表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/62

合流(後編)

 夜が明けた午前八時。

 雲が少し青空を覆った晴れだが、気温は()()()()()()()()()涼しい。

 三石とモワはずっとサトウキビの出入り口で双眼鏡を構えながら正智達を探していた。

 サトウキビの辺りは先の戦闘で熱帯雨林が炭となり、荒れ地になっている。

 そのため、双眼鏡で辺りがよく見えた。

 「なかなか来ませんね」

 「歯食いしばって周りを見ろ。ガキのためなら何徹夜もするのが大人だろ」

 そう言って三石はスティック状に切った生人参をモワに渡す。

 モワは生人参を貰うとすぐにかじりついて、また双眼鏡で周りを見る。

 「十一時の方向に人影。…百人はいる」

 モワの言葉通り三石は十一時の方向を見る。

 そこには明らかに民間人では無く、上下迷彩柄の服をきた軍人が多数いた。

 「チッ」

 舌打ちをしながら三石は双眼鏡を降ろして腰にぶら下がっている軍刀の持ち手を握る。

 「待って。子供二人を連れてる」

 三石は急いで双眼鏡を構える。

 迷彩柄の人達の中央に二人の子供が見えた。

 その内の一人の金髪の少女はジタバタと暴れている。

 「間違い無いな」

 そう言って三石は軍刀を引き抜き、軍人の群れを睨む。

 「ちょっとステイステイ」

 背後から方の声がした。

 三石とモワは振り向いて方を見る。

 「そんな暴力的解決手段に頼らずとも、この方元帥なら彼らから無傷で子供を引き取ってこれるぞ」

 「…初対面の奴は信用ならん。兄貴から人を見たら泥棒と思えって教わったからな」

 三石は軍刀を片手に今にも突撃しそうである。

 モワが必死に三石を制止しているが、あまり持たなそうだ。

 「それではこれで信頼を獲得しようかな。騙されたと思って待っていなさい」

 方は疾風の如きスピードで軍人達のもとに向かう。

 三石とモワは双眼鏡でその様子を見ている。

 「アイツは本当に信用出来るのか?」

 三石がモワに聞くと、モワは静かに首を縦に振った。

 しばらくして方に動きがあった。

 彼は確かに二人の子供を引き取ったが、背後にあの軍人達を引き連れてコチラにやって来るのだ。

 「あの野郎…!!」

 三石は軍刀の刃先を方に向ける。

 「三石さん落ち着いて下さい」

 モワが三石に飛び付いて必死に軍刀を降ろそうとするが三石の腕は岩のように重たくびくともしない。

 軍人達は三石のすぐ目の前まで来た。

 その距離は三石が飛び掛かろうと思えばいつでも飛び掛かれる距離であった。

 「三石さん!!」

 一人の子供が軍人達の足の隙間からスルリと現れて三石に飛び付く。

 正智だ。

 彼は涙を零しながら三石におぶんされる。

 「これで少しは信頼してもらえたかな」

 方は自慢げに三石の前でピースをする。

 三石はそのピースを見ていないふりをして軍刀を鞘に戻す。

 一方、もう一人の子供は言うまでも無く、山岸ルナであった。

 方が引き連れていた軍人達はほぼ完治状態の巡洋艦広丙の乗組員がいる治療室で軟禁状態となり、正智とルナは指令室に向かった。

 指令室には治療室から出れた秋雲と子猫、ラソビエを含める全員がいる。と言っても、内何人かは二度寝もしくは三度寝の一歩手前だ。

 昨日と変わらず、今回もレーベンが進行役だ。

 「さて、今日も話したい事が一杯ありすぎて、とても今日で終わる気配が無いんですが、頑張っていきましょう」

 全員はシーンとして、レーベンに冷たい反応を返した。

 「さて、最初は秋雲のドッペルゲンガー疑惑ですが、秋雲さん。何か言う事は?」

 レーベンはそう言って秋雲を見るが、とても会話出来る状態では無かった。

 秋雲はルナを押し殺す勢いで飛び掛かろうとし、坂井とガルムが必死の形相で抑えつけている。

 ドッペルゲンガーはどんな感情よりも破壊欲求が強く、髪の色が白くなるのだ。

 まして、自らを殺した相手ともなると更に、だ。

 まるで怨霊である。

 ルナはすぐ隣で今にも襲い掛かってきそうな秋雲をチラチラ見るだけですぐに下を見る。

 ドッペルゲンガー疑惑では無く、秋雲はドッペルゲンガーであると言う事がもはや明確であった。

 レーベンは時間が無いため、淡々と次の話題を出す。

 「次は何で秋雲を殺したの。山岸ルナ?」

 ルナは一瞬体がビクリとなった。

 それから一分間、沈黙の時間が流れた。

 一分間、ルナはずっと俯くだけで何の反応も示さず、一言も喋らなかった。

 レーベン達は何も言わずにただ、ルナを見つめるだけだ。

 一分後、ルナはついに重い口を開けて話し始めた。

 「正智さんにガドリ神聖王国で初めてお会いした時、私は純粋に彼を好きになりました。…私は彼に好かれたい一心でずっと話し掛けました。でも、(秋雲)が来てから、正智さんはずっと彼に話し掛けていました。そこでどうしたら私に意識を向けて貰えるか考えに考えた結果、偽名を使い、秋雲を殺して、全員から離れた場所で正智さんと一緒に暮らしたかったんです…」

 全員は秋雲を除いてしばらく静かになった。

 秋雲にしてみれば彼女の私情で殺されたようなものだ。

 「ちょっと秋雲、このままじゃ抑えきれないから外にいます」

 坂井はそう言って秋雲を持ち上げながら指令室を出る。

 秋雲がいなくなると、指令室は森のように静かになった。

 そんな指令室にレーベンの声だけが響く。

 「次は秋雲が昨日抱えていた子猫ですが、誰か、知ってる人いますか?」

 レーベンは周りを見たが、誰も反応しない。

 いや、一匹だけいる。

 可愛らしい肉球をこちらに向けて手を挙げるコロがいた。

 「コロ、何か知ってるの?」

 するとコロはコクリと頷いてカワイイ肉球を方に向ける。

 「ずっと方さんって言っていました」

 全員の視線がレーベンから一斉に方に移る。

 方は混乱して「え?え?」といった顔をしている。

 追い打ちに子猫が「方さん方さん」と可愛らしい声で呼ぶ。

 方は頭を抱えて下を見ながら「知らない知らない」と独り言をブツブツ言い始めた。

 そこに無邪気で可愛らしい「方さん方さん」と呼ぶ声が舞い降りる。

 方は何か思いついたように頭を起き上がらせ、子猫を見る。

 「俺はお前を何て名前で呼んだ?」

 子猫は即答した。

 「ニョニョ!!」

 方はまた頭を抱える。

 方は基本的に猫に対してはよくニョニョという名前をつける。つまり、方の猫である説が濃厚となったのだ。

 「酔った勢いで何かやっちまったか…」

 ニョニョという子猫は方の足元でクルクルと回っている。

 足首まで覆っているズボンでも子猫のフサフサな毛並みは何となくでも感じる事が出来た。

 方は困った顔をしてニョニョを見る。

 すると、ニョニョは方の困っている気配を感じ取ったのか、方の前でちょこんと座る。

 「方さん。私ですよ」

 さっきまで子猫の姿だったのが、みるみる内に大きくなり、十歳ほどの身長の少女が方の前に立っている。

 頭は可愛い山形の猫耳が二つヒョッコリと出て、灰色の髪は足首から頭までほぼ全身を隠すほど伸びてふっくらしていた。

 「ジャーーーン」

 少女はとても嬉しそうに両手を広げながらニコニコする。

 「ジャーーーンじゃない。もう少し服着ろ!」

 方は急いで上半身の軍服を脱いで少女に被せる。

 軍服を脱いだ方は上半身白い下着である。

 「わあ~。方さんの匂いだ」

 少女はそう言いながら方の軍服の匂いをスンスンと嗅ぐ。

 「止めろ止めろ」

 方はすぐにニョニョが匂いを嗅ぐのを止めるように言うが彼女は全く止めない。

 「これでも思い出してくれないのですか。…あんなに“暑い”一晩を過ごしたのに!!」

 何人かの視線が冷たくなったのを方は感じざるをえなかった。

 「あっ、思い出した」

 方は霧が晴れたように記憶が鮮明に蘇る。

 「君は、一年前くらいに書類整理や紅茶を淹れてくれた見習い広報部員か!」

 「そうです。あの日は夜中の気温が38℃前後で暑かったですよね」

 二人はその後会話に花を咲かせ、レーベン達がその会話に入る隙は無かった。

 こんなに雰囲気が上下する会議は早々にないだろう。

 進行役のレーベンは他にも色々と明らかにすべき内容があった気がしたが、スッポリと抜けたように思い出せない。

 とりあえず、会議はその場で終了した。

 秋雲とルナは接触禁止が言い渡され、布の人とピエロはレーベンの監視の下、サトウキビ地下牢に閉じ込められた。

 会議が終了した指令室ではまだ方とニョニョの会話は続き、その会話に何となく興味を持った三石とモワだけが指令室に残っていた。

 「方さんってなかなかケッコンしないよね。高給取りなのに」

 「三十四歳の給料以外取り柄も無い男がモテると思うか?」

 二人はまるで親戚のような親しく話す。

 話を聞く限りだと、二人は一年前の初めて出会った日以外今日まで会った事が無さそうである。

 「モワさんとかどうですか?方さんとケッコンしませんか?」

 「そうね。月給はいくら?」

 方はポケットから一枚の緑色の紙を取り出してモワに見せる。

 そこには「七月分ノ給与ハΧΧΧΧ万」と濃い黒色で書かれていた。

 「二十歳だけど大丈夫?」

 「お前金に汚いって言われた事ない?」

 モワはニコニコした表情で少し引いている方を見つめる。

 すると、何を思ったのか。モワはスッと立ち上がり指令室の出入り口へ向かう。

 方は無言でモワの手を握り元の位置に座らせようとする。

 二人は無言かつ無表情で小競り合いをしていたが、しばらくしてモワはさっきまで座っていた場所に自ら座った。

 「なかなか察しが良いようで」

 モワは不気味に微笑みながら言った。

 「あのな。結婚って難しいんだぞ」

 「目の前に結婚希望者がいるじゃん」

 「そうじゃなくて…。結婚後だよ…」

 方は小さくため息をついて立体的な格子状の天井を見る。

 天井にはいくつもの正三角形が見えた。

 目に見える範囲でも数えるのには半日ほど掛かりそうだ。

 「結婚てさ。ずっと夫婦一緒な訳じゃん。毎日夫婦関係と周りの視線を気にしてさ、息苦しくないのか?俺はこれまでの人生ずっと一人部屋か一人暮らしでよく分からない」

 「結構人によって違うが、俺は息苦しくないぞ」

 さっきまで全然口を開かなかった三石が突然口を開いた。

 方は少しだけ驚いたようで手がビクリと痙攣した。

 「…“思う”じゃなくて?」

 方がそう聞くと三石は首を縦に振る。

 方は目を丸くしたまま石像のように硬直した。

 モワとニョニョは方がなぜそんな反応をするのか、全く分からず首を傾げる。

 「方さんどうしたのですか?」

 ずっと固まったままの方に痺れを切らしたのか、ニョニョは躊躇無く質問する。

 方はゆっくりと口を開けて三石が言った言葉の裏の意味を言った。

 「三石さんは、ご結婚なさっている…!」

 方の言葉でモワとニョニョは硬直し、頭だけが三石を向く。

 顔は方が言う直前の表情のままだ。

 しばらくの沈黙の後、モワが「本当?」と聞くと、三石は首を縦に振る。

 その後に三石は続けて言った。

 「お前等はいつまで固まってる気だ」

 そうするとようやく時が戻ったかのようにモワとニョニョは表情を変えて床に寝転がる。

 モワは寝転がりながら次々と質問を三石に投げつけた。

 「子供っているの?」

 「四歳の娘が一人」

 「三石の歳はいくつ!」

 「二十五歳」

 モワは寝転がったままため息をついてどこか三石に負けたような気がした。

 今度はニョニョの質問タイムである。

 彼女は上半身を起き上がらせて三石に質問を投げかけた。

 「奥様の年齢は?」

 「二十六歳」

 「あなたの職業は?」

 「軍人」

 ニョニョはもう質問はありませんの合図として首を横に振った。

 「それじゃ。ここらでお開きとしますか」

 方はそう言って立ち上がった。

 三石達も立ち上り、それぞれ解散となった。


 方は解散後、一直線にガルムがいる作戦室に向かった。

 作戦室は屋根裏のように薄暗く、不気味さを感じさせていた。

 「オーイ、ガルム君少し話を聞いてくれないか?」

 「何でしょうか?」

 ガルムは錆びた椅子をギシギシいわせて方を見る。

 方は作戦室の隅にあるタンスから一枚の大きい画用紙を取ってガルムの目の前にある長机に広げた。

 画用紙はタンスの中にしまってあったにも関わらず、ホコリを撒き散らしている。

 画用紙には船の絵とサトウキビの次元加速域の地図が記されていた。

 方は片手にペンを持ちながらガルムを見る。

 「ちょっと協力して欲しい事があるんだけど」

 「今聞きますか?目の前に画用紙広げといて。絶対にYESって言わないといけないじゃないですか。それで、内容は何ですか?」

 方は待ってましたよと言わんばかりにポケットから一枚の白黒写真を出す。

 白黒写真は解像度は悪いが、それでも明らかに戦闘用の艦艇が無数に写っていた。

 「ココは?」

 「ラ国の次元加速域。かなり大きいぞ」

 「ラ国の次元加速域!?ラ国に次元加速域は存在しないと伺っていましたが」

 「俺も最近、シュテルベンから聞いて始めて知った」

 ガルムは少し狼狽したが、すぐにメモ帳を取り出してラ国に次元加速域が存在する事を殴り書いた。

 「アレ、でも、なんで協力が必要何ですか。今までは三隻の巡洋艦と駆逐艦さえいれば大丈夫って言ってましたけど…」

 「それは相手が装甲巡洋艦以下の時の話だ」

 そう言ってポケットからまた白黒写真を取り出す。

 そこにはしっかりと“弩級戦艦”が写っていた。

 「これは…」

 「間違え無くワ国戦艦。超竹級弩級戦艦五番艦“第5号艦”だな」

 ガルムは静かに固唾を飲み込む。

 超竹級戦艦といえば印沼級戦艦に代わってワ国最強。最近では“東洋最強不沈艦”とまで比喩されている戦艦だ。近代風にいえば大日本帝国海軍の戦艦大和の地位に君臨している。

 「もしかして協力って、この戦艦を沈めろという事ですか?」

 「そういう事。でも安心したまえ。第5号艦と呼ばれている時点であの戦艦は未成艦だ」

 その後、ガルムは苦笑いしながら方の作戦を聞く。

 結局、未成艦というのは希望的観測に過ぎない。

 写真にはとても未成艦に見えないほど完全武装した戦艦が写っているだけだ。

 作戦発動は三日後。それまでに艦隊を使用可能状態にする。それが今度の彼らの仕事となった。


同時刻、サトウキビ地下牢。

地下はサトウキビのように涼しくは無く、まさに熱帯を感じるほどの暑さであった。

地上で降り注いだ雨水が定期的に天井から出ている木の根を伝って地面に落ちる。

その水の音が嫌でも時間の長さを感じさせた。

「ピエロ君大丈夫かい?」

「大丈夫だと思いますか?そういえばレーベンはいつ来るのでしょうか」

布の人とピエロは足首に鎖が付けられてあまり自由には動けないが、口だけは金魚のようにパクパク動く。

「今日は来ないに四十万ユーロ」

「明日来るに三十万ドル」

「言ったな?払えよ」

水の音をかき消す二人の声は地下牢全体に乱反射して地下牢にいる“もう一人”にもしっかりと聞こえていた。

「さて、冗談はここまでにして、本当に脱出出来ますか?」

ピエロの質問の後、布の人は少し黙り込んだが、すぐに復活して「何のために天狗を外に出したと思っているんだ」と言った。

「そうですか。それでは頼りにしてますよ。“風解”さん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ