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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
体育祭と一騒動
20/231

20話 囁き少女のお部当

 その後も体育祭は続き、区切りのいいタイミングで昼食の時間が取られた。響はコンビニで買ったおにぎりとお茶をカバンから出し、クラスのレジャーシートの上で食べていた。周りと比べるとやや見劣りするものの響は特に気に止めていなかったが、不憫そうな顔をした菖蒲が横にちょこんと腰を落とした。


「響さん…質素すぎやしませんか?」

「おにぎりにお茶なんて江戸時代だったら贅沢の極みだぞ」

「いつの話をしてるんですか…」

「そういう菖…源さんは何を食べるんだ?」

「よくぞ聞いてくれました!!見てください!体育祭の定番メニューを!!」


 菖蒲が開いた重箱には、たこさんウィンナーやだし巻き玉子、可愛い動物のピンが刺さっている唐揚げなどの、子供だったら見るだけで食欲が湧いてくるメニューが詰まっていた。しかし菖蒲が一人で食べるにはいささか量が多すぎないかと、響は訝しげな顔を浮かべる。


「源さん、量が多すぎやしないか?」

「ひ、一人で全部食べるつもりじゃありませんよ?!どうせ響さんは簡易的な食べ物しか持ってこないと思ってたので『一応』多めに作ってきたんです!!」

「それはまぁ用意周到な…」

「それで、食べるんですか?!!」

「頂いてもよろしいでしょうか!?」

「はい!どうぞ!!」


 菖蒲が気を使わせ、多めに作ってくれたお弁当を口へ運ぶ。どの料理も優しい味の中に、こだわって作っていることが舌で感じられるほど洗礼された味わいが広がっていった。


「どうですか?」

「めちゃくちゃ美味いな!久しぶりに手作りの料理食べたかも」

「本当ですか!?じゃあ次はこれをどうぞ!」

「あぁ、いただきまふ?!」

「これもどうぞ!!」

「まっ!………っ!」


 料理を褒められたことが余程嬉しかったのか、次々料理を響の口に詰め込んでいく。菖蒲の唐揚げを掴もうとする箸を手ごと押さえ込み、お茶で一気に飲み込む。


「死ぬぞ!!?美味いけど!」

「死ぬほど美味しいってことですね!」

「拡大解釈がすごいな、源さんも食べたらどうだ?」

「はっ!……すみません、両手が塞がっちゃってるので食べさせてください」

「急に掴んだお茶と水筒を床に置けば手が空くんじゃないか?」

「いいから食べさせてください!じゃないと餓死して死にますよ?!あぁ、死にます!もうそろそろです!!」


 菖蒲は餌を待つ雛鳥のような姿で口を開けて待っているのだが、あくまで高校生で思春期真っ盛りの響にはすんなりできる行為ではなかった。しかし、弁当を作ってくれた恩もあるので恥ずかしさを抑えながら、ピンが刺さった唐揚げを掴み、顔を逸らしながら菖蒲の口元に運ぶ。


「…ど、どうだ?」

「響さん、そこはほっぺです」

「あぁ、うっかりしてた」

「もういいです!ふん!……美味しいです…」


 菖蒲はほっぺに突き出された唐揚げを口で追いかけ、小さい口で食べると不服そうにしながらも唐揚げの美味しさに舌鼓を打っていた。

 昼食の時間は長い間取られたので、途中で隣に来た佑馬や透子たちと談笑をしながら、今後のプランを話し合った。



 昼食が終わり、放送部の放送が流れ始める。


「後半の競技を始めます。後半最初の競技は騎馬戦です」


 騎馬戦ではクラスの身長の高い者たちで固め、名付けて『ヤシの木大作戦』を決行した。響はクラスでは身長が高い方なため、騎馬戦の馬役の一人を担っていた。肝心な騎手役は、菖蒲の件以降、菖蒲と響を含めたクラス全員に誠心誠意謝罪をし、静かに生活をしていた洋太が務めた。


「笹倉、まだお前のことは許してないからよぉ…暴れ馬の如く動き回るからなぁ?しっかり掴まっておけよぉ?」

「俺らじゃじゃ馬だからよぉ…乗りこなすのは厳しいと思えぇ…」

「笹倉、ちゃんと支えておくから安心しておいてくれ」

「…道元君ありがとう…頑張るよ…」


 響は蓮央に操られていたということや、その後家にまで来て謝罪をし、反省が見て取れたので洋太のことを完全では無いものの、許していたのだがクラスの者たちは違うらしく、今でもやや刺がある物言いだった。



 騎馬戦がスタートすると洋太は細身で背が高いことを生かして肩に足を置き、残った二人が洋太を支えるというバランスを無視した、攻撃特化型のスタイルでグラウンドを駆け回った。


「こんなのありかよ…」

「笹倉!!命かけて掴み取れ!!!」

「あぁ、わかったよ!」


 バランスが悪いものの、それを支える騎馬たちと落ちないように耐える洋太の体幹によって全ての帽子を取ることに成功した。


「一位は圧倒的!!C組です!!!」

「笹倉!!!」

「っはい!!!」

「ようやった」

「あ、ありがとう…」


 洋太のことをクラスはまだ許しきっていないものの、洋太の誠実さに少しは態度が変わったように思えた。


「笹倉!!まだ教頭の帽子残ってるぞ!」

「あ、あれは得点には関係ないよ」

「笹倉!!まだ二、三年の帽子が残ってるぞ!」

「あ、あれも関係ないよ」


 態度が変わったように思えたのは響の勘違いだったようだ。

 そこからの競技の台風の目やパン食い競走では、お世辞にもいい成績と言えない結果で終わった。


「最後の競技となりました。最終競技はクラス対抗リレーです」


 ついに優勝が掛かった最終競技が始まった。今の成績はほとんど横並びだが現在のC組は三位なため、このクラス対抗リレーで一位を取らなければ焼肉は無くなってしまう。


「よっしゃ!!焼肉のためC組全力出すぞ!!!」

「「「おぉ!!!!」」」


 クラスが一致団結し、各クラスがグラウンドに向かっていった。




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― 新着の感想 ―
とても読みやすくて面白かったです。 登場人物の会話が自然で、楽しかったです。 響、菖蒲の関係が少しずつ近づいていく過程が丁寧に描かれていて、印象に残りました。 楽しませて頂きました(*'ω'*)あり…
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