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絶対中立を作る剣

 太陽が水平線上の右前から照っている。

 運転手としてはかなり困る形だ。

 眩しければ自然と目を瞑る。これが困る。


 秋雲達の乗る車を運転しているナマズはクサウオ達が何をしているのか、全く想像もつかなかった。

 実はクサウオから前もって「右曙霊がいるハズだ」と伝えられ、「俺はソイツの足止めをする」と言われていた。

 ここまで来たら普通に考えれば戦っていると思うだろうが、いくらクサウオと言えど、右曙霊には過去二回戦って一回惨敗をした苦い記憶があった。しかも、惨敗をした時は一対一の戦いである。

 その時例え一人二人追加で味方が居ても間違え無く勝てなかっただろう。


ーーーどうするのか見物だな。

 そう思っていた矢先、後ろに明らかにこちらを追いかけている一台の車が見えた。

 その車こそ下の階の人と右曙霊が乗っている車である。

 「あの車、何か誰かが出勤で使っていた車の気がするな…」

 ナマズはそう言いながら更に速度を上げる。

 しかし、距離は離れるどころか、みるみる縮まって行く。


 これには荷台の中にいた秋雲と雲神も不安になって外を見つめる。

 もう、目と鼻の先にその車は走っていた。

 飛び乗ろうと思えば何時でも飛び乗れそうだった。


 「おじさん、ありがとう!」

 秋雲は知らないが、右曙霊の声が響く。

 すると、追ってきた車は急に減速瞬く間に距離は離れ、形すらも曖昧に見えるほど遠くなった。


 秋雲はホッと安心するが、雲神は布で作られた頼りない天井を睨んでいる。

 その天井は突然、雲の隙間から日の光が差し込むかのように裂けた。

 裂け目から一本の腕が伸び、すぐさま秋雲の服を掴む。

 そして、ヒョイッと軽々持ち上げた。

 秋雲は思わず目を閉じる。


 身体が浮くような、不思議な感じがする。

 目を開くと、長い髪や服はバタバタと風が殴られ、間髪入れずに浮いている。

 目の前には見た事が無い女性がいた。

 彼女は風に当たると、氷水のような冷気をばら撒く。

 そのため秋雲の身体はみるみる赤くなった。

 「こんにちは。天狗の子」

 女性はそう言ってニッコリと笑う。

 そして、片手に握っていた刀をケーキのように容易く切れる天幕に突き立てた。


 一瞬で辺りに霧が立ち込める。

 霧は一メートル先すらも分からないほど濃い。

 この霧は車がどれだけ走っていても、髪のように纏わりついている。

 ついに霧は車を止めた。

 車が止まると、霧は「今だ!!」とまるで意思があるかのように秋雲を覆った。


 しばらく霧は秋雲をなでなでと水分で構成された手で揉みほぐし、秋雲の服は雨にでもうたれたかのように濡れた。

 秋雲は嫌がってスクリと立ち上がり、トコトコと周りを歩く。

 もう、車の天井から落ちていても、可笑しくはなかった。

 だが、秋雲はズルリと落ちる感じもせずに平坦な白い床を延々と歩く。



ーーーあの世かな?

 あまりにも延々と続くため、そう思った。

 だが、やっと霧が晴れた場所に着いた。

 そこは丸い小さな机を中心に円形で霧が晴れている。

 「秋雲様。ご無事で何よりです」

 背後から突然、右曙霊の声がした。

 振り返ると、彼女は土下座した状態でそこにいた。

 「あなた様を見つけるまでにおよそ二十年ほど掛かった事、心より反省しております。また、その間に窮屈な生活をさせていた事もここで謝らせて頂きます。そのため、この右曙霊…」

 そう言って土下座から正座の態勢に変わり、傍らに置いていた刀を鞘から引き抜き、刀の刀身を空高く上げる。

 「雷に打たれてまいります!!」

 「チョー!!ストップ!!」

 秋雲は右曙霊の腕にしがみつき、刀を下に降ろそうとする。

 しかし、彼女の腕は石像のように硬く、ビクともしない。

 しばらくアリが虎に噛み付いているような、力の差が歴然の無意味な事が続いた。


 それでも意外な事に、虎が笑いを堪えきれずに、「アハハ」と笑う。

 「古鷹と同じだ」

 彼女は刀をそっと下ろし、鞘に収めた。

 「さて、茶番はこれほどにして、改めてこんにちは。天狗の末裔」

 秋雲は面を食らったようにしばらくポカンとしたが、何とか口を動かす。

 「…その、あなたは誰ですか?」

 「私は右曙霊、ただの幽霊です。古鷹様の家の護衛を基本的にはしています」

 「…右曙霊?」

 「本来は肩書きですが、幽霊になってしまったので名前とはさよならしました!」

 彼女は明るく淡々と話す。

 だが、話の内容が内容のため、秋雲は苦笑いしか出来なかった。

 「その…、ここはどこですか?」

 話題を変えるべく、秋雲は奥の手とも言える話題を切り出す。

 すると、これも彼女は即座に答える。

 「私の持つ絶対中立を作る剣の効果です。この空間はとにかく、“対話をする”。この一点をするための空間です。一応、攻撃は出来ますが、本能的に自然と対話をしてしまう。そんな感じです。例えば、喋りたくないほど嫌いな人とこの空間にいると、どんなに嫌がっても気が付けば話し合っています」

 「つまり、僕があなたの事を嫌っていても…」

 「流石に自分の感情を変える効果はありませんよ。…他にはありますか?」

 「では…、僕は何者ですか?」

 右曙霊は顎に手を当ててうーんと唸る。

 その様子を秋雲は不安な眼差しで見守る。

 「まぁ、結論から言うと、天狗の末裔であり、まだ生まれてない存在でもあるって言うのが結論かな…」

 「生まれてない存在?」

 「私と同じ、幽霊的な?その、幽霊は幽霊でも冥界の神の()()()だね」

 「厄介組?」

 すると彼女は一文字に閉じた口に人差し指を当てて、ニッコリと微笑んだ。

 どうやら言えない契約らしい。

 「さて、君ばっかり質問していても、私の話が進まないからそろそろ言わせて貰うけど、君、帰らない?」

 「はい?」

 「とりあえず、私から今後離れないで」

 彼女は秋雲の手を引き、周りの霧の壁へと突っ込む。その後の彼らの居場所を知る人はどこにもいない。




 秋雲失踪から二日後。

 2025年9月。

 護衛艦ぬまかぜ艦上。


 ぬまかぜの艦橋には、ぬまかぜ艦長こと山汐と雲神の二人だけがいた。

 二人は狭い窓から曇りの空模様を見ながら口を開く。

 「雲神、貴様はこれからどうするのだ?」

 「わしか。もちろん三石達について行く」

 「まぁ、右曙霊にあれほどの事をしたんだ。しばらくは寝首に気を付けろよ」

 「一人の人間として言い過ぎだが、どうせお前のことじゃ。我は()()()だから関係無いとか言うのじゃろ?」

 「御名答。では早速と行きたいですが…」

 山汐は言葉を切り、艦橋の扉の前で中に入り難く、立ち往生していた隊員を見つめる。

 その隊員は会話が終わったと思い、扉を開け、中に入った。

 「艦長、本部より伝令。やはり来客を上陸させる事は出来ない。九州へ行け。です」

 山汐は「ハァ」と声を上げてため息をつく。


 伊八を鹵獲した後、三石達は「故郷に帰りたい」と口々に叫んでいた。

 山汐はそんな彼らの意を組み、何度も本部に上陸許可を求めた。しかし返ってきた返答は一字一句変わらない。

 「上陸させる事は出来ない。九州へ行け」

 ぬまかぜにはもう考えている時間も迷っている時間も無かった。

 山汐は渋々命令に従う他は無く、ついにヘリコプターを手配する。


 ヘリコプターはすぐに飛んで来た。

 艦の後部にある多目的甲板にヘリコプターは停まる。

 もちろん乗る乗客らは雲神と伊八に乗っていた三石やアイ達だ。


 山汐は律儀にも彼らの見送りに現れた。

 三石は初めて見るヘリコプターに驚きながらも、山汐が高官と見るなりヘリコプターから降りて敬礼をする。

 「すまないね。ここの丘に下ろせなくて」

 山汐の開口一番はこの言葉だった。

 三石は特に何とも言わずに山汐の目を凝視する。

 永遠とも思えるほど長い沈黙が続いた。

 「そろそろ時間です。離艦します!!」

 ヘリコプターの操縦士が叫ぶ。

 山汐は敬礼を崩し、後ろに一歩二歩と下がる。


 ヘリコプターは三石とフローズンを乗せて空へと舞い上がる。

 そして、坂井やアイ達を乗せるためのもう一機のヘリコプターが甲板に着艦した。

 だが、山汐の視線は三石達の乗る西に向かって行くヘリコプターに最後まで注がれていた。

 「艦長、そろそろ艦橋に戻っては?」

 一人の水兵が言う。

 「そうだな…」

 「どうかなさいましたか?」

 「いや、…そうだな。あの三石と言う奴、かなり覚悟が決まったような顔をしていたからな…」

 彼の予想は的中していた。


 同時刻三石達の乗るヘリコプター内。

 ヘリコプターには二人の操縦士と三石、フローズ、ンが乗っていた。

 坂井達は手配されたもう一機のほうに乗っている。


 三石達の乗るヘリコプターの中はどこか異質な空気だった。

 三石の視線はヘリコプターの窓から見える、伊八に絶えること無く注がれている。

 「なぁ、試製累乗ワープ装置とやらはどんな時代でも行けるのか?」

 三石がそう独り言のように言う。

 するとフローズンは全てを理解したかのように冷や汗をかきながら、懐に万が一のために隠しておいた短刀を掴む。

 だが、握った時にはすでに遅く、三石はぬまかぜから()()した拳銃を構えている。

 「ここで短刀を取り出すと言う事は、そういう事だろ?」

 「はて、なんの事かな?」

 フローズンの焦りは一目瞭然だった。

 顔面は氷のように真っ青である。

 「魔法が使えるなら、使うよな。さては君はこの世界では魔法が使えないな?」

 「…三石、君の性格は割と酷い奴だな」

 フローズンは短刀から手を離し、両手を上げる。

 しばらく無言が続いた。

 突然、三石は拳銃の銃口を天井に向けて、下を見せる。

 その拳銃は弾倉が入っている場所がスカスカだった。

 フローズンはそれを見ても特に何とも言わずに知らん顔をする。

 「ここからは…」

 三石はすかさず人差し指をフローズンの軽くなった口に当てる。

 「ここまで予定通りだからな」

 フローズンはコクリと頷いた。


 それら一部始終の様子をずっと聴いていながらも、二人の操縦士は声を掛けないどころか微動にしない。

 ずっと機械のように操縦桿を動かしている。

ーーーやっぱり、ただ者じゃないな。

 フローズンと三石はヤモリのように足音を盗んでそれぞれ操縦士の背後を取った。

 短刀を取り出して。


 三石とフローズン乗るヘリコプターの後ろには雲神達の乗るヘリコプターが続いていた。

 機内では山岸や榛真はどっと疲れていたようで、ぽっくりと寝てしまっている。

 今、事実上行動出来るのはアイと雲神のみだった。

 「のう、アイ。お主、なぜこの子供達を守ったのじゃ?」

 雲神の相変わらずの唐突な質問に眉を細めながらもアイは答えた。

 「そういう契約。あの懐中時計は()()()()()()無料で命令を聞く物」

 「しばらくの間って、割と抽象的じゃな」

 「あの懐中時計は方にしか渡していないかったからな。サービスそのものが初めて。…その結果がナトウェール湾からサトウキビまでレーベンとモワから護衛して、挙げ句訳が分からないことになったと」

 「ドタバタじゃな」

 すると、会話を遮るように爆発音が機内にこだました。

 二人は立ち上がり、小さな丸い窓から外を見回す。

 何と三石達が乗っているヘリコプターが黒煙を上げながら徐々に降下している。

 「フローズン達がマズイな…」

 アイはそう言って操縦席を見た。

 そこには操縦席に立ち塞がるように操縦士の一人が立っていた。

 「危ないのでお座り下さい」

 まるで機械のような口調でその操縦士は言う。

 だが、アイは引き下がるどころか、ズカズカと操縦士の前まで行った。

 「断ってもよろしくて?」

 「…それはいけませんね」

 操縦士はアイの片腕を掴んだかと思うと、一瞬でアイを床に組み伏せた。

 その速度は一部始終を見ていた雲神の目にも止まらなかった。

 アイはジタバタと暴れ、操縦士から逃げようとする。

 しかし、操縦士は岩のようにビクともしない。

 「離せ…!!」

 アイはうめき声交じりに言う。

 「山汐閣下の命令ですので、不可能です」

 その言葉を聞いた雲神の表情が、変わった。

 アイは赤子のように暴れながらも、その表情の変化には気が付いていた。

 雲神は確かに何かを言おうとしている。その証拠に口が開いては閉じて開いては閉じてを繰り返している。

ーーー石を投げてみるか…。

 アイは口を空け、深呼吸をする。

 大声で聞いてみる。それしか無い。

 「雲か」

 突然操縦士の手がアイの口を遮り、言葉を発せないようにした。

ーーー何か不都合な事があるな!?

 アイはそう確信する。

 けれども確信しても形勢が圧倒的不利な事に変わりはなかった。

 知ったところで(ぬか)に釘である。


 ただ、予想外の事が起きた。

 操縦士はアイを床に押さえつけたまま、雲神に頭を垂れたのだ。

 雲神も確かに神であり、何ら不思議は無い。

 それでも、この世界の住人が雲神を知っているかと言われれば間違え無くあり得ない。

 そして、雲神はほとんど隣にいたから分からなかったが、あまり地上に降り立つような神様では無かった。

 要するに、この操縦士は異世界の人間で間違え無い。そして、雲神の姿を見た事がある人間だ。


 操縦士は頭を上げ、再び雲神を見つめる。

 雲神は覚悟を決めたように口を開け、「ここにいるのはワ国第三艦隊か?」と聞いた。

 すると操縦士は静かに頷いた。

 「我々は第三艦隊()()特別任務遂行隊です」

 雲神はそれを聞くと、不安そうな眼差しでフラフラと飛行する三石達が乗るヘリコプターを見つめた。

 「本来であれば攻撃する予定は無かったのですが、攻撃をして来た場合、反撃が許可されているものでして…」

 アイはまだ組み伏せられている。これが反撃というものであろう。

ーーー魔法が使えれば。

 そう思うも、使えない現実がある。

 組み伏せられている最中何度もアイは使おうと努力した。だが、一向に魔法の出る気配は無い。

 世界が変われば魔法は使えない。魔法はそんなガラスのような壊れやすい物だった。

 アイは唇を噛み締めながら三石達の乗るヘリコプターを見ていた。

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