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サトウキビ防衛戦、中編

 サトウキビ指令室では束の間の安息と歓声が上がっていた。

 無事、陸軍の大口径砲や艦砲、その他の小火器に壊滅的打撃を与え、敵軍も掃討した。

 次の標的は敵艦隊だ。

 早速ミサイルやロケットをバラバラに動く敵艦隊に指向する。

 「案外、手っ取り早く終わったな」

 ガルムは予想以上に事がうまく運び、ホッと一息つく。だが、シュテルベンは一筋縄ではいかない相手だ。

ーーー何かそろそろ仕掛けてくるだろうな。

 試験艦竹空ではガルムの予測通り、シュテルベンが秘策を繰り出していた。

 すでに指揮系統は麻痺していたので、竹空はシュテルベンの指示の下、独自の行動をとっている。

 試験艦竹空の飛行甲板は慌ただしかった。

 艦橋のすぐ眼下にある航空機用エレベーターが一機の機体を飛行甲板に上げているからだ。

 「あれが飛行機か」

 ある新参の飛行甲板整備兵が小声で言う。

 エレベーターから飛行甲板に上がってきた機体は彼が見慣れたプロペラが付いていないのだ。

 「あれじゃ、飛ぶことも叶わないね。技術者も頭のネジを吹っ飛ばしたか?」

 他の新参者も口々にそう言った。

 実はこの機体はずっと艦内で布を被っており、昔から乗っていた人は見たことがあるが、新参者は見たことがないのだ。

 出っ張った鼻のような機首と使ってツルツルになった石鹸のような機体と翼。光を反射する黒塗装。

 まるで未来のジェット戦闘機の様だ。

 飛行甲板の高さまで上がると、整備兵達が機体をエレベーターから押し出し、またエレベーターは次の機体を上げるべく下に下がる。

 押し出された機体はコオオオと独特な低音で唸っていた。

 飛行甲板の前の方まで押してもらうと、後ろの一基のジェットエンジンが穴の床に向ける。

 「総員、機体より離れろ!!」

 整備長がそう叫ぶと、整備兵達は急いで離れる。

 整備兵が離れ終わると、機体は更にゴォォォとだんだんと音を上げていく。

 次の瞬間、穴から火の柱が噴出され、機体が宙に浮く。

 宙に浮きながらも、ジェットはそのままで徐々に機首は空へと上がる。

 「一番機、発艦!!」

 すると、火の柱は更に太くなり、突然、一気に視界から姿を消す。

 山を見ると、その機体はすでに山頂付近をクルクルと旋回していた。

 しばらくして、二番機と三番機、四番機、五番機が打ち上る。

 その五機が山頂に到達すると、それぞれバラバラの攻撃目標へと散って行く。

 サトウキビは攻撃目標が破壊されるのを黙って見ている訳ではなく、山の至る所に設置した自動迎撃機銃や対空砲が火を吹いた。

 「私の夢は酒池肉林。金よりご飯。ご飯 is best」

 四番機が無線を全機に開きながらも、愉快に歌っていた。

 「シュテルベン。無線からダダ漏れで歌が聞こえるけど」

 五番機に搭乗しているドラが言う。

 つまり、四番機にはシュテルベンが搭乗している。

 「安心しなよ。この無線はドラちゃんにしか聞こえないようにしてるから」

 「非常に迷惑なのでやめて頂けませんか?」

 シュテルベンはドラの冷たい反応に口を尖らせながらも、操縦桿を倒す。

 「ドラちゃんが非常に迷惑してるそうなので、ここからは勉強に集中するが如く頑張ります!!」

 「頑張れー。(あいつは勉強になるとすぐに集中が切れるがな!!)」

 すると、以外な事に、シュテルベンは無線を切って目標を爆撃しに向かった。

 「まずは一つ」

 シュテルベンが搭乗している機体は片翼に三つの対地ミサイルを装備しており、一つの目標につき三発のミサイルを叩き込む予定である。

 シュテルベンはしっかりと予定通りに二発のミサイルを発射した。

 二発のミサイルはシュテルベンの第一攻撃目標の垂直ミサイル発射機に命中、爆発する。

 その後も、残り二つの攻撃目標の垂直ミサイル発射機を爆撃。どれも成功した。

 シュテルベンの爆撃スピードと正確さはもはや神がかり的であり、一番最初に竹空に戻って来た。

 機首を艦橋に向けながら着艦し、モフモフの帽子を取る。

 「やっぱり操縦席は落ち着くな〜」

 シュテルベンはいつもの声のトーンで言った。

 だが、シュテルベン以外に誰も、聞こえていない。

 窓越しに左手にある太陽を見つめると、そこにはいつ見ても変わらない海と太陽のコンビがいた。

 コンコン

 「そろそろ降りて下さい」

 窓の外で整備兵が窓を叩きながら早く降りろよ的な態度をとっている。

 シュテルベンはしぶしぶ窓を開けて操縦席から飛行甲板に降りる。

 操縦席から出ると、さっきまでは窓で遮られていた音が沢山聞こえてきた。

 空を見ると、シュテルベンの四番機が邪魔で着艦出来ない五番機が竹空上空をくるくると旋回していた。

 五番機はシュテルベンがいなくなるとすぐに航空機用エレベーターまで押され、飛行甲板から姿を消す。

 シュテルベンはドラが降りてくるまで飛行甲板でずっと棒立ちしていた。

 ドラが降りてくると、シュテルベンはトコトコとドラに向かう。

 「目標を全て破壊出来た?」

 「全て破壊出来たよ。当たり前でしょ」

 ドラは鼻を高くして言った。

 シュテルベンは一応、乾いた拍手をドラに送っておく。

 「さてドラちゃん、部屋で休みますか」

 「いいね」

 二人は年相応の会話をしながら飛行甲板から姿を消す。

 その後ろ姿をドラが乗っていたジェット機、“P99x”が見つめていた。

 一方、ほとんどの垂直ミサイル発射機を破壊されたサトウキビ指令室は喜びから絶望に心を染め直されていた。

 「畜生!!」

 ガルムは思いっきり机を叩く。

 ちょうどミサイルの再装填中だった事もあり、爆撃に晒され、ミサイルは誘爆し、発射機を吹き飛ばしてしまっていた。

 一応、爆撃を免れた発射機は存在するが、故障していたり、そもそも動かない等の問題を抱えている。

 だが、まだサトウキビには強力な砲火が残っている。

 ガルムはすぐさまレーベンに無線を開く。

 「攻撃方法をミサイルから砲撃戦に切り替える」

 しかし、返事は返って来なかった。

 ガルムは無線が繋がっていないから、聞こえていないと思い、ただひたすらに同じセリフを無線に吹き込んだ。

 その間に古鷹と榛真君は同じ画面を一緒に見ていた。

 「船がバラバラに動いてるから分かりにくいと思うのですけどもこの点が突然、電探に写ったんです」

 榛真君はバラバラに動く艦艇の右端を指差す。

 その点はまるで艦隊から孤立して行動していたのでは、と思うほど離れた場所にいる。

 「どっか壊れて、行動不能とかですか?」

 「確かに、行動不能かも知れないけど、突然電探に写ったなら、もしかするとこの船は…」

 パンパンパン

 古鷹が話している最中に指令室に三発の銃声が鳴り響いた。

 「ウッ!!」

 銃声の後にガルムが低いうめき声と共に床に倒れる。

 古鷹はすかさず榛真君を抱いて机の下に隠れた。

 「まさか、内部に侵入されたんですか?」

 「そしたらガルムが警報が鳴るって言ってたから違うと思う」

 二人は小声でコソコソと喋る。

 それ以外は銃声を発した張本人の足音が指令室にこだまする。

 古鷹はその人を攻撃しようにも、今は手元に何も無い。

 それよりも、榛真君の命の方が大事だ。

 ガサガサ

 まるで何かを探しているかのような音がする。

 机の引き出しを開けたり、無造作に積まれた書類や本を片っ端から見ている様だ。

 その音はだんだんと古鷹達に近付いてくる。

 ここに居てはマズいと、古鷹達はほふく前進で電線と書類で埋め尽くされた床の中を一つしかない出入り口に向けて進み始めた。

 すると、書類を漁る音が突然止んだ。

 足音がしないから恐らくまだその場にいる。

 二人は見つかっていないようにと、藁にも縋る気持ちで祈った。

 「?」

 榛真は進むのを止めた。

 天井からの光が遮られているからだ。

 背筋から凍るような感覚に襲われる。

 古鷹は榛真がその場で止まっている事に気付かず、そのまま進んでいる。

 「···」

 榛真は古鷹に助けを求めようにも、声が出ない。

 体は硬直したように動かない。

 自分の荒い息遣いと心音しか聞こえない。

 古鷹は出入り口に着くと、後ろを振り返った。

 すると、驚く事に後ろに榛真君の姿が見えない。

 古鷹は危険を承知で体を起き上がらせて後ろを見る。

 榛真君はいた。

 だが、彼の頭上に榛真君を覗き込むような上半身があった。

 その上半身は銃を乱射した本人の上半身だ。

 机越しに榛真君を見つめている為、腰を曲げて、上半身だけ榛真君の頭上に移動させてるのだ。

 榛真君を見つめている人の顔は黒いマントのフードのせいで見えない。

 古鷹は榛真君を救うべく、突撃の構えをする。

 狼のような雰囲気を出している古鷹の目は光っているようにも見えた。

ーーー刺し違えてでも、行動不能の打撃を与えてやる!!

 「こっち」

 「こっちを向け乱射野郎!!」

 古鷹の声を掻き消すほどの大声を出す。声の先には撃たれた筈のガルムがいた。

 そんな彼の両手にはご立派な散弾銃がある。

 その銃口は榛真君を覗き込む人に向けられている。

 「…」

 その人は榛真君を見るのを止めて、今度はガルムを見つめる。

 そこにガルムは容赦なく散弾銃を発射した。

 たちまちその人は宙を舞い、壁まで吹き飛ばされる。

 その人が壁に衝突した際に床に散らばっていた書類が舞い上がり、その人の周りの視界はしばらく悪くなった。

 ガルムは白い煙が出ている散弾銃を持って、寄ってくる。

 「榛真、古鷹、大丈夫か?」

 さっき大声で怒鳴ってから散弾銃を発射した人とは別人と感じるほど穏やかな声で話し掛けて来た。

 二人はコクリと頷く。

 ガルムは二人が頷いた事を確認すると、再度散弾銃を壁に吹き飛ばされた人に向ける。

 その人は壁に寄りかかるように床に横になっていた。

 「どうやって警報を鳴らさずにここまで来たんだ?」

 ガルムはその人に対してそう叫ぶ。

 だが、何の返事も返ってこない。

 「お前は誰だ?目的は?」

 その人は一切返事をせず、生きているのかが怪しくなってきた。

 ガルムは試しにその人を足で優しくツンツンとする。

 「ウッ…」

 聞き取れないほど小さなうめき声を上げた後、その人は壁に手を当ててゆっくりと立ち上がった。

 散弾銃によって黒いマントはビリビリに破かれ、顔がよく見える状態だ。

 “彼”は起き上がると、彼らを顔色一つ変えずに落ち着いた表情で見つめる。

 「…!?」

 ガルムは引き金を引くことを躊躇した。

 彼の顔にはとても見覚えがある。古鷹も、榛真もそうだ。サトウキビにいる全員がよく知っている顔だ。

 「お前はさっき、自分で何をしたのか、分かっているのか••••“秋雲”」

 彼は、いや、“秋雲”は分かっていますよ、と言わんばかりに首を縦に振る。

 榛真と古鷹は秋雲を凝視しているだけで、一言も喋らない。

 そのため、ガルムだけが秋雲と話をする。

 「お前の目的は何だ?」

 秋雲は口を真一文字にし、一切の反応も示さない。

 まるで、秋雲そっくりの人形に話し掛けている気分だ。

 何も話さないのは秋雲に向けている散弾銃が悪いのだろうか。いや、こうでもしておかないといつ銃を乱射するか、分かったものではない。

 「シュテルベンのお使いか、それとも、君曰く、“マイナス値の指導者”か?」

 すると、真一文字だった秋雲の口が徐々に三日月のように曲がって、顔全体で笑っているように見えた。

 「言わないもんねー」

 遂に秋雲が口を開いた。

 その声は間違え無く秋雲の声である。

 「バーン」

 秋雲は何の前触れもなく、子供の遊び声のように声で叫んだ。

 古鷹と榛真、ガルムは呆気にとられて、一瞬動きが固まる。

 秋雲の顔を見ると、喜怒哀楽が一切見えない無表情の顔になっていた。

 そんな無表情の顔とは裏腹に、彼の右手に握られている拳銃の銃口からは白い煙が悠々と昇っている。

 そして、その銃口が向いている先にはガルムがいた。

 二人は顔を青ざめてガルムを見る。

 だが、ガルムは何事もないように立っている。

 「惜しかったな。万が一敵がなだれ込んで来ても大丈夫なように、散弾銃と防弾チョッキをつけてきたんだ」

 ガルムは自慢げに服の下にある防弾チョッキを見せる。

 「結局、あいつの計画通りだな」

 秋雲は独り言のように厭味ったらしく言う。

 「さて、持っている武器を全て出して、洗いざらい話してもらおうか」

 ガルムはそう言って手を出す。

 しかし、秋雲は銃を一切渡す気配が無い。

 それどころか、ガルムを睨んでいた。

 「早く渡せ」

 ガルムが再び言うと、秋雲は水が流れるように銃の狙いをガルムの頭に定める。

 ガルムは咄嗟に散弾銃を構えたが、秋雲の方が速かった。

 「さようなら」

 秋雲は何の躊躇も無く引き金を引く。

 だが、彼の拳銃から弾が出て来る事は無かった。

 銃口からは弾の代わりにバネがポロリと出てきた。

 その後、銃は崩れるようにバラバラになり、部品が次々と床に落下する。

 最終的に秋雲の手には拳銃の握る部分だけが残っていた。

 「チッ」

 秋雲は何の価値も無くなった拳銃の握り部分を投げ捨てて両手を上げる。

 「結局全て言われていた通りかよ」

 秋雲の視線は出入り口に向いている。

 視線の先の出入り口には優雅に紅茶を飲むレーベンが立っていた。

 「何を言われていたのかは知らないけど、お疲れ様」

 レーベンは結界で秋雲を封じ込めると、榛真達に視線を移す。

 「さて、全員怪我は無いかな?」

 「目立った怪我は特にありません」

 レーベンの質問にガルムは如何にも事務的な口調でかえす。

 古鷹はこの時には我に返り、やる事が分からずにオドオドしていた。

 一方、榛真はショックな事が連続で押し寄せ、今にも泣きそうでる。

 そこで、レーベンと古鷹の提案で、榛真を一旦、一人で休ませる事にした。

 榛真の部屋までは古鷹が付き添って行った。

 現状、指令室には秋雲、ガルム、レーベンが残っている。

 秋雲は結界で封印され、声を発する事も、聞くことも出来ない状態だ。

 ただ、結界の中で無期限の昏睡に陥っている秋雲を見ることは出来る。

 「さて、ここからどうしますか?」

 レーベンは昏睡状態の秋雲を見ながら言う。

 「君達が秋雲と戦っている間にもう一回爆撃があって、ミサイル兵器は役に立たないのと…」

 「?」

 レーベンはどこか言いにくそうにして、辺りを見回す。

 「坂井と三石が外で決死の砲撃指揮をやってる。指令室がダウンして自動砲撃指揮装置が機能しなくなったからね」

 「ええ…」

 ガルムとレーベンは急いで指令室の設備復帰を行った。

 幸いにも、秋雲が破壊した設備はまだ代替が利く物ばかりだったので、復旧作業は順調に進んだ。

 十分程で復旧作業を終わらせると、二人はレーダーの画面の前に集まった。

 画面にはさっきとは違い、点が二列単縦陣を形成して、統制が取れた艦隊行動を行っている。

 これはクラッキ大将の手腕を褒めるしかない。

 艦隊は既に砲撃を始めており、戦闘慣れしている三石と不慣れな坂井のコンビがサトウキビ備え付けの大砲の指揮を執って応戦していた。

 だが、指令室が機能していなかった事によって、大半の大砲が使えず、一方的にやられているのが現状である。

 海軍による上陸作戦や先ほど来た陸軍の増援が基地内になだれ込むのも時間の問題となった。

 「…ねぇ、ガルム君。良い報告と悪い報告、どっち聞きたい?」

 「両方だ。まず悪い報告は?」

 「悪い報告は秋雲が配電室やら指揮装置やらを破壊して、全自動で基地が動かなくなった」

 「良い報告は?」

 すると、レーベンの口がニヤリと笑った。

 「旅をしていた一線クラスが帰って来たよ」

 「なるほど。で、そいつは何処にいるんだ?」

 レーベンはレーダーの右端を指で指す。

 だが、そこには何も写っていなかった。

 「どうした。疲れたか?」

 「本当に疲れてるならあなた達を助けには来ないよ」

 レーベンはポケットの無線を取り出して、ガルムの顔の前に持って来る。

 コーーーン

 無線から潜水艦の探信音が鳴り響いた。

 ガルムはこの音を聞くと、目を飛び出さんばかりに開き、「レーベンは疲れてやけくそ気味になったわけでは無かった」と心から反省した。

 「これで、現状もかなり良くなるね」

 レーベンは驚くガルムにニコニコしながら言った。

 この潜水艦の探信音は試験艦竹を始めとする全艦艇に聞こえていた。

 だが、試験艦竹の頑丈な鉄に囲われた艦橋ではこの音はあまり重要視されていなかった。

 コーーーン……

 「何だこの音は?」

 クラッキ大将がそう聞くと、試験艦竹の航海長が「近くに、鯨でもいるのでしょうかね。すぐ近くにいると、稀に艦底から聞こえてくるんですよ」

 「こんな浅い海域で鯨が泳いでいるわけないだろ!!」とクラッキは思った。しかし、たまにある鯨の座礁事件を見ていると案外近くを泳いでいるのかもと思い、さほど重要には思わなかった。

 「攻撃を続行せ」

 ドンドンドンドン

 突然、砲撃音とは違う爆発音が四回した。

 「何事だ!!」

 クラッキは声を荒げて伝令兵を怒鳴りつける。

 伝令兵は涙目になりながらも、艦橋からヒョイと首を出して外の様子を確認した。

 「クラッキ大将、右舷側で練習駆逐艦四隻、爆沈!!」

 クラッキはズカズカと伝令兵に近付き、伝令兵を押し退けて自ら外の様子を確認する。

 外では練習駆逐艦四隻が黒煙を上げながら真っ二つに割れて、海に吸い込まれていた。

 「艦隊に攻撃中止命令、至急対空、対艦警戒を厳とせよ」

 全艦艇の行動は速く、すぐに攻撃を中止し、周りを警戒している。

 どの艦も静寂が支配していた。艦内に鳴り響くのは機関の音だけだ。

 「大日帝国の航空機ですかね」

 「馬鹿か。そしたらすぐに分かるはずだ」

 クラッキの後ろでは勝手に砲雷長と航海長が喋っていた。

 「そしたら、広陸帝国か大日帝国の新兵器かな?」

 「それこそ馬鹿馬鹿しい。“潜航艇”じゃないか?」

 航海長の言葉にクラッキはピクリとした。

 一応、ワ国も潜航艇は開戦前に二隻を保有していたが、国家機密の代物なのでクラッキは見ることが出来なかった。

 その為、潜航艇がどれほどの物なのか、クラッキは噂程度しか知らなかった。

ーーーアレがもし潜航艇の仕業だとすると、航空機よりも厄介だぞ。

 「クラッキ大将、本艦二時の方向、海面に異常あり」

 クラッキはすぐさまその方向を見る。

 海面がだんだんと盛り上がり、その中から黒い船体が飛び出して来た。

 その黒い船体の船はまるで魚雷に艦橋らしき物がついた姿であった。

 「何だアレは!?」

 士官達が混乱している間にその黒い船体は堂々と試験艦竹の目の前を横切り、サトウキビに向かって行く。

 その時、クラッキの目にしっかりと艦橋らしき場所に白で書かれた“イ7”の文字が写った。

 「彼奴等の敵討ちに行くぞ!!」

 その掛け声と共に一隻の駆逐艦が“イ7”に挑みかかった。

 駆逐艦は“イ7”の艦首が本艦の右舷にすれ違ったら攻撃をしようとした。

 だが、“イ7”の前甲板にあるビーム砲が最初に閃光を発した。

 ビーム砲は白い閃光をすれ違う駆逐艦に当てる。

 白い閃光は当たったところから蒸発させ、駆逐艦の艦上構造物をドロドロに溶かしてしまった。

 しばらくしてから、その駆逐艦は静かに海に消えた。

 “イ7”は駆逐艦をドロドロに溶かし終わると、戦艦川竹の艦尾を通過する。

 「駆逐艦乗組員の敵討ちだ!!撃ちまくれ!!」

 第二主砲や右舷舷側砲は艦橋からの指示も無しに砲弾を発射した。

 それらの砲弾は“イ7”の近くに水柱を作り上げるだけだった。

 「砲撃止め、砲撃止め!!」

 伝令兵や一部の士官が必死に制止するも、彼らは砲撃を止めず、他の艦艇まで“イ7”への攻撃を開始した。

 最終的には戦艦川竹艦長、自ら呼び掛けて事態は終息した。

 「やったか!?」

 一方で、水柱が止むと、どこにも黒い船体は見当たらなかった。

 「撃沈…撃沈したぞ!敵を取ったんだ!!」

 勝手に砲撃をしていた戦艦川竹乗組員達は歓喜した。

 もう何処にも黒い船体は見えていない。

 これでひとまずは一件落着となった。

 だが、クラッキは「練習駆逐艦と言えども、同時に四隻を撃沈出来る能力と戦艦に匹敵する大きさ。間違え無く、まだ生きているのだろうな」と考えていた。

 だが、こんな答えがまだ分からない問いを考えても時間の無駄。それよりも、クラッキはサトウキビ攻略作戦の中段を終わらせるべく、各艦艇に砲撃する持ち場を伝達する。

ーーーサトウキビの攻撃能力は爆撃後に目に見えて落ちた。今が攻撃チャンスだ!

 この攻撃能力の低下の裏で何があったのか、そんな事はクラッキには知る由もない。

 各艦艇はクラッキ大将の指揮系統に疑問を抱きつつも、指定された持ち場に着いた。

 しかし、各艦艇が持ち場に着いた時には日が水平線に沈み、無情な夜がもうそろそろ辺りを覆い尽くす時間帯であった。

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