17話 囁き少女と地獄のトレーニング
ある日の教室で重要な問題についてクラスで話し合いが行われていた。
「リレーのアンカーどうするか」
「順番も大事だよね」
「ここが一番重要だからなー」
体育祭の準備で最も重要と言える、クラス対抗リレーの順番とアンカー決めにクラスが案を出し合っていた。足が早い者に先陣を切らせ、波に乗るのも良いし、最後に畳み掛けるように早い者を最後に固めるという案もある。
「まぁでもアンカーは佑馬がいいんじゃないか?」
「俺ー?まぁーいーけどー?」
「顔が癪だが、まぁクラスの中で一番早そうなのは佑馬っぽいしな」
「あ、俺がアンカーするなら俺にバトン渡すのは響にしてくれ」
「お、俺か?」
「確かに、この前の五十メートル走結構早かったもんな。ここまで決まったら後はいい感じに入れてけばいいな」
佑馬の要望によりラストの二番手は響で決まってしまった。佑馬によると、『響が俺を一番分かってる』という完全に主観による選別方法によって決まったのだが、響自身も佑馬が相手なら気負わないでバトンを繋げるため悪くない案だった。
体育祭の男女の代表は蓮央と一華だったのだが、蓮央は菖蒲の件以降学校には一度も来ておらず、行方を誰も分からないため、仮のリーダーとして佑馬が代表となっていた。
「よーし、お前ら!俺に着いてこーい!」
「代表、佑馬にしたのは間違いかもね」
「だね」
役職が一気に格上げされた佑馬は、如実に調子に乗っていた。しかし、リレーのアンカーを始めに他の競技でも佑馬は引っ張りだこなため、期限を損ねないようにクラスメイトは佑馬のテンションに出来るだけ合わせていた。
「じゃあ放課後に使える時間あんまりないから、一回軽く通して走ってみようぜ!」
「あ、ごめん!私ちょっと足が痛くて走れなさそうなんだよね…悪いけど私の代わりに誰か二回走ってくれない?」
一華は足を擦りながら自分の代わりを募っていた。ここでもまた佑馬が響の名前を上げ、響を含め誰もそれに反論するものは居なかったため、響は佑馬同様二回走る羽目になってしまった。
「なら元々、兎佐美さんは第一走者だったから響が一番手だな」
練習ということもあり、バトンの渡し方の指南や、順番の細かい変更が度々行われていた。すると満面の笑みで菖蒲が駆け寄ってきて、仁王立ちで響に報告をしてきた。
「響さん!私がバトンを渡す役に大抜擢されました!」
「大抜擢じゃなくて消去法だぞ」
「酷いです!私以上に響さんにバトンを渡すことに特化した人間はいませんよ!?」
「局所的すぎる能力だな」
バトンを渡す順番の兼ね合いによって、響にバトンを渡す役割は菖蒲が任命された。
響からスタートし、順番にバトンが渡っていく。後半になり、二回目の番がやってきた。響は手を後ろに構え、菖蒲がバトンを渡すのを待っていたのだが、待てど暮らせど菖蒲はやってこない。痺れを切らし振り返ると、フラフラとしながら菖蒲がバトンを握り走っていた。走っているというよりも、足にリードを引っ張られていような走り姿で、身体が足に追いついていなかった。
「ひびっ…きさーん…」
やっとのことでバトンを繋ぎ、響も佑馬に繋ぐ。ここで練習は終わったのだが、一華と佑馬が重い足取りでやってくる。
「響…焼肉のためだ、源さんを育成してくれ…」
「これは響君にしか出来ない仕事だよ…」
「善処する…」
順番を変えるよりも、菖蒲を成長させる方が手っ取り早いと考えた佑馬たちは、響に菖蒲の育成という大役を任せた。
響は木陰で休んでいた菖蒲の横に座る。
「みな…菖蒲、明日からトレーニングをしよう」
「響さんもやるんですか?」
「一応、任せられたからな」
「ならやりましょう!響さんを育成してみせますよ!」
感が鈍い菖蒲に呆れながらも、翌日から鬼のトレーニング生活が始まった。




