22話 囁き少女を家に招待
佑馬と共にクラスの元に駆け寄ると、響と佑馬はクラスメイトに囲まれた。
「お前らにラスト任せて良かったよ!!」
「これで焼肉は俺たちのものだな!」
「佑馬、響ペアやるじゃん!」
借り物競争の時とは違い、素直に褒められ照れ隠しに頭を掻いて誤魔化す。目を逸らした先で菖蒲が目に入り、目線の先に向かっていく。
「源さん、お疲れだな」
「ひ、響さんこそお疲れ様です…」
「どうしたんだ?」
「いえ!特には、なんでも…ないです……」
「そういえば合言葉はなんだったんだ?」
「ふぇ?」
「ほら、練習の時に不安になった時に叫ぶ言葉決めただろ?『 響さん』の後に言うのかと思って待ってたけど何も言わなかったからさ」
「響さん、それ本気で言ってますか?」
「本気も何も気になるからな」
「なら、答えが分かるのはまだまだ先になりそうですね!!てぃ!」
「痛っ!脛はやめろよ!脛は!!」
「もう知りません!!」
なにか癪に障るようなことを言ってしまったのかと、自分の発言を改めて確認するが、特には見つからず首を傾げた。
今の結果によって、C組は一位に躍り出ることが出来たのだが、二、三年生の結果が振るわず、総合順位は二位で終わってしまった。
教室に戻りると先程までの盛り上がりは冷え切り、お通夜のような雰囲気で席に座る。
「よーしお前ら、体育祭お疲れだったな。お前ら元気ないな、どうした?」
「先生…焼肉…」
「あぁ、その事か…今回は残念だったな。だがな、頑張ったことには頑張った…仕方がないから今回は大目に見て、焼肉…行くか?」
「「「先生!!!」」」
四郎には似合わないかっこいいセリフを吐いていたのだが、響は先程見てしまっていたのだ。四郎がスマホを確認し、競馬で大勝している所を…。おおよそ、競馬で思わぬ泡銭を手に入れ、懐が潤ったため気分が良くなり、太っ腹になっているのだろう。焼肉が食べれるならどうでもいい響は、そのことを静かに心にしまっておいた。
体育祭が終わり片付けも済み、いつもよりは早い下校時間となった。焼肉は午後六時頃の開始なため、一度家に帰り着替えなどを済ましてからでも十分な時間があった。
「菖蒲…機嫌、直してくれよ…」
「知りません!知りません!!」
「俺何か言ったか?だとしたら謝るからさ」
「耳は良くても、勘は悪いんですね!」
「勘?」
「そういうとこです!てぃ!!」
「だから脛は…脛は…」
「じゃあ私の家こっちなので!また!打ち上げで!!」
「あ、おい!」
菖蒲は『 ふんっ!』と鼻を鳴らしながら、家の方向に歩いていく。気がつくと響は菖蒲の手を掴んでいた。
「菖蒲!」
「なんですか?!いきなり!びっくりします!」
「倒置法を使わせるほど驚かせて悪いな、もう少しだけ話していかないか?」
「ふーん、まっいいですよ」
菖蒲を引き止めたものの、行く先などは決めていなかったのでお互いの家の中間の距離にある駄菓子屋に向かった。
「初めて来たな」
「そうなんですか?ここ、色々なお菓子があるので楽しいですよ」
「確かに量がすごいな」
「私はいつも買ってるものを買います!」
「俺も同じものにするか」
「お会計はまず、おばあちゃんを呼ばないといけませんよ」
「そうなのか、すみません!!」
「――はぁーい。あぁ菖蒲ちゃんかい」
『こんにちはです!』
「隣の子は彼氏かい?」
「いえ、菖蒲さんとは友人で…」
「そうかいそうかい、菖蒲ちゃんも大変だねぇ」
『そういうのじゃないですよ?!』
菖蒲は数分ほど店主の女性と談笑をしていた。謝罪の意味も含めて、菖蒲のお菓子も響がまとめて支払った。
「また来てねー」
『はい!また来ます!!』
駄菓子から出たあと、数百メートル歩いた地点で突然頭を水滴が叩き始める。
「響さん!雨です!」
「雨だな、どっかで雨宿りするか」
「雨宿りってどこかありますっけ?!」
「駄菓子はちょっと離れたし…俺のマンションはどうだ?」
「…女の子を家に誘うなんて、そんなのどこで覚えてきたんですか?」
「冗談言ってる場合か!結構雨強くなってきたから急ぐぞ!」
「あぁ、待ってください!」
突然のスコールに襲われ、雨宿りのため響のマンションへ向かう。降り出した地点でマンションに近かったため、そこまで走らずエントランスに入ることが出来た。
「降られちゃいましたね」
「だな、びしょびしょだ」
「へくちっ!!」
「風邪か?」
「いえ、多分雨で身体が冷えたからです」
「…なら、シャワー浴びていくか?」
「…家に誘って、シャワーに誘導する……ロリコンなんじゃないですか?」
「全くもって違う!まだ雨降ってるし、焼肉食べる前に風邪引いたら楽しめないだろ」
「一理ありますね…じゃあ、シャワー…借りてもいいですか?」
「あぁ構わないぞ、だけどこのことは内密にな」
「それは響さん次第です」
お互いびしょびしょなまま、響の部屋がある階までエレベーターで上がっていく。エレベーターの階が上がるごとに、響は冷静になっていき、なかなかまずいことを提案してしまったのではないかと猛省する。




