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旧雲ノ神大聖堂攻防戦

 第八特別任務遂行大隊が突入して来る少し前、秋雲は黒いフード姿のニュートリノと親しげに話していた。

 実は秋雲は昨日の昼頃には目覚めており、その時からずっとニュートリノと話していた。

 そのため、二人は友達のような関係になっていた。

 「すみませんが、ニュートリノさん。いつになったら外に出してもらえるのでしょうか?」

 「雲神か、()の許可があるまで出来ません」

 「主?」

 「ワ国の女王様です」

 本来ならば決して言ってはいけない事なのだろうが、彼女はスルリと言った。

 あんまりにもスルリと言うもので、今まで聞くことを遠慮していたのが馬鹿らしく思えた。

 「その、それではなぜここに連れてきたんですか?」

 秋雲は覚醒したかのように今まで遠慮してきた質問をする。

 そして、この質問にもニュートリノは躊躇う事無く答えた。

 「うちの主は大事な物は手元か自分が分かる場所に置いておかないと突然奇行(王宮とかに赤の塗料ぶち撒ける)に走るのでそれの防止でしょう」

 「あぁ…」

 「今日はやけに踏み切った質問をしますね」

 「…」

 秋雲はニュートリノがつけている亀の甲羅のような仮面を見ながら苦笑いをする。

ーーーやっぱり下手に質問しない方がいいかな…。

 「すみません。少し待ってて下さい」

 ニュートリノは椅子から立ち上がって窓に近づく。

 彼女の眼下には三台の輸送車と一台の装甲車がいた。

 これはすでに第八特別任務遂行大隊が突入したあとだった。

 「秋雲。あなたがさっき質問してきた主の顔を見たくはありませんか?」

 「ハイ?」

 秋雲が質問しようと口を開く間もなくニュートリノは秋雲の胸ぐらをつかんで自分のもとに引き寄せる。

 引き寄せた直後、部屋のドアがバンと木が割れたような音を立てて勢いよく開いた。

 「手を上げろ!!」

 開いたドアからは歩兵銃を持った如何にも特殊部隊のような全身真っ黒なゴツゴツの服装の人達が入って来る。

 「こちら三班、ポイント二の六にて奪取目標と思わしき人物と標的外を発見。次の指示を仰ぐ」

 「了解。現在二班が窓の下で展開中。安心して目標を捕獲せよ」

ーーー確かに無線を使っていた。

 秋雲は首を傾げて疑問に思う。

 だが、そんな疑問は今は頭の片隅に置いて置かねばならない。

 なぜなら、彼らの銃口は変わらずこちらに向いているからだ。

 「少し目をつむっていてください」

 ニュートリノは秋雲の耳元でそっと囁いた。

 秋雲は言われた通りに目をしっかりと閉じた。

 ここからはニュートリノと第八特別任務遂行大隊の対決だ。

 「そこの。早く手を上げろ」

 第八特別任務遂行大隊の一人が銃口を突きつけながらニュートリノを脅す。

 しかし、ニュートリノは恐れるどころか「フッ」と鼻で笑った。

 「これが我が国の特殊部隊か」

 そう言ったかと思うと、ニュートリノの片手には拳銃が握られていた。

 「発砲許可!!」

 第八特別任務遂行大隊の三班と呼ばれる部隊の班長が叫んだ。

 瞬く間に部屋は火薬の臭いと銃声がこだまする。


 銃声が少なくなったような気がした秋雲はうっすらと目を開けてまわりを見回した。

 まわりには片手を抑えて苦悶する第八特別任務遂行大隊の三班がいた。

 しかし、ニュートリノは何度も拳銃から銃声を響かせる。

ーーー何があった?

 そんな事は考えるまでも無かった。

 ニュートリノが一人で蹴散らしたのだ。

 黒い衣を羽織っていてその衣の中に何があるのかは全く分からない。


 「こちら一班。ポイント二の六で現在敵対的存在と交戦中。先にいた三班は全員戦闘不能で全滅。こちら一班もすでに半数が戦闘不能。援軍を求む!」

 大聖堂の外の装甲車には無線でそんな報告しか舞い込んでこなかった。

 彼らが求めている「目標を確保」と言う言葉がいつまで立ってもやって来ない。

 「仕方無い。四班と五班を送れ。六班を大聖堂正面出入り口に配置。一階は七班のみで警備しろ。二班は変わらずそこを動くな。八班は三階で狙撃態勢を整えろ」

 第八特別任務遂行大隊隊長は実に慎重な男であった。

 絶え間ない増援(戦力の逐次投入)では無く、一気に火力を集中させる事が完璧な方法と考え、まさにその通りの方法を行なっていた。


 現にニュートリノはこの戦術に苦戦していた。

 彼女の拳銃からは空薬莢がカチンカチンと音を立てて落ち続ける。

 ニュートリノは一班、四班、五班とは廊下で撃ち合っていた。

 ニュートリノが銃弾を避けるための盾として置いている長机は無数の小さい穴が空き、銃弾が傘から漏れた雨粒のように突き通っている。

 一方、秋雲は壊滅した三班のいる部屋のベッドの下で静かにうずくまっていた。


 半壊した一班に合流した四班と五班はすぐにニュートリノに対して集中射撃を開始した。

 「全く何人連れて来てんだよ」

 ニュートリノは銃撃戦の最中に小声で呟く。

 すでに机はフジツボのような穴が数えられないほど空いている。

ーーー流石に後退か…。

 ニュートリノは攻撃が一瞬止んだ間に部屋のドアの場所まで後退し、そこでハンドガンを撃ち続ける。

 が、弾は有限だ。

 後退してから間もなくして、最後の弾倉をハンドガンに入れる。

 「ラスト一本か。腕が落ちたのかもね」

 ニュートリノの攻撃は火を見るよりも明らかに減った。

 この変化に気が付いた四班は早速突撃の準備を始める。

 「四班、突入用意」

 一班と五班も四班に合わせる。

 まさに電光石火の如き連携スピードだった。

 一班と五班が攻撃を止めたと全く同時に四班はドアにめがけて猪突猛進する。


 カン

 

 四班がドアにあと一歩のところで、地面から空き缶が落ちたかのような音がした。


 プシューーー!!


 次の瞬間、目の前が一面白い煙に覆われる。

 ここから四班の統率が完全に失われるまで一秒とかからなかった。

 「ウグッ!!総員撤退撤退!!」

 四班の班長は喉が潰れるような思いで叫んだ。

 が、そんな魂の叫び声も、数発の銃弾によってかき消された。


 パンパンパン


 ニュートリノは最後の弾倉を止め処なく使い始める。

 こうして四班は班としての指揮能力を喪失した。

 「後退後退後退!!」

 「どこに敵がいるか不明!!方向ロスト!!」

 班員達は口々に状況や現状を叫んで報告する。

 だが、それらの声は銃声が鳴るたんびに薄くなった。

 「そんな…」

 一班と五班はその光景を遠くから指を加えて見ることしか出来なかった。

 援護射撃をしたいのは山々だが、ただでさえ一本道の廊下であり、挙げ句四班の居る場所には煙幕が焚かれている。

 下手に撃とうものなら高確率でフレンドリーファイアだ。


 しばらくして、廊下からは四班の声や銃声は聞こえなくなり、煙幕だけが全てを隠すように廊下に残留していた。

 ニュートリノはホッと一息つくと、銃の弾倉の中身を見た。

 弾倉の中は空、空、空。

 一発も残っていない。

 文字通り、楽な道は消えた。

 廊下の煙幕が晴れれば間違え無く残った班が総突撃を行って来るだろう。

 では部屋で非武装兵化した三班を人質として使うか。

 これは間違え無くうまく行かないであろう。

 彼らはたとえ新米集団でも特殊部隊だ。

 屋上等の高い所に狙撃兵がいるだろう(精度は悪いが)。

ーーーではどうするか?

 裏をかく。

 •••これが出来たらニュートリノは苦労しなかっただろう。そもそも、裏をかくも何も物量に物を言わせたゴリ押し戦法に裏も何もないが。

 では本当にどうするのか?

 それは…。


 「秋雲、出ておいで」

 ニュートリノがそう言うと、秋雲が隠れていたベッドの下からニョキッと身体を出した。

 「ごめんね。秋雲君。私の服にしっかり捕まっといて」

 ニュートリノは自らの黒いマントで秋雲の姿を完全に隠すと、勢いよく窓に向かって突進した。

 パリン!!

 窓が割れた音と同時に窓の破片が下で待機している二班に降り注いだ。

 「目標窓から出て来ました!!」

 「総員、撃ちまくれ!!」

 班長の指示と共に班員達はすぐにニュートリノ達に向かって銃を構える。

 が、

 プシューーーー!

 窓から出たと同時に二班に向かって落としたスモークグレネードが瞬く間に作動し、二班もまた指揮能力を喪失した。


 「こちら八班。二の六より離脱した目標の狙撃を開始する」

 八班の持っている狙撃銃は命中率や使いやすさは現代の狙撃銃に遠く及ばないものの、ワ国の標準歩兵銃の三倍の命中率を誇っていた。

 ドンドン!

 狙撃銃は明らかに隠密行動に向いていない発砲音を立てて火を噴いた。

 しかし、初弾は一発も命中しなかった。


 ニュートリノは狙撃銃の発砲音を聞くと、クルリとUターンして大聖堂の壁沿いを走り始めた。

 八班はその様子を見るとすぐに銃を下に向ける。

 すると、二班に投げつけたスモークグレネードの白煙が八班の視界を覆った。

 「こちら八班。下から出る白煙で目標をロスト!!」


 ニュートリノは迷いもせずにある場所を目指した。

 そこは、大聖堂の出入り口だ。

 もちろんここにも敵がいる。

 六班だ。


 出入り口に差し掛かると、六班はすぐにニュートリノは見つけ、発砲を開始した。

 ニュートリノはそんな事お構い無しに突進し、六班の間に滑り込む。

 六班は滑り込むニュートリノに狙いを定めたが、誤射を恐れて引き金から指を離していた。

 ニュートリノが目指す先はただ一つ。

 あの招き猫だ。

 最後のスモークグレネードを六班に投げ、その瞬間に一枚の小判を取り出した。

 そして、その小判を招き猫に投げる。

 まさに一瞬の出来事だった。


 「もう出て大丈夫だよ」

 その言葉と共に秋雲はニュートリノの黒いマントから出る。

 すると、そこはさっきまでの苔生した大聖堂ではなく、まるで宮殿のだだっ広い廊下ような場所に立っていた。

 音は全くと言っていいほど聞こえず、さっきまでの鼓膜がさよならしそうな激しい銃撃音は聞こえない。

 「あら。もう来たの?」

 「申し訳ありません。どこからか送り込まれた部隊がやって来たもので」

 背後からニュートリノと聞いた事の無い声が聞こえた。

 慌てて後ろを振り返ると、さっきまでは確かに居なかった女性が音も無くそこに立っていた。

 その女性は一目で見てこの国のかなり高貴な存在だと分かるほど美しい服装をしている。

 そして何よりも、秋雲はその女性に僅かながらの既視感があった。

 その女性は秋雲と目が合うと、ニッコリと微笑んだ。

 「秋雲。この方がワ国の女王、マリ様だ」

 ニュートリノはマリ女王に頭を下げながら言う。

ーーーこの人が女王。

 秋雲は無意識ながらも彼女の顔を見る。

 やはり、勘違いかも知れないが、見覚えがある。


 同時刻、ワ国中核研究所。所長室。

 アサガオ博士は一人自室の椅子に腰掛けて天井を見つめる。

 「やはり、“君”の知識が必要不可欠なのだが…」

 そう言ってアサガオ博士は天井から目の前の人物に目を移す。

 そこには…。

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