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レアメタル作戦(後編)

 レーザー砲発射直前。サトウキビ次元加速域。戦艦比叡艦橋。

 フローズンとガルムは艦橋でうずくまるしか無かった。

 この次元加速域の場所がバレるのも時間の問題。

 すると、フローズンはスッと立ち上がり、小鹿のように震えるガルムの肩をポンポンと叩く。

 「生きていれば勝ち」

 そう耳元で囁くと、銃を片手に戦艦比叡を下りた。

 ガルムは彼女を止めようと手を伸ばしたが、いつもと雰囲気が全く違い、手を引っ込めてしまった。


 フローズンは次元加速域を飛び出ると、廊下を導かれているかのように進む。

 廊下は相変わらず暗いままだが、不思議と恐怖は感じない。

 フローズンの足は廊下の先の鋼鉄の扉の前で止まった。

 「ここだったか」

 フローズンが扉を開けようと手をかけたその時、あの、レーザー砲が、放たれた。

 爆心地はフローズンの後方であり、背後からマグマそのもののような熱風が襲いかかる。

ーーー熱い…!!

 鋼鉄の扉をすぐに開け、スルッとその中に入る。

 廊下の天井は蒸発し、両側の廊下と廊下の壁も融解した。


 「やったぞ!!」

 サトウキビの外では大歓声が上がっていた。

 「隊長、実験は成功ですね!!」

 「そうだな。だが、実戦に持って行くにはまだまだ改良が必要不可欠だな」

 隊長の目線の先には、甲板の至る場所から火を噴き上げる試験艦竹がいた。

 もはや沈没までもう少しのような姿である。


 先ほどまで電力供給をしていた二隻の巡洋艦は試験艦竹の両側にくっつき、燃え上がる甲板に放水する。

 「いいな。試験艦竹は絶対に沈めるなよ。試製自立浮上装置も一回切りの物だからな」

 巡洋艦の艦長は何度もそう叫んだ。

 他にも、周辺を警戒していた三隻の巡洋艦と水雷艇四隻も試験艦竹の消火に協力する。

 だが、火は収まる気配も無い。

 艦上の構造物はことごとく燃え落ち、煙突だけがただ一本残る。


 一方、サトウキビは爆発後の土煙で全体がスッポリと覆い隠されていた。

 その土煙は時間が立つにつれて、だんだんと明瞭になっていく。

 「あっ、隊長!!」

 特別任務遂行大隊隊員の一人がサトウキビのえぐれた部分を見ながら叫ぶ。

 隊長は即座に反応して身を乗り出す勢いで隊員が指差す場所を睨む。

 声こそは出さなかったが、隊長はひどく動揺した。

 そこには400mほどの長方形の鉄の箱のような()()があった。

 「航空母艦ですか?」

 隊員が震えた声で言う。

 そう言われると、そう見えなくも無い。

 しかし、彼らには、

ーーーあんな400mほどの船を建造出来るのか?

  という先入観が存在していた。

 なんせ、彼らが知る巨艦と言えば超竹級戦艦や大日帝国の川内型戦艦、空母加古ぐらいだ。それでも、全長は190mより下である。

 こう考えると空母や艦には見えなくなる。

 その考えに拍車をかけるように、その()()の外見がとてもツルツルであり、芸術的建築物に見えた。 

 隊長はその建築物に見惚れたかのようにずっとその建物を見つめる。 

 すると、建築物の平たい屋上から一機の鳥がふわりと緩やかに飛び立つ。

 その鳥はコオオオオと低い唸り声を上げながら隊員達の頭上を通過した。

ーーー何だ?

 隊員達はそんな事を考えていた。

 一瞬だけだ。

 通過したと同時に嵐が一瞬で通り過ぎたのかと思うほどの風が部隊を襲う。

 巨大だった四角形の機械はおもちゃのようにコロコロと地面を転がり、見るも無残なガラクタの塊へと成り果てた。

 隊員達は特殊部隊なだけあり、その場でかがみ込んで強風を凌いだ。

 一機の爆撃機は部隊のすぐ頭上を通過すると、スルリと機首を上に上げ、雲一つ無い空に影を作った。

 一定の高度まで上がると、そのまま試験艦竹の消火をする巡洋艦群の上空へと移動する。


 巡洋艦群はしっかりと上空を飛ぶ機体を認識していた。

 「艦隊、消火活動を一時休止せよ。全艦、対空戦闘!!」

 瞬く間に青い空に黒い煙幕が立ち込める。

 だが、巡洋艦に搭載されていた対空兵器は対気球用であり、小さなあの爆撃機に当てるのは至難の業であった。


 爆撃機は艦隊からの対空迎撃に全く怯える素振りを見せない。

 爆撃機の外見は片翼に四個、計八個の爆弾を搭載した冷戦期のジェット爆撃機であった。


 艦隊のちょうど中央上空辺りに到達すると、機体はクルリと反転、機首を真下に向けて急降下する。

 「撃て撃て撃て!!」

 各巡洋艦の乗組員達は焦って機銃も総動員するが、7mm機銃では到底歯が立たなかった。

 こうして爆撃機から二発の爆弾が投下された。

 爆撃機が落とした爆弾の一発は巡洋艦に直撃し、中破、もう一発は海面に虚しく水柱をつくる。

 爆弾を投下し終えると再び機首を上げて空に溶け込む。


 艦隊の対空は完全に混乱し、やたらめったらになっていた。

 巡洋艦はなかなか上がらないスピードにイライラを覚え、水雷艇や駆逐艦はその快速力を生かしてヘビのようにクネクネと動く。

 そうこうしている間にまたあの爆撃機が直上から迫る。

 今度は残った爆弾六発全てを投下してきた。

 爆撃機は爆弾と分離するとすぐに機首の向きを180°変えて空に舞う。


 六発の内二発は水柱を立てた。

 だが、残り四発は全てそれぞれの巡洋艦に命中した。

 結論から言って、艦隊は巡洋艦二隻大破、一隻中破の被害を被った。

 気が付けば爆撃機は空から姿を消し、周辺にはまた穏やかな海と燃える勢いが落ちた試験艦竹が残る。

ーーー負けた。

 乗組員達の脳裏にはその考えが横切った。

 特別任務遂行大隊と艦隊の視線の先には巨大な建築物、空母が陸上でずっしりと佇んでいる光景であった。

 「何をやっている。主砲全門撃て!!」

 無傷の巡洋艦ユアルトス艦長が叫ぶ。

 巡洋艦ユアルトスは元ワ国海軍所属、広丙級巡洋艦の発展型チャオキリ級六番艦である。

 艦の外見は広丙級とにているが、武装も違えば全長、排水量も違うと言った感じだ。

 艦長の言う主砲は広丙級では15cm砲のあった場所と副砲の12cm砲があった場所にある18cm砲の事である。

 この口径が統一された主砲は実に良かった。

 ユアルトスは艦の側面を巨大空母に向けて主砲を各々放つ。

 だが、空母がそもそも高い場所に鎮座している事、18cm砲の仰角があんまり無い事が合わさり、空母の手前に次々と落下する。

 つまり、空母の前に無駄な土煙を立て続けているのだ。

 「何てこった!」

 艦長はそれしか叫ばなかった。


 しばらく理論上決して当たらない弾を撃ち続けていると、ユアルトスの艦尾スレスレに水柱が立った。

 「何だ!?」

 艦長はそう言って艦尾を双眼鏡で見る。

 そこにはチャオキリ級、ユアルトスの前級、広丙型巡洋艦広丁が水しぶきを上げながら全速力で迫っているのが見えた。


 広丁は主砲も副砲もとにかく装填で来たら撃つをしながら突っ込んで行く。

 「ラ国の領土に何をやっとるんじゃ!!」

 艦長はとにかく全速力前進を命じる。

 広丁の後ろには遅れながらも必死について来る駆逐艦達もいた。


 ワ国艦隊の周りには次々と水柱が立柱する。

 これには思わず「装填速度が速すぎる!!」と艦長達は叫ぶ。

 その通りであった。

 広丙型にはワ国が開発した印沼級戦艦用新設計速射砲が装備されていた。

 これは旧式化した印沼級戦艦を砲の速射性を改善し、再度第一線クラスにしようと開発された物だ。

 この砲は印沼級戦艦とほぼ同時代だった広丙型にも活用可能であり、即採用が決定した。

 しかも、砲を少し弄るだけという小規模改装であった為、弾庫を減らすだけで数日で完了した。


 続々と降り注ぐ砲弾の雨にユアルトス始めとする艦隊は次々に被弾する。

 すでに水雷艇二隻が爆沈した。

 「全艦、試験艦竹を曳航し、海域を離脱せよ!」

 ユアルトス艦長は無線機にそう叫んだ。

 そして、舷側を空母から広丁に向ける。

 これで、ユアルトスは広丁やそれに随伴する駆逐艦に対して丁字の形になろうとした。

 だが、広丁も回頭し、ユアルトスに舷側を向ける。

 こうして同航戦の形が出来上がった。

 お互いに大砲は不規則に火を噴く。

 視界は爆煙で遮られ、当たっているかも分からない。

 ここで広丁の速射が命中率を上げていた。

 一発撃てばしばらく時間がかかる18cm砲より広丁の従来の半分ほどの時間で発射する15cm砲や12cm砲が当たる当たる。

 ユアルトスはどんどん舷側に穴が空き、火が上がる。

 一方の広丁はほぼ無傷に近かった。

 それでも、ユアルトスは任務を果たしたと言えるであろう。

 試験艦竹や艦隊は海域を離脱、十劉湾へと向かう。

 艦隊が離脱した後も、広丁やラ国駆逐艦から集中砲火、タコ殴りを受け奮戦虚しく大破。

 近くの陸地に乗り上げて降伏した。


 「全く何が起きているのでしょうね」

 広丁の航海長が広丁艦長に呟く。

 艦長は首を横に振って嫌そうなしかめっ面をする。

 「だんだんと、世界が変になっていくような気がするな。方大臣は謎の失踪、目の前にある超大型。…嫌だな」

 「そうですね…」

 その後、捕虜となったユアルトス艦長は今回の一部始終を包み隠さず、全て正直に広丁艦長に話した。

 広丁艦長はユアルトス艦長から聞いた内容を全てトン提督に無線で報告した。


 トンは広丁艦長からの報告を広丙の会議室で苦い顔で聞いていた。

 「…なるほど。分かった。広丁と随伴の駆逐艦はその場を警戒。陸にいるであろう特別任務遂行大隊は陸上防衛隊に支援を要請しておくから心配するな」

 トンは一通り言い終わると無線機を下ろす。

 そして深いため息を漏らした。

ーーー方大臣は行方不明。だが、彼の親戚と思われる子供二名を保護か。

 暗い嫌な重い鉛のような物が心に絡み付いて離れない。

 彼、いや、方大臣。

 ラ国にとって失った物は艦艇よりも国庫よりも何よりも大きい。

 しかし、彼が残した、京が一の手紙。

 これがトンの心境を誰よりも複雑なものにしていた。

 「あなたはコレを私に読ませて、何の得があるんですか…。私達が」

 そう言って会議室にある長机の隠し引き出しから一枚の白い紙を取り出す。

 その紙には文字が手紙のように連なっていたが、そこの一番最初に、「京が一俺に何かがあり、この手紙を誰かが見つけたら、この手紙をトン提督に渡して欲しい。それ以外は決して見るな」と濃く書かれていた。

 トンは一から読み、そしてまた長机の隠し引き出しにしまう。

 何度読んでも内容は直筆で書かれている限り変わらない。

 トンは一人、この国の国民について苦悩するほか無くなった。

 方がまた戻って来るまで。


 だが、方は戻って来るのか?

 戻って来たとしても、それは今までの方なのだろうか?

 昨日の敵は今日の友。

 もしこの言葉の意味の反対が存在したら?

 昨日の友は今日の 。

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