177話 無気力少女のお願い
いつもは『もちろんですっ』とほとんどの事柄においてイエスマンの菖蒲だが、今だけはそうではないらしい。
「あやっちお願いっ!」
『っ無理です無理です!私には荷が重すぎます!』
こうも菖蒲が断り続けるのには理由がある。
数十分前。有咲のスマホに着信が掛かってきた。
『うん、うん…まじ?っわ、分かったって…』
珍しく眉をゆがめる有咲は、菖蒲の見ると電話を切り、菖蒲の手を握った。
『なっなんですか!?』
『あやっち。うちの化粧品のモニターになってくんないっ?』
『っふぇ?』
話を聞くと、有咲の父の経営している会社で新作のモニターを探しているらしく、適任者を探すために有咲に電話をかけたらしい。
『なんで私なんです!?透子さんや一華さんの方が絶対に適任ですよ!?』
『ほらそれはさ?』
有咲と目が合う。おそらくただ単に菖蒲にメイクをしたいのだろう。
有咲の目が物語っている。
「あやっちおねがーい!一生のお願いっ、うちの一生のお願いってなかなか無いよ?」
『一生のお願いってそういうものでは!?』
埒が明かないと悟ったのか、有咲は響の両肩にドンと手を置く。
「響っちもあやっちの可愛いところみたいっしょ?」
「それはいつも見てるからなぁ」
「でも、ギャルとか地雷系とかは見たことないっしょ?」
菖蒲は普段濃いメイクをすることは無く、ほとんどがナチュラルメイクだ。
元々素材がいいこともあり、少し手を加えるだけで国宝級になる。
「どうどう?響っち?」
響は二つの視線を受ける。有咲からの期待の眼差しと、菖蒲からの懇願の眼差し。
もちろん答えは一つ。
「菖蒲っ」
「っ響さん!信じていて良かったですっ!」
「っふ…俺は有咲さんを支持するよっ」
菖蒲は絶望した顔で響の脛を蹴る。
「っじゃ、あやっちOKってことでいい?」
『っんぅ…分かりましたよ…でも、私なんかじゃ役に立たないと思いますからね?』
菖蒲は渋々了承し、有咲は足先をクルクルと回しながら陽気に電話をかけた。
「っおぉ…でっか」
「響さん、私今からここでメイクをされるんですか?」
有咲の父の会社にやって来た二人。
実際は子会社に当たるらしいのだが、それでもでかい。
「うちも来たことないけど、八階に呼ばれたから行こっか」
「菖蒲、生きて帰って来いよ」
「っ響さんも来るんですよ!」
エレベーターに入ると、どんどんと他の建物を抜いていく。
『ピンポーン』っと、音を鳴らしたエレベーターから出ると、女優のような綺麗な女性が迎えてくれた。