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クリ島への航海

 船は、なかなかに遅かった。

 いまだに湾内だった。

 この船は乗船前に配られたパンフレットによると、全長約70メートル。マストが三本あり、煙突が第二マストと第三マストの間にあった。主に木造で、バウスプリットがある所を見ると、かなり古い船だった。

 メンバー内で船内をウロウロ出来る、正智君と山岸さんは寝ているため、この窓が三つで、長方形の部屋だけで暇を潰さねばならない。

 古鷹さんは寝ている二人の枕代わりになっているため動けず、坂井さんはずっとうつ伏せのままだった。

 一方、三石さんは坂井さんが盗んで来たガドリ神聖王国の重要書類を眺めては外を見ていた。

 すると、こちらに寄ってきて花壇を持ち上げると、そのまま窓辺に置いた。

 「す、すみません、三石さん、これは?」

 「光合成させるため」

 「お気遣いありがとうございます…」

 「どうも」

 ここからだと外の景色がしっかりと見えた。三石さんが見ていた重要書類の中身も、手に取るように分かった。

 「軍艦の諸元表?」

 そう聞くと、三石さんは外の軍艦に指をさした。

 「あそこに居る、海防戦艦“聖クリバル”を見てた」

 その海防戦艦は、僕が知っている、戦艦大和と全く違う形だった。煙突が三本、直線で立っていた。まるで、戦艦敷島のようだった。

 戦艦敷島のよう?

 つまり、目の前の戦艦は、明治時代の戦艦クラス?

 「一つ言っておくが、アレが、この国の最新戦艦だぞ」

 三石さんが僕の気持ちを察したように言った。

 ついでに、重要書類の諸元表まで見せてきた。

 基準排水量5300トン。全長101メートル。最大速力17ノット。主砲/24センチ単装砲2基。副砲/15センチ速射砲4基。

 他にも多数の武装があったが、主にこれだろうか。

 諸元表によると、あと三隻、同型艦がいるらしい。

 その海防戦艦を眺めて、暇潰しは終わった。ついに港の外に出たのだ。

 先はいくら眺めても、果てしない水平線が広がっていた。

 船が振動する。機関を動かしての航行を開始した。

 船の振動で、さっきまで寝ていた二人が起きて、海を眺め始めた。

 五泊六日のクリ島への航海だ。楽しみでたまらない。その反面、いつも映画などでは、沈むのが常だ。そのため、とてつもない不安があった。

 夜になると、正智君と山岸さんは夕食を食べに、食堂に行き、部屋には三人と一本が残された。

 部屋の中はランタンがあっても、まだ暗く、窓から差し込む三本の月光が地面を照らしていた。

 その三本の内、一本の月光の中に、出航してからほぼうつ伏せのままの坂井さんが転がっていた。

 だが、正智君と山岸さんの二人がいないので、転がっている坂井さんを省き、三石さんと古鷹さんで、腹を割っての会話が可能になった。

 「僕はもともとの人の身体に戻れるんですか?」

 この最大の疑問を最初にぶつけた。

 もちろん、無理だと言われたら、それまでだと思っていた。

 「戻れるよ。というか、戻るために、大日国に向かってるんだよ」

 古鷹さんがそう答えた。

 「なんなら、坂井なんて、石になってたから。植物ぐらいでそんなに心配しない」

 励ますように言ってくれた。

 「他に質問は?」

 三石さんが話を遮る形で質問してきた。恐らく、二人が帰って来るまでに終わらせたいのだろう。

 「なぜ坂井さん達は国際指名手配犯なのに、カ国が安全だと言い切れるんですか?」

 「なるほど、そう来たか。主に理由は二つある。今、ガドリ神聖王国はカ国と睨み合いをしている。それはなぜか、クリ島で金が出始めたから。まずここで、カ国がガドリ神聖王国に対抗するために、情報を求めている。従って、今持っている重要書類をすごく欲している。これが一つ目。二つ目は…」

 三石さんは突然言うのを躊躇い始めた。

 「どうしたんですか?」

 「いや〜。これ言って突然大日国に行きたくないと言われる可能性があるから」

 「大日国に行ったら、元の身体に戻れるんですよね!だったら、どんな理由があろうと、行きたくないなんて言いませんよ!」

 堂々と宣言すると、三石さんは確認するように言った。

 「言ったな?男に二言は無いぞ」

 「その点はご心配無く!会社で叩き込まれました!」

 「では、単刀直入に言おう。大日国は、今、ワ国と言う国と、戦争をしている!」

 「え゙?」

 予想を遥かに超える事が言われた。

 「ちなみに、ワ国は、軍事力世界第四位だ」

 「え゙ぇ゙」

 「この戦争は、“クロイ戦争”、ワ国対大日国と広陸帝国連合の戦争さ。世界は大日国、広陸帝国を支援している。それを踏まえて話すと、ガドリ神聖王国はほぼ鎖国国家で、唯一ワ国と国交を開いている程度だ。そこで、カ国はその唯一の同盟国を潰して、対ガドリ神聖王国を有利に進めようとしている。そして、我々は大日国のパスポートを持っている。だから、保護してもらえるかもと」

 「ですが、ガドリ神聖王国は対魔王軍のリーダーシップを握っているのではないのですか?」

 「その点は、ワ国の軍事力に各国が怖気づいて、不満があるけど、表面上は従っているだけだ」

 どうこう話している内に、正智君と山岸さんが帰って来た。

 古鷹さんがさっきまでの雰囲気を掻き消すように話し始めた。

 「お腹いっぱい食べられた?」

 「うん、伊勢海老みたいなのがあって、食べてみると、美味しかった」

 そう無邪気な返答をしている様子は、さっきまでの雰囲気を完全に掻き消した。

 夜は、二つの布団があったが、一つの布団に山岸さんと正智君、古鷹さんが入り、もう一つの布団に坂井さんが入った。

 僕と三石さんは、隠れるための箱の中で夜を過ごした。

 今日は珍しく、すごく眠かった。

 翌朝は三石さんのびっくりした表情を最初に見て始まった。

 「ど、どうした。その姿…」

 三石さんはしどろもどろな口調になり、目は飛び出さんばかりに開いていた。

 正智君は三石さんのあまりにもびっくりした表情が気になって、こっちに来た。だが、僕を見るなり、目を何度もこすっては見て、こすっては見てを繰り返した。

 「一体どうしたんですか?」

 どうせ、驚かせようとしていると思っているんだろと思い、平然と言った。

 山岸さんが船内から手鏡を持って来てくれた。

 その鏡に反射して写った僕の姿は、まるで、低木のようだった。

 だが、あまり驚けなかった。

 元々の花だった時の姿は、全くと言っていいほど、見たことが無かった。

 しかし、元の花の時の姿を知っている彼らにとっては衝撃的だったのかもしれない。

 正智君と山岸さんは朝食を食べに、部屋を出た。

 昨日は乗船してから、ほとんどうつ伏せになっていた坂井さんが起き上がり、部屋をくるくると回っていた。

 「俺らのご飯はどこだ?」

 坂井さんが歩きながら言った。

 昨日の昼から水以外、ろくに腹に入れてないので、三石さんも古鷹さんも、お腹が空いていた。

 坂井さんはお腹の音がずっと鳴っていた。

 部屋には食料になるようなものが無かった。

 僕は光合成と水さえあれば生きていけるので、彼らの苦労がそれほど分からなかった。

 「あ!」

 古鷹さんが何かを思い出したかのように自分のカバンをあさり始めた。

 しばらくして、中からは保存食が出て来た。

 それを三人で分け合って食べていた。

 その保存食を食べ終わった頃には、正智君と山岸さんが部屋に戻ってきた。

 なぜ、アルメリアが突然低木の様な姿になったのか。これが会話の主題になった。

 しかし、いくら話しても、花が突然低木になるなんてことは聞いたことが無かった。

 最初は魔法の影響が疑われたが、「そうなる事は無い」と、正智君は断言した。

 僕の状態が以前と変わり無いか。それだけ確認した。

 また、この謎は大日国で解き明かす事にし、これ以上は意味の無い議論ということになった。

 その後は特にする事もないため、昼食まで簡単な遊びをして過ごした。

 昼食も正智君達は食堂へ行き、三石さん達は保存食を食べていた。

 昼食後は全員に正智君が魔法を見せてくれた。

 彼は自分の杖はナイフだと言っていた。

 ナイフの先を皿に向けて、何かを口で言った。すると、ナイフの先に、青色の電気が集まってきた。青色の電気はナイフの先で球体のようになり、彼がナイフを振ると、その青色の電気の塊が皿を目掛けて直進した。皿に当たると、皿は粉々に割れた。

 この時、正智君の周りを飛んでいる、白色の球体がハッキリ見えた。

 その白色の球体の正体を正智君に聞くと、正智君は「僕の魔力の源で、妖精だ」と言った。


 航海開始から五日目の早朝、それまでは特に何も無かった。

 だが、今日は違う。

 この長方形の様な部屋は激しく上下に揺れた。立っているのも、困難だった。

 窓の外は今まで水平線が見えていたが、今日は大波がたくさん見えた。

 船は波の山頂まで登ると、一瞬、身体が宙に浮いた様に感じる。だが、すぐに荒れた海に叩きつけられた。

 「この木造船は大丈夫なの!?」

 部屋の外では、他の乗客が騒いでいた。

 三石さんは試しに、甲板に上がってみることにした。

 いつものボロボロのマント姿で甲板に上がると、外は酷い嵐だった。

 強風が向かい風となって吹き付けた。

 波は甲板を何度も洗った。

 艦首はとりわけ激しかった。

 バウスプリットが波を何度も切り裂くが、波も負けじと噛みつき、滝の様に艦首に押し寄せた。

 マストには、帆は出していなかった。

 三石さんはこの甲板の状態を瞬時に見たが、波が前から殺到した。そのせいで艦尾まで流された。

 艦尾の柵で幸いにも海に落ちずに済んだ。

 身体中が痛かった。

 だからといってここでウカウカしていたら、今度こそ海に落ちる。

 全力で出入り口まで走ったが、波が何度も目の前に来るせいで、また艦尾まで流された。

 仕方無く、右舷の柵を掴みながら進んだ。

 波が来ると、急いで柵を握る。

 この動作を幾度となく繰り返し、出入り口まで戻れた。

 階段も押し寄せる波によって、水浸しになっていた。

 階段を降りると、船員が階段立入禁止の紙を貼っていた。

 しかし、登った時にはこの貼り紙は無かったため、大丈夫だろうと思い、部屋に戻った。

 部屋に戻る前に、船員が廊下を走り回っていた。

 「皆さん。部屋で待機してください。本船は現在、激しい嵐に襲われています。部屋で待機してください」

 船員はしきりにこの事を叫び続けた。

 部屋の中では、この激しい上下運動に酔った坂井が真っ青な顔をして、この船のトイレを探しに行こうとしていた。

 三石さんと入れ替わる形で正智君がトイレを見てきたが、乗客がトイレに殺到しており、とてもじゃないが、行けなかった。日頃は深夜にトイレに行っていたが、今は朝。しかも、酔った乗客がそのトイレに殺到している。一応、坂井さんも三石さんも顔を見られてはいけない。仕方ないが、坂井さんには諦めてもらう他、無かった。

 正智君はこの事を伝えたが、坂井さんは断固としてトイレに行こうとした。

 「三石はバレ無かったじゃないか!それとここでリバースしたら社会的に終わる!」

 引き止めるたびに同じ事を言われた。

 「もう我慢できない」

 そう言うと、甲板に駆け上がっていた。

 三石さんは僕を持って彼を追った。

 彼は上がってすぐの突き当たりの左にいた。

 坂井さんはずっと下を向いていた。

 「おーい、坂井、とっとと帰るぞ」

 そう言うと僕を両手で持ち、前に出した。

 「船内で練習した技いくぞ」

 そう言われると、僕は葉を上下に揺らして答えた。

 しかし、こんな強風だ。葉は全体的に揺れていたから、伝わらなかっただろう。

 手、すなわち枝を四本前に出した。

 その四本は真っ直ぐに伸びて、坂井さんの胴体をしっかり掴んだ。

 後は引き寄せるだけだった。

 その間も、幾度なく、波が押し寄せて危うく、坂井さんが艦尾に流されそうにもなったが、無事に出入り口まで戻ってきた。

 しかし、波が頭上から滝の様に降って、僕達にかかった。急いで船内に入った。

 身体がおかしい。

 なぜか、身体が苦しかった。

 一方、正智君と山岸さんはこの嵐の事を聞きに行っていた。

 船員をなんとか捕まえて話した。

 「この嵐はいつもなんですか?」

 「いや、ここら辺の海は比較的穏やかだけど、魔王とかいうのが現れてから、突然嵐が観測されたんだよな」

 二人はそう聞くと、「ありがとうございました」と言って、揺れる廊下を走って部屋に戻った。

 すると、部屋の中には、クタクタになったアルメリアの低木姿がしぼんでいた。

 アルメリアは一体どうなるのか、植物にとって塩は水分吸収の妨げになる。

 最悪の事態が頭をよぎった。

 一体、どうすればいいのだろうか。

 

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