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ラ国内戦

 午前二時。レーベンとフローズンがアルコール飲料を片手に旅行話に熱中している時間、サトウキビ指令室ではガルムとモワが無線機器を弄っていた。

 「ガルム氏。いつになったらこの徹夜の作業の休憩が来るんですか?」

 「我々に紅茶かコーヒーが来るまで、休憩の単語は無い。手を動かせ」

 モワはついさっき緊急治療室から出たばかりで、思うように手が動かない。

 意識自体は昨日からあったが、重症のためラソビエからstopがかかっていたのだ。

 その緊急治療室は現在封鎖中である。

 秋雲が指令室で暴れたからだ。

 緊急治療室でムクリと起き上がった時からすでに異変は発生していた。

 あの時、モワは「君は私より重症なんだから横になってないと」と言ったが、秋雲はモワを少しも見ずに無言で緊急治療室を抜けて行った。

 その後、服や武器を道中手に入れて、指令室や発電室を攻撃したのだ。

 そのお陰でラソビエは発電室の最終修理を徹夜で、モワと夜の海から帰って来たガルムは指令室の最終修理を同じく徹夜でやっている。

 「ガルム氏、ガルム氏。ヒューレムに頼んだ紅茶とコーヒーはいつ来るのでしょうか?頼んでから一時間ほど経過してますが」

 「お菓子でも作ってるんじゃない?」

 ガルムはそれだけ言って手を動かし続ける。

 無線機器は直る気配がしない。

 モワは修理の手を止めて、拳をつくる。

 「フン!!」

 バン!!

 モワは紅茶とコーヒーが来ない怒りを拳に込めて無線機器に鉄槌を下す。

 この鉄槌に無線機器は堪らずピーーーと電子音を鳴らした。

 「何してるんだ?」

 ガルムがいつもと変わらない口調で言う。

 突然のモワの奇行に思考が追い付いていなかったのだ。

 「この無線機器のせいで私はベッドはおろか部屋にも帰れてない。なら、この無線機器を跡形も無く壊せば良いではないか!!」

 「どんだけコーヒーと紅茶飲みたいんだよ…」

 「コーヒーと紅茶くれるのか?俺も欲しいのだが」

 無線機器から三石の声がする。

 彼は外でワ国軍。主にワ国艦隊を見張っていた。

 ワ国艦隊は当初は完全撤退していたと思われていたが、五隻ほどが海域に留まっているのだ。

 「コッチは見張りのために、ニンジン食いまくってるんだぞ。いい加減に他の物をくれ」

 三石は非常に苛ついた声である。

 間違え無く、今彼は機嫌が悪い。

 それは当然の事で、見張りは彼一人だけなので話す相手もいなければお使いを頼める相手もいない。

 その上、先ほどの奇襲作戦の疲れを取らずに見張りをしている。

 交代の人を用意したいが、サトウキビはただでさえ人手不足であり、ヒューレムもそこまで万能ではない。

ーーーせめて、彼の要望に答えるくらいの事をせねば。

 ガルムはモワの鉄槌で直った(?)無線機器をそのままに、厨房へ向かう。

 そこでコーヒー豆や紅茶をしまっている棚を開ける。

 「コーヒーと紅茶が無い…。why?」

 棚にあるべき筈の缶や袋が無いのだ。

 全く無い。

 ガルムは厨房を八回まわったり、厨房の電気を付けたり消したりしたが、棚の中身は変わらなかった。

 「スウーー」

 ガルムは深呼吸をして精神を落ち着かせる。

 すると、厨房から指令室まで一気に走り、モワを呼ぶ。

 「モワ氏。今から言う任務を遂行すれば紅茶を淹れて来てやろう」

 「待ってました!!」

 モワはやる気満々の顔で息切れをするガルムの顔を覗く。

 「任務は今から第三食糧庫に行って、そこから肉をとって来なさい。その肉を厨房で焼き肉にして三石に炭酸水と一緒に持っていく。以上」

 「よっしゃ楽勝!!」

 モワは走って指令室を飛び出す。

 モワが指令室から居なくなると、ガルムはマコモ茶を作り始めた。

 四十分後、モワはヘトヘトになって指令室に帰って来た。

 「まさか、皿が無くて箱ごと持って行くはめになるとは…」

 モワはわけのわからない事をブツブツと言っている。

 そこにガルムはマコモ茶を渡した。

 「労働の対価」

 「これはありがとう」

 モワは近くの椅子に腰掛けてゆっくりとし始める。

 「あっ。そうだ」

 ガルムは思い出したように無線機器の前に立つ。

 

 同時刻。ナトウェール湾旧第三島、巡洋艦広丙艦橋。

 「方元帥!!謎の無線がきました。あなた宛だそうですが」

 ガタンバタンゴトン

 薄暗い艦橋に夜勤の水兵が大声を出すと、何かが倒れるような音がした。

 すると、艦橋の奥で一つの人影が起き上がる。

 「なんだ…。俺宛か…」

 乱れた服装を整えながら方が言う。

 彼の声は如何にも起きたばっかりの声であった。

 「ハイ。“ひるのふえ”と名乗る企業から」

 「分かった。今すぐ行く」

 方は水兵の後に従って無線室についた。

 「すまない。全員席を外してくれないか」

 無線室の水兵達は方にそう言われると、おぼつかない足取りで部屋を出た。

 水兵達が居なくなると、方は無線をとった。

 「こちら巡洋艦広丙、方だ。どうぞ」

 「こちらヒルノフエ領サトウキビのガルムです。方さん、連絡があります」

 無線の感度は非常に良好である。

 方は片手に鉛筆を持って、自分のノートにガルムからの報告を書く。

 ガルムからの報告は主に二つでサトウキビがワ国からの襲撃を受けた事。襲撃してきたワ国艦隊は北上して逃げた事だ。

 「…の以上二点です」

 「そうか。ありがとう。…ところで、昨日の国際連盟会議の内容は知ってるか?」

 「いえ、全く」

 「そうか。では、今から伝える事をレーベンに話しておいてくれ。…いや、そんな時間は無いな。…“クロイ戦争初の国際連盟会議はラ国内戦を決定付け、クロイ戦争に大きく影響する”これを伝えておいてくれ」

 方はそれを言うと、すぐに無線を切ろうとした。

 「少し待ってください!!」

 ガルムが大声を上げる。

 「何だ?」

 「あの、ある事を実践して欲しくて、レーベン曰く、成功すればピエロとかがいる集団を倒せるだろうって」

 「ふむ。それで、どんな事を実践すればいい?」

 しばらくして、方は無線を切った。

 そして、巡洋艦広丙の主要人物を起こして回る。

 起こされた人達は急いで服装を整えた。

 その間に方は露天艦橋に戻っていった。

 「方元帥。どうなさいましたか?」

 服装を整えながら露天艦橋にやって来た砲雷長が言う。

 だが、方は無言で仮想敵艦隊(新ラ国艦隊)を見つめている。

 「提督?」

 「ん?」

 もう一度聞くと、方はやっと反応した。

 彼は視線を仮想敵艦隊から砲雷長に向ける。

 「その、提督。どうなさいましたか?」

 「砲雷長。国王を含める全軍に緊急通達。今が総攻撃のチャンスだ」

 砲雷長は方の言葉にひどく驚いた。

 「突然何を言い出すのだ」と言う顔だ。

 それでも、彼の実績とこれまでの指揮能力を信じて艦橋から無線室に駆け込む。

 午前五時。

 この頃には陸軍も含めてほぼ全員が起床し、総攻撃の準備をする。

 一方、方はラ国軍軍会議に出席していた。

 会議は巡洋艦広乙の艦尾甲板で行われている。

 もちろん、その会議には救出された国王も出席している。

 「さて方元帥。なぜ今が総攻撃のチャンスだと国王に進言なさったのだ?」

 陸軍の第十八師団師団長が聞く。

 方はその質問に胸を張って答えた。

 「現状、ナトウェール湾にはワ国主力艦艇はおらず、未熟な新ラ国艦隊がいるだけです。今なら我艦隊が間違え無く制海権を握れます!!制海権が握れれば、洋上の憂いを断ち切る事ができ、我陸軍が遠慮なく暴れられます」

 彼の説明は陸海軍共に納得出来る内容であった。

 だが、彼の説明はとても理想的なモノに感じられる人達がいた。

 その中の一人、ラ国国王が方に質問を投げ付ける。

 「なるほど。確かにそうかも知れないな。だが、ワ国艦隊が帰って来たらどうするつもりだ?我艦隊では到底敵わないのであろう?」

 この時、「敵艦隊が北上して行ったので問題無いでしょう」と言えたらどれほど楽であっただろうか。

 方は仕方無く嘘を付き始めた。

 「私が放った諜報員によると、現在新ラ国艦隊用の石炭しか港に無く、それによる燃料不足を恐れてワ国艦隊は北上して行ったそうです」

 会議はザワザワとなり、落ち着きを無くした。

 彼らは方の事を手際が良いと言っていたり、ここに来てやっとまともに作戦を考え始めた者達もいる。

 「静まれ!!」

 国王がやや枯れた声で叫ぶ。

 それでも、ザワザワとしていた雰囲気は一瞬で消え、静かになった。

 「方の諜報員に全幅の信頼を置き、作戦を練る」

 こうして、国王を中心にナトウェール城奪還までの作戦を陸海軍共同で練った。

 だが、決まった作戦は陸海軍同時に総攻撃を仕掛ける内容である。

 細かい作戦は各々で立ててくれと言っているようなものだ。

 陸軍は知らないが、海軍は方を中心に作戦を立て、早速その準備に取り掛かり始めた。

 午前七時。太陽はいつもと変わらずに昇り、ガンガンの日光が照り付ける。

 方は巡洋艦広丙の露天艦橋で敵艦隊を見つめていた。

 右舷の眼下には巡洋艦広丙の出港時間をどこから聞いたのか、たくさんの島民が集まっている。

 「午前七時。時間だな」

 方は砲雷長を見て頷く。

 すると、砲雷長は艦内全体に響く大声で命令を出した。

 「総員、出港用意!!」

 その声を聞いてラップが愉快な音を出す。

 間もなくして、巡洋艦広丙は徐々に岸壁から平行に離れて行く。

 「いってらっしゃーい!!」

 「頑張って帰って来いよ!!」

 島民はそれぞれの激励の言葉を巡洋艦広丙に叫ぶ。

 その言葉に紛れて特設島民オーケストラ団が国歌を演奏している。

 そうしている間にも巡洋艦広丙は陸地から遠のく。

 「元帥。そろそろかと」

 砲雷長が方を見て言う。

 確かに、陸地からは二百メートルほど離れている。

 「そうだな。曳船を離れさせろ」

 その命令を聞いた伝令兵が左舷に行って二隻の曳船にその場を離脱するように指示する。

 二隻の曳船は巡洋艦広丙を引っ張るのを止めてその場をさっさと離れた。

 巡洋艦広丙の艦首はナトウェール城側に向いている。

 あとは進むだけだ。

 「機関始動。速力、第二戦速」

 艦橋から航海長の声が聞こえる。

 間もなくして、巡洋艦広丙は白波を立てて堂々とナトウェール湾を突き進み始めた。

 「右舷より、巡洋艦広乙、巡洋艦広丁その他全駆逐艦接近」

 見張り員の指の先にはラ国艦隊の全艦艇がいる。

 方は発光信号を使って艦隊に開戦前演説をするのであった。

 「現在、我伝統ある海軍は“旧ラ国艦隊”と呼ばれているそうだ。“旧”がつくと言うことはかつて存在した。つまり、負けたと言うことだ。だが、我々は負けていない。現に、ここに艦隊が存在するのだから」

 艦隊の士気の高さはその場の空気から感じ取れた。

 「これは、勝てますネ」

 砲雷長は勝ちを確信しきっていた。

 だが、方は頷かなかった。

 彼には同時進行で別の任務もあるからである。

 その任務はガルムから無線越しで言われたものである。

 「敵味方の死者を極力少なくして欲しい」

 分かりやすいが、この事が如何に難しいか、方は身を以て知っている。

 済まないが、無理である。

 此方が躊躇すれば此方がやられる。

 しかし、命令を少しでも遂行しようと考えた結果が今ある作戦だ。

 駆逐艦による雷撃総攻撃。これ以外に思いつかなかった。

 敵艦隊はワ国の黎明期の木造軍艦や装甲艦を主力としている。

 どの艦も基本的に魚雷を一本当てておけば撃沈できる。

 そして、敵艦隊は現在呑気に停泊している。つまり、動かない的だ。

 作戦は停泊中の艦隊に一気に魚雷を当てる単純な作戦だ。

 その作戦の主役の駆逐艦は十八隻である。

 

 ラ国海軍

 陸軍上陸支援戦隊 司令官方元帥

 巡洋艦広丙 巡洋艦広丁 通報艦一隻

 殴り込み雷撃戦隊 司令官トン提督

 巡洋艦広乙

 通報艦一隻 駆逐艦十八隻

 

 新ラ国海軍

 中央砲郭式装甲艦四隻

 蒸気コルベット二十九隻

 蒸気推進型戦列艦十隻

 特設巡洋艦三隻


 新ラ国海軍艦艇は港の沿岸線に沿ってお行儀良く停泊している。

 しかも、どの艦も動く気配が無い。

 強いて言うなら、やっと煙突から煙を出し始めている艦もいた。

 駆逐艦は巡洋艦広乙に乗っているトンの命令で敵艦に突っ込む。

 殴り込み雷撃戦隊は巡洋艦広乙を先頭に敵艦との距離を縮めていた。

 「航海長、現在の速力は?」

 トンは双眼鏡で敵艦を見つめたまま聞く。

 だが、艦橋に吹き荒れる風のせいでトンの声は全く聞こえていなかった。

 そのため、航海長は無言で舵を握ったままだ。

 「何ノットだ?」

 トンは堪らず怒鳴り声を上げる。

 すると、やっと聞こえたのか、航海長は「15ノットです」と答えた。

 「本艦と通報艦の速力はそのまま。駆逐艦は最大速力で敵艦に突撃させろ!!」

 トンの号令は伝令兵によく聞こえ、伝令兵は駆逐艦突撃の旗をマストに掲げる。

 巡洋艦広乙の後ろで連なっていた駆逐艦はその旗を見ると列を崩して巡洋艦広乙を左右から追い抜いた。

 十八隻の駆逐艦は“赤道守りのバーサーカー”の異名に負けない暴れっぷりであった。

 「全駆逐艦、艦首魚雷発射!!」

 方の命令で全駆逐艦が魚雷を発射する。

 十八本の魚雷はそれぞれの標的にまっすぐ向かって行く。

 しばらくして、敵艦からビルの4階ほどの高さまでありそうな水柱と爆発音が聞こえた。

 この一斉射で大局は決定した。

 魚雷を受けた艦は何度も激しい爆発が起こり、炎と煙に巻かれながら海に引きずり込まれる。

 炎は他の艦にも燃え移り、とても消火出来る状態では無くなっていた。

 「駆逐艦より襲撃!!左舷戦闘配置!!」

 近くまで接近した駆逐艦は敵艦からの掛け声が手に取るように聞こえていた。

 駆逐艦は甲板に搭載されている魚雷を放つために舷側を敵艦に向ける。

 流石に、この頃になると敵艦も反撃を開始した。

 だが、命中精度が恐ろしいほど低く、駆逐艦の周りに薄い水柱を立てるだけであった。

 そこに駆逐艦は容赦なく魚雷を投下する。

 魚雷を投下して間もなく、敵艦から水柱と火の手が上がり、装甲艦、戦列艦関係無しに海に船体を隠して行く。

 その光景は巡洋艦広乙からしっかりと見えていた。

 「トン提督、雷撃成功です」

 見てわかる事実を幕僚が目を輝かせながら言う。

 「そうだな。撃沈艦艇数を数えろ。本艦も動くぞ」

 新ラ国海軍艦艇は炎と煙に包まれている。

 すでに大半の艦は使い物にならない。

 そんな状況でも脱出を試みる蒸気コルベットがいた。

 「船長。総員戦闘配置につきました」

 「よくやった。航海長、一気に外洋まで駆け抜ける。機関一杯!!」

 港全体が火と煙に覆われているため、出港準備はバレずに容易く完了していた。

 その蒸気コルベット、白竹丸は片舷大砲六門、計十二門を有する船であり、ワ国では廃船扱いであった。

 「船長、現在速力2ノット。左右に無数の障害物あり」

 白竹丸の左右には炎上しながら沈みゆく味方船がいる。

 その味方船が出す煙は視界を大幅に遮った。

 まるで黒い濃霧である。

 その黒い濃霧は甲板を飲み込み、すぐ隣の人すら見えていない状況となった。

 出港してから八分ほどたっただろうか。

 白竹丸に一隻の艦がトドメを刺すために近づいていた。

 「船長!!10時の方向に艦影あり!巡洋艦広乙です!!」

 黒い濃霧を切り裂いて反航戦の状態で現れた巡洋艦広乙は白竹丸に主砲、副砲を向けている。

 巡洋艦広乙との距離は百メートル未満であった。

 「右舷砲撃ちまくれ!!」

 白竹丸の船長は叫んだ。

 その声に呼応するように大砲は動いたが、角度が足りず、有効な攻撃が出来なかった。

 「トン提督、どうなさいますか?」

 巡洋艦広乙の露天艦橋で砲雷長が確認するように言う。

 トンはすぐに命令を下した。

 「目標は殲滅だ。撃沈しろ」

 巡洋艦広乙の主砲、副砲は火を吹いた。

 主砲の15cm砲弾は白竹丸の薄い木造装甲を貫き、白竹丸の左舷側で水柱をたてる。

 もっとも効果を与えたのは副砲の12cm砲弾であった。

 なぜなら、12cm砲弾は過貫通はせずに白竹丸の船内で爆発する。

 砲撃戦が始まってから五分ほどで白竹丸は炎上し、船体は真っ二つに切断された。

 その後、白竹丸は大量の煙を空に残して海中に没した。

 白竹丸沈没後、新ラ国海軍はあっけなく降伏。

 ラ国陸軍は降伏した場所からの上陸を行い、陸からも海からも侵攻した。

 陸軍は道中、新ラ国海軍に所属している蒸気コルベット二隻と蒸気推進型戦列艦三隻を拿捕し、トン提督に引き渡した。

 トンはその蒸気コルベット二隻と蒸気推進型戦列艦三隻を見るべく、砲雷長と共に乗船していた。

 「提督、この船どうします?」

 この蒸気コルベットはラ国海軍には無用の長物である。

 速力は6ノットほどで武装は到底現代艦には敵わない。

 「そうだな。この船は二隻とも陸軍に渡すか」

 これで二隻の蒸気コルベットの未来は決定した。

 さて、残った三隻の蒸気推進型戦列艦は「どうせ街はボロボロだし、仮住居として使うか」と言う考えの元、宿泊艦として海軍による内装の工事が始まった。

 一方、陸軍では快進撃が続いている。

 新ラ国陸軍の武器は最新鋭の武器である事に間違えは無いが、使い方に慣れていない事が災いして、銃撃戦になるとたちまち撤退していた。

 この様子はダリアに鮮明に報告されていた。

 「ワ国から供与された最新鋭の歩兵銃を持ちながら連敗撤退とは何事だ!!」

 彼は報告しに来る兵士に血管を浮き上がらせるほど怒鳴った。

 怒鳴られた兵士の中には涙目になる者もいた。

 「こうなればナトウェール城で徹底籠城戦だ。門を閉めろ。食料を守れ!!」

 ダリアの命令により、ナトウェール城は門を閉め、ラ国陸軍はナトウェール城をグルリと包囲した。

 「救出は何時なのか?」

 ダリアの前には自らと同じほどの身長をもつリキ大佐が鎧越しのお腹を掻いて立っている。

 彼の態度は失礼そのものだった。

 「そうですな。我海軍が助けに来てくれるでしょう」

 「我海軍?貴様の海軍は眼下で炎を上げているぞ!!」

 リキ大佐は大笑いしながら言う。

 すると、ダリアは眉間にしわを寄せてリキ大佐を睨んだ。

 「確かに、第一艦隊は全滅した。だが、第二艦隊が我々には残っている!!」

 その言葉を聞いてなお、リキ大佐は笑い続けた。

 「第二艦隊は残っている。バカバカしい。結局は第一艦隊も第二艦隊もワ国海軍から出た廃棄寸前のゴミを集めた役立たず集団だろ!!」

 その後もリキ大佐は散々新ラ国海軍と陸軍の悪口を騒ぎ立てた。

 彼の声は城の至る所に聞こえ、兵士達の大幅な士気の低下は免れなかった。

 だが、ダリアも言われているだけでは無い。

 「ではどうしたらここから脱出出来る?案は全く無いであろう。だったら、艦隊が来るまで立て続けろ」

 「流石に城だから脱出口があるだろ?我々はそこから脱出する!!」

 そう言ってリキ大佐は部下や同僚を引き連れて城から姿を消した。

 ダリアはほとんど人がいなくなった王の間で一人、玉座に座っていた。

 「これで、脱出口は使えないな。いや、そもそもラ国王が知っているな…」

 彼は呟くように言った。

 だが、彼には今、他人を心配しているほどの余裕は無い。

 それよりもいかにしてこの攻城戦に勝つかを考えなければならない。最悪でもこの城から脱出すれば再起のチャンスは幾らでもある。

ーーーここは、第二艦隊に全てを賭けよう。

 ダリアは玉座の上で神に祈った。

 第二艦隊との戦闘が始まれば包囲に綻びが出る。その間を全力で突破するのだ。

 この強行突破の作戦は陸軍の主要人物に伝えられ、早速その準備が行われた。

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