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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
体育祭と一騒動
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19話 囁き少女と借り物競争

 ついに体育祭本番も当日になった。少し早めに家を出て、相変わらず待っていた菖蒲と共に登校した。菖蒲は朝から気合いを入れハチマキを巻いており、周りからの視線が恥ずかしかったが元気がないよりはあった方がいいと、特に止めることもしなかった。


「よぉ響!体育祭本番なんだからもっとシャキっとしろよー!源さんなんてこんなにやる気に満ち溢れてるのにー」

『やる気が溢れて仕方ありません!』

「源さん!その調子で優勝しよう!」

『もちろんです!』


 学校へ着き、朝からテンションが高い佑馬に絡まれ、同じテンション感の菖蒲はノートに感情を表しながら互いを高め合っていた。クラスは焼肉が懸かっているのももちろんだが、純粋に体育祭という一大イベントに心を踊らせていた。

 そんなクラスメイトが動きを止めるほど、強い力で開かれたドアは音を立てながら勢いよく開き、ハチマキを巻いた四郎が入ってきた。


「お前ら、今日が何の日かもちろん分かってるよな?そうだ、体育祭だ。今日一日に全てを懸けろ!俺も色んなものを賭けてきたから、全力を出すんだぞ!」


「「「はい!!」」」


 クラス中が四郎の言葉に奮い立っていたが四郎が掛けたものは思いなどでなく、賭けてるのは純然たるマネーだろと、心の中で思っていたが水を指すのも悪いかと言葉には出さなかった。


 岩久高校は一学年AからDの四クラスによって形成されており、それは二年三年も同様、そのため各学年のCクラス全てが響たちのチームということになる。


「よぉーしお前ら、時間も頃合だ…グラウンドに向かうぞ!」

「「「はい!!」」」


 グラウンドに向かうと他の学年やクラスもちらほら見られた。そのどれもが屈強なバーサーカーのような立ち振る舞いで、響は熾烈な戦いが繰り広げられるだろうと身震いをしていた。



 三年生の選手宣誓が終わり、本格的に競技に入り始める。最初の方の競技は二位や三位と可もなく不可もなく、そこそこのスタートだった。


「続いての競技は玉入れです」


 玉入れには菖蒲が参加しているが、スポーツテストの時のソフトボール投げの結果が散々だったため玉を集める役に徹し、肩が強い者たちのサポートをしていた。以外にもこれが上手くハマり、玉入れでは一位になることが出来た。


「菖蒲ちゃん!ないすぅ!」

「源さん!ナイスアシスト!」


 玉入れのメンバーから絶賛される菖蒲は、腰に手を当てながらニマニマと嬉しそうにしていた。戻ってきた菖蒲は出場しなかったメンバーと順々にハイタッチをしていき、響の番ではめいいっぱいの力で手を叩いたせいで、赤くなる手をフーフーと冷ましていた。


「次の競技は綱引きです」


 綱引きは男子全員参加なため響も重い腰を上げ、向かっていく。しかし響のクラスには体重が百三十を超えるほどの巨漢がいるため、後ろで紐を身体に結ばせることで楽々一位を取ることができた。


「富士の山!よくやった!」

富士山(ふじやま)なんだけど」

「横綱!お前はこのために生まれてきたんだ!」

「名前は(つな)ね、『横』はいらないよ」


 綱引きの救世主、巨漢の(つな)は見た目とギャップがある性格でとても穏やかなため、響は心の中で『ごーれむ』と呼んでいた。


「おい響!この調子なら焼肉取れるぞ!一位食べ放題だ!」

「興奮しすぎてごっちゃになってるぞ」

「あぁ、うっかりしてた。てか次は借り物競争だぞ!ここで響が焼肉取ったら一位は俺たちの物だ!」

「まだ混ざってるぞ、まぁ尽力するよ」


 響は足の早さだけで推薦された借り物競争に向かう。

 銃声と共に勢いよくスタートし、一列に並べられた紙をランダムに取り、中を開くと『こいつしか居ない』と思うほどピッタリな人間を思い浮かべた。響はクラスの方向へ走り、クラスメイトが『メガネか?』『金髪?』『横綱か!?』などと様々な憶測を投げかけるが響は一人に狙いを定めて手を伸ばす。


「源さん来てくれ」

「私ですか!?」


 響は菖蒲の手を引きゴールへ一目散に走る。見事一着でゴールした響たちは、他の出場選手がゴールするまで待っていた。


「響さんお題は何だったんですか?」

「あぁ、いや?まぁ」

「煮え切らないですね」


 菖蒲の質問をのらりくらりと躱している間に他の選手も次々にゴールをする。


「ではここで結果とお題の内容を発表します!!そして今回のお題には『好きな人』を入れておきました!!」


 恋愛ゴシップ好きそうな司会の女子は高々に声を上げると、全校生徒も歓喜の声を上げる。


「え!?響さん!!?え、え!?」


 分かりやすく照れる菖蒲を横目に司会が結果とお題を発表する。


「それでは最初にゴールした道元君のお題は〜〜!!?」


 菖蒲を含めた全校生徒が息を飲む。


「『小動物系』でした!!これは見事にピッタリな子を連れてきましたね!!堂々の一位です!!」

「…知ってましたよ」

「いや…なんかすまん」


 如実に拗ねる菖蒲に謝罪をしている間に、他の選手の結果を発表していく。三位の選手のお題が『好きな人』だったようで全校の前で告白を行い、見事成功していた。


 響は褒められことを期待しながらクラスに戻ったのだが、クラスメイトたちの反応はイマイチだった。


「おー、おめー」

「一位だけど三位には総合的に負けたな」

「響っち…ほんとに期待裏切らないね」


 予想を裏切ったせいか響への対応は冷たかった。その代わりに菖蒲は手放しに褒められていた。佑馬は響の肩に手を置き、憐れむような顔で口を開く。


「まぁ、奥手な響には気が引けるよなー」

「借り物競争ってこういうもんだろ!?ってかそういうじゃねーし!」

「元気出せよ」


 聖母のような顔で響に抱擁をする佑馬を振り払いながら席に着いた。





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