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囁き少女のシークレットボイス  作者: うみだぬき
バレタインデー
175/185

175話 路地裏にて

 目の前に無防備に投げ出された脚に、どうした良いものかと手を伸ばしたまま空を掴む。

 いつもの仕返しと言わんばかりに、圧倒的優位状況から響の一挙手一投足を楽しんでいる。


「ほらほらっーどうしたんです?いつもの余裕そうな響さんはどこに行っちゃったんですかっ?」


 ニタニタとあくまで上に立っている菖蒲だが、その額にはしっかりとこの時期には似合わない汗をかいている。

 魔が差してこの行動に踏み込んだことが見て取れる。


「っは、早くしてくれないと誰か来ちゃいますよ?」


 だが、それが分かっているからと言ってタイツを脱がせることには、やはり大きな恥ずかしさが伴う。

 右足は膝裏、左足はスカートに隠れており見えないが、おそらく太もも辺り。


「っわ、分かった分かった!」

「っひゃ!」


 響は先に右足からと恐る恐るタイツの端を掴む。

 しかし、左足が下まで下がっておらず、引っかかってしまい上手くいかない。


「…先に左足からなのか」


 先の見えないスカートの中に手を伸ばすのは、どう考えてもまずい。

 菖蒲は教師から、規律をしっかりと守る優等生と認識されており、スカートを折るようなことは一切していない。


「これで分かりましたか?いつも私が響さんの無自覚で散々辱められていることが…っんぅ!?」


 またも響は話を最後まで聞かなかった。

 意を決してスカートに手を伸ばし、指先から伝わる感覚だけでタイツの根元を探す。


「っ響さん!っく…くすぐったいですってっ」


 柔らかく、熱を帯びている太ももを指先で辿り、どうにか膝下まで下げることに成功する。

 ここまでくれば後は引っ張りきるだけ。



「お、終わったぞっ」


 菖蒲の黒いタイツが足首にかかり、表情も相まって何かイケナイことをしている気分になってしまう。

 菖蒲は脳がショートしてしまったのか、目を点にしながら放心状態になっている。


「えーこっち通るん?」

「ガチだってっ。ここ私しか知らない抜け道あるんよっ」


 足音と共にそんな会話が聞こえてきた。


「っおい菖蒲!?早くそれ脱いじゃえって!」

「…ぼーー」


 言葉通りぼーっとしてる菖蒲には、そんな俊敏性を求めることは出来ないだろう。

 だからといって響が靴を脱がし、タイツを全て脱がすことにはまだ抵抗がある。


「これまずいだろ…こんなん見られたらどんな勘違いされるか…」


 目の前にはタイツを脱がせられ、放心状態の菖蒲。

 そして今の菖蒲に弁明などできるはずもなく、最悪通報される可能性だってある。

 路地の入口まで近づいてきており、もうどうもすることが出来ない。


「うわ、めっちゃ暗いじゃんか」

「なんか隠しマップみたいでワクワクするっしょ?あ…やっぱ今日はこの道やめとこっか」

「え、なんで?…あぁ、そういうね」


 そんな会話と共に、近づいて来ていた音が遠くなっていく。

 だが、今はそんなことを考えなんていられない。


「…危なかったですね」


 菖蒲に抱き寄せられ、響の視界には菖蒲以外が物理的に見えない。

 傍から見れば学生カップルが人目を忍び、不純異性交友に手を出しているように見られるだろう。


「じゃ、履き替えるので今回はしっかり見張っていてくださいね」


 着替え終わった菖蒲と出かけたが、ほとんどの記憶が残っていなかった。

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