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強行着陸(前編)

 三石率いる無人の零戦達は次々と空へ舞い上がり、白い機体を太陽の下へと晒す。

 百機以上の航空機が隊列を組むのはいつ見ても壮観である。

 同時に、落石を戦艦比叡の三式弾で吹き飛ばし、やっと離水出来るようになった二式大艇も空に舞い上がった。

 今、この世界で、この航空隊に敵う航空隊は存在しない。まさに大船に乗った感覚で空母まで辿り着けるだろう。


 一方、ワ国、大日帝国海軍は共にこの空母を捉えていた。

 徐々に北上しつつあるこの艦は両国にとって未知数であり、どこの国家の所属かも分からない。

 ただ一つ言えるのは、この空母はクロイ戦争の激戦海域に突入してしまっていると言う事だけだった。

 未知という恐怖は両海軍共に持ち合わせているため、早速艦隊が編制された。


 ワ国海軍

 第一艦隊並びに第三艦隊

 旗艦戦艦超竹


 大日帝国海軍

 第一艦隊並びに第一航空戦隊

 旗艦戦艦川内


 両海軍の主力とも言える艦隊は静かに港から錨を上げ、空母を囲むように北と南から進撃するのだった。

 まさか敵も同じ行動をしているとは思わずに。


 零戦隊は、ついに空母印旛沼の付近に近付いていた。

 燃料は帰る分を一切考慮していないため、全機喪失は免れない。

 だが、三石は特に何とも思わなかった。

 不思議な感覚…ですらない。

 このような状況が二度いや三度目の気がする。

 そんな感傷に浸っていると、目の前から白い煙の尾を引いた物体が飛んで来た。

 あの生意気なコンピューターから聞いたミサイルだ。

 零戦は各々ミサイルから回避行動を取るが、その行動虚しく次々と餌食になった。

 何とか生き残った零戦隊にはまだまだ壁が立ちはだかる。

 続けて空母の艦載機が襲来して来たのだ。

 ジェット戦闘機エイネアンダレット。

 スペックはゴリゴリの戦闘用だそうで13mm単装機銃四基、19mm単装機銃二基の武装である。

 外見は1945年ほどのジェット戦闘機だ。


 武装は貧弱なものの、速度が零戦とは桁違いであり、翻弄される。

 しかし、この戦闘機群が来た時には三石が乗る零戦はすでにいなかった。


 二式大艇はエイネアンダレットと零戦が入り乱れる戦場を堂々と横切っていた。

 自動化された機銃は常に火を噴き、二式大艇に一機も近寄らせまいと各々奮闘する。

 操縦席から見える景色は空の地獄で黒煙を上げながら零戦が次々と海面に向かって落ちていく。

 この零戦達はあくまで二式大艇を死守しろという命令が出されていた。

 そう言った意味では命令を忠実にこなしている。


 緑色の機体に傷跡一つつけないまま二式大艇は空母に急接近していた。

 これには空母の対空火器が火を噴く。

 その中でも、高角砲は強かった。

 時代に似合わないとかつて批判された砲が役に立ったのだ。

 二式大艇の右翼は根こそぎ吹き飛ばされ、瞬く間に制御を失う。


 「坂井さんもっと操縦桿を上げて!!」

 ガルムはとてもさっきまで遠慮気味だったのが嘘のように必死に声を上げる。

 「これがめいいっぱいであります…」

 坂井は顔が真赤になるほど操縦桿を引く。

 腕からは血管が浮き出て必死さがよく伝わる。

 ドドドドドド!!

 ついに機関砲の射程に入り、機体を次々と銃弾が貫通する。

 更に機体は言う事を聞かなくなり、操縦桿は重くなる一方だ。

 ガルム達は気付いていないが、機内に増設されていた重油タンクに数発の弾が当たり、中からたんまりと重油が零れ出ていた。

 もしここに引火すれば二式大艇はすぐに爆散する。そんな状態だった。


 そんな時にタイミングよく三石の乗る零戦が海面スレスレを飛行しながら現れた。

 零戦は段々と機首を上げて、両翼の下に装備された60kg爆弾を高角砲や機関砲群に落とす。

 これでやっと対空砲火は一時の収まりを見せた。

 爆弾を落とし終えた零戦はそのまま空母の周りを旋回し、自身が対空砲火の囮となった。


 まさに今が飛行甲板に着陸する最大のチャンスだ。

 二式大艇は右翼を失った状態ながらも機体から黒煙を上げて空母の真後ろにやっとつく。

 ここまでが第一や第二の関門。ならば第三の関門は何か。

 着陸だ。

 この大型水上機にはタイヤが無い。つまり、胴体着陸しか元々無い。

 坂井はギリギリまで着陸の衝撃や反動を減らすべく操縦桿を引いたり戻したりを繰り返す。

 「大工のバイト舐めんなよ!!」

 ボキ。ブチュブチュブチュブチュ!!

 操縦桿は、唐突に抜けた。

 ガルムと坂井はこの全く予想出来ない事に目を点にして抜けた操縦桿を見つめる。

 こうしている間にも空母との距離は縮まるが、彼らは固まったように動かない。

ーーー操縦桿、そしてその操縦桿から垂れ下がるコードは真っ黒でベトベト…臭い的に重油じゃね?

 坂井はおよそ数秒の内に頭の中でそう考え、周りの状況が全く分からないままガルムを抱え、外に出る。

 天井は機関砲の攻撃でダメージが入っていたため簡単にぶち破る事が出来た。


 もう後は自分の足を信じるしか無い。

 坂井はおよそ数メートルの助走をつけて二式大艇の鼻先から飛んだ。

 同時に操縦桿についていた重油が引火し、操縦席が爆発する。

 その爆風も相まって坂井は何とかガルムを抱えながら飛行甲板に降り立った。

 「早く行きますよ!」

 ガルムはすぐに立ち上がって坂井の腕を引っ張る。

 立つ。立つから引っ張らないで欲しい。そう思いながらも引っ張られるがままに立つが、バタンと倒れてしまう。

 「足首、やったかもしれない…」

 坂井はか細く震えた声で言った。

 「えっ、」

 ガルムも驚いたように身体を硬直させる。

 その直後、ドパンと上空で爆発音が鳴り響く。

 三石の零戦が被弾したのだ。

 真っ白な零戦は黒煙を上げて青空の中に飲み込まれて行った。


 三石の零戦はもう修理不可能だった。

 「ふざけんな…」

 三石は必死に操縦桿を命の手綱のように握るが、機内にも関わらず操縦席の周りは火の海である。

 目の前の電子機器も現在地や高度を示さずに火花を散らす。

ーーー不時着か。

 左右を見ようとするも黒煙で遮られ、前しか見えない。

 しかし、前もエンジンから黒煙が上がりうっすらとしか見えない。

 それでも、海の上に苔のような塊があるのが見えた。

 島だ。


 三石は少しずつ零戦の高度を下げる。

 今すぐにでもこんなコックピットから脱出したいが、海にサメがいた場合、取り返しがつかない。

 だからと言って空中で爆散されても困るが。

 一応、島にここに着陸して下さいと言わんばかりの直線の石造りの大通りがある。

 周辺には雑草が生い茂っているだけでこれと言って高い物体は存在していない。

 「まだ持てよ…」

 心頭滅却をすれば何とやらと言うが、三石は耐えられ無かった。

 最後は一気に速度を落とし、着陸した。

 何度も身体に着陸の衝撃が伝わるが、いちいちそんな事に構ってはいられない。

 強引にコックピットをこじ開けると、三石はすぐに零戦から飛び出した。

 空中でクルリと一回転してからヒラリと地面に着地する。

 一方、零戦は三石が出てからしばらく進んだ所で爆発した。

 「さて、どうしましょうかね」

 三石は少し焦げた服をはたきながら独り言を溢した。

 一応、刀は持っている。

 生き残ろうとさえ思えば生き残れる。ただ、坂井達が心配だった。

ーーー高い所はどこかな?

 そう思って周りを見渡すと、山があった。

 三石は何とも言えない気持ちになって山へと向かって駆け出した。


 しばらく走っていると、森の中に入った。

 森は昼間にも関わらず今にもお化けが出そうなほど暗い。

 気を抜けば倒木に足を取られて転倒した。

 それでも休む間もなく足を動かす。


 どれほど走ったのだろうか。

 気が付けば一段また一段と隙間から雑草の生えた石の階段を登っていた。

 何をしているのだろうと考えようとすると、頭にモヤがかかったような感じになる。

 ここまで来た道もよく覚えていない。

 ただ、身体がとても軽い。今なら空も飛べそうだ。


 階段を登りきると、目の前には赤い鳥居とその鳥居の先に賽銭箱があった。

ーーー神社…か。

 本殿は見えないが、本能的にそう思える場所だった。

 「おっと、今年初の外部のお客様かな」

 どこから現れたのか、目の前に異質な空気を漂わせる青年男性が杖をつきながら立っていた。

 長い間切っていないであろう髪は風に吹かれるとマントのようにひらひらと広がる。

 「言葉は、話せそうですか?私は豊刀根という天才彫刻家です。あなたは?」

 「三石。陸軍飛行部隊所属。少尉だ」

 「なるほど。少尉ですか。ですが私の親友は元海軍大将山汐ですので遠く及びませんね」

 「…そうですか」

 これまで舌がよく回る人はたくさん見てきたが、この人はそれまでの人達を凌駕するほどに話すのが速い。

 「ところで、何をしにここへ?」

 「零…」

 零戦で不時着しました、なんて言って果たしてこの人に通じるのだろうか。

 そもそも「零戦って何ですか」何て聞かれたら答えられない。

 ウーンと唸りながら無理矢理解答を引き伸ばしつつ理由を考える。

 かれこれ数分が経過すると、三石ではなく、豊刀根が「そうか!!」と叫んだ。

 「君、異世界の人か!」

 三石は少しビクッと両肩を上げた。

 その反応を見ると豊刀根は確信したかのように一人頷く。

 「なるほどなるほど。異世界のか。そりゃ格好が変だし、何より」

 豊刀根は三石の顔を好奇心に溢れた目で見つめる。

 「これは、私も仕事をせねば。君にはアレが見えるか?」

 豊刀根がそう言って見た先には賽銭箱がポツンとあるだけだった。

 その後ろは森なので間違え無くこの賽銭箱である。

 「賽銭箱?」

 「それだけか?」

 「森?」

 「なるほど。本当に賽銭箱だけか。私には賽銭箱の更に奥に立派な本殿が見えるのだか、君には見えないのか?」

 三石は沈黙した。

 賽銭箱の後ろには何も見えない。ただ森があるだけだ。

 「…この神社は人間だけが見ることが出来る。あの方の話だと、異世界から来た人の中には外見は変わらないが脳の作りが変化して魔物もしくは魔族に近い考え方をするようになるパターンがあるんだ。どうやら君はそれになってしまったようだね」

 「え?」

 「お困りのようだね。そんな君に知恵を授けてやろう。賽銭箱が見えるのならばまだセーフだ。お金を入れてくれば?」

 話が上手く飲み込めない三石は何とも思わずに言われるがままにフラリと歩き出してポケットに入れていたお金を賽銭箱に入れる。

 チャリン。

 賽銭箱から金が金の上に落ちる音が響いた。

 「何が見える?」

 豊刀根はニコニコした顔で言う。

 賽銭箱から顔を上げると、さっきまでは無かった神社がドンと立っていた。

 「神社が、見える」

 「よし。これで大丈夫だな。あと、コレを飲んでおけ」

 そう言って差し出されたのは白と黄色の細長い薬だった。

 三石はなんの躊躇も無くその薬を受け取り、飲み込む。

 「ゲホゲホ」

 咳がとめどなく出る。

 豊刀根はそんな三石の背中を優しくさすりながら「これでこの世界でも自我を保てる。安心しなさい」と言った。

 「そして一刻も早くこの島から去りなさい」

 突然背筋を凍らせるような鋭い口調だった。

 「ここから北に行けば泊地がある。そこの船を使って脱出しな」

 それだけ言い残して豊刀根は赤い鳥居をくぐり、三石の薄れゆく視界から姿を消した。


 しばらくは咳が止まらないだろうと覚悟はしていたが、咳と一緒に忘れていた記憶やなぜ気が付かなかったのか、という事がとめどなく頭に流れる。

 そのせいで頭が割れそうなほど痛く、ダンゴムシのようにうずくまる。

 それでも、坂井達を助けに行かねばならない。

 全身が震えるが、武者震いだと思い、ゆっくりと立ち上がる。

 「北にある泊地に行けば…」

 三石はゆっくりと身体を引きずるようにして神社を後にした。


 しばらくして、泊地の目の前に着いた。

 あくまで目の前に、いや、真上に着いただけだ。肝心な泊地は三石の眼下に広がっている。

 泊地は三石の立っている崖の下に存在していた。

 上から見ているため泊地の様子が手に取るように分かる。

 確かに船や艇が桟橋に括り付けられていた。

 だが、下に降りるのが面倒である。

 下に降りるためには土砂崩れが起きて出来た急なゴツゴツとした坂道を下らなければならない。

ーーーコイツは、骨が折れるな。

 そう思いながらも三石は坂道に足を出した。

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