21話 クラス対抗リレーと合言葉
体育祭も残すところ、クラス対抗リレーのみとなった。クラス対抗リレーは他の競技よりもやや点数が高いため、ここで全てが決まると言っても過言では無い。
すると後ろからちょいちょいと響の肩を叩く者がいた。
「響君、出番直前に言うのも悪いんだけど、練習の時から足の痛みが引かなかったから本番も二回走ってくれないかな?」
「別にいいけど、他の競技じゃ軽く走ってなかったか?」
「ちょっと無理しすぎちゃったみたい」
一華は練習の時の痛みを引きづったまま本番を迎えてしまったそうで、かなり無理をしていたらしい。一華は『やっちゃったなー』と作り笑いのような笑みを浮かべる。幸いにも、練習の時に何度か二回走ることを経験していたのでそこまでの問題ではなかった。
響は事情を運営に伝えに行き、あっさりと了承を得て、クラスに戻っていく。
「――と言うことで二回走ることになりました」
「みんなごめんねぇ!その代わり応援は全力でやるから!」
「無理しない程度でね!」
「そうそう、焼肉食べる時に兎佐美一人病院とか悲しすぎるからね」
中学の時には陸上をやっていたらしい一華を戦力の一人とクラスメイトは考えていたのだが、こうなっては仕方ないとトップバッターという大役を響に託す。
「よっしゃ!ならみんなで円陣組もうぜ!!……焼肉取るぞ!!!」
「「「おぉ!!!」」」
クラスが一致団結し、ボルテージが最高潮を迎える。
「それでは第一走者はスタートラインに並んでください」
放送部から集合がかかる。全校生徒がグラウンドの一点目掛けて、一斉に目を向ける。
「響!トップバッター頑張れよっ!」
「痛っ!あぁ、頑張るよ!!」
「痛っっ!その元気があれば大丈夫だな」
「まぁな」
「響さん!頑張ってください!」
「あぁ、源さんもな」
「任せてください!響さんのブースターになりますよ!」
「任せたぞ」
響はクラスメイトたちから様々な声援を受け、軽いストレッチをしてスタートラインに足を揃える。他の第一走者は、陸上部やサッカー部などの精鋭メンバーが選出されていた。そこに帰宅部の響が並ぶことなどおこがましいことだが、焼肉のため、クラスのため死力を注ぐことを決意する。
『パンッ』と乾いたピストルの音がグラウンドに響く。その音を合図に響たちは身体を傾け、地面を勢いよく踏み込み、腕を振り上げる。第一走者に選ばれるメンバーなだけあり、そう易々と抜かせてはくれない。コーナーに差しかかるところで、バランスを崩した走者を抜くことができ、二位でバトンを繋ぐことが出来た。
あのメンバーの中で二位ならそこそこ貢献しただろうと、一息つく。
「この流れに乗ってけ!!!」
「頑張れー!!」
クラスメイトたちはその後も、順調にバトンを繋いでいき所々で順位は変動したものの、二位をキープしたまま菖蒲にバトンを繋ぐ。スムーズにバトンを渡すことに成功したものの、三位との距離は近づいていく。三位との距離が無くなり、次は四位との距離が縮まっていく。
響は、そんな菖蒲を見ると思わず声を張り上げていた。
「練習を思い出せ!!まずは腕をしっかり振るんだ!!次は足をしっかり上げる!!」
響の声が届いたのか菖蒲は、走りながらフォームを改善していく。そのおかげか僅かだがスピードが上がっていく。しかし四位との走力の差があるため、少しづつだが距離が迫っていく。菖蒲の目元は潤んでいき、垂れる鼻水も脇目も振らずがむしゃらに走り続ける。コーナーを曲がりきり、菖蒲の目から響が正面に見える距離まで来ていた。四位との距離はあってないようなもので、ほぼ横並びの状態だった。
響は最後のアドバイスを菖蒲に叫ぶ。
「源さん!!不安な時の合言葉を思い出せ!!!」
練習の時に決めた、不安になった時の合言葉を叫ぶことを促す。菖蒲は一瞬目を見開き、覚悟を決めたように口を開く。
「響さん!!」
響の名前をを叫ぶと、脱兎のごとく足を動かし響の手にバトンを叩きつける。
「よく頑張った」
響は労いの言葉をかけると、佑馬に向かって駆け出す。三位で渡された響はぐんぐんと二位との差を埋めていき。二位を追い抜かしたタイミングで佑馬にバトンを渡す。ニヤリと笑う佑馬に全てを託し、響はレーンから外れた場所で仰向けになる。寝転びながら佑馬を目で追うと、流石の早さで一位を追い越し二馬身ほど差をつけ、ゴールテープを切った。
「一位はC組、二位はB組、三位はD組、四位はA組です」
その放送を皮切りにC組に歓声が上がる。佑馬は響の元に駆け寄り、響とクラスの元へ向かう。
「響!ナイスパスだったぞ!」
「佑馬もいい走りだった」
歯を見せ笑う佑馬に肩を組まれ、響も佑馬の肩に腕を回す。




