183話 和衷協同
その日は一睡もせず、作戦を練り上げた。
「お、パパから『掛け合ってみる』だってさっ」
作戦の要となるものは有咲の父親に頼み、娘を溺愛している父親と前のモニターの謝礼も含め、すんなりとOKが出た。
「響君?…これだと響君が危ないと思うんだけど…」
一華は響の膝に手を置き、不安を孕んだ瞳で見上げてくる。
響は優しい力でデコを弾き『っあぅ』と声を漏らす一華にココアを注ぐ。
「心配するなっ、なんたって俺はみんなのお兄ちゃんなんだからなっ」
響はキザに歯を見せながら笑ってみせると、一華はココアに息を吹きかけながら、ほのかに口角を上げた。
「じゃあ、あいつにも連絡したし、あとは天乃から返事が来るのを待つだけってことっしょ」
「っうおぉ!絶対に菖蒲殿を取り返してみせるぞ!!」
響たちは作戦の最終確認をし、天乃から返信が来るまで仮眠を取る事にした。
だが、菖蒲が今どんなことを思い、何を感じながら過ごしているのかを考えると寝るに寝られない。
「あら、あなたは寝てなかったのね」
「藍李さん…」
藍李もおそらく寝ていなかったのだろう。目元を黒くしながらいつでも出かけられるような格好で部屋に入って来た。
「あなたたちの話、こっそりと聞いていたわ。…子どもにこんな危険なことをさせるなんて大人として失格だわ…でも、私にはなんのアクションも起こせない…」
藍李は徹夜していることもあり、自虐気味に肩を落としていた。
しかし、やはり大人。すぐにいつもの藍李に戻ると、響に深く頭を下げる。
「あなた…いやっ、響さん。菖蒲をどうかよろしくお願いします」
初めて藍李に名前を呼ばれ、身体が一瞬固くなる。
「っ任せてください!絶対に菖蒲を連れて帰ってきます!」
すると、藍李は響を座らせ毛布をかけると、頭を撫でてくる。
「なら、今は少しでも休みなさい。私に出来ることなんてこれぐらいだから」
「っこれはちょっと…」
藍李は自分の膝に響の頭を乗せると、変わらず優しく撫でる。
こんな状態じゃ寝れるはずもないと思っていたが、以外にもすぐに目の前が暗転する。
「っおい響!スマホ鳴ったぞ!」
佑馬の騒々しい声で目覚め、渡されたスマホに目をやり、ガバッと身体を起こす。
結局今の今まで膝を貸していた藍李は、痺れた足をゆっくりと伸ばしていた。
「っ天乃から場所が指定されたぞ。でも、変だな…」
「確かに…ここって周りになんにもないよね?というか、ただの道の途中というか」
天乃から指定されたのは、人通りは悪いもののただの道。菖蒲がいるとは到底思えない。
「時間はまだあるっしょ?うち、パパのとこ行ってくるっ」
そう言うと有咲は玄関を飛び出し、有咲家の専属ドライバーの車に乗り込んだ。
「じゃあ、これがラストだ。絶対に失敗のないように、もう一度だけ確認するぞ」
響たちは有咲が戻るまで、最後の作戦会議をする。