175話 路地裏にて
目の前に無防備に投げ出された脚に、どうした良いものかと手を伸ばしたまま空を掴む。
いつもの仕返しと言わんばかりに、圧倒的優位状況から響の一挙手一投足を楽しんでいる。
「ほらほらっーどうしたんです?いつもの余裕そうな響さんはどこに行っちゃったんですかっ?」
ニタニタとあくまで上に立っている菖蒲だが、その額にはしっかりとこの時期には似合わない汗をかいている。
魔が差してこの行動に踏み込んだことが見て取れる。
「っは、早くしてくれないと誰か来ちゃいますよ?」
だが、それが分かっているからと言ってタイツを脱がせることには、やはり大きな恥ずかしさが伴う。
右足は膝裏、左足はスカートに隠れており見えないが、おそらく太もも辺り。
「っわ、分かった分かった!」
「っひゃ!」
響は先に右足からと恐る恐るタイツの端を掴む。
しかし、左足が下まで下がっておらず、引っかかってしまい上手くいかない。
「…先に左足からなのか」
先の見えないスカートの中に手を伸ばすのは、どう考えてもまずい。
菖蒲は教師から、規律をしっかりと守る優等生と認識されており、スカートを折るようなことは一切していない。
「これで分かりましたか?いつも私が響さんの無自覚で散々辱められていることが…っんぅ!?」
またも響は話を最後まで聞かなかった。
意を決してスカートに手を伸ばし、指先から伝わる感覚だけでタイツの根元を探す。
「っ響さん!っく…くすぐったいですってっ」
柔らかく、熱を帯びている太ももを指先で辿り、どうにか膝下まで下げることに成功する。
ここまでくれば後は引っ張りきるだけ。
「お、終わったぞっ」
菖蒲の黒いタイツが足首にかかり、表情も相まって何かイケナイことをしている気分になってしまう。
菖蒲は脳がショートしてしまったのか、目を点にしながら放心状態になっている。
「えーこっち通るん?」
「ガチだってっ。ここ私しか知らない抜け道あるんよっ」
足音と共にそんな会話が聞こえてきた。
「っおい菖蒲!?早くそれ脱いじゃえって!」
「…ぼーー」
言葉通りぼーっとしてる菖蒲には、そんな俊敏性を求めることは出来ないだろう。
だからといって響が靴を脱がし、タイツを全て脱がすことにはまだ抵抗がある。
「これまずいだろ…こんなん見られたらどんな勘違いされるか…」
目の前にはタイツを脱がせられ、放心状態の菖蒲。
そして今の菖蒲に弁明などできるはずもなく、最悪通報される可能性だってある。
路地の入口まで近づいてきており、もうどうもすることが出来ない。
「うわ、めっちゃ暗いじゃんか」
「なんか隠しマップみたいでワクワクするっしょ?あ…やっぱ今日はこの道やめとこっか」
「え、なんで?…あぁ、そういうね」
そんな会話と共に、近づいて来ていた音が遠くなっていく。
だが、今はそんなことを考えなんていられない。
「…危なかったですね」
菖蒲に抱き寄せられ、響の視界には菖蒲以外が物理的に見えない。
傍から見れば学生カップルが人目を忍び、不純異性交友に手を出しているように見られるだろう。
「じゃ、履き替えるので今回はしっかり見張っていてくださいね」
着替え終わった菖蒲と出かけたが、ほとんどの記憶が残っていなかった。