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ワ国へ行く(後編)

 方がルナと正智を連れて帰った後、サトウキビは突然慌ただしくなった。

 ワ国に行く準備だ。

 次々と物資が次元加速域に運ばれる。

 そして、運ばれた物資は駆逐艦秋雲に載っけられる。

 駆逐艦秋雲は現状のサトウキビ内で動く最大の艦だ。

 戦艦比叡が先の戦闘で省エネを意識したにも関わらず、大量の燃料を消費し、満足に動かせる艦艇が大幅に減少したのだ。

 秋雲に乗っていく乗組員も限られている。

 サトウキビはワ国との攻防戦でほとんどの武器•武装が使用不可能となり、ここの防衛のためにある程度の人員が必要だった。

 こうした条件下、選ばれた人員はニョニョ、レーベン、モワ、ドッペルゲンガー秋雲、坂井、三石である。

 ニョニョはワ国に故郷があるらしく、一緒に送り届ける事になった。


 物資の搬入は半ば機械に頼っているにも関わらず、翌日まで時間が掛かった。


 ダリアが討ち取られて十一日後。

 駆逐艦秋雲は久々に錨を上げた。

 二本の煙突からはモクモクと黒い煙を上げて桟橋から離れる。

 桟橋には見送りのフローズンとコロが両手を大きくブンブンと振っていた。

 駆逐艦秋雲が久々に見た空の色は快晴の青である。

 少しずつ緑が戻るサトウキビを後に駆逐艦秋雲はワ国を目指す。

 

 サトウキビから少し離れた海面に明らかな人工物を発見した。

 彼らは近づいて確かめなくとも双眼鏡越しにその人工物が何なのかを確かめる事が出来た。

 「巡洋艦か何かだな」

 三石はボソリと艦橋で呟いた。

 そう。それは巡洋艦だった。

 練習巡洋艦小枝。

 サトウキビ防衛戦で三石が爆弾を設置、そして浅瀬に乗り上げ大破着底していたのだ。

 今は二本のマストと三本の煙突がそこに小枝がいる事を示していた。


 二日後、この日も変わらずの晴天である。

 駆逐艦秋雲は三日間、30ノットほどの高速でワ国、十劉湾に向かっている。

 この三日間は特に大した事も無く、順調だった。

 十劉湾には今日の昼頃に到着予定だ。

 やる事の無いレーベンは呑気に誰もいない艦橋で舵を握りながら鼻歌を歌っていた。

 「レーベンさん、レーベンさん」

 後ろから可愛らしい声がレーベンを呼ぶ。

 レーベンは「ん」と返事して後ろを振り向く。

 そこにはやっぱりニョニョがいた。

 ニョニョはリンゴを丸ごと持ってすぐ足元にちょこんと立っていた。

 「今日のおやつです!!」

 「まだおやつの時間は遠いけど、ありがと」

 そう言ってレーベンはニョニョからリンゴを受け取る。

 そしてリンゴを口に運ぼうとした瞬間、ニョニョが「一つ聞きたいのですが!」と叫んだ。

 レーベンはすぐに手を止めてまたニョニョを見る。

 「今この中で一番強いのはレーベンさんですか?」

 「まぁ純粋な強さならね。突然どうしたの?」

 「出港前にコロちゃんからレーベンは強いから安心と聞いて」

 「なるほどね」

 しばらくの沈黙の後、ニョニョは無言でスタスタと艦橋を出た。

 すると、レーベンは片手でリンゴをクルクル回して遊び始めた。

 リンゴは触ってみた感覚はスライスのように柔らかく、今にも溶けてしまいそうな感じだ。

 「さて、どうしましょうかね」

 レーベンは誰もいない艦橋で呟くように言った。

 

 ベチャ

 何か柔らかい物が潰れたような音が艦橋から漏れた。

 何事も無かったかのように両手で舵を動かすレーベンの足元には無残にも潰れたリンゴがあった。

 リンゴはしばらくそこに残留していたが、レーベンが再びリンゴを見つめると、忽然と跡形も無く消失していた。


 日がほぼ真上にきた昼頃、駆逐艦秋雲はついに十劉湾を視認した。

 十劉湾は街の発展はそこそこなものの、どこも水深が深く、船にとっては入りやすい湾である。

 

 駆逐艦秋雲は湾から10kmほど離れた離島に錨を下ろした。

 駆逐艦秋雲の止まった場所は離島が近くに点々とあり、水上からは見つけにくい場所だった。

 レーベンは駆逐艦秋雲を停めると、さっそく全員を第一砲塔の近くに集めた。

 「さて、ここからは三つの班に分かれて行動するよ。ハイ、さっさとペア組んで」

 三石達はぎこちない動きでとりあえず人と一緒になろうとした。

 レーベンはモワと、三石は坂井と、そしてドッペルゲンガー秋雲とニョニョである。

 班の内容としては当然の結果ともいうべきものになった。

 それでも班は作れているため、さっそく一艘の端艇を海面に降ろす。

 レーベンの班と秋雲の班はその端艇に乗り込み、駆逐艦秋雲を離れていく。

 三石の班は駆逐艦秋雲の警備のために艦に残る。

 端艇は穏やかな波も味方してゆっくりと大陸に走って行く。

 周りから見るとそれほど大変そうには見えないかもしれない。

 だが、端艇の上ではまさに重労働とも言うべきオール漕ぎがあった。

 端艇にはたったの四人しかいない。

 明らかに端艇の大きさには似合わない人数だった。

 四人がどれほど一生懸命に漕いでも端艇は全く進まない。

 天の情けなのか風と波が彼らの端艇をゆらゆらと陸に流す。

 それでも丸一日経ってやっと陸に着く速度だ。

 レーベンはモワを見つめて猫なで声で話し掛けた。

 「モワちゃ〜ん」

 モワは怪訝そうな顔をしたが、頷いた。

 モワがパチンと指を鳴らすと次の瞬間には波に揺れていた足場から揺れの無いガッチガチの地面の上に立っていた。

 「さてここから自由行動。秋雲はニョニョを送り届けて。私達はちょっと用事があるから」

 レーベンはモワを引っ張るようにしてその場を離れていった。

 残された秋雲とニョニョはぎこちないながらも一緒に十劉街へ向かう。


 十劉湾の街、十劉街は十劉警備府が置かれていた。

 街は壁で囲まれ、街の所々に砲台が存在し、湾には多数のワ国艦艇が悠々と浮かんでいる。

 ニョニョは十劉街に入る門をくぐるとすぐに秋雲に振り返った。

 「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました!!」

 そう言って彼女は走りながらどこかへ去って行った。

 残された秋雲はその後のやる事が思いつかなかった。

ーーーとりあえず、街をうろつくか…。

 

 街は昼間にも関わらず、人通りが乏しかった。

 まるでゴーストタウンのような静けさだ。

 道行く人は一般人よりも軍人が圧倒的に多い。

 「おい何だあのガキは」

 「放送を聞いていない親が買い物に行かせてるのでしょうか?」

 軍人達は秋雲を見るなりコソコソとそう言った。

 秋雲は帽子を深く被って極力軍人と目を合わせないようにする。

 湾に近づくに連れて軍人も多くなり、秋雲をジロジロと見つめる。

 そしてついに一人の軍人から呼び止められた。

 「君、今週は外出禁止令が出されていから早く家に帰りなさい」

 その軍人は柔らかい口調で話す。

 秋雲は少しその軍人と目を合わせるも、すぐに別の方向を向いた。

 そのままの状態で秋雲は話した。

 「すみません。今日ここに来た者でして、何も分からないんです」

 そう言うと、軍人は不安な表情をした。

 そして近くの軍人を呼び寄せてコソコソと話す。

 しばらくしてからまたさっきの軍人が秋雲の目の前までやって来た。

 「ごめんね。ちょっと警備府まで来てもらおうか」

 軍人は秋雲の手を引きながら湾全体を見守るように鎮座する十劉警備府まで連れて行った。

 道中、一般人と目が合ったが、秋雲を見るなり可愛そうと哀れむような視線で秋雲を見つめる。

 

 警備府の扉を開けるとまるでサウナに入る前のような熱気がブアッと秋雲に降りかかった。

 警備府の中は熱気で息苦しく、ここでサウナ営業も出来るのではという熱さだった。

 

 秋雲と軍人は階段を何段も上がり、ついに最上階の六階についた。

 六階は窓から差し込む光以外明かりが無く、不気味な雰囲気を出していた。

 そんな六階の一室、警備府司令長官室。

 そこで軍人は立ち止まり、コンコンと扉を叩いた。

 「失礼します」

 軍人がそう言うと、部屋から「入れ」とすぐに返ってきた。

 軍人は恐る恐る扉をゆっくりと開ける。

 秋雲はまだ開けている途中の扉の間を縫うように真っ先に部屋に入った。

 秋雲の先には高そうな黒い長方形の机の奥でズングリと構えているおっさんがいた。

 だが、秋雲の姿を見るや否や驚いた表情で秋雲を見つめる。

 そして、連れて来た軍人を嫌そうに見つめた。

 「この中学生ぐらいの子がどうした?」

 勿論、口調も嫌味ったらしい。

 「今日来た子供で外出禁止令を知らずに外をほっつき歩いていました。警備府司令長官殿。万が一、反乱軍もしくは連合軍の密偵だったら!あの艦の事が外にバレますよ!!」

 軍人は力強い口調で言った。

 しかし、警備府司令長官はそんな軍人とは正反対に面倒くさそうな態度で座っている。

 「そんなピリつかなくとも大丈夫じゃないか?密偵だなんて、そんな事がある訳無いじゃないか」

 「確かに密偵はありえませんが、大本営か十劉警備府軍法会議に報告すべきでは!?」

ーーーコイツ、よく当事者の前で大声で喋れるな…。

 秋雲は涼しげな表情で彼らの会話を聞いていた。

 もはや警備府司令長官は明らかに面倒くさがっていた。

 これはどんなにこの軍人が説得しても面倒くさがって行動しないのは確実だ。

 「そこまで大事に捉えなくとも良いではないか。それに、子供だぞ?」

 「ですが、」

 「ええい!!」

 突然、警備府司令長官は軍人の話を遮るように叫んだ。

 突然の叫び声に軍人は少しビクッとした。

 「今はクラッキ大将が湾に居るんだぞ!?あの民の事が第一な奴だ。あの野郎がいなければ今頃上げていたわ!」

 警備府司令長官はゼェゼェと息が途切れ途切れになった。

 これにはさしもの軍人も黙り込んだ。

 警備府司令長官は基本的に中将が担当する。

 つまり、警備府司令長官にとってクラッキに楯突くことは上司に楯突く事と同義であった。

 また、クラッキ大将は十劉警備府司令長官よりも人望が厚く、とても敵に回してはいけない存在だった。

 「それに君は何だ。出世の為に子供を犠牲にするのか?」

 そう言われると、この軍人はバツが悪そうに無言で部屋を出て行った。

 部屋には十劉警備府司令長官と秋雲だけが取り残された。

 「やれやれ。最近の出世したい若者は過激だな」

 司令長官は椅子から立ち上がると秋雲の腕を引いて一階まで降りた。

 「すまないね。最近の出世したい若者はこれだから」

 秋雲は無反応で可愛げなく十劉警備府の出入り口へ向かう。

 ちょうどその時だった。


 ウーーー

 

 街のスピーカーから甲高い頭に響くような音が響いた。

 「警備府司令長官。敵機襲来、数はおよそ五十機!!」

 兵士が警備府司令長官の前に来てそう叫ぶ。


 兵士達は警備府の地下一階を目指して階段になだれ込んでいた。

 もはやここに秩序は無い。

 警備府司令長官は無言で秋雲の腕を引いて一階の接客室にやって来た。

 二人はガランとした接客室の机近くへ行き、その机の下に隠れる。

 机は長方形でなかなかに大きく、二人は容易に隠れる事が出来た。

 間もなくして地を震わせる爆発音が十劉湾を包んだ。

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