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テアケタル島沖海戦(後編)

 爆撃機と雷撃機は辺りを一望出来る戦場の上空に辿り着き、周りを見渡す。

 洋上から上がってくる黒煙が航空機に標的の場所を示していた。

 「敵艦見つければ全機その艦に必ず一撃お見舞いせよ!!」

 それが村田の全機への指示である。

 その指示通りそれぞれが目標と定めた艦へ向かって降下して行く。


 村田機は最後の一機が標的を決めるまで上空を飛んでいた。

 村田は漁師の家系の出だった。

 幼い頃から父親から風の読み方と釣りのやり方を教わっていた。その中でも特に“餌が少ない時の釣り”の方法が頭に残っている。

 「餌が少なければ、不確実な大物を狙え。でないと稼ぎは無い」


 最後の一機が降下した。

 村田機も洋上にいる敵艦に狙いを定めて降下する。

 ほとんど、と言うよりかは全ての機体がワ国第一艦隊目掛けて突撃していた。

 もちろん大目玉は超竹級戦艦である。


 ワ国第一艦隊と熾烈な砲撃戦を繰り広げていた戦艦名取からはもう一発の弾も撃ち出されなかった。

 船体は傾くでも無く燃え続け、浮かぶ標的艦と化した。

 「艦長、もう本艦に攻撃能力は残っていません…」

 司令塔内で生き残った通信兵と艦長はもうどこからも生気を感じなかった。

 艦長は遠い目をして司令塔の中に入り込んだ破片によって粉々に破壊された舵を握っている。

 通信兵はやっと止血が終わり、コロッと寝た航海長の近くに座り込んで上の空を見ている。

 戦艦でこの状態であった。

 装甲巡洋艦はついに沈没が出ており、四隻になっている。

 「総員、」

 名取艦長はやっと決意を固めて命令を下そうとした。

 ちょうどそこに、天使のような天からの助けが到来した。

 航空機である。

 瞬く間に目の前の超竹に水柱が上がる。

 それを皮切りに続々と爆発、水柱が上がって行った。

 「もしかして、我々の粘り勝ちですか!?」

 上の空を見ていた通信兵がヨロヨロと立ち上がり、火の手の上がる第一艦隊を見ていた。

 敵艦隊からの攻撃が無くなり、鼓膜が破れそうになる爆音も船体が常に揺れる事も無い。

 目の前で行われているショーをじっくりと眺める事が出来た。


 村田機ら航空機は何の妨害も受けることなく敵艦を攻撃する。

 戦艦超竹は魚雷を左右に二本ずつ食らい大破、航行不能に追い込まれ、総竹も爆弾三発、魚雷二本を食らい中破していた。

 村田機はそんな戦艦達を差し置いて第三艦隊旗艦川竹に迷い無く向かって行く。


 第三艦隊は第一艦隊とは違う場所にいた事もあり、最初の攻撃を免れていた。

 クラッキ大将はすぐに対空戦闘の命令を発令し、手空きの水兵達は小銃を持って甲板に上がる。

 そこに村田機が襲来したのだ。

 六mm機銃が絶え間なく空に向かって火を噴く。水兵達も小銃を向けて発射する。


 村田は対空砲火に臆することは無かった。

 ただ気がかりなのは、魚雷がキチンと落ちるかだけだった。

 川竹と村田機の距離は一秒事に近付く。

ーーー今だ!!

 村田は魚雷投下のレバーを引く。

 しかし、カチッと音を立てるだけで魚雷は投下されなかった。

 その後幾度となくレバーを引いたが、結局落ちた頃には川竹が目の前にいたため、魚雷は川竹の艦底を通過してどこかへ行ってしまった。

 ただ、別に悔しくは無い。

 魚雷が無くなった村田機は颯爽と川竹の頭上を通過してどこかへ消えた。


 一方、村田機などの一部を除く全機から狙われた第一艦隊は瞬く間に優勢が崩れ、劣勢に陥っていた。

 防護巡洋艦は魚雷を一、二本喰らえば大破し、装甲巡洋艦と戦艦は遅いためいい的になった。


 羽鶴は自ら超竹の浸水で重くなった舵を回す。

 超竹は対艦戦闘は優秀なものの、対空戦闘となると頼りない点が数え切れないほどある。

 そもそも航空機などと言う時代に合わない兵器と戦わされている時点で超竹に勝ち目など無かった。


 航空機は攻撃を終えると続々と空母に戻って行った。

 戦果としては十二分で超竹級戦艦二隻、愛竹級戦艦二隻、装甲巡洋艦二隻、防護巡洋艦四隻を撃沈せしめ、世界に航空機の有用性を知らしめた。

 しかし、この被害の全貌を両軍が知る事はついぞ無かった。


 川内と那珂の救援に来たのは戦艦神通率いる駆逐艦四隻であった。

 二隻に集っていた駆逐艦達はその救援を見つけると迎撃するでも無くさっさと逃げ帰った。

 逃げた駆逐艦は戦艦超竹らや第三艦隊に合流すると全艦で北の軍港に帰ってしまった。


 その様子を見た大日帝国艦隊も那珂が被害甚大のためさっさと撤収する。


 これで海戦はこれで集結。では無い。

 本来は海戦に参加し、その場にいた全艦艇を沈めるハズだったリョーセフ艦隊がいない。

 本当の黒幕が、最高の漁夫の利チャンスに、遅刻したのだ。


 一時間程前。リョーセフ艦隊旗艦アラスカ艦橋。

 この時艦橋に不思議な知らせが舞い込んだ。

 「オンボロなワ国旧式水雷艇が接近中」

 一瞬、艦橋にいた幕僚達は凍りついた。

ーーーまさかワ国が我々の意図に感づいた!?

 リョーセフは全身から冷や汗が噴き出る。

 「偶然か、必然か。それだけ分かれば良い。全艦戦闘配置…!」

 アラスカのこの世界で最初で最後の戦闘配置が発令された。

 30cm連装砲を始めとする巨砲の数々がその迫りくるオンボロ水雷艇に向けられる。

 リョーセフ自身もその水雷艇に双眼鏡を向ける。

 水雷艇は第二次ワカ戦争時代末期の木造外装水雷艇だった。

 一見、古めかしい漁船に見えるが、艇首に伸びている枝の先に例の外装水雷が付いている。

 「砲撃ヨーイ」

 「待て!!」

 砲術長の声を遮ってリョーセフの声が響いた。

 「転生者の三石が乗っているぞ!!」

 「三石ですか?」

 幕僚達は咄嗟に声のトーンを下げる。

 エメラルドと一緒に乗り込んで来た憲兵に聞かれると面倒な事になるからだ。

 リョーセフは幕僚に腕っぷしに自信がある者達をかき集めるように言った。幕僚は敬礼でアンサーを示し、すぐに艦橋から飛び出す。

 リョーセフの考えではバレる前に憲兵を監禁すればいいと言う何とも幼稚な作戦だったが、結局それが一番最善だった。

 すなわち、謀反である。


 まずリョーセフは機関を止めた後、航海長と共に甲板に上がり、三石を引き上げた。

 「三石殿。こんな所で会うなんて奇遇ですな」

 「…そうですか」

 三石はかなり困ったように応える。

 何とか島を脱出したのに空母にも会わず、よりによって面倒臭い彼らに出会ってしまったのだ。

 「さて、こんな所で立ち話もアレですし、艦長室で話しましょうか」

 三石はされるがままに艦長室に案内された。

 艦長室は不思議な匂いの立ち込める狭い部屋だった。

 リョーセフは航海長を外の扉の門番に立て、リョーセフと三石、一対一の状態にする。

 「ささ、お座りください」

 「ありがとうございます…」

 リョーセフと三石は小さな机を挟んで向かい合って座る。

 三石は辺りをキョロキョロと見回し、この不思議な匂いが部屋の隅にある引き出しの上にある線香から発されているのが見えた。

 その視線に気が付いたリョーセフは「線香は気分をリラックスさせますよね。一本上げましょうか?」と聞く。

 「ではお言葉に甘えて…」

 リョーセフは立ち上がって引き出しから一本の線香を取り出し、三石に渡した。

 そして再び席に着く。

 「さて、何故ここに?」

 「まぁ、色々とあって…」

 「例の空母を追っているのでしょう?」

 三石はリョーセフを睨む。

 なぜ知っているのか。

 「…早く、我々から逃げたほうがいいですよ」

 「…」

 三石は腰に付いている軍刀の柄を握り、いつでも立てるように椅子から少し腰を浮かす。

 しかし、リョーセフは少しも動かずに椅子に腰をずっしりと置いている。

 「なぜ捕まえない」

 三石がそう聞くとリョーセフはクスリと笑った。

 「私は剣術が苦手でね。だから、今君がこの場で最も強者だ。聞きたい事は何でも聞いてくれ」

 とても高官とは思えないような事を言う。

 記憶が正しければリョーセフは大将だったハズだ。

 だが、聞ける事に越した事は無い。全て本当の事を言っているかどうかは別として。

 「じゃあ、なぜ空母の件を知っている?」

 「アレはサトウキビの戦闘指揮所から報告があった。それに合わせて我々も出撃した。それだけだ。…空母の事、いや、サトウキビやヒルノフエの事はレーベンから事前に色々と情報を貰っているからな」

 「…レーベンさんとは、どういう関係ですか?」

 リョーセフは自らの頬を撫でて沈黙する。

 その間彼の視線はずっと線香に向けられていた。

 「そうだな」

 しばらくして口を開く。

 「簡単に言うと、レーベンは世界と戦いたい。我々はそれに協力している。という感じかな」

 「世界と戦いたい?」

 「俺も言っている内容が全く分からないんだ。…少なくとも、今まで世界はレーベンの筋書き通りだったのかもな」


 ドンドン!

 扉が揺れる。

 ドンドンドンドン!

 叩く音は次第に強くなり、ついにはバキバキと鳴る始末だ。

 リョーセフは立ち上がり、艦長のベッドの下から小銃を取り出す。

 「後ろの窓から逃げな。…次会うときは、無いかも知れないがな。最後に聞きたい事はあるか?」

 三石も立ち上がって窓に向かう。

 リョーセフの質問には「秋雲幸一って誰だか知っていますか?」と言った。

 「例の偽名だな。良いことを教えてやる。そいつを俺達から守れ。特にガドリ神聖王国とカ国からな。…君達転生者の本当の敵は俺達だ」

 三石は何も言わずに丸い小さな窓から身体を出して繋留されている水雷艇に乗り込む。

 この水雷艇はさっき三石が乗っていた船だ。

 すぐに機関を作動させてアラスカから離れる。

 向かう先は先ほどまでいた島である。


 リョーセフは小銃を片手に持ちながら構えようともせずにベッドに座り込んでいた。

 扉はミシミシと音を立て、ついに決壊する。

 艦長室に憲兵一人とエメラルドが入って来る。

 廊下には航海長の足が横たわっているのが見えた。

 「おやおやリョーセフ()()。戦闘配置なのに艦橋に居らず艦長室に居るとはどういう事かな!?」

 憲兵がかなり舐めた口調で叫ぶ。

 リョーセフはそんな憲兵を貶すようにクスリと笑った。

 「負け戦が嫌いでな」

 「負け戦!?どこが負け戦だ。我々には一隻一隻が強い軍艦がいるではないか。こんな軍事力だけの国に負ける訳が無い!!」

 「第二次ワカ戦争もそれだったな。敵を過小評価して結局敗北。また山汐にやられるぞ」

 「海軍は口を開けばいつもそれだ。他の言葉をッ」

 饒舌な憲兵はバタンと倒れた。

 リョーセフが唖然とする中、エメラルドはフワァとあくびをする。

 「うちの部下、酒に酔って訳分からない事言ってるだけだ。気にするな」

 「えっ、」

 「僕は何も知らない。リョーセフ。報告」

 リョーセフはエメラルドの企みに気付き、小さく頷いた。

 「酔った憲兵が根拠の無いフィクションの話をし、艦隊を混乱に陥れました」

 「分かった。君達、コイツを監禁しといて」

 廊下で事の顛末を見守っていた新人水兵達にそう言った。

 水兵達はすぐに横たわる憲兵を引きずってその場を離れる。

 「さて」

 エメラルドは気絶している航海長を小さな身体でおんぶして艦長室に入る。

 入るとすぐに航海長をベッドに寝かせた。

 「よくやったね。リョーセフ殿」

 航海長をベッドに寝かせながら言う。

 「いえいえ。エメラルド殿、大丈夫でしょうか?」

 「大丈夫だよ。だって僕は何も知らないし、見てない。他の部下もどうせ部屋で寝過ごしてるだけ」

 エメラルドは航海長をベッドの上に寝かせ終わると、リョーセフの座っている隣に腰を置く。

 そしてため息をついて「そろそろテアケタル島の横を通過するよ」と言った。

 テアケタル島、かつて第二次ワカ戦争では山汐荒火大将率いる第三艦隊本部が置かれ、続く66v確保作戦では派遣した特殊部隊が全滅したカ国にとって忌むべき呪われた島である。

 「問題は特に無いでしょう」

 リョーセフは割と楽観的な事を言う。

 「そうかな」

 楽観的なリョーセフとは対照的にかなり険しい顔をしてエメラルドは答えた。

 まるであの島に何かとてつもなく危険な存在がいるかのように。

 彼の視線はテアケタル島に向けられている。


 アラスカの機関が再始動し、艦隊が北上を開始した時にはすでにテアケタル島沖海戦は両軍の撤退で集結していた。

 だが、彼らはそんな事を知る術は無く、無意味な北上を続けている。

 後にこの事が自らの首を絞めるのであった。

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