15話 可愛い物好きギャルは他言無用
透子に先導され、子供向けのアニメ映画の上映室に連れていかれる。上映室には子供連れの親子が大半を占めており、ごく少数だが大きなお友達も少なからず席に座っていた。
「道元はここね」
「透子さん、今何が起こっているか全く分からないんだけど順を追って説明してくれないか?」
「黙って、今から映画始まるから大人しくポップコーンでも食べてて」
「もが!もご」
透子はなぜ子供向けの映画を見に来ているのかを説明せず、大容量のポップコーンを響の席にセットし、響の口の中に詰め込む。
大人しく座って待っていると、上映室は段々と暗くなっていき、擬人化したカメラとパトカーランプたちがコミカルに映画盗撮の禁止を促していた。
ついに映画が始まったのだが、上映室は相も変わらず子供たちの歓喜の声か響いていた。ふと、透子の方を見ると我関せずとした態度で目を爛々と輝かせながらスクリーンに釘付けになっていた。
内容自体は良くある魔法少女が敵と戦い、一度はピンチになるが愛やメルヘン的なもので最終的にはハッピーエンドで終わるものだった。だが、思っていたよりは面白い内容だった。
映画が終わった後、透子は物販にグッズを買いに行っており、その間響は元々の予定だった気になっていた映画の予約をした。
「道元ちょっと喫茶店よろ」
「今からか?まぁいいが」
時間的にはそろそろ帰りたいのだが、このまま何も分からないまま帰っては確実に眠ることが叶わないと思い、渋々ついて行く。
着いた喫茶店は隠れ家的な場所に位置しており、普段生活している時にはなかなか気づけないところでひっそりとオープンしていた。
「いらっしゃい、あぁ透子ちゃんか」
「うん、今日は友達も来てるから」
「道元響です」
「透子ちゃんが男の子の友達連れてくるなんて」
「そ、そういうんじゃないからね!?」
マスターのおじいさんと言うよりもおじいちゃんと呼ぶ方が似合う容貌の男性は、ニコニコとしながら透子の話を聞いていた。通された席に向かい合った形で座り、お互いコーヒーを頼んだ。
「で、そろそろ話してもいいんじゃないか?」
「はぁ…まぁ、もういいかな。あたしこんな見た目してるけど、可愛いものが好きなわけよ」
「なるほど?」
「で、このアニメの映画楽しみにしてたんだけど、あたしの予定が合うのが今日だけで夜遅めに行けば誰も居ないと思ってたんだけど…」
「そこに俺が居たと」
「そゆこと、はぁーまじで誤算すぎるわ」
透子は今まで隠していたものが露呈してしまったことが恥ずかしいのか、顔を髪の毛で覆う。するとマスターがコーヒーを運んで来て、サービスだというショートケーキを机に並べた。
「透子ちゃんは素直じゃないけど根はいい子だから、仲良くしてあげてね」
「マスター変な事言わないで!」
ほっほっほと笑いながらお盆を片付けるマスターを透子は涙目で睨む。響はコーヒーとショートケーキを食べながら透子に問いかける。
「このことは他のやつは知らないのか?」
「一応誰にも言ってない…けど、多分有咲には何となくバレてる気がする」
「確かに勘良さそうだもんな」
「このことは誰にも言わないでよ?振りとかじゃないからね?絶対だからね?!」
「三回念押されると言わなきゃいけなくなるな」
「変なバラエティー要素はいらないの!」
「もが!もご!!」
透子は黙らせるようにショートケーキ一つを丸々響の口に突っ込む。顔を赤くさせる透子はコーヒーをちょびちょびと飲み、マスターにケーキのおかわりを頼んでいた。
「まぁでも、内容は普通に面白かったよな」
「っほんと?!」
「あ、あぁ」
「さすが道元、センスあるね!」
そこからは透子の熱が入ったのか、映画の内容だけでなくアニメの内容にまで足を踏み入れ、長い間語り尽くされた。透子の喉が枯れる頃には、もう既に月が空に登りきっていた。
「うわ、喋りすぎた!そろそろ帰ろ。マスターお会計ー」
「今日はサービスでいいよ、その代わりまた二人で来てね」
「マスターありがとう!でも道元とはもう来ないからー!」
「ご馳走様でした、美味しかったです」
透子と響は急いで帰路に着き、途中で帰りの方向が互いに反対になったのでその場で別れた。響が家に着く頃には、時計は十時を指していた。
「今日はもう寝るか」
響は一日の疲れを拭い去ろうと、ベッドにダイブした。次の日の朝に風呂と夜飯兼朝食を食べ、予告通り待っていた菖蒲と学校へ向かった。
「菖蒲…はアニメとか見るのか?」
「アニメですか、うーん昔は見てましたが最近は見てないですね。響さんは見るんですか?」
「いや、俺もあんまり見ない…かな」
「そうですか…なんにも広がらない話題でしたね」
「そうだな」
透子の件は墓場まで持っていくと心に決め、歩みを進める。




