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ワ国中核研究所事件(前編)

 アサガオのレアメタル作戦失敗と自艦が拿捕される報告をユアルトスは座礁後に中核研究所に送った。

 だが、この報告を聞いたのは決してワ国中核研究所のみでは無かった。

 ワ国大本営も傍受していたのだ。

 この報告を傍受すると大本営はすぐに中核研究所総攻撃を特別任務遂行隊に命じる。


 翌日、各地で任務が無く、暇を持て余していた特別任務遂行隊や諜報員(エージェント)、一個通常中隊が狭い山道を通りながら中核研究所に集結する。

 諜報員の中にはフリーから始まる者もいた。

 フリー85x、だが、今はフリー六だ。

 フリー六は第二特別任務遂行大隊と共に兵員輸送車に乗り、中核研究所へと向かう。


 軍用車一台がギリギリ通れる狭い山道をフリー六が乗る兵員輸送車はグイグイと進む。

 道の右側にはまだ日が昇ったばかりでまだまだ暗い森が広がっていた。

 兵員輸送車の中は糸が張り切ったような緊張感が漂い、息が詰まっているような感じだった。

 だが、その緊張は一人の笑い声で薄氷のように簡単に割れた。

 「アハハハハ」

 車内の全員の視線は一斉に笑い声を上げた第二特別任務遂行大隊三班班長へと向く。

 「着いたな」

 三班班長がそう言った直後、窓の外の景色が薄暗い森から昇る朝日に照らされた草原に変わった。

 兵員輸送車はしばらく草原を進むと、急に停止する。

 そして、輸送車の扉が開けられた。

 隊員達は次々に列に見えなくもない列を作って順に降りる。

 フリー六もその列に流されるように車外へと出た。

 車外へ出ると、すぐに足を走らせる。

 後ろの人が出やすくするためだ。

 外は中核研究所を囲むようにテントや簡易的な砲台、前に行けば行くほど有刺鉄線と土嚢が積まれている。

 特別任務遂行隊の面々は皆、絵に描いたような防毒マスクを着けていて、顔は見えない。

 もちろんフリー六もマスクはつけている。

 フリー六はどんどん中核研究所へと近付く。

 その途中のテントでこの作戦のおえらいさんが話しているのが聞こえた。

 「第二特別任務遂行大隊ただいま到着しました」

 「第十三特別任務遂行大隊先ほど到着」

 「分かった。それでは現時刻を持って第四波作戦を開始する」

ーーー最後の声…。

 フリー六は最後の声に聞き覚えがあった。

 あの声はモダだろう。あの中世の騎士を彷彿とさせるような格好を着た金持ちの息子だ。

 聞く所によると彼は降格処分を食らったと聞いたが。

 しかし、そうするといつもガチャガチャ鳴っていたあの鎧の音が無い。

ーーー俺には関係の無い事だ。

 フリー六は振り返らずに最新鋭歩兵銃を持って研究所の前のガラス扉に集まる。

 「我々より十分前に第三波部隊が突入している。現状、地上の建物は完全に制圧している。後は地下だ」

 第二特別任務遂行大隊隊長がそう叫び終わると、隊は事前に打ち合わせした通りに扉を開けて中に入る。

 中は明かりがついており、昼間のように明るい。

 ただ、その明かり目掛けて大量の虫が集まっていた。

 「全くここは本当に研究所か?こんなに虫がいてよ。衛生環境フィニッシュしてるんじゃねか?」

 誰かがそうボヤいた。


 第二特別任務遂行大隊は即座に班ごとに別れて一つしか無い地下への階段に殺到する。

 フリー六は臨時でこの大隊の四班に所属していた。

 その四班は最後尾である。

 この迷路のような地下を各班は迅速に移動している、だろう。

 「いいか。一応確認しておくが、我々は第四波だ。我々よりも前に他の部隊も展開している。今作戦の目的はアサガオ博士から()()()()()()()()()()()()を奪還する事だ。武器は各自の判断で使用。分かった」

 「「了解!!」」

 班長の声の後に班員の声が轟く。

 フリー六は何となくこの雰囲気に付いていけそうに無い気がした。

 だが、いざ行動を開始すると、彼らは小声でコソコソと喋り始めた。

 「フリー六さんですね」

 班員の一人がフリー六に話し掛ける。

 最初は無視しようかと思ったが、最近まともに人と喋っていなかったせいか、無性に話したくなり、マスクの中で口をモゴモゴさせる。

 痩せ我慢だ。

 「?」

 相手の顔はマスクがあって見えないが、恐らく無邪気にニコニコしたままなのだろう。

 「…こんにちは」

 マスクがあるせいとは言え、蚊の羽音くらいの声しか出なかった。

 それでも、その人には通じたようで「朝だけどこんにちは」と返してくれた。

 ずっと諜報員を孤独でやっていたとは言え、人と話すのは純粋に楽しい。


 しばらく班はとても地下とは思えないほど明るい廊下を進んだ。

 ここまで道中の部屋という部屋を探し回ったが、ここの研究員とは一人も会わず、他の班や隊と会っただけだ。

 まさに「アサガオはここにはいない」と諦めかけたその時、班の無線に途切れ途切れの通信が入った。

 「コチラ、地下二階を探索中の第八特別任務遂行中隊二班。敵対的存在と接触、この通信を聞いている班は応援を求む…!!」

 とても無線の感度が悪く、余り聞き取れなかったが、こんな事を言っていた。

 四班はお互い顔を見合わせる。

 全員同じマスクを被っていて表情は見えない。

 だが、考えている事は同じだろう。

 全員はすぐに武器が使えるかを確認した。

 フリー六の新型歩兵銃や拳銃はきちんと使える。いざという時のナイフもある。

 武器の最終確認が終わると全員はコクリと頷いて地下二階に降りた。

 この研究所の()()()の最下層地下二階は地下一階と同じくらい静かであった。

 しかし、万が一に備えて歩兵銃の引き金に指を掛けて移動する。

ーーー不気味な明るさだ。

 フリー六はチラッと天井を見る。

 天井にぶら下がっている明かりには地上とは比にならないほどの虫が集まっていた。

 その量は丸い電球の明かりをかなり遮る量である。

 フリー六が明かりに群がっている虫を見ていると、班長は「どこかに虫の巣でもあるのだろうよ」と素っ気無く言った。

ーーー地下に羽根が付いている虫の巣があるのだろうか?

 フリー六はそんな疑問を抱いたが、ハチが家の壁や屋根、地中の中に住んでいるとは聞いた事がある。

…虫の知識は化学並みに乏しいが。

 

 「無線が、完全に通じなくなりました」

 無線担当がそう言った。

 地下二階に来ておよそ一時間が経過した。

 地下二階を一周しかけているが、銃声の音はおろか特別任務遂行隊の人の足音すら聞こえなくなった。

 そこに無線が突如として砂嵐の音しか叫ばなくなった。

 「一旦地上に帰投しますか?」

 一人の班員が心配そこに言う。

 しかし、班長は首を横に振って「まだ探索するぞ」と強気の口調で言った。

 チャリンチャリンチャリンチャリンチャリンチャリン。

 鈴の音がどこからか突然廊下に響く。

 全員は一斉に銃を音のする廊下に構える。

 チャリンチャリンチャリンチャリン。

 音はだんだんと近付く。

 チャリンチャリン。

 廊下の先に一人の人影が見えた。

 その人影はやけに高身長で、痩せている。

 ペタペタと枝のように細い足で廊下を進む。その様子がどことなく恐怖を感じた。

 「構わん。目標を敵と認識、総員撃て!!」

 班長は突然焦った口調で叫ぶ。

 次の瞬間、目の前は白い霧に覆われた。

 「みんな何処だ!?」

 班員の一人が混乱して少し前も見えない中右往左往する。

 そしてそれに釣られて他の班員も次々と構えを崩す。

 陣形は、崩壊した。

 フリー六は最後まで煙の中から見える人影に狙いを定めていたが、煙の中を班員が忙しなく歩き回っており膝を地に着けた構えのフリー六は常に蹴られ標準が定まらない。

ーーーコレは流石に厳しいか。

 そう思い構えを崩す。

 すると、すぐ隣でバチバチバチッと電流が流れるような音がした。

 フリー六はすぐに隣を見るも、そこには意識を失って倒れている班員がいるだけだった。

 煙の中何度もバチバチバチッと電流が流れる音が鳴り響く。

 多分だが、あの細身の女性がやっているのだろう。

 右も左も見えない煙の中、フリー六は気絶している班員二人を連れて移動する。


 煙はどこまで歩いてもなかなか消えない。

 二人を引っ張って歩いているが、そろそろ体力が厳しいものがある。

 チャリンチャリンチャリンチャリン。

 またあの鈴の音がする。

 そして、明らかにこちらに近づいて来ている。

 チャリンチャリン。

 フリー六は二人を左右に置いて歩兵銃を構える。

 煙の中をゆらゆらと動くあの細い人影、アレがあの女性だ。

 問答無用で、引き金を、引いた。

 軽い力で銃口は火を噴き続ける。

 新型の歩兵銃は機関銃並みの圧倒的速射性の代わりに口径がダウン。攻撃力が下がっていた。

 人影が倒れるまで歩兵銃は火を噴く。

 フリー六が指を離すまで火を噴く。


 まるまる一弾倉を使い切った頃に人影は地面に倒れた。

 フリー六は気を抜かずに弾倉を交換して銃口を向けたまま倒れている女性に近付く。

 「馬鹿な!!」

 女性を一目見るなり、フリー六は二人の班員を抱えてその場を走って離れる。

 フリー六が離れてしばらくした後、女性はまたゆっくりと立ち上った。

 そして、“傷一つ無い肌”を優しく撫でた。


 「どういう事だ!」

 フリー六はそうボヤきながら二人を抱えて廊下を走る。

 気が付けばあの煙は消えていた。

ーーーなぜ、あんなに弾を撃ち込んだのに奴は無傷何だ。ゾンビですら怪我してくれるぞ!

 チャリンチャリンチャリンチャリン。

 チャリンチャリン。

 チャリンチャリンチャリン。

 廊下の四方八方から鈴の音が響く。

 フリー六はとても一人で全員を相手に出来る自信が無く近くの部屋に二人を連れて入る。

 だが、この判断はすぐに間違えだった事を実感した。

 部屋はさっき入ったこの扉一つしか出入り口が無い。しかも書類が山積みの長机が一つとそれに付属する椅子が一脚しか無い。

 チャリンチャリンチャリン。

 あの鈴の音はだんだんと近付く。

 二人を部屋の一番奥に寝かせて銃に弾を入れる。

 そして、扉にその銃口を合わせた。


 キイッ


 扉は、開いた。

 フリー六はすぐに引き金を引く。

 一体を倒すのに弾倉一個。弾切れを起こしたらすぐに弾倉を変える。

 これで何とかなる、とは行かず、敵は三体、さっき倒した奴と全く同じ姿の奴がどんどん部屋に入って来る。

 もうすでに部屋に一体が入った。

 その一体が倒れると、また一体が入る。

 そして入って来たその一体を倒すと、最後の一体が入って来る。

 それと同時に最初に倒した一体がムクリと立ち上がった。

 敵はだんだんと近づいているのだ。

ーーーまた弾切れだ。次!

 そう思って手を腰のベルトに伸ばす。

 いつもならこれで弾倉を手にとってすぐに交換出来る。

 しかし、今回は違った。

 手は空中を撫でて弾倉にはかすりもしない。

 これには流石のフリー六も驚いたようで思わず視線を腰に移す。

 そこには弾倉は無く、手榴弾一本しか無かった。

 とりあえずナイフを取り出してまた敵の方を向く。

 だが、もう敵は目の前にいた。

 敵の振りかぶった右手にはバチバチと音を出すスタンガンが握られていた。


 諦め。


 高校生だった頃の辛い記憶が予期せず一瞬頭をよぎった。

ーーー三十年前にこの異世界に来て、また一からやり直せると思ったんだ。

 フリー六のナイフは銃弾のような速さで敵のほっぺに突き当てる。

 もちもちのほっぺのような外見だが、刃が全く通らない。まるで鉄の塊にナイフを突き立てているようだ。

ーーー刺さらねぇ…!

 そう思ったのと同時にスタンガンがフリー六の肩に突き刺さる。

 瞬く間に全身に電流が周り視野が暗くなり、手に力が入らなくなる。

 「謝って…も、意味…ない…か…」

 薄れていく意識の最中、口からそう溢れた。

 社会人も学生も、ミスが許されないノーミス前提社会。

 誰も目を瞑ってくれない。

 フリー六の頭に最後によぎったのは高校の担任の顔だった。


 もし、時間を戻せたら。

 もし、あの場に居なければ。

 もし、あの高校に居なければ。


 異世界に来た今でもこんな事を考えなかった日は一日も無い。


 もし、あの事をやらなければ。


 他の人のために行動しました。

 「それが言い訳になると思っているのかい?」

 他の人には優しくしないとです。

 「世の中弱肉強食。そして資本主義。自分のためになる事をしなさい」



 「お前は何がしたいんだ?」

 この異世界に最初に来た時に“方”という人に“さとうきび”というふざけた名前の場所で言われた。

 「はい?…公務員…になりたかったです」

 「…そんな事は一言も聞いてないし、どうでもいい。お前がこの異世界で何やりたいか聞いてんだ」

 彼の口調は少し苛ついているようだった。

 それに対して俺はおどおどとした回答をしている。

 「何が、やりたいか…?」

 「お前の話を聞いてるとどうやら高校の頃に目立ちたくてやっちまったんだろ?だけどここはそんな事は全く知らないし、知ったこっちゃない。だからこそ、ここで、何がやりたいか聞いてんだ」

 

 気を失いかけたほぼ直前だった。

ーーーこれが、走馬灯ってヤツだったら嫌だな…。

 目を閉じた。いや、反射的に閉じた。

 「フリー!!」

 ガガガガガガガガガッ。

 ほぼ気絶していたところに、スタンガンの音とは違う音が響いた。

 フリー六はなかなか開こうとしなさい目を一生懸命に開けようとする。

 耳には機銃の音と誰かの呼び声が響く。

 やっとの思いで開けた。

 そこにはさっきまで気絶していた二人が歩兵銃片手にあの敵、三体を相手にしている景色があった。

 「何で倒れないんだ!!」

 「倒しても起き上がる!」

 フリー六はヨロヨロと立ち上がり、拳銃を取り出す。

 これが弾がある最後の銃だ。

 パンパンと機銃に比べれば速射性は劣るが、口径は大きい。

 「起きたか六!!」

 「朝の寝ぼけた状態だけどな!」

 これで三人。

 人数は敵と同じだが、相手は倒しても倒してもゾンビ以上のしつこさで起き上がる。

 弾にも限りがある。

 だからと言って強行突破しようものならスタンガンで失神だ。

ーーー援軍が来るまで持ち堪えないといけない。

 そう考えていたところにここはとはまた別の機銃音が鳴る。

 「誰かいるのか!!」

 瞬く間にこの部屋に特別任務遂行隊の服装をした人達が突入し、敵を一掃した。

 フリー六達があまりの手際の良さに呆気を取られてその場に呆然と立ち尽くす。

 「コッチだコッチ、早く来い!!」

 その叫び声に我に返って三人は後について行く。


 しばらく走った所で突き当たりの廊下の部屋から「コッチだ!」と扉から手を出す人がいた。

 先行していた人達はドンドンその部屋に入る。

 フリー六達も迷い無く入った。

 その部屋には特別任務遂行隊の地下二階にいた班の人達がいた。

 その中には四班の班長もいる。

 「班長!!」

 二人はすぐに班長に近寄る。

 「班長他の人は?」

 「…」

 班長はマスク越しでも彼らと目を合わせない。

 それが全てを物語っていた。

 「君達、人数は集まった!!」

 長机の上に立っている第一特別任務遂行小隊一班班長が叫んだ。

 全員の視線は一斉にその人へ向く。

 「これより、アサガオ博士を捕まえに行く。目標は地下三階にいる!!行くぞ!!」

 「おお!!!!」

 彼らはぞろぞろと扉から出る。

 それからすぐに機銃音が扉から漏れる。

 恐らくあの三体を倒しているのだろうか。

 いや、それにしてはやけに鈴の音が多い。

 中にまだ残っている人達はそれに気付いて誰一人外に出ようとしなくなった。

 仕方無くフリー六は扉をゆっくりと開いてその隙間から外を見る。

 そしてサッと閉めた。

 後ろを振り返ると不安そうな態度でフリー六を見つめる彼らがいた。

 「他に出口はないか?」

 フリー六がそう聞くと、すぐに誰かが「コッチにあるぞ」と叫んだ。

 フリー六達は何も言わずにすぐにそこから部屋を出る。機銃音が止む前に。

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