サトウキビ防衛戦、フローズンの帰還とワ国の撤退
日が水平線に沈み、無情な夜の闇が辺りを覆い尽くした。
空はドス黒い地上とは違い、無数の星が明るく輝いている。
そんな中、サトウキビの次元加速域にある港に一隻の潜水艦が浮上した。
いつ見ても、壮観な潜水艦の浮上はガルムの心を少しだけ軽くした。
潜水艦の名前は次元加速域探査用潜水艦“伊七”だ。
見分け方は潜水艦の艦橋にイ7と書かれている。
そんな艦橋に一人の金髪の女性が登ってきた。
「Hi!」
重く沈んでいるガルムの心とは正反対の明るい声がこだまする。
その金髪の女性は潜水艦から降りると、ガルムの肩をポンポンと叩く。
ガルムとはかなり身長差があり、この人の方が身長は高い。横に立つと、親子のように見える。
「Are you OK?」
ガルムは彼女の問いに答えず、ずっと黙っている。
「Sorry.…今、何が起きてるの?」
この人は名前をフローズンと言う。
元々は違う名前だった気がするが、長い年月が経ち、今の名前になった。
今の戦闘の実力はサトウキビ内随一で、レーベンをも凌ぐ実力者だ。
ガルムは今の状況とそれに至った経緯を全て話した。
「OK.だったら今夜で軍艦一隻は沈めたいね」
「えっ、それは」
フローズンから出た言葉はとても無理難題であった。
自動砲撃指揮装置は壊れ、爆撃と艦砲射撃で経年劣化が激しかった装置のほとんどが壊れている。
その影響で今は大砲を人力でしか動かせない状態だ。その上、夜の闇で敵艦があまり見えていない。
とてもじゃないが、無理難題である。
「大砲を動かす人手も足りませんし、何より、夜の闇で狙いが付けられません」
「フッフッフ。甘いね。人手なら無尽蔵に出て来るじゃないか」
そう言ってフローズンは伊七の繋留作業を行う白い人型を指す。
アレは、パソコン岩から生まれてくる人型自立機械“サトウキビ”だ。
「いい加減に、サトウキビとか私達がつけた名前じゃなくて、本名の準人間型自立ゴーレム、“ヒューレム”って呼んであげようよ」
初めて聞く名前だ。
恐らく半年の探索中に見つけた新情報の一つであろう。
彼女はサトウキビから定期的にこの世界の謎や国際情勢を探りに半年間の旅に出ている。
今日はちょうど半年の旅が終わり、帰って来たところなのだ。
「ヒューレムに大砲を任せておいて、私達で直接敵艦を沈めに行くよ」
「私達で直接?大砲で沈めればいいじゃないですか」
「大砲や魚雷、ミサイルだけが軍艦を沈められるわけじゃない。私達のこの身体を使って沈める事も出来る」
フローズンの言っている事がガルムには理解出来なかった。それでも、フローズンからの指示には忠実に従う。
彼女からの指示は「強そうな人を連れてきて!」という抽象的な指示であった。
一応、ガルムは砲撃指揮でヘトヘトの坂井と三石を連れてきた。
「ガルムさん。これは?」
坂井がげっそりとした顔でガルムから着させられたダイバースーツと背中に背負わされた酸素ボンベを見る。
「その説明は私からしよう」
二人の前にフローズンがヒョイと現れて作戦の説明をする。
坂井と三石は「この人誰だろう」と思いながらも眠い目を擦って説明を聞いた。
作戦の内容は全員で魚雷艇に乗って手前にいる敵艦の近くへ接近。そこでダイバー組の三石、坂井、フローズンが爆弾を持って更に各々敵艦に近く。敵艦に近づいたら爆弾を艦底部に設置して魚雷艇に帰投する作戦だ。
ちなみに魚雷艇の操縦はガルムだ。
「それじゃ、午後十一時まで解散!!」
フローズはそう言って解散させたが、坂井と三石は酸素ボンベを背負っているため、基地内をオロオロ歩く事が出来なかった。
そこで時間までサトウキビの港に繋留されている艦の見学に行っていた。
午後十一時。
三石は時間ピッタリに集合した。
坂井はというと、不安と緊張でお腹を下し、トイレに閉じ籠もっていた。
ガルムとフローズンそして三石は無言で魚雷艇に乗り、見送りは戦闘中ずっと寝ていて他の人と顔を合わせづらい猫のコロがしている。
魚雷艇は機関の音が全くしない無音のままサトウキビを出る。
次元加速域を出た合図の視界がしばらく暗くなる。
色彩が戻ると、目の前の軍艦が探照灯を遠慮なく付けて、此処ですよと言わんばかりに明るかった。
「さて、そろそろ作戦開始だけど、全ての艦艇は最後にレーダーを見た感じ、全く動いてないから安心してね」
フローズンはそんな事を言いながらゴーグルを付ける。
三石もゴーグルを付けて、ガルム以外の表情が全く分からなくなった。
艦艇に近づくと、フローズンは人差し指、中指、薬指を立てる。
それが、薬指、中指と下げられて行く。
「Good luck」
フローズンが言ったと同時に人差し指が下げられ、二人は海に飛び込む。
海水は暖かく、パフォーマンスが十分発揮出来る状態だ。
三石はスイスイと自らが定めた標的に泳いで行く。
フローズンも同様である。
実はフローズンが狙っていた艦は本人は全く知らなかったが、試験艦竹であった。
この時、クラッキは前甲板で一人、コーヒーを飲んでいた。
クラッキの忙しい日々の中で趣味の野球と並ぶ楽しみとなったコーヒー。
艦の上にいる中では唯一の楽しみだ。
そんな至福な時間に、まさか敵が接近しているなど、微塵も思っていなかった。
フローズンは酸素ボンベと一緒に背負って来た爆薬を左舷に設置する。
設置すれば後は離れるだけだ。
ドーーーン
試験艦竹の左舷から一本の高い水柱が上がる。
試験艦竹は何かに掴まっていないと倒れる程揺れた。
「何事だ!!」
乗組員達はすぐに艦内のあちこちを走り回り、原因を突き止めようとした。
フローズンはこの混乱に紛れて試験艦竹の甲板にこっそりと上がる。
クラッキはというと、飲んでいたコーヒーが白い服にかかり、非常に不機嫌なまま艦橋に上がった。
「何が起こっているか?」
「はっ。現在、原因不明の爆発が発生し、左舷中央に大穴が空いております。また、その穴から海水が入っています」
航海長は即座に答えた。
周りの幕僚達も彼に同調する様に頷く。
ーーー海水が入り込んだか。もうこの艦もお仕舞いだな。
クラッキはこの艦の設計を嫌と言うほど知り尽くしていた。
なぜなら、かつてこの艦は当時大佐だった“方”という人と一緒に設計したからだ。
方は常に革新的なアイデアを出していて、軍令部や海軍工廠からは注目の的であった。
だが、革新的過ぎるアイデアが故に採用されない事が多かった。
この艦にも採用されなかったアイデアがある。
それは他国の装甲艦よりも隔壁を多くする設計である。しかし、このアイデアは隔壁が多くあり過ぎて速力が低下してしまう事を嫌った軍令部が却下した。
だが、このアイデアは今では標準的な設計となり、新造艦艇には全てこのアイデアが用いられている。
もし、この艦にも隔壁を沢山設けて入れば、沈む可能性は更に低くなっていただろう。
クラッキは悪足掻き程度だが、次々と命令を下す。
「最悪、機関が海水に沈んでも構わん。艦中央部を左右から完全に閉じろ。これ以上の海水の侵入は許さん」
「了解しました」
伝令兵はいつも通り、命令を聞くと艦橋から飛び出して命令を伝えて行く。
こうしている間にも艦は左舷に5度、6度と傾く。
伝令兵が行ってからしばらくして、一人の全身ビショビショの乗組員が艦橋にやって来た。
「ダメです。海水は留まるところを知りません」
この報告を聞いて、遂にクラッキは本艦を放棄する事を決意した。
「総員、甲板に集まれ。それと、全ボートを降ろしておけ」
「了解しました」
ビショビショの乗組員は水分を吸い込んで重そうな服をものともせずに走って行く。
クラッキは他にも駆逐艦に救助要請を行った。
乗組員は刻一刻と傾きつつある甲板に集合する。
すでに両足に力を込めていないと立っていられない程傾いていた。
プルプルと震えて立っている乗組員達の前にクラッキが現れる。
彼は試験艦竹で発する最後のスピーチを始めた。
「本艦はすでに限界を超え、海に沈むのも間もなくであろう。よって、本艦の海軍旗返納式は大幅に短縮する」
乗組員達はザッと音を立てて敬礼しながら艦首に掲げられている軍艦旗を見つめる。
だが、いつまでたっても旗は降りなかった。
本来であれば旗を降ろす人達が泣き崩れていたからである。
その泣き声に感化された乗組員達が次々とすすり泣き、式は一向に進まなかった。
「本艦は」
クラッキは軍艦旗を降ろさずに話し始めた。
彼の声はどこか震えている。
「進水1881年、就役1883年。実に、就役してから20年間、我海軍の発展並びに国家繁栄の礎となってくれた。…ッ!」
クラッキは言葉が喉につっかえた。
かつて、方大佐と共に本艦を設計していた記憶が鮮明に蘇って来たからだ。
忘れる事の出来ない栄光の時期であり、人生で最も自らに存在意義を見出せた時間。
本艦、“装甲艦”竹の初代艦長を務めていた期間。
今思えば、クラッキ大将という人物はこの装甲艦、現試験艦竹のお陰である。
「…現時刻を持って、試験艦竹を、解役とする。総員、退艦」
元試験艦竹乗組員は次々と暗い海に飛び込んで行く。
その姿をクラッキは艦橋から見つめていた。
「382名、全員無事に脱出したな」
誰もいない艦橋でクラッキはただ一人、元乗組員達が泳いでいる海を眺めている。
元試験艦竹は何かに掴まらないと立てないほど傾いていた。
なので、クラッキはこの横長の艦橋のど真ん中にある冷たい鉄の柱にしがみついている。
「…航海長に遺書を渡すのを忘れていたな」
「ワ国海軍の軍人もだいたいそんな感じなの?」
突然艦橋に全身真っ黒な服を着ている人が現れた。
真っ黒な服は光を反射しているほどツルツルで何故か濡れている。
顔には眼鏡が肥大化した様な物があり、ほとんど顔が見えない。
「貴様は何者だ?」
クラッキは怯むことなく謎の人物を睨む。
「私はフローズンという者だよ。本名は思い出せないけど」
「本名が思い出せ無いか。良くそれで名乗ろうと思ったな」
フローズンは興味深そうに柱にしがみつくクラッキを見つめる。もっとも、クラッキはフローズンの顔が良く見えないので、彼女がどんな表情なのか全く分からなくなった。
「ねぇ、youはこれからどうするの?」
「この艦と運命を共にする。設計者や初代艦長として一人には出来ない」
フローズンはますます興味深そうにする。
すると、辺りをキョロキョロと見回してからまたクラッキを見つめる。
「どうやら、この艦は過去一度も死者を出して無いようだけど、最後の最後にその“名誉”に君が泥を塗るのかい?」
クラッキは心の底から何が込み上げてくるような気がした。
設計者として誇らしいような嬉しいような。
だが、それらの気持ちを押し殺すように“理想的な軍人としての生き様”が心に巣喰っている。
この艦の死者零という誇りと自らの軍人としての誇り。
クラッキはこの二つの感情を天秤に賭けた。
「フローズンよ。この先の例えば百年後の未来、誰が本艦の名前を覚えているというのだ。誰が死者零人という名誉を知っているのだ。結局、いづれかは忘れられる。なんなら今後、本艦よりも更に魅力的な艦艇が現れるだろう。みんなそっちに引っ張られて行く。歴史上、そうやって忘れ去られた船は沢山居るだろうよ」
クラッキは縄を取り出して、自分を柱に縛り付け始めた。
「確かに歴史の教科書には載らないね。だけど、“装甲艦や試験艦として激戦を潜り抜けたのに死者零名、奇跡の艦”ってなってそうじゃない?」
クラッキは苦い顔をして腕を止める。
「“奇跡の艦”では無く、“実力の艦”にして欲しい所だな」
元試験艦竹に海に沈む時が近付く。
左舷から一気にクルリと半回転し、フジツボが付いた赤い腹を星空に向けて海上に漂う。
元乗組員は救助に来た駆逐艦に乗りながら赤い腹を見せる試験艦竹を見る。
その目からは海水とは違う濃さや感情の液体が流れていた。
ブオオオオン
吹奏楽器のような音と大量の泡を吐き出しながら元試験艦竹は艦首から海に引きずり込まれる。
艦首が沈んでいくに連れて、艦尾甲板が海面から少し顔を出したが、それは一瞬の事で、次の瞬間には大量の泡だけが残っていた。
あの全長97mの船体は完全に海に没したのだ。
各艦艇では手空きの乗組員達が甲板に集合し、竹沈没地点を見つめる。
「総員、敬礼!!」
ザッという音と共に左手を左側の額にあてる。
誰も一言も喋らない。
聞こえるのは波の音と、バシャバシャと水を叩くような音だ。
「誰か泳いでくるぞ!」
戦艦川竹からそんな声が上がる。
戦艦川竹は探照灯をバシャバシャと音の鳴る方へ向けた。
「クラッキ大将だ。浮き輪を投げろ!!」
乗組員は走って艦内にある浮き輪を取ってきて、海を泳ぐクラッキ大将に投げ付ける。
クラッキはその浮き輪を受け取ると後は戦艦川竹乗組員が甲板まで引き揚げてくれた。
クラッキが甲板に上がると、彼の付近の甲板はすぐに濡れてしまう。
だが、彼はそんな事御構い無しに戦艦川竹の艦橋に上がる。
彼の歩いた後はビショビショで、木製の床にしっかりと足跡が残っていた。
彼は艦橋に入ると真っ先に戦艦川竹艦長の前に近づいた。
「何をやってるか!!」
突然、怒鳴り声を上げた。
川竹艦長はこの怒鳴り声に身体を硬直させる。
「何故各艦艇に行動命令を出さなかった。もし攻撃が続いていれば全滅の可能性だってあったぞ!!」
まさにその通りであり、艦長は口を一の字にさせて下を向く。
そこに、伝令兵が恐る恐るか細い声を上げる。
「先ほど、試験艦竹と同様の攻撃を受けた練習巡洋艦小枝型一番艦小枝が付近の浅瀬に乗り上げ、大破着底しました。死者、行方不明者は奇跡的に零との事です」
それだけ言うと、伝令兵は逃げ出すように艦橋から飛び出して行った。
クラッキはその伝令兵の後ろ姿を見送ると、再度、川竹艦長を睨む。
「このままでは我が艦隊が一方的にやられるだけだ。艦隊、針路を北に向けよ。ワ国、十劉湾に帰投するぞ」
「何ですと!?」
この決定にはずっと黙り込んでいた戦艦川竹艦長が異議を唱える。
他の幕僚達も次々と抗議の声を上げた。
だが、クラッキはそれらの声を全て無視し、自らの濡れた手で戦艦川竹の舵を掴む。
艦隊は戦艦川竹を先頭に疑問と不満を抱えながらワ国、十劉湾に向けて前進する。
その姿をフローズンは三石と共に魚雷艇の上から見ていた。
「よしよし。クラッキ大将との約束通りだ」
フローズンはそう言うと、ガルムに帰投するように言い、三人とも無事にサトウキビに帰還した。
魚雷艇を岸壁に繋留すると、三人はそれぞれの部屋に戻る。
フローズンが自室に戻った頃には時刻は午前零時になっていた。
フローズンは黒い水着を脱いで、シャワーで多少身体を洗った後、ピンクと白のパジャマを着てベッドに潜る。
半年間、部屋を留守にしていたが、部屋はホコリ一つ無い清潔な状態に保たれていた。
ガルムが掃除やら洗濯をしていたのかと思うと、いつかお礼を言わないとと思う。
彼にはお世話になりっぱなしだ。歳上なのに、不甲斐ない。
コンコンコン
扉を叩く音がする。
「ハイハイ、ちょっと待ってねー」
扉を開けると、レーベンがちょこんと扉の前に立っていた。
「Hi レーベン。こんな真夜中にどうしたの?」
「ねぇ、ちょっとだけ話さない?」
そう言ってレーベンは片手にぶら下げているビニール袋をフローズンの前に出す。
フローズンはレーベンを部屋に入れて、ベッドの上で話す事にした。
レーベンはビニール袋の中に入っている炭酸水とお菓子を取り出しながら話し始める。
「この半年間はどうだった?」
「まさかレーベン、私の旅行話を聞きたくて、こんな夜中に訪ねて来たのか?」
レーベンは恥ずかしそうにコクリと頷く。
「私も最近まではずっとローマⅡに引きこもってたからね。あと、フローズンと色々と話しておきたいなーって思ったから」
彼女の明るい声に押されてフローズンは炭酸水を飲みながら旅行話を始めた。
「今回旅行に行ったのはラ国から南にあるフィランチ連邦でね、とても羊が多く居たよ。他にはフィランチ連邦がイ国に発注していた最新鋭海防戦艦“ワイヤー級が圧巻だったね」
「ワ、ワイヤー級…」
レーベンは海防戦艦の名前に思う所が有りながらも、その後も続くフィランチ連邦の旅行話を頷きながら聞いた。
気が付けば時刻は午前三時になっていた。
レーベンとフローズンの片手にはアルコール飲料が握られている。
レーベンの目の前には顔を真っ赤にしたフローズンが呂律が回らない舌で喋り続けている。
「それで、私がロイヤルストレートフラッシュで勝ったら、そいつがイカサマだって騒ぎ始めてよ。私ってつい言葉より先に拳が出るじゃん。それで殴っちまってな、一発KOだったぜ。アハハ」
話の前後が思い出せ無いが、とりあえずフローズンと一緒に笑う。
このままでは他にも色々と話しに来たのに、話さずに終わりそうだった。
そこで、レーベンは強引に話したい話題に話をすり替える。
「ところでさ、フローズン、マイナス値の指導者って覚えてる?」
「覚えてるよ。あのピエロ野郎が六十年前に言っていた人だろ?」
フローズンはそう言いながら首の古傷を撫でる。
この傷は六十年前、ピエロと六度目の戦いの時についたモノだ。
その時、レーベンはいなかったが、ガルム曰く、非常にヒヤヒヤしたとの事だ。
「六十年前はマイナス値の指導者だったけど、今はあの方って呼ばれてる」
「また変わったのか。四十年事にコロコロ名称変えるから覚えられないよ」
「だから、三年以内に決着を付ける」
驚いた表情でレーベンを見る。
いくら頭にアルコールが回って酔っていても、そこら辺の判別はついていた。
そして、真っ赤だった顔はだんだんと青くなる。
「レーベン、血迷った訳じゃないよな?彼奴等の実力は最低でも二線クラスだぞ。しかも、そこに未来予知までついてる。だから、数百年間、ヒルノフエ創立当初から戦って来たんだぞ?」
「それは、今までヒルノフエの物量に頼った力押しで戦ってきたから。だから、今回は策があるの」
「策?」
「そう。未来予知を破壊する策」
ーーー未来予知を破壊するとは?
フローズンは疑問には思ったものの、言葉には出さなかった。
だが、レーベンは策について話し始める。
現時刻午前六時。
レーベンは心地よい暖かさの羽毛に包まれた気持ちで、ベッドの中に包まっている。
このベッドの中から出たくない。そんな気持ちがレーベンの頭の中を支配していた。
まだこの中で寝ていたいという気持ちはとても抑えられるものでは無い。
「ヘックション!!」
ベッドの下からフローズンのくしゃみの音が聞こえた。
レーベンはまだ寝ていたという気持ちを一瞬で忘れて、霧が晴れるように目が覚める。
ベッドから出ると熱帯に似つかわしくない寒さがレーベンの体を包む。
ウトウトしていた頭がその寒さで徐々に覚醒してゆく。
ベッドの下でダンゴムシのようにうずくまっているフローズンの体をレーベンは揺り動かす。
「フローズン、風邪引いてない?」
「…ダメそう」
いつもに無く気弱な声で答える。
試しに体温計で測ってみると、40℃の高熱を出していた。
レーベンはフローズンをベッドに寝かせて、今日は丸一日中、休ませる事にした。
フローズンをベッドに寝かせると、フローズンは上半身を起き上がらせてレーベンと話す。
まずは最後に何を話したのかだ。
二人とも、策について話し合っていたと言う事は分かる。だが、どんな内容だったのかは全く思い出せ無い。
二人はしばらく沈黙した。
すると、コンコンと扉を叩く音がする。
「朝から誰だい?」
フローズンはいつもより重たく感じる体でベッドから立ち上がり、扉を開ける。
今回の来客はモワだった。
「おはよう。フローズン!!九十年ぶりだね!!」
「九十年ぶりだっけ?」
フローズンはキョトンとした顔でモワを見る。
モワの顔は額に包帯が巻かれているが、明るい笑顔が傷の痛みを感じさせなかった。
「九十年ぶりだよ。最後に会ったのはカ国領第六サガ島の要塞なんだけど」
「あれが最後だったのか。てっきり四十年前のワ国で会ったとばかり」
「経過してる年が普通じゃないし、よく覚えてるね…」
その後、三人はクスクスと笑った。
だが、フローズンがゴホゴホと咳き込んだ。
レーベンとモワはフローズンをベッドまで抱えて行き、ベッドに寝かせる。
ベッドに入ると、フローズンは布団を被ってからすぐにスヤスヤと寝息をたてて眠る。
「フローズンも疲れてたんだ」
「疲れてもいるし、風邪をひいてもいる」
「確かに、ここら辺寒いけど、フローズンにとっては久々にゆっくり休めるからな」
モワはニッコリしながら言う。
一方で、レーベンはモワの事を心配そうに見る。
なぜなら、レーベンは知っていた。モワのニッコリした笑顔と服の下に隠れた傷跡は決して浅くは無いからだ。
「私も休んでいいかな。腰が痛くって」
「何かあったの?」
「夜中にガルムに呼ばれてな。全く疲れた」
「あぁ(?)」
最後に軽く言葉を交わしてモワは部屋を出る。
レーベンもフローズンのためのタオルや水を取りに部屋を出た。
廊下ももちろん寒い。
これは、ここの設計者曰くサトウキビ内の酸素を作る装置と様々な物質や素材を作る装置が普通では考えられないほどの吸熱反応を起こし、中央に行けば行くほど寒くなり、逆に中央から離れれば離れるほど熱帯のため暑くなる環境が出来上がったそうだ。
この環境の実績はスコールでビショビショになった奴が一直線で中央に行くと、次の日には風邪を拗らせていた。
更衣室に洗ったタオルが沢山ある。
レーベンはそこからタオルを四枚拝借してフローズンがいる部屋へ戻る。
一方、ナトウェール湾では遂に“旧”ラ国艦隊が抜錨し、新ラ国艦隊と交戦状態に突入しようとしていた。




