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指令室奪還

 駆逐艦秋雲が発射した砲弾は早速最大の難関とも言うべき結界に阻まれた。

 砲弾はしばらく結界と押し合いをしていたが、しばらくしてポロリと落下して行った。

 その直後に第二射が到達した。

 その砲弾は奇跡的に全弾、結界を打ち破り、指令室に直行する。

 指令室やルナ達が走っている廊下に着くまでにいくつものコンクリート製の壁があったが、砲弾はそれらすべてを貫通した。

 砲弾はそれぞれピエロ、ボロボロ布を被った人、ルナに的確に二発ずつ向かった。

 最初に砲弾が到達したルナはなぜか向かって来た二発の砲弾が不自然な事にルナ目の前で自爆した。

 「正智さん大丈夫?」

 ルナは焦ったように正智を見つめる。

 幸い、二人とも怪我は無く、ルナはまた正智の手を引っ張って走り始めた。

 その頃、布を被っている人は呑気にその辺に置いてあったコーヒーを飲んでいる所だった。

 「?」

 布を被っている人はコーヒーを飲みながら床を見る。

 すると、何を察したのか、レーベンが突然に布を被っている人の足元に防御結界を展開した。

 ドンドン

 結界を展開してからすぐに砲弾が到達した。

 だが、結界はとても硬く、布を被っている人は無傷である。

 ピエロはと言うと、絶讃パソコン作業中で防御魔法すら唱えていない。

 ピエロはモロに二発の砲弾を喰らった。

 「グワッ!!」

 二発の砲弾はパソコンを破壊して椅子に座っているピエロを椅子ごと中に浮かべた。

 ピエロは床に落ちると、何度もクルクルと床の上を転げ回る。

 背中に火が付いているからだ。

 ピエロはしばらく床でのたうち回って背中の火を消した。

 「ピエロ君、大丈夫かいな?」

 「大丈夫じゃないですよ。お気に入りの服に穴が空いたんですから」

 ピエロの背中を見ると、見事にピエロ服が黒焦げに焼けていた。

 「…人生山あり谷あり。買い替えればいいじゃん」

 「あなたにはお気に入りと言う感情が分かりませんよ」

 ピエロが悲しそうに背中の焼けた部分を見つめる中、布を被っている人は砲弾が通った道を見ていた。

 砲弾が通った跡は見事にえぐれ、穴からは一直線で次元加速域と通常空間の狭間が見えている。

 「こいつは凄いね」

 その人は見惚れるように直線の穴を見つめている。

 「アアアアア。データが全部消えてるからまた別の台でやり直しだ!!」

 ピエロは労働の悲鳴を上げているようだが。

 「ハハハ。頑張れー」

 ガン

 穴から何かが突き刺さるような音がした。

 布の人がまた穴を覗くと、そこにはさっきまで無かった真っ黒な砲弾の弾があった。

 布の人は気になってその砲弾を触ったり、撫でたりしたが、ヒンヤリと冷たいだけで何の異常も無い。

 「どうだ?」

 ピエロが穴に近寄りながら聞く。

 「大丈夫。冷たい砲弾があるだけだから」

 「冷たい砲弾!?」

 ピエロはとても驚いたように急いで穴に近付き、砲弾を見る。

 ピエロも布の人同様に砲弾が冷たいと感じた。

 「普通、砲弾って発射直後は熱い物じゃないのか?」

 「…!まさか」

 次の瞬間、砲弾は太陽をすぐ目の前にあるかと思うほどの発光を起こし、ついでに激しい放電が発生した。

 その放電はことごとくすべてのパソコンを破壊し、ピエロと布の人は80mAの電流をその身に受ける。

 放電は砲弾が自壊する事で収束した。

 自壊するまで実に4分間、全員が50mA以上の電流を受け続けた。

 ピエロは意識が飛ぶ寸前であった。

 放電が終わると、ピエロは床にグッタリと寝そべり、朦朧とする意識の中で布の人を見ている。

 その布の人は別に倒れ込む事も無く、ずっと立っていた。

 「大丈夫かいな」

 そしていつもと変わらない口調でピエロに話しかける。

 ピエロは無意識に震える手を布の人に向けて伸ばした。

 すると、布の人は伸ばされたその手を握って、布で覆われて全く見えない顔を少し傾ける。

 「ヴッ」

 ピエロは低いうめき声を上げたが、すぐに自分で立ち上がれるようになった。

 ピエロは立ち上るとジャンプや手を上に伸ばしたりして、布の人に自分は大丈夫だと言う事を行動で伝える。

 「OK。大丈夫だね。…それにしても、ヒルノフエがこんな物を開発してるなんてね」

 パキパキパキパキ

 背後から卵が破れる音がする。

 二人がくるりと後ろを見ると、“秋雲”が封印されている黒い箱が段々とひび割れ、中から人の手がニョキッと生えている。

 「手伝おうか?」

 布の人がひび割れて出来た穴に向けて声を出した。

 「心配無用」

 端的な回答が返って来た。

 一分ほどしてやっとひと一人分の穴が完全し、その穴から人間のような姿の生き物がヒョッコリと出て来る。

 それは、秋雲の姿では無い全く別の姿でだ。

 背中には黒いカラスのような羽を持ち、鼻が立派なほど長く伸びている、“天狗”と言った感じの人だ。

 肌は他の人と何ら変わりのない色をしている。唯一違うといえば額がトマトのように真っ赤な事だ。

 身長は2mほどまである。

 「天狗さん、無事ですね~」

 「なんだと若造。無事な訳があるか。あの結界、儂の変身の妖術を融解させたのじゃぞ!?」

 如何にもおじさん臭い感じの人だが、少なくとも、強さは本物でモワよりも上、レーベン未満の二線クラスだ。

 ピエロは布の人と天狗が話しているのをつまならそうに眺めている。

 「よくもまぁ、下から異常な砲弾が飛んで来るのになんて気楽なんだ」とでも思っているのだろう。

 布の人は天狗に現状を説明した後、天狗の耳元で囁くように「試製空中要塞をサトウキビ上空まで持ってきて。その羽なら行けるでしょ」

 天狗はコクリと頷いて指令室を足早に去って行った。

 ピエロは天狗の後ろ姿を見届けると、少しでも使えそうなパソコンを探しに迷路のような指令室を歩き回る。

 そんなピエロを一つの人影がゆっくりと追いかけていた。

 カラカラカラカラ

 ピエロの背後から何か物を引きずるような音がする。

 「おいおい嫌がらせはよせよ」

 ピエロはどうせ布の人の嫌がらせだろと本気で思って後ろを振り向く。

 すると、そこには期待していた布の人では無く、三石が軍刀を床に引きずりながらゆっくりと迫っていた。

 「なんだ。アイツからの増援か。だけど、自我が無いし、考えられないのは正直いらないんだよな」

 ピエロはそう言って落胆したように迫りくる三石を見る。

 「止まれ」

 ピエロは三石に向けてそう命令した。

 だが、彼は止まらずにピエロと距離を詰め続ける。

 「止まれ」

 ピエロは呆れたようにもう一度命令する。が、三石は全く聞かない。それどころか、ついに引きずっていた軍刀を振り上げてピエロの脳天目掛けて振り下ろしてきた。

 ピエロは間一髪でその攻撃をかわして、背中に抱えていたバイオリンを取り出す。

 「全くどうなってんだ!!」

 ピエロはバイオリンから心惹かれる綺麗な音色を奏でる。

 これがピエロの三つあるチート能力の一つ、催眠の発動条件だからだ。

 これで、普通ならこのまま彼の言いなりになる。

 「ヴヴヴッ」

 三石は低いうめき声を上げて頭を抑える。

ーーー術中にハマった!!

 ピエロは勝ちを確信しつつも、念には念を入れてバイオリンを弾き続ける。

 次第に三石のうめき声は無くなり、薄っすらと残る意識で三石はその場に立ち尽くした。

 「これが弁慶の仁王立ちってやつか。お前だけだよ。俺の催眠喰らって立ち尽くしてる奴」

 ピエロはバイオリンを弾くのを止めて下を向く三石の顔を覗こうと近づく。

 すると、三石が片足を力強く床に蹴りつけた。

 ダンという音と共に三石はピエロの横を電光石火の如く通り過ぎる。

 そのすれ違いざまに軍刀でバイオリンを横に一刀両断した。

 その速さはピエロが手元からバイオリンだった物が落ちる感覚を感じる前にバイオリンはすでに床に音を立てて落下していた。

 唯一、ピエロの右手にはバイオリンを弾くための弓だけが残っている。

 「フゥー」

 低いが、威圧感がある深呼吸が後ろからする。

 ピエロが振り向くと、三石がピエロの頭を目掛けて軍刀を突き刺そうとしていた。

 なんとか首をクイッと曲げて軍刀をかわしたが、三石はどんどん次の攻撃を繰り出して来る。

 たとえ弓で攻撃を受けたとしても、弓と運命を共にしないといけない。

 ピエロは攻撃をギリギリでかわしつつも、三石に話しかける。

 「お前さん、なんでそんなに活発に動けるんだ?」

 三石は一言も返さない。

 無言で刀をピエロ目掛けて振り続けている。

 ただ、三石の顔をよく見てみると、目は半開きで今にもぽっくりと寝そうである。

 催眠は確かに効いている。だが、何かしら催眠を上回る“原因不明の事態”が発生している事は確かだ。

 「畜生、催眠効いてるのに意識があるのかよ。これで三度目だ」

 すると、ピエロが持っている弓が黒いモヤに覆われていた。

 そのモヤは段々と巨大化し、弓の三倍ほどの大きさに膨れ上がる。

 すると、ピエロは勢いよく弓を黒いモヤから引き抜く。いや、もはや弓では無く、両手持ちの典型的な鎌だ。

 ピエロはその鎌を片手でクルクルと回転させている。

 時折、鎌は地面と接触したが、鎌の威力が勝り、地面をえぐった。

 「三石さんよ、これで互角の戦いがいけるな」

 三石は反射的に出て来る手の震えで小刻みに揺れる軍刀をピエロに向けて、相変わらず深呼吸をし続ける。

 一方、布の人の所でも戦闘がおきていた。

 先ほどの放電する砲弾のお陰で目が覚めたガルムとレーベン対布の人だ。

 布の人はレーベンのせいで魔法が出ず、ガルム達と格闘戦をしていた。

 「流石に二対一は辛いな…。その上、どうせレーベンによって魔法が封じられるしな」

 布の人は前に構えて拳を下げて、ガルム達の前で両手を高く上げる。

 「降参かな。…乱暴しないなら」

 ガルムは少し呆気に取られたが、すぐに縄と錆びた手錠を持ってきて布の人を縛り上げる。

 「その、降参しといて何ですが、なぜレーベン氏の封印では無く、物理的に縛り上げるのですか?」

 ガルムは少しクスッとしながら手錠をかけた。

 「…え?その…」

 「お世話様になります」

 仮に布がなくてこの人の顔がしっかりと見えたら、間違え無く今、この人は顔面蒼白であろう。

 小動物のように小刻みに震える布の人をガルムは見張り続ける。

 レーベンは、モワや古鷹、ラソビエを解放した。

 ラソビエはかなり前から寝ていたようで黒い箱から出て来た時からスースーと静かな寝息を立てている。

 モワと古鷹は解放された途端、床にグッタリと寝転がった。

 彼女らを拘束していた魔法は徐々に体力を奪う系統の魔法だからだ。

 レーベンは彼女達にタオルをかけて、駆逐艦秋雲の砲弾が出て来た穴を見つめる。

 穴は放電する弾が跡形も無く消えて、穴の奥までしっかり見える。

 穴の奥には虹色のモヤが見えるが、アレは次元加速域と現世の境界面だ。

 レーベンはその穴に食い入るように見つめる。

 虹色のモヤはどこか人を惹きつける魅力があった。

 「怖いな…」

 レーベンは思わず口から言葉がこぼれた。

 そもそも、“怖い”となんて微塵も思っていない。

 レーベンは穴から目を離して格子状の支えが何本も重なる立体的な天井を見る。

 そして、また穴を覗く。

ーーーコレはヤバイね。

 頭がそう考えていても、首は固まったように動かない。

 目は穴に釘付けだ。

 ちょうどそこに間一髪とも言うべきか、ボロボロのピエロが机の間からヒョッコリと出て、その場にバタンと倒れ込んだ。

 ピエロが倒れ込んだ直後に片目がほぼ白目の状態の三石もピエロの上に被さるように倒れた。

 その様子は布の人からもよく見えて、「何をやってるんだアイツ」と言った。

 間もなくして、我に帰ったレーベンがピエロを縛り上げ、布の人の隣に寝かせ、三石はモワ達の隣で寝かせた。

 それらが一通り終わると、レーベンは布の人の前で腰を下ろした。

 「これで、やっと話が出来るね」

 レーベンは親しげに話し始めた。

 「そうですかい。…個人的にはのんびり話す時間は今は無いと思うな」

 「それはどうして?」

 「まず一つ目にミサイル攻撃が止んだとは思わない?それと、次元加速域を見てきた方がいいよ。たぶん、彼らが絶讃ピンチだから」

 ペラペラと話す内容にレーベンは疑問がありながらも、スクリと立ち上がって次元加速域に向かうとする。

 「あっ!やっぱ待って」

 布の人は走り出そうとするレーベンを大声で呼び止めた。

 レーベンは布の人を見て「やっぱり適当だったんだな」と言った表情をする。

 「フローズンが助けに行ったから大丈夫だよ」

 彼は普通に言った。

 「…それって、嘘か本当。どっち?そもそもこの話は本当なの?」

 レーベンは呆れたような口調で言う。

 だが、布の人は少しも怯えずに「本当」とキッパリと断言した。

 続けて「坂井達は後で来るからその時に聞けば」とまで言った。

 「それじゃ、来た時に聞くね」

 「いいよ。あともう少しでここに来るから」

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