほんとに送っていかなくていいんですか?」
「そしたら、菖蒲が帰る時も送っていかなきゃ行けないだろ?」
意味の無い送り合いは避け、響は菖蒲の手に送られ帰宅した。
旅行帰りの洗濯が一番の手間なのだが、今回はそれもなくゆっくりと眠れそうだ。




