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カゲヌシ  作者: ぽんこつ


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場外の巫女

挿絵(By みてみん)

さっきの子……さえの名を口したという事は冴のリスナーか……

「何かあったの?」

水内鈴みのうち りんは前を見据えたまま話し掛ける。相変わらず眩しいくらいの鈴の服装に三輪愛みわ まなは一層目を細める。

「んー、前にさ、この島は結界によって守られているのは話したじゃろ」

「ええ、伺ったわ」

鈴の執事の加賀美が車の後部座席のドアを開ける。鈴の後に続いて乗り込む。車内はエアコンが効いており、身体を包んでいた熱が少しずつ引いていく。手拭いで汗を拭き、ミネラルウォーターに口をつけ小さく安堵のため息をつく。秋田に比べたら、夕凪島はとんでもなく暑い。しかも眩しい。車の中は自室の暗がり程ではないが、外よりははるかにましだ。

「お嬢様どうされますか?」

加賀美がバックミラー越しに問いかける。

まなさん、次どこだったっけ?」

足を組んだ鈴はこちらを窺う。

恵門えもんの滝という霊場じょ」

「かしこまりました」

車はゆっくりと走り出す。

「それで?」

甘い香水の匂いを纏わせて鈴が顔を寄せる。

「ああ、結界さ、いくつもあるんじゃ、そもそもは人々を守る。この一帯を守る為なんじゃが、何かを封じている物もあるようじゃ」

「封じている物?お宝とか…化け物とか?」

「ほう、鈴さ凄いじょ、あ・た・りじゃ」

「え?冗談のつもりだったのに……じゃあ、さっきの神社も何か関係があるのかしら?」

鈴は腕組みをして頬に人差し指を当てている。

「あの磐座が、その一つじゃな」

「どっち?」

「化け物じゃ」

「そうなんだ、何かそんな感じしたのよね、まなさんの雰囲気からして……でも巫女の使命を果たせばワタクシ達の関する所ではないのではなくて?」

「んだ、もちろんそれが一番じゃが……」

確かに、自分達巫女の使命は15日に行なう祈りの催事を全うする事である。

「じゃが?」

「私さも確かな事は、まだ分からないんじゃが」

「じゃが?」

「因果さ終わってないのかもしれん」

「因果って?何の?」

「もしかして逆?」

「何が?」

「ある事さ、きっかけに良くなるという事もあれば、その逆もあり得るというじゃ、大いなる巫女さの魂は天に返らず世に残った。それは結界に封じられていた祖神さの魂が天に返った訳じゃろ。それで罪人は力さ失った。んだども、これをきっかけに違う何かが解放されていたとしたらどうじゃ?」

「全然分からないんだけど」

鈴は両手を広げ、文字通り「お手上げ」のポーズを取っている。

「あの日、祖神の魂さが天に戻り、人々のDNAのスイッチさ入れた訳じゃ。目覚めさせるために。だから鈴さも夢を見た訳じゃ」

「うん、そうね」

「そのことがきっかけで、他の作用が働いていた可能性があるという事じゃ」

「何となく分かるような気はするけど、神様が行った事だから良いことではないの?」

「んだ、でもそれを逆手にとって何かをすることは可能じゃ」

「何かって?」

「例えばじゃ、DNAのスイッチに入る。その事が分かっていたら、何やら仕組めるかもしれんいう事じゃ」

「ああ、悪い事でも出来るって事?でも……」

「鈴さ磐座の欠片じゃ、思い出してじょ」

「そうか……あの黒い石…磐座の欠片には昔の事が記録されていた訳だものね、昔の人だから今の人より劣っているっていうのは、良くない考えね。で、どうするの?」

「んー」

まな自身、口にしたことに、しっかりとした確証を持っている訳ではない。

ただ、さっきの神社の磐座が、かすかに暗い影を纏っているように見えた。封じている物は悪意、恨み、妬みのような感情の塊のようなもの。あの場所が根源ではないが、それらに関する何かを封じた結界の一部のように思える。

そして磐座自体には、つい最近施された新しい結界の気配もあった。

あの子が?

今思えば、あの巫女の子も関りがあるのかもしれない。澄んだ瞳から、清らかなものが垣間見えた。でも、私さ、みたいな力は感じられなかった。別に結界を張った人物がいるということ。

(しかし、夕凪島は幾つもの謎や秘密があるようじゃ……)

「もしもーし、まなさん?」

両手で口元を覆った鈴が耳元で囁く。

「うわ!…」

驚いて身をよじり、窓ガラスに頭をぶつけた。

「ごめんごめん」

鈴は合わせた両手に頬を当てる。

「ビックリしたじょ…」

側頭部にジンジンと鈍い痛みが残る。

「急に黙り込んじゃって、どうしたの?」

「少しさ調べてみるじょ」

「いいんじゃない、付き合うわよ。10日まで暇ですからね」

鈴はパチンと指を鳴らす。真似をしてみたけれど、カスカスと指が擦れるだけで肝心の音は出ない。同じ様にしているのに一向に鳴る気配すらない。

まなさって、やっぱりかわいいわ」

鈴はクスクスと肩を揺らして笑っている。

思わずつられて笑うと、加賀美も笑い出す。三人の笑い声を乗せ車は進む。フロントガラスの向こうには、鏡のように凪いだ水面が、静かに光を湛えて広がっていた。

お読み頂きありがとうございます_(._.)_。

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