11話 隠密行動はギャルの専売特許
佑馬と有咲、透子のおかげで事件当日のアリバイが証明された。そうなってくると疑問となってくるのは動画に映っている人物、響では無いということは誰かが偽装をして響を貶めようとしたことになる。クラスの空気が一転、一斉に洋太に視線が刺さる。
「なぁ、笹倉どういうことなんだ?道元じゃないなら、この動画に映ってるのは誰なんだよ?」
「動悸は分からないが、俺の席で寝てた佑馬を俺と勘違いして、まだ学校に残ってると思い、俺の上履きをわざわざ履かせて動画を撮影したってとこだろ?」
「…………」
「おい!笹倉何とかいえよ!」
さっきまでは響を責めていたクラスメイトが手のひらを返し、今度は洋太を責める。すると洋太は急に響の胸ぐらを掴み、周りが止めに入る前に響の顔面に拳を振るう。鈍い音が響いたかと思ったら、痛みと同時に鼻が熱くなる。ぽたぽたと溢れる鼻血を手で抑えながら洋太の方を睨む。洋太は響の眼に狼狽えるも、破竹の勢いで言葉を叫ぶ。
「うるせぇよ!この動画が嘘だとしても、源さんの靴と服が破かれてたのは事実だろ!?」
今までとは打って変わって、乱暴な口調でクラスメイトに問いかける。響は洋太の言葉に何か引っかかりを感じた。その引っ掛かりを解く前に、教室のドアが開いた。時間はホームルームの時間になっていたので四郎が頭を掻きながら入ってくる。
「よーし、ホームルームを始めるぞー…の前に笹倉、なんでお前が源の件を知ってるんだ?」
四郎の言葉で引っかかりが解消された。菖蒲の物が壊れていたのを初めに発見したのは、空き教室の鍵を開けた一華と有咲であり、その後続くように響と蓮央がその場に立ち会った。数分後、菖蒲を連れて四郎の元に行く間、空き教室は蓮央たちが見守っていた。つまり、現場を見たものはこの五人しかいないのだが、洋太はそのことを知っていた。
明らかに犯人にしか知りえない情報を知っていた洋太は、もう嘘は通用しないと観念したのか、唇を震わせ言葉を紡ぐ。
「…全部…命令されてやったんだ…」
「命令?誰がそんなことを信じるんだ?もう観念して認めろよ」
響がそう言うと透子が割って入ってくる。
「はーい、ちゅーもーく。笹倉が言ってるのは大方間違ってないよ」
透子はクラスの関心を引くと、有咲と協力しスマホを教室のテレビに接続し、動画を再生する。そこには洋太がおそらく菖蒲のものである体操服を教室から運び出しているところだった。その後、洋太は体操服を持ったまま空き教室があるトイレに入っていった。
「あたしが教室に入ろうと思ったら笹倉が体操服を盗んでるのを見つけて、面白そうだから動画を撮りながら追いかけてたわけ」
そこで一旦動画は途切れたが、直ぐに同じ画角で撮影が続行される。透子曰く、面白いことになってるからと有咲に連絡をしていたため動画が途切れたとのこと。
そこから十数分ほど経ったあと、洋太がトイレから出てくるところが映っていた。洋太はスマホを確認すると、玄関に走っていき菖蒲の上履きを盗り、空き教室の近くに来ると何者かに電話をかけていた。
数分経った後、そこには誰も想像していなかった人物がやってきた。
「笹倉君、菖蒲さんの物は持ってきたかな?」
「天乃君…持ってきたけど、これでもう終わりにしてくれるんだよね?」
「盗んだくらいじゃ菖蒲さんは誰かに言ってしまうかもしれないから、もう少し手を加えようか」
すると蓮央はカバンから刃渡り十五センチ程のナイフを取り出し、体操服と上履きを刻んでいく。蓮央はその刻んだ物を空き教室に持っていく間、洋太を見張り役にしていた。
あまりにも衝撃的な動画に響を含んだクラス全員が絶句してしまう。最初から最後まで響に協力し、菖蒲のことを気にかけていた蓮央が黒幕だったとは夢にも思っていなく、言葉を発声しようとも上手く出来ない。
すると四郎は、重い口調で慎重に言葉を選びながら話す。
「実は事件が起きたあと、源を家まで送っていく時にある動画を見せてくれたんだ。その動画の内容は、あまりにも凄惨すぎるからここでは言わないが、その事について警察の方が来てるから、天乃…行くぞ」
蓮央は素直に言うことを聞き、四郎に着いていく。教室を出る際に透子の目を見ると笑いながら話しかける。
「やるじゃんっ」
その後真相が明らかにされたのだが、蓮央は最近頻発していた動物殺傷の犯人だった。その現場を偶然通りかかった菖蒲が証拠のために勇気を出し撮影したのだが、それを蓮央本人に見られてしまったらしく、その口封じのために菖蒲に危害を加えていたらしい。洋太が犯行の片棒を担いでいたのは、昔洋太が万引きをしている所を見かけた蓮央がそれを脅しに中学の頃から手足にしていたとのこと。
この話は、覚悟を決めたのか意気消沈している洋太自身が打ち明けてくれたものだった。
教室に戻ってきた四郎は次は洋太を連れていく。教室から犯人が居なくなった後に、響は透子と有咲に問いかける。
「もしかして最初から全部知っててお茶会に誘ったりしてたのか?」
「お茶会だけじゃないぞ、俺が響の席で寝てたのもこいつらにお願いされたからなんだぞ?」
「道元には悪いけど有咲も結構序盤から知ってたよ」
「悪いね響っち!なんて言うの?二重スパイ的な?」
まさか序盤から撒き餌にされていたことを聞かされた響は、ショック半分、安堵半分であった。
「てか、撮影中よくバレなかったな」
「ギャル舐めんなし、隠密行動はギャルの専売特許なんだよ?」
それを聞いた響はため息をつきながら、衝撃で忘れていた鼻血を再度抑えながら椅子に腰かけた。