クリ島観光?
眩しい朝日と共に目が覚めた。
気を失って以来、ちゃんと寝れるようになった。
三石さんは一番に起きて、すでに出発できる態勢だった。
こっちを見ると、思い出したかのように水をかけてくれた。
「さて、爆睡組を叩き起こすか」
刀の鞘を坂井さんの頭に思いっきり叩きつけた。
バチン
気持ちのいい音が宿全体に響き渡った。
その音で正智君も目が覚めた。
「驚いた」
三石さんは刀を右手でクルクル回しながら言った。
まさかの叩かれた本人はむにゃむにゃと言うだけで何事も無かったかのようにベッドに横になり続けた。
そのまま正智君と三石さんは朝食を済ませた。
それでも坂井さんはベッドから出て来ない。
すると正智君は「自分に任せて、三石さんは古鷹さんと山岸さんを見てきてください」と言った。
三石さんはコクリと頷いて部屋を出た。
正智君はため息をつきながらナイフを取り、坂井さんに向けた。
「魔法で起こしましょう」
ナイフが水色に光出した。
「出力間違えて坂井さんを永眠させないように」
冗談混じりで言うと、正智君は口を真一文字にして目がうつろになった。
「だだだだだ大丈夫ですよ。まさか、起こす為にやってるのに、永眠させたら元も子もないじゃないですか」
すごく不安になる様な回答が帰ってきた。
それでも水色の玉を坂井さんに当てた。
すると、坂井さんは何とも形容し難い声を上げてベッドから落ちた。
三石さん達はもう既に外で待っていた。
眠そうにしている山岸さんが坂井さんを見ると、突然眠気が覚めたような顔をした。
古鷹さんや三石さんもびっくりした様子だった。
坂井さんは正智君に両手を引っ張られて出て来た。
髪は鳥の巣のような形で目は白目をむいていた。
「ちょっと出力、大きすぎました」
この時、三石さん以外全員がしっかりと朝、起きることを決意した。
坂井さんは正智君が引っ張って街を移動した。
三石さんと正智君、僕が前を歩き、古鷹さんと山岸さんが後ろを歩いた。
この街、東クリ街は木造建築が多かった。
「ここ、金山で儲けてる割に質素ですね」
山岸さんが不思議そうに言った。
「クリ島の東側は基本的に木造だけど南側と西側は石造りらしいぞ」
三石さんが振り向きもせず答えた。
「らしいって、どこ情報ですか」
正智君が不審そうに聞くと、「ガルド神聖王国王都から脱出する際に別れた奴」と古鷹さんが割り込んだ。
「あぁ、なるほど」
正智君は手を叩きながら納得した。
「誰ですかその人?」
僕が正智君に聞くと、「そう言えば、会ったこと無いのか」と独り言を言った。
「おい、お喋り共。目的地に着いたぞ」
三石さんが立ち止まって、目の前のレンガ造りの建物を見上げていた。
The洋風建築としか言いようが無い。
窓が左右対称に設置され、建物全体が美しく見えた。また、街が木造建築が多い中のレンガ造りだ。高級感があった。
「ここはクリ島防衛本部だ」
三石さんはただそう言っただけで、中に入って行った。
扉も黒い立派なものだった。
中は清掃がしっかりと行き届いた感じだ。
「こんにちは。三石様御一行ですかな?」
執事のような黒い服を着た白い髭のお爺さんがニコニコしながら話し掛けてきた。
「俺はそのまま話しをして来る」
そう言って三石さんはお爺さんについて行った。
「自由に探索して良いですよ」
お爺さんは去り際にそう言った。
全員は個人行動をする事にした。
言うまでもないが、僕は正智君と一緒だ。
坂井さんは色々と邪魔だったので胴体と両腕を一緒に巻かれて、庭の木に吊るした。
ほとんど図書室にいた。正智君は興味津々に本のページをめくり続けた。
一応、僕も手が枝になったから本のページをめくれた。本棚は資料が大半を占めていた。どれも、古そうな資料で、特に面白いものは無かった。それでも二冊読んだ。
一方、正智君は既に十冊程読んでいた。
我ながら自分は読むのが早いと思っていたが、上には上がいた。それとも、ほとんど読まずにただめくってきたかのどっちかだ。
「あっ」
正智君から声が零れた。一体どうしたのだろうか?
「そう言えば、気を失った後、何も知りませんよね」
「まぁそうだな」
「それじゃ、決まりです」
そう言うと、本を閉じて本棚にそれぞれ戻した。
その後、近くにいた守備兵に外出の事を伝えて外に出た。
途中、庭の木に吊るしている坂井さんの様子を見に行ったが、いまだに寝ていた。
東クリ街の港は軍港だった。東クリ軍港と言うらしい。
そこにある四基のドッグの内、二基を見学した。
見学時はあの執事から貰った許可証で軍港内を自由に行動出来た。
「この国、すごく親切ですね」
「僕らは、この国では英雄ですからね」
正智君は鼻を伸ばして言った。どうやら、ガドリ神聖王国で重要書類を盗んだ事が関係しているらしい。
「さて、あなたが気を失った後の出来事を順に話しますか」
正智君がドッグに向かいながら話し始めた。
「あなたが気を失った直後の事は恐らく三石さんが言ってると思いますからその後を簡単に話しましょう。あの後、艦首以外全て消火出来ましたが艦首の炎はとどまる事を知らず、第一主砲の弾薬庫に引火して第一主砲を吹き飛ばしました。幸いすぐに東クリ軍港に着けました」
とりあえず、大変だったという事は分かった。
「見た方が早いですね」
正智君は立ち止まってある艦を指差した。
指の先には艦首がまっ黒に染まった戦艦ペイリドが入渠していた。第一主砲は跡形も無かった。
修理中の為に艦に乗ることは叶わなかった。
「あれ、実はまだ竣工してないらしいんですよ」
正智君はすんなりと言った。しかし、まだ未完全の状態であれほどの強さを有している点に驚きを隠せなかった。そして、この知識は資料から手に入れたのだろう。
正智君はもう一基のドッグを見に戦艦ペイリドを横に歩き始めた。
もう一基のドッグにもちゃんと艦がいた。
「戦艦サギバヤ」
看板にはそう書いてあった。
なるほど、正智君はこの艦が目当てで来たのだろう。
隣のドッグに入渠している戦艦ペイリドより大きかった。
「この戦艦は国内最新鋭の戦艦“アラスカ”級二番艦サギバヤだそうです」
正智君は目を輝かせながら話し始めた。
「資料にはろくな情報は書いてませんでしたが、一番艦アラスカは進水済みだそうです!しかも、サギバヤの船体は見た感じ、かなり完成してるので、進水もそろそろでしょう」
正智君はついに僕が入っている花壇を両手で持ち、顔の前まで持ってきて話していた。
周りの工事の人達から不思議そうにじろじろ見られた。
そりゃ、花壇に入ってる木に話し掛けてる子供がいるからな。
正智君の話は周りの視線を一切気にせず続いた。
本人には失礼だけど、周りからの視線が気になって、ほとんどの話が右から入って左に抜けていった。
ただ、アラスカという名前、なぜここで使われているのかが、気になった。
その後も軍港内をウロウロしては、正智君が話すといった感じが続いた。
夕日が水平線に飲み込まれ始めた頃、「正智ー」と呼ぶ声が聞こえた。
「古鷹さん」
僕はそう言うと、正智君ははっとしたように我に返った。
「いや〜。軍港内を丸い花壇を持った子供がいつまでもウロウロしてるって、軍港側から通報があって来たよ」
最後の“よ”にすごく圧が掛かっていた。
正智君は「まだ居たい」と子供のような駄々をこね始めた。古鷹さんは否応なしに引っ張ろうとした。
工事の作業員達はその様子を見かけたように声を掛けた。
「写真を撮ってあげるよ」
正智君の顔はパッと明るくなり、戦艦サギバヤの前まで行った。
戦艦サギバヤの艦首を中央に右に古鷹さん、左に正智君で写真を撮ってくれた。
「うちの餓鬼がすみませんね」
「いえいえ、子供はこういう感じがいいのです」
写真を撮ってくれた人は笑顔で対応し続けた。
これでやっと、朝に居た旅館に帰れた。
部屋には三石さんがベッドの上で本を読みながらくつろいでいた。
「あれ、坂井さんは?」
僕が言うと、「一緒じゃなかったけか?」と三石さんが反応した。
この調子だと、クリ島防衛本部の庭の木にぶら下がったまんまだ。
「まあ、それはそれ、これはこれだ」
三石さんは笑顔で言った。この笑顔の裏には復讐と言う漢字二文字のオーラが隠れていた。
「さて、大日国にラ国を一切経由せず行けるようになったぞ。古鷹さんと山岸さん呼んで今日中にその人に会いに行く」
三石さんのおかげで、既にこの部屋の撤収準備は万端だったが、女性陣は荷物がカバンに入らないことに苦戦していた。
旅館を出た時には完全に日は落ちて、辺りは街灯が灯っていた。
「この街の近くにいるからゆっくりいくぞ」
三石さんを先頭に街を歩いた。
「ストップストップ!俺を忘れてるぜ!」
石造りの道路をスライドする様にして、一人の男が立ち塞がった。坂井さんだ。
「チッ」
「チッ!?」
三石さんからほぼ反射的に出ていた。
「俺なんかやった!?」
「なるほど、自らの罪があり過ぎて現実逃避を開始したか」
三石さんが頭を抱えながら話し続けた。
「どうやってあの縛られてる状態から抜け出したんですか?」
正智君が藪から棒に聞いた。
「腕の使い方を工夫したら抜けた」
坂井さんは正智君と目を合わせず、少し下を向いて話した。
街を出て、しばらく道を歩いていたが、三石さんは突然森の中に入って行った。
腰程の高さまである草を掻き分けて道なき道を歩き続けた。
「本当に、ここに大日国まですぐに帰れる手段があるの?」
古鷹さんが怪しそうに聞いた。
「あるぞ。なんなら、明日には大日国の空の下だ」
三石さんの返答に古鷹さんは苦笑するしか無かった。
距離的にはサウジアラビアから日本程離れているのに、そんなことはあり得ないといった感じだ。
歩き始めて二時間程経った頃、森の中に光が見えた。
「あそこが目的地だ。もう一踏ん張りだぞ」
三石さんは全員を励ましながら進んだ。
家の周りは腰まであった草はコンクリと土の境目の様にくっきりと切られていた。家は、竪穴式住居だった。
「全く、明日ぐらいに来れば良かったものを」
竪穴式住居から一人の髪の長い女性が出て来た。
「我々は一刻も早く、大日国に帰りたいんです」
三石さんのしっかりした回答に頭を掻いて困ったように笑った。
「いいよ。私にかかれば、君達を瞬く間に大日に送ろう」
「ありがとう御座います」
三石さんとその人はお互いに握手をした。