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サトウキビ防衛戦、前編

 ピエロは鎌を振り下ろした。

 だが、鎌の先は方の体では無く、床に刺さっている。

 「言っただろ?計画に無い殺傷はしないってね。それに、君はシュテルベン達の牽制にも役立つ。後は、君達の行動は所詮手の平の上だよ」

 ピエロは鎌を持ち上げて笑いながら艦橋を去る。

 方は後を追ったが、煙のように消えていた。

 「気持ち悪いな」

 方はそう吐き捨てて艦橋から出る。

 甲板には異常を察知して集まった兵士達がいた。

 「方元帥。お怪我は?」

 「安心しろ無事だ。とりあえず、いずれ近い内にこの艦を解体すると、トンに伝えて来てくれないか。私は駐屯地で粘り強く抵抗していた英雄に会ってくるよ」

 方はそう言って敬礼する兵士の横を通り過ぎて行った。

 方は駐屯地に徒歩で向かっている途中、自らの懐中時計を見た。

 長針は午後九時を指していた。

 同刻。サトウキビに向けて進撃する艦隊が月に照らされて航行している。

 ドラは仮設ワラ艦隊所属、試験艦竹空の“飛行甲板”で海風に当たっていた。

 シュテルベンはもう一隻の試験艦の方に今は乗っている。

 「はぁ。シュテルベンの考えが全く読めないよ。国王の幽閉場所と簡単に辿り着くルートを旧王国軍側に話すなんて。もう既に救出作戦行われてるでしょ」

 独り言をブツブツ言い続けるドラに、乗組員達は不安を覚えて、極力近づかないようにしていた。

 ただ、一応、あんなのでも、彼らの上司、中佐なのだ。

 「明日の明け方に作戦海域に着きます。それまでお休みになられては?」

 一人の中尉が勇気を振り絞ってドラに話し掛ける。

 ドラはまるで猛獣のような視線を彼に送った。

 彼の顔はみるみる青ざめる。

ーーー触らぬ神に祟りなし。話し掛けなければ良かった!

 中尉はそう思い、思わず目を閉じる。

 「ありがと。教えてくれて」

 さっき見た顔とは正反対のような穏やかな声が聞こえた。

 言葉の後に、木の上を歩く足音が聞こえてくる。

 その足音はだんだんと遠ざかって行く。

 中尉が恐る恐る目を開けると、目の前には誰もいなかった。

 中尉は辺りを見回してドラがいない事を確認すると、ホッと胸を降ろした。

 「お前凄えな。まさか話し掛けるなんて」

 「英雄だな」

 同僚達がそう言って彼を褒める。

 「ハハッ」

 彼は嬉しいような嫌なような、複雑な感情になった。

 その頃、ドラは自室に戻ってハンモックで横になっていた。

 「いつからこうなったんだろう。…“勇者様”はどんな表情でこの世界を見てるかな」

 薄い鉄の屋根を指で撫でるように触りながら言った。

 艦の独特な揺れとハンモックの揺れがドラを夢の世界に誘う。

 ドラは次第に目を閉じる時間が長くなり、ついに目を開かなくなった。

 「早く食べないと、アイス溶けちゃうぞ」

 シュテルベンの声でハッとする。

 辺りはあの息苦しい鉄の箱の中では無く、澄み渡るような青空と鮮緑が綺麗な公園のベンチに座っていた。

 手元を見ると、真っ白なソフトクリームを持っている。

 「食べない、なら、僕が、食べて、いい、?」

 とても、気が遠くなるほど聞いていなかった懐かしい声がすぐ隣から聞こえる。

 彼女はすぐ隣に座っていた。

 だが、顔が見えない。見れない。

 彼女の顔は赤いモヤで見えなくなっている。

 瞬時にこれが夢であると、分かった。けど、もう少しだけここにいたい。

 忘れてしまった彼女の声、今聞けている。

 美しい茶髪から薄緑色になってしまった長髪。

 何も無い左の袖丈。

 どれも懐かしくて、悲しい気持ちにさせる。

 「泣いて、いるの、?」

 彼女は心配そうな声で聞く。

 気が付くと、頬をつたる雫が何滴もあった。

 「どうしたどうした?」

 シュテルベンが焦るようにドラの肩を揺さぶる。

 「どうせ、また先輩が泣かせたんでしょ」

 レーベンがドラ達の前で仁王立ちをして話す。

 「またってなんだよ。まるでいつもやってるみたいに」

 「いつもやってるから言ってるんです」

 今は矛を交えている相手が少し厭味ったらしい口調で話す。

 どれもこれも、決して元に戻る事の無い、“この世界で一番楽しくて、幸せだった時間”だ。

 「さて、そんな事より、先輩。何か忘れてませんか?」

 「えっ?今日は月曜日じゃないから非番だけど」

 「今日はその月曜日です。今日の予定は午前十一時から試作20cm単装レールガンの試験協力と試作44cm四連装砲の実用化試験です。そして、今の時間は午前十二時です。技術部がキレ気味でしたよ」

 シュテルベンは「なぬ」と言ってすぐにベンチから立ち上がり、走り去った。

 レーベンの視線が今度はドラに向く。

 「…ソフトクリーム、溶けまくってるけど、大丈夫そう?」

 「えっ?」

 下を見ると、膝にボタボタとソフトクリームが溶けている。

 「うわっ」

 驚いた声を上げると、レーベンと彼女は顔を見合わせて、大笑いをした。

 願っても願っても、もう二度と見ることの無い景色。

 「おい、起きろ。そろそろだぞ」

 眠い目を擦りながら、さっきの景色は夢である事を再認識する。

 さっきの澄み渡るような青空や鮮緑は無く、息苦しい鉄の箱の中に戻って来た事に絶望しつつも、ハンモックから降りる。

 「…お前、泣いてたか?」

 シュテルベンは心配そうな顔でドラの顔を覗き込む。

 「…泣いてないよ」

 「嘘だ〜。泣いたあとが出来てるよ?」

 クスクスと笑いながら言う。

 夢の中のシュテルベンと今のシュテルベン。性格が違うな。

 ドラはシカトをした様に黙って甲板に上がる。

 歩いている最中、シュテルベンはかまってもらおうと、ずっと話しかけて来た。

 「私が近くにいなかったから、泣いちゃったの?」

 甲板に上がっても彼女は話し掛けて来る。

 いい加減、昔のほうが口数が少なかったのでは、と思う様になった。

 右舷方向から朝日が見える。

 まだ半分近くが水平線に隠れているが、その内全体を空に浮かべるだろう。

 一方の左舷前方には緑に覆われた一見何処にでもありそうな山が見えている。あの山こそ、今回の攻撃目標“サトウキビ”だ。

 「全艦戦闘配置。敵基地に向けて艦砲射撃を実施する。本艦は護衛飛行隊を飛ばす準備をしろ」

 士官の声が飛行甲板に響く。

 「それじゃ、私達もやる事やりますか」

 そう言ってシュテルベンはドラの手を掴んで艦橋に向かって行った。

 最初はタンカーの船橋のような形をした艦橋を登るのは一苦労したが、構造を知ってしまえばすぐだ。

 艦橋内では艦長が双眼鏡でずっとサトウキビがある山を見ていた。そして時々、「あそこに、敵基地が?」と疑問の声を漏らしていた。

 「竹空艦長殿。何か目ぼしい発見はなさいましたか?」

 シュテルベンはなんとなく苛つく口調で話し掛ける。

 艦長はムッとした顔になりながらも、態度には出さなかった。

 「何の発見も無いぞ」

 「そうですか。それでは一つ忠告しておきましょう。あなた達がその考察はおろか結果すら出せない観察をしている間に“彼ら”は着々と準備していますよ。というか、あなた達では何も分かりません。理解出来ません。こちらも早く準備をしては?」

 艦橋内にいた人達はシュテルベンを睨む。

 それでもシュテルベンはずっと不気味にニヤニヤと笑っていた。

 

 第三特務艦隊がサトウキビを視認する少し前。サトウキビ指令室。

 「電探(レーダー)に赤い点が沢山あります!!」

 榛真君が大声を張り上げて、部屋の奥にいるガルムに伝えた。

 ガルムは如何にも司令長官の様に赤い椅子に堂々と座っていた。

 「OK。しっかり見といて」

 「ラジャー」

 指令室は体育館の様な構造で踊り場に司令官席があり、下にパソコンやらの精密機械がところ狭しと設置されている。

 今はそんな空間に榛真君とガルムそして古鷹さんがいる。

 「あの兵器群ってしっかり動くかな」

 古鷹さんは不安そうに言う。

 兵器がちゃんと作動するかが、今回の防衛戦において、サトウキビ側の最大の不安点である。

 もし兵器が作動しなければ、今、海上戦力より一足先に展開されている地上戦力に容易く制圧されてしまう。

 「昨日丸一日使って修理したので、大丈夫でしょう!!」

 榛真君は古鷹さんやガルムさんを励まそうと明るい声で言う。

 「数百年前に造られたとは言え、まだ動く事を祈るか」

 ガルムにとってはもうやれることは全てやった、という感じであった。

 一応、坂井と三石、レーベンが突貫作業でまだ一部修理中だ。

 「ガルムさん。赤い点が順調に近付いてきます」

 「分かった。戦闘前にしっかりマニュアル読んでおけよ」

 「了解です」

 「あ、…」

 ガルムは危うく口から出そうになった言葉を飲み込む。

 「危なくなったら、逃げろよ」なんて言えるわけが無い。

 陸にも海にも敵が展開し、完全包囲されている。唯一逃げれるとしたら、次元加速域からだ。

 けど、逃げた後に希望はあるのか?

 山岸さんと二人だけで未知の土地で生活させるのか?

 こう考えると、逃がすというのは余りにも無責任過ぎる。

ーーー子供のためにも、ここは絶対に守り抜かねばな。

 しばらくして、屋外作業中だった三石から敵艦隊視認の無線が入った。

 指令室に緊張がはしる。

 「我等の興亡を掛けた戦いか…。榛真、敵襲の報を鳴らせ」

 「ラジャー!!」

 榛真君はすぐに席の隅にあった赤いボタンを押した。すると、スピーカーがキンキンと頭痛を引き起こすかのような音を立てて鳴り響く。

 「総員屋内へ退避せよ。敵襲。敵襲。繰り返す。総員屋内へ退避せよ」

 三石はこの放送を聞くとすぐに作業を中断して屋内に退避した。

 彼が直していたのは、山のほぼ山頂に位置する所にある八角形の建造物だった。

 三石は屋内に避難すると、双眼鏡と強化ガラス越しに敵艦隊を見つめる。

 ワ国艦隊は二列単縦陣で進撃していた。

 左側、つまりこちら側に近い方に主力戦闘艦艇が集中し、試験艦などの補助艦艇が右側にいる。

 三石の視線は左側の一番先頭、今回の艦隊の旗艦川竹に注がれていた。

 間もなくして戦艦川竹の二門の第一主砲がこちらに狙いを定める。

 「地獄の始まりだな」

 三石がそう言ったと同時に川竹の第一主砲が閃光を出す。

 しばらくして爆発音と激しい揺れが三石を襲う。

 この攻撃がサトウキビ対ワ国戦争の火蓋を切った。

 後続艦艇も続々と閃光を発し、そのたんびに耳が壊れそうになる爆発音が響き渡る。

 陸軍も海軍の攻撃音を聞いて次々に28cm榴弾砲をはじめとする大砲群から巨弾を撃ち出す。

 この爆発音は防音対策がされている指令室にも僅かながら聞こえていた。

 「外は四面楚歌、完全包囲ですよ。どうしますか?」

 榛真君がレーダーを見ながら言う。

 レーダーには赤い点がレーダー中央をグルリと囲っていた。

 「人の国旗に銃口向けてんだ。もちろん、撃退あるのみだ」

 ガルムはネックレスの様に首に着けていた鍵を取り出して、机の左隅にある鍵穴に突き刺した。

 ガチン

 鍵をクルリと回すと、何が外れたような音がした。

 だが、音が鳴るだけで、何も起こらない。

 ガルムは繰り返し鍵を回すが、ガチンガチンと音を立てるだけだ。

 「どっか壊れてるのか?」

 そう言ってガルムは有線の受話器で坂井に聞いた。

 「坂井さん、どこか配線に異常とかない?」

 「コッチはコッチで原子力発電機動かそうとしてるから忙しいの。レーベンとかに頼んだら?」

 「OK。分かった」

 ガルムは一旦受話器を置いて番号を打つ。打ち終わるとまた受話器をとる。

 「レーベンさん、どこかの配線に異常って見られる?」

 「今、目の前に見えてるから少し待って。あと一分で直る…と思う。だって、主に使ってる配線はかなりの頻度で交換してるから大丈夫だけど、兵器類の配線は主要なやつ以外全部壊れてるもん」

 レーベンはそう言って受話器を置く。

 そして、今、目の前の配線をまた直し始める。

 彼女の周りには無数の配線がヘビのように絡まり合い、部屋の床や壁、天井が見えないほど配線が密集していた。

 「普通、こんなに配線が密集してたら火事だよね」

 小言を言いながらも修理を終え、受話器をとる。

 「ガルム、配線修理終わった。後は電力、原子力発電機の稼働を待つだけ」

 「分かった」

 それだけ言うと、ガルムはすぐに電話を切り、坂井にかける。

 「原子力発電機はいつでも動かせる?」

 「もうバッチリ。メルトダウンしないかだけが心配」

 「なるほど。だか、神に祈っとけば大丈夫だ。とりあえず、起動のレバーを下げてくれ」

 「了解」

 坂井は何の躊躇も無くレバーを下げた。

 すると、サトウキビ全体が大きく揺れ始める。

 「うわぁ」

 指令室では榛真君が驚きの声を上げる。

 机の上に置いてある石製パソコンは次々と地面に落下して割れる。

 古鷹や榛真君は目の前のパソコンを必死に抑えた。

 「制限解除。これより、全機能を開放します」

 スピーカーから流れた。

 それを聞くと、ガルムはまた鍵を回す。

 ガチン

 それと同時に更に揺れが激しくなる。

 「さて、こっからはこっちも攻撃するぞ」

 一方、海上ではサトウキビに何が起こっているかハッキリと見えていた。

 艦砲射撃や陸上からの激しい攻撃によって緑溢れる山は禿山と化していたが、山が突然、意思を持ったのかのように揺れ始め、今は山全体が土煙で覆われていた。

 その光景は艦隊を混乱に陥れ、特に旗艦川竹の混乱は計り知れないものであった。

 「何が起こってるんだ?」

 川竹の乗組員達は物珍しさに勝手に持ち場を離れて前甲板に集まっていた。

 「山が突然揺れ始めたぞ」

 「今から噴火でもするのか?」

 乗組員達はまるで学生のように話し始めている。

 艦橋からはこの様子が手に取るように分かっていた。

 「艦長、兵士達が勝手に持ち場を離れて行きます」

 「ふざけるな。さっさと元の持ち場に戻らせろ」

 川竹艦長は非常に苛ついた様に言った。

 今この艦の最高責任者は彼であり、しかも()()()()旗艦である。この艦や第三特務艦隊で問題事があればすぐさま彼が責められる。

 ところで、なぜ“表向きの”旗艦なのか、それは、出港直前に本来旗艦に乗るべき第三特務艦隊の提督が突然入院し、急遽、クラッキ大将が全艦隊の提督となっていた。だが、士気の低下を恐れて入院の件は一切口外されなかったため、戦艦川竹は表向きは旗艦となっていたのだ。

 では、真の旗艦、つまりクラッキ大将の座乗艦は試験艦竹である。

 試験艦竹は旗艦になるに当たって急ピッチで艤装を着け、なんとか旗艦に相応しい攻撃能力と通信能力を有していた。

 一応、元々は装甲艦であり、練習艦子葉型と同じ艦型をしている。武装は艤装増強前は24cm単装砲二基が左右に設置されていた。

 「戦艦川竹にあの山を引き続き攻撃せよと送れ」

 クラッキ大将は迅速に命令を下す。

 提督の代わりとしては十二分である。

 クラッキ大将の命令が下された戦艦川竹は自慢の主砲、40口径34cm砲四門を土煙で覆われた山に発射した。

 四発の榴弾は確かに山に命中しが、土煙のせいでどれほどの効果があったのかは分からない。

 ずっと、山はゴゴゴとお腹を鳴らすように鳴っているだけだ。

 「戦艦川竹より報告、効果不明」

 「構わん。攻撃を続けさせろ。…あと、陸軍は今何をやっているか」

 クラッキ大将はそう言って伝令兵を見つめる。

 伝令兵は首を横に振って知らないアピールを始めた。

 この態度にクラッキ大将は怒り、大声で怒鳴りつける。

 「可愛い子ぶって棒立ちするな。とっとと連絡を取って来い!!」

 同時刻、陸軍側。

 陸軍では次々と仮設砲台を建築していた。

 「大尉、コンクリートが乾くのが異常に早いのですが、何をやってるんですか?」

 若い工兵が地面に埋め込まれ、円盤型に乾いたコンクリートを見ながら言う。

 確かに、いつもであればコンクリートが乾くのに数日以上は余裕でかかっていたが、今は一時間後には乾いている。

 工兵の大尉はまだ乾いていないコンクリートを見つめているボロボロのフードをかぶっている人を指差す。

 「あいつのおかげだ。あいつの“自称錬金術”のおかげで異次元のスピードでコンクリートが乾いているんだ」

 「自称錬金術?」

 すると大尉は工兵の首に腕を掛け、自分のもとにグイッと引き寄せた。

 そのまま耳元でコソコソと大尉は話し始める。

 「あいつはコンクリートが早く乾くのは自分の錬金術のおかげと言い張っているんだ。だが俺は錬金術では無いと思う」

 「はい?」

 「あれは魔法だよ。つまり、あいつは伝説の転生者様か転移様だよ」

 工兵は錬金術と魔法の区別はなんだろうと思いつつもコクリと頷く。

 「なあなあ、それで俺は考えたんだよ。この戦いが終わった後、あいつをみせも」

 大尉は突然感電したかのように体をビクビクさせる。

 「アッアッアッアッ」

 ブルブル震える顔を天に向けて、白目を向きながら口をパクパクさている。

 工兵は恐怖のあまり、ビクビクしている大尉の腕を振り払い尻餅をついた。

 「全く、人を何にしようと?」

 大尉の後ろには青い電気を発するフォークを持った“錬金術師”がいた。表情はフードのせいで全く見えない。

 青い電気を発するフォークは大尉の背骨辺りに先端がグサリと刺さっている。

 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 工兵は涙を流しながら必死に謝る。

 「別に君はさっきは何もしてなかったから見逃してあげる。だけど、大尉君、君は手遅れだ」

 次の瞬間、大尉のビクビクしていた体はピタッと止まり、脱力したかのようにブランとなって地面に倒れ込んだ。

 「た、大尉…」

 工兵が怯える声で呼びかけても大尉は一切反応しない。

 フードをかぶっていた人はフラリと立ち去る。

 「早く次のベトン(コンクリート)を固めに行かないと。あぁ、一刻も早くシュテルベンが苦しんでいる表情を見てみたいな」

 フードをかぶっている人が固めたコンクリートの上に設置された六基の28cm榴弾砲の発射音を聞きながら言う。

 眼前にある山はいまだに山が崩れる音と土煙を立てている。

 ずっとこの音を聞いているのでそろそろ耳が麻痺し始めていた。その頃だ。

 パッパッパッパッパッパッ

 花火が爆ぜるような音が爆発音と山が崩れる音の間に僅かに響いた。

 「山より未確認飛行物体多数!!」

 誰かが叫ぶ。

 パッと山の上の空を見ると、上から下まで黒い鉛筆がこちらに向かって来ていた。

 「総員、7cm対気球砲ならびに4cm高射砲、撃ちまくれ」

 次々と28cm榴弾砲の周りを囲うように配置させられている対空砲が火を噴く。

 だが、気球への命中率ですら平均8%、とても当たるわけが無い。

 黒い鉛筆は28cm榴弾砲に刺さり、瞬きした後には巨大な砲身が空に高々と打ち上げられていた。

 周りに設置されていた対空砲群も爆風で何処かへ吹き飛んでいる。

 他の五基の28cm榴弾砲も同様に砲身が打ち上げられる。

 砲身が打ち上げらた後には錬金術で固めたコンクリートは大小無数のヒビが入り、使用不能になっていた。

 「馬鹿な…」

 爆風で飛ばされていた兵士がヨロヨロと歩いて来る。

 「我が国最高傑作の28cm榴弾砲が…対空砲が」

 そう言いながらさっきまで28cm榴弾砲があった場所を見つめる。

 彼はそこら辺に四散した傑作対空砲には脇目も振らない。

 「綺麗好きが」

 フードの人は吐き捨てる様に言う。

 正直、フードの人は28cm榴弾砲よりも、試製30cm三連装砲のほうが傑作だと思っていた。

 …この“黒い鉛筆攻撃”で破壊されているかもしれませんが。

 ただ、破壊されたとしてどの様な姿になっているのか気になり、フラリと行ってみることにしました。

 期待外れな事にその試製30cm三連装砲は傷一つ無い姿で榴弾を撃ち出している。

 三連装砲の周りには傑作対空砲が設置されている。

 威力はあるのに命中率と速射性に問題がある7cm対気球砲と速射性と命中率、威力に問題がある4cm高射砲、何処か傑作なのだろう。

 「土煙が晴れるぞ!!」

 山を見ると、土煙が晴れ、緑で覆われていたのが嘘のような茶色で覆われている。

 海上でも全く同じ様に見えている。

 試験艦竹ではクラッキ大将が双眼鏡で山をまじまじと観察していた。

 「川竹に攻撃中止命令を出せ。それと、そっちから何か見えないか聞いてくれ」

 クラッキ大将が命令を下してから間もなくして、戦艦川竹は砲撃を止めた。

 「ここから先は予測、考察共に我々では不可能だな」

 クラッキ大将がそう言った矢先、早速起こることが予測出来そうな問題が飛び込んで来た。

 「練習艦子葉より“何故、旗艦川竹にしきりに発光信号を送っているのか”との事です」

 クラッキ大将は声にならないうめき声を上げて机を叩く。

 たとえ訓練兵が沢山乗っている艦だからと言って決して馬鹿と言う訳ではない。彼らも発光信号の意味が分かり、自らの頭で考えている。

 「他の練習艦からも質問の声が続々と」

 練習艦隊は試験艦竹に発光信号を送り続け、イルミネーションのようになっている。

 これぞ指揮系統の混乱である。

 クラッキ大将は必死に彼らを抑えようとしたが、他の艦艇からも疑問の発光信号が送られてくる。

 遂には収拾がつかなくなっていた。

 「だから私は全員に提督が入院した事を周知させろと提案したんだ!!」

 クラッキ大将は発狂したかのように机を何度も叩き始める。

 「大将、戦艦川竹より報告、“山に無数の砲台見えたり”」

 今まさに問題になっている戦艦川竹から報告が来た。

 クラッキ大将は机を叩くのを止め、山を双眼鏡で見る。

 そこには変わり果てた山があった。

 緑を奪った事を恨むように木では無く、“砲身”を山の四方八方、上下左右に多数生やしていた。

 その姿はまるで“砲身の竹山”のようである。

 「ただの噂話かと思っていたが、どうやら“大砲の竹山物語”は実話に則していたようだな」

 クラッキ大将は昔、なぜ戦艦のような強力な艦の艦名に“竹”が付くのかを“方大将”に聞いた事があった。

 これは、数百年前に旧ワ国王立遠征洋上軍(現、ワ国海軍)が降り注ぐようにやって来る“約束を破った天使”を蹴散らした山があったそうだ。その山は多種多様な兵器を有しており、それらが全て山の表面に出ると、まるで兵器の竹山みたいだった。そこから採られている。

 そして、今、まさに、大砲の竹山物語に出て来るような山が目の前にある。

ーーー攻撃を続行するか撤退するか。

 この事がクラッキの頭の中を占めた。指揮系統混乱問題をそっちのけに。

 クラッキは「撤退」と言おうと口を開くが、陸軍が了承するのか、今後の自らの処遇は大丈夫なのかといった事が頭を横切り、口を開けては閉じる開けては閉じるを繰り返した。

 「戦艦川竹より“砲撃の許可を求む”と来ました!」

 伝令兵はそう言いながら艦橋に駆け込んで来た。

ーーー戦艦川竹は戦闘継続を望んでいる。

 クラッキはそう思い、全艦艇に“戦闘継続”の命令を出そうと戦艦川竹に発光信号を送る。

 しかし、混乱している指揮系統で命令がちゃんと届く訳が無く、戦艦川竹艦橋に最終的についた命令は“待機”であった。

 旗艦川竹は「今、何か秘策があるのだな」と思い、待機の命令を他の艦艇にも伝えていった。

 もちろん、この待機の命令ですらまともに伝えられず、各艦バラバラの行動を開始した。

 艦隊は隊列を崩し、どの艦が何処にいるのか誰にも分からなくなった。

 クラッキは急いで元に戻るよう尽力したが、それらの努力は全て水疱と化した。

 クラッキが艦隊を元に戻すよう尽力していた頃、サトウキビからの第二次攻撃が陸軍を襲っていた。

 パシュパシュパシュパシュパシュ

 炭酸が弾けるような音がする。

 空を見上げると、風を切る音と共に鳥の大群らしき物体が多数向かって来ていた。

 鳥の大群であれば良かった。もちろんそれは鳥の大群などでは無く、サトウキビから発射された無数の小型ロケットだ。

 ロケット群は何度も陸軍に波状攻撃を仕掛ける。

 ワ国兵は「とても防ぎようが無い」と次々に塹壕に飛び込む。

 邪魔者がいないロケット群はやりたい放題のような感じで残っていた兵器を破壊していく。

 この破壊は30cm三連装砲にも及んだ。

 一応、三連装砲は鉄で囲われており、なかなか壊れにくい設計だったが、何度も襲いかかるロケット群にじわじわと壊され、遂に一番左の一門を残して破壊され尽くした。

 この第二次攻撃によって陸軍は主力兵器は全滅。小火器も九割以上が使用不能となった。

 「悪魔めが…!!」

 破壊された兵器を見ながらある兵士が言う。

 「我等が悪魔に天誅を下してやる」

 その兵士は呪いの言葉を並べながら軍刀を抜く。

 「突撃!!!!」

 その兵士は一人塹壕から飛び出してサトウキビに向かう。

 その様子を見た隣の兵士もなんとなく続く。

 その様子を見た隣の隣の兵士は混乱しつつも後に続く。

 この突撃は伝染病のように隣の兵士、そのまた隣の兵士に心理的揺さぶりを掛け、最終的にほとんどが塹壕から飛び出して突撃した。

 「あーあ。結局、“計画通り”か」

 フードを被っている人が塹壕から身を乗り出して言う。

 「さて、僕の最後もそろそろだ。…後はピエロと“サトウキビにいる彼”に任せよう!!」

 間もなく、第三次攻撃の小型ロケット群が兵士達を襲い、フードの人諸共吹き飛ばした。

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