223話 また来ます
服を整えた菖蒲は、響の布団に侵入し、同じ天井を見つめながら入眠に入ろうとする。
「響さん、すみません」
「もう謝るなって、俺も上手くやれる自信がなかったし…」
男としてリードするのが理想だが、何分そういった経験はしてこなかったため、自信はほとんど無いに等しい。
もう少し見識を深めておく必要がある。
「なら、一緒に勉強していきましょっ?」
「…えっち」
「っわぁ!また私のセリフ取りましたね!?」
菖蒲にぽこぽこと叩かれながら、静かに目を閉じた。
「そういえばなんだが」
「なんです?」
「あれ、持ってきたの俺じゃないぞ」
響はしれっと正直に答えることにした。
「っえ、どういうことです?響さんじゃないとすると…」
「菖蒲に乳液を頼まれた時、スーツーケースから出てきたんだ。おそらく藍李さんだろうな」
「っは…お母さんが?」
寝ながらでも分かるほど、菖蒲は動揺している。
「…そういえば」
菖蒲は家を出る時のことを振り返る。
『一応あれも入れておこうかしら』
あの時の意味深なセリフは、このことだったのだろう。
旅行から帰ったら子どもながら説教をする必要がありそうだ。
「っそんな伏線回収はいらないんですよ!!」
「まぁまぁ」
布団の中で暴れる菖蒲をなだめながら、この際思っていたことを全て打ち明ける。
「最初に見つけた時は心臓止まるかと思ったんだぞ?」
「っ私もですよ!有咲さんの言葉が脳内にこだましましたもん!」
お互い考えていたことは同じようで、その後の沈黙で思わず同時に笑みがこぼれる。
「では、ほんとにそろそろ寝ましょうかっ」
「あぁ、明日はお土産買い占めるぞ」
響は目を閉じながら小さく呟いた。
「菖蒲って思っていたよりはあったんだな」
「ぶっ飛ばしますよ?」
怖い脅し文句を子守唄に、響たちはようやく眠りについた。
「ほら、響さん起きてくださーい。じゃないとちゅーしちゃいますよ?」
「なら起きれないな」
前にも言われたようなセリフで起こされ、少し馴染んできた部屋に別れを告げ、スーツケースを手に旅立つ。
「またのご宿泊お待ちしておりますっ」
「次は新婚旅行で来ます」
「まぁっ、それでは心よりお待ちしておりますね!」
菖蒲の袖を引っ張られながら、旅館から出ると、来た時と同じ硫黄の香りが出迎えてくれた。
「あぁいうの…よく恥ずかしげもなく言えますよね?」
「いいや?今になって羞恥心がきてる」
菖蒲の輝く目を頼りに、思い思いのお土産を買い上げ、温泉地のこの場所にサヨナラを告げた。




