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情報の一日

 レーベンとシュテルベンはお互いに一歩も動かず睨み合っていた。

 一瞬でも隙を見せたら、一気に丸め込まれる。

 とても長い時間の様に感じた。

 「ロート!」

 先に動いたのはレーベンだった。

 レーベンの杖から出た一本の赤い光線はシュテルベンの防御魔法を破壊しただけで、シュテルベン自身にはなんの効果も与えなかった。

 「いいね。やっぱり一線クラスとの闘いが楽しいよ」

 シュテルベンも杖を横に振る。

 すると、白色の炎の壁がシュテルベンを囲う。

 「レーベン。ここまでが君の物語だ」

 シュテルベンが杖をフッと振るだけで白色の炎がまるで意思を持っているかのようにレーベンに襲いかかる。

 レーベンも杖を頭上でクルクルと回す。

 これでレーベンの頭上を中心に半径10mほどの結界が張られた。

 白色の炎がそこに衝突すると、たちまち、白色の炎は煙の様に全てが消える。

 「人の魔法丸ごと消したな」

 「悪い?けど、こうでもしないと貴方には近づくことすら出来ないし」

 レーベンはまるでテレポートしかのような速さでシュテルベンの前に現れた。

 「みんな格闘戦好きだね」

 「これが私達の強みですから」

 二人は取っ組み合いを始める。

 シュテルベンは魔法でレーベンを瞬殺すべく、ゼロ距離で魔法を放とうとした。だが、発動はした筈なのに魔法が出て来ない。

 驚きを隠せず隙が出来たシュテルベンはレーベンから魔力の籠もった重い一撃をもろに受けた。

 これにはシュテルベンも血を吐く。

 「シャイセ!!なんで魔法が発動出来なかった?」

 焦るシュテルベンを嘲笑う様にレーベンは口を閉じている。

 「紫の煙(爆発·威力強化·直進)」

 試しに適当な魔法を放つ。

 確かに出た感覚はあるが、感心の魔法が見えない。

 そこにレーベンは容赦なく襲いかかる。

 レーベンの魔法はしっかりと発動している。

 なのに、なぜかシュテルベンの魔法は発動はするものの、効果が出ない。

 「レーベンって魔法無効の能力ってあったけ?」

 「あったら昔、貴方に勝ててましたよ」

 レーベンの容赦ない格闘技は次々とシュテルベンにダメージを与える。

 これは、シュテルベンが格闘戦の際、魔法に頼っていた弊害である。

 シュテルベンはレーベンの攻撃を受けながらも必死に打開策を考える。

 様々な種類の魔法を試したが、身体強化などの自分に効果を掛ける魔法以外、発動しなかった。

 「…案外、このカラクリは簡単なものなんだろうな」

 シュテルベンがボソッと言った。

 レーベンにこの声は聞こえていなかった。

 「矢(千本·追撃·爆発)」

 シュテルベンの後ろから黒い矢が無数に出て来る。

 レーベンはすぐさま西日式防御魔法甲を発動して身を守る。

 黒い矢は防御魔法に当たると、爆発し、視界を奪う。

 「紫の煙(爆発·威力強化·直進)」

 シュテルベンの体から等身大の紫色の煙が出た。

 その紫色の煙はノロノロとレーベンに向かう。

 レーベンはこの紫色の煙が自分に向かっている事が分からなかった。

 その煙がレーベンの防御魔法に当たった。

 ドガーン

 その煙の威力は絶大で、レーベンを六メートル程、空に打ち上げた。

 辺りは紫色の煙で覆われ、視界があまり利かない。

 レーベンは受け身をとって地面に落下する。

 あの爆発のせいで防御魔法は崩壊していた。

 「やっとカラクリが分かったよ!!」

 シュテルベンは歓喜しながらレーベンに向かう。

 煙のせいで今シュテルベンがどんな表情なのかよく分からない。

 「魔法が完全に構成される直前に結界術で魔法を覆い、そのまま魔法を圧殺する。これがカラクリでしょ?弱点は一気に攻撃がきた場合は対処出来ない」

 シュテルベンの言っている事は図星だった。

 カラクリが見破られた以上、レーベンは勝機を感じなくなった。

 「これは、マズイわね」

 レーベンもついに冷え汗をかく。

 モワと秋雲をどうやって無事に帰すか、その事が頭をクルクル回っている。

 他のメンバーはモワが連れてきた重軽傷者の手当てや近隣の村の避難誘導を行っている。

 サトウキビの周りには幾つかの村があり、だいたいの村の人口は魔族が八割だ。今はワ国の脅威に国内全体が晒されているので、サトウキビの中に避難させている。

 とりあえず、他のメンバーからの救援は絶望的。

 シュテルベンさえ行動不能にすれば助かるのに。

 「ヴヴッ」

 低いうめき声がすぐそこから聞こえる。

 ドラだ。

 ドラは秋雲からのロートを喰らい、苦しんでいた。

 しかも、左脚が斬り刻まれた様に無数の切り傷がある。

 これは秋雲のラートストームがシュテルベンの防御魔法に当たった際、放射線状に分散して行った強風の塊と接触したのだ。

 ドラは左脚が余りにも痛く、ずっと左脚を引きずって歩いていたのだ。

 ドラはレーベンを見るなり、必死になって逃げようとしていたが、簡単に追いつかれた。

 「ねぇねぇドラ。助かりたい?」

 レーベンはにっこりとした表情で聞く。ただ、ドラからすれば恐怖の源泉である。

 それでも、助かりたいので首を縦に振る。

 「イイねイイね。カワイイよ」

 ドラは今すぐにでも泣き出したくなった。

 レーベンはドラを人質にシュテルベンを待ち構える。

 「なぬ!?」

 シュテルベンは現れるや否や驚きの声を漏らす。

 「さて、シュテルベン。ここで見逃してくれるならドラを引き渡す。見逃さないならドラの口に十字架とニンニクを押し込む」

 「なかなかグロい事、考えるね。ところでドラちゃん。ちゃんと抵抗した?」

 「ピャアアア!レーベンさん匿って下さい!」

 「ちょっと無理…かな」

 「ァァァ…」

 低いうめき声を上げた後、ドラは口を大きく開けたまま放心状態となった。これでうるさいのは消えた。

 「…レーベン。いいよ。その条件を飲もう」

 「Danke。それじゃ、次会った時に」

 そう言ってレーベンはドラを置いて紫色の煙の中に消えた。

 「ドラちゃん。大丈夫そ?」

 「ダメそう」

 シュテルベンはため息をつきつつも、ドラに回復魔法を掛けるのだった。

 レーベンはまずモワと会った。

 「大丈夫かいモワ?」

 「あばら骨が何本か折れた。けど、動けはする。それよりも、秋雲の方が重傷」

 モワの先導でレーベンは秋雲のもとに辿り着いた。

 秋雲はすでに虫の息だった。

 服はボロボロで所々焦げている。服をめくると、身体中、無数の火傷があった。

 「急いでサトウキビの緊急治療室に連れてくよ」

 レーベンは秋雲を背負い、走ってサトウキビに帰った。

 帰り着くと、モワと秋雲は緊急治療室に入った。

 「これは酷いね」

 緊急治療室の寝台に寝かされている秋雲とモワを見てラソビエが言う。

 「これって、助かる?」

 レーベンは不安な表情で聞く。

 正直、モワは助かるかもしれないが、秋雲は助かったとしても、後遺症が辛いであろう。

 「安心してください。ここの医療設備は私達よりもっと先の2055年代の技術ですよ!」

 ラソビエはたとえ見栄っ張りでも、レーベンを不安にさせまいと頑張って言う。

 レーベンはラソビエの言葉にコクリと頷くだけだった。

 一方、シュテルベンはドラの治療を終わらせてナトウェール城下町に帰還していた。

 「全く、ドラちゃんもう少し頑張って」

 「あのね、私、三線クラスなの。戦闘に不向きなの。分かる?」

 シュテルベンの言葉にキレた様にドラは詰め寄る様に話す。

 その後はムスッとした表情で何処かに行ってしまった。

 「怒らせちゃった。…帰りに何か買って帰るか」

 シュテルベンはトコトコとナトウェール城下町を歩く。

 街はワ国兵によって破壊され、人通りはとても少なくなっている。

 「どこに行っても、変わらないな」

 活気があった商店街も今は誰もいない廃墟の様になっていた。

 シュテルベンはそんな城下町を歩きながらナトウェール工廠に到着した。

 「シュテルベン殿!」

 見張りのワ国兵がシュテルベンを見るなり叫ぶ。

 今ナトウェール工廠の見張りをしているのはワ国海軍第二陸戦隊だ。第二陸戦隊とはシュテルベンも面識があった。

 見張りの兵はシュテルベンが頼むと、簡単にどいてくれた。

 シュテルベンはナトウェール工廠の地下に向かう。

 地下のある一室に真っ黒な扉がある。

 その扉を開けてシュテルベンは中に入って行った。

 一瞬、立ち眩みのように視界が暗くなったが、すぐに良くなる。

 まるで工事現場にある足場を渡って移動する。

 眼下には沢山の工場が屋根の無いまま作業をしていた。

 急な階段を何十段と降りてやっと工場が沢山ある場所につく。

 「シュテルベン殿。一体何用で?」

 階段を降りきるとすぐにワ国海軍の人がやってきた。

 彼は第三特務艦隊の提督だ。

 「そうですな。頼んでいたものが今どこまで完成しているのか見学しに来ました」

 「なるほど。そうでしたか。それではこのラ国の次元加速域でゆっくりとくつろいでください」

 そう言って彼は去っていた。

 シュテルベンは早速“頼んでいたもの”を見に行く。

 「いいねいいね。修理もかなり終わってきたね」

 「おや、シュテルベン殿ですな?」

 白いひげをたくわえたお爺さんが突然話し掛ける。

 このお爺さんは本日付けで仮設された仮設ワラ艦隊提督、クラッキ大将だ。

 「クラッキ大将、この艦は出撃出来そうですか?」

 「あぁ、もう準備万端だよ。かなり状態が良かったからね。艦内は君に言われた通り、誰も入れてないよ」

 「そうですか。ありがとうございます」

 「いやいや。礼には及ばないよ。そうだ。今回の“サトウキビ攻略作戦”計画書、君にも渡しとくね」

 クラッキ大将から渡された冊子には題名としてサトウキビ攻略作戦とデカデカと書かれていた。

 「それでは存分に楽しみたまえ!」

 クラッキ大将はすぐにその場を去って別の場所の視察に向かった。

 シュテルベンは冊子を開いてすぐに海上参加戦力の項を見る。


海上戦力

第三特務艦隊ならびに練習艦隊


第三特務艦隊

第八戦隊より川竹型戦艦一番艦川竹、駆逐艦六隻

特務艦十隻


練習艦隊

旗艦練習艦子葉

練習艦十九隻


仮設ワラ艦隊

探索船二隻

試験艦二隻

海防艦九隻

特設巡洋艦十隻

特設砲艦十隻

計七十隻

 

 「かなり集まってるんだ」

 予想よりも倍の参加艦艇に驚きつつも、艦隊の括り雑じゃねとも思った。

 戦艦川竹は本来なら旗艦の長竹型工作戦艦二隻の代わりに派遣されている。

 長竹型工作戦艦の二隻は第六サガ島沖海戦後、機関に原因不明の故障が発生したため、ガドリ神聖王国西部の最大の港、サダギルスで修理していた。

 川竹型戦艦は基準排水量15000トン、全長122m、全幅23m、最大速力17ノットのワ国の標準的戦艦だ。

 艦型はワ国工廠側が量産がしやすいという理由で乾舷が高い平甲板型船体が採用されている。艦首には変わらず衝角が付いている。主砲は正方形の連装砲塔に当時、ワ国最大口径の34cmを収めていた。後は他の前弩級戦艦と変わらない。せめて言うなら、二本煙突で舷側砲も15cm速射砲が片舷5基の計10基である事。そして、水雷艇対策の4cm速射砲は片舷八基の計16基である。

 工廠側からすれば、生産が容易であったため、ワ国前弩級戦艦クラス最多の八隻が現在就役している。

 練習艦隊の旗艦子葉はどこか装甲艦を連想する様な艦型である。

 基準排水量6000トン、全長71m、全幅20m、最大速力16ノットで川竹型戦艦よりも小さかった。

 本艦の基本構造は当時必須装備と行っても過言では無い衝角を持ち、艦中央部が窪んでいる形だった。船体だけを横から見ると、まさに凹型である。

 そして、艦中央部から後部甲板にかけて等間隔に並ぶ丸く細長い煙突が4本ある。

 前甲板は前から正四角形の15cm単装砲、箱型操舵艦橋、マストがある。

 主砲は船体中央部に円形の砲塔に収めた24cm単装砲を並列に設置した。これで片舷180°の限られた範囲で発射出来る。

 建造数は二隻で両艦とも練習艦隊所属だ。

 だが、これらの艦はシュテルベンにとっての本命では無い。あくまで引き立て役だ。

 本命は今、目の前にいる艦だ。

 「のかぜ型護衛艦の弐番艦“やかぜ”、か…」

 やかぜは、 国の護衛艦だ。

 2000年代の艦艇とかなり似た外見である。

 武装については、まず主砲だが、丸みを帯びた形の13cm速射砲になっており、前向きに設置されている第一砲塔が存在する。第一砲塔の後ろには高性能23mm機関砲五基、そして、八角形の艦橋がある。艦橋の後ろには四角い煙突が二つあるが、二つの煙突の側面に苔の様にびっしりと黒い毛のようなものが生えていた。これは10mm自動迎撃機銃と7mm完全自動式汎用機銃である。煙突付近の10mmに関しては片舷24基の計48基。7mmは片舷12基の計24基だ。

 第二煙突の後は55セルの垂直ミサイル発射機。そしてヘリコプター甲板らしきものが存在する。ちなみに、ヘリコプター格納庫がなければ、飛ばすヘリコプターも無い。

 それでも、シュテルベンは満足だ。

 ミサイルさえあればこの時代の艦艇の“ほとんど”は撃沈出来る。

 シュテルベンは完全完成を今か今かと待っていた。

 一方、ドラの方はというと、すでに夕日が沈みかけている中、ナトウェール城下町をウロウロとしていた。

 「全く。シュテルベンめ。三線クラスを戦闘に呼ぶなよ。一線クラスなんだから一人で行って来いよ」

 愚痴を吐きまくっていた。

 その調子でかれこれ一時間ほどぶらぶらしている。

 いい加減に疲れて来たので、近くの広場のベンチに腰を降ろした。

 そして、座ったと同時に腹の底から恐怖が湧き上がった。

 「暇そうじゃのう」

 「はい…」

 目の前に雲神がいたのだ。

 ドラは今日は今月一番の厄日だなと思う。

 ずっと身構えていたが、雲神は特に攻撃するでも無く、「少し話そうぞ」と友好的な態度をとっている。

 ここで戦闘をしても、負けるのは目に見えている。まさに百害あって一利なしだ。それなら話す方が断然マシだ。

 「話すって何を?」

 「世間話とかじゃよ」

 雲神はドラの隣に腰かけて話す。

 「お主は、今、何をしとったんじゃ?」

 「シュテルベンがどっか行ったから散歩してた」

 ドラはさっきまでの警戒心が嘘のように話す。

 だが、会話が円滑に進むのであれば別に問題は無い。

 「雲神、あなたは何してたの?」

 「妾か?そうじゃのう、死者の魂が無事に冥界に辿り着けるように祈っとったんじゃ」

 「神様なのに、祈るの?」

 「妾は冥界に何も関与してないからのう。冥界について口出し出来んのじゃ。じゃから祈っとるんじゃ」

 ドラはなんとも難しい感情になる。

 「そうじゃ。聞きたいことがあるんじゃった!」

 雲神は突然、思い出すように言った。

 「ワ国はこれからどう動くんじゃ?」

 「えぇ~、どうしよっかな。教えようかな〜」

 「教えてくれたら、飴ちゃん一つあげるかのう」

 この言葉の直後、立て板に水のようにスムーズかつ流暢にワ国の今後の計画を説明した。

 明日から全てが動くらしい。

 簡潔にすると、まず、早朝に北の国境を越えて第八軍がラ国に侵攻する。それと、ダリアの戴冠式を執り行うそうだ。

 「有益な情報じゃった。ありがとう」

 そう言って雲神は飴を七つ渡す。

 ドラは大喜びで、「久しぶりに甘いものが食べれる」と言っていた。

 雲神はその後しばらく祈りを続け、テレポートでサトウキビに帰った。

 サトウキビにガルムにドラから聞いたことを全て話した。

 「なるほど。しばらく、ウチには攻めて来ないと。…とりあえず、その情報って信憑性ありますか?」

 「ドラ本人が話しておったから、信憑性はある!」

 「嘘つかれてるかもしれませんよ」と言いたいところをガルムはグッと飲み込んでその場を去る。

 そして、作戦室でラ国の地図を開く。

 ワ国国境はサトウキビから北に300km地点にある。

 しばらくは大丈夫だろう。

 ガルムは作戦室に籠もって、雲神の情報を基に今後の展開を予想していた。

 結論は、明日一日中、サトウキビの全武装を復旧させる日にする事にした。 


 翌朝午前六時頃、対ワ国国境検問所。

 日が地平線を少し離れたくらいだった。

 国境検問所はまだ営業時間ではない為、固くゲートを閉じている。

 「突撃ー!!」

 この声と共に爆発音が鳴り響く。

 爆発音に夜勤の警備員は眠気が吹き飛んだ。

 そして、急いで緊急事態を知らせる警報を鳴らした。

 「警備員は急ぎ武装!爆発音は全ゲートから発せられた模様!」

 三百人程の警備員は三つあるゲートに百人に分かれて急行する。

 中央ゲートではすでに警備員百人が銃を構えて待っていた。

 ゲートは煙で見通しが悪くなっていたため、下手に発砲出来なかった。

 カラカラカラカラ

 まるで何か角ばった物が転がっているような音がする。

 「発砲!」

 警備員達は一気に引き金を引く。

 カンカンカンカン

 鉄に物が当たった様な音がした。

 「何の音だ。至急確認しろ!」

 士官がそう指示するまでも無く、アチラから姿を現した。

 それは、大砲にキャタピラと装甲がついた兵器、戦車だ。

 警備員達はただ立ち尽くすしか無かった。

 警備員が使っている銃は前装式の鉄砲であり、とても戦車に敵うはずも無い。

 車体の側面についている二門の砲が警備員を向く。

 「総員退避!!」

 警備員は背を敵に向けながら散り散りになって敗走する。他のゲートも同様であった。

 ワ国はそこに容赦なく攻撃を加えた。

 「少尉、もう駄目です!全ゲート突破されました!!」

 「…第九師団本部に報告。土石流が流れ込む」

 第九師団本部がこの報告を受けたのは午前六時四十分であった。

 第九師団本部は早速、緊急会議を開いた。

 薄暗い会議室には第九師団においての重鎮が集結した。

 「現在確認されている敵戦力はおよそ五万。対して、我第九師団は二万。ですが、現在、中立騎士団や第十師団等にも増援要請している為、全兵力は敵と同じ五万になる予想です」

 参謀長はそう言った。だが、師団長が聞きたいことはそこではなく、勝機があるかどうかであった。

 「それにしても、王都と連絡がつかないとは何事か!?これではさらなる増援を要請出来ないぞ」

 まさにこの若い参謀が言う通りである。

 なぜか王都と連絡がつかないのだ。これは王都がワ国によって制圧された後、今までとは異なる電波統制が敷かれていたからである。

 「それよりも、作戦はどうする?」

 話がそれる事を恐れた師団長がすぐに口を挟んだ。

 どうやら参謀長には作戦があるらしく、第九師団本部があるこの街、ストライハイゼンの地図を机に広げた。

 「我々は戦闘開始直後は数的不利に立たされます。そこで市街戦を提案します。なぜなら、ここであれば地形を知っている我々に有利があり、増援到着までの犠牲を最小限に出来るからです」

 「その作戦を採用する。直ちに住民の避難を開始せよ」

 師団長の即決により、参謀達はいつもより速く動く。今までは少しでも決断が遅れると他の参謀が作戦に口を挟み、長引いていたのだ。

 約一時間二十分後、午前八時、第九師団本部前広場。

 「これより、第一予備大隊に与えられた作戦概要を説明する!!」

 予備大隊は主に徴募兵を主力に編成されている。

 これを踏まえて、第一予備大隊は防衛ラインの内側で逃げ遅れた住民の救助に向かう事にした。

 「貴様は第一予備大隊、第三中隊に入れ!!」

 「ハイ!」

 彼は士官の部隊振り分けに威勢よく返事をした。

 「ハハッ。ムルツメクス、同じ部隊だな」

 「うるせぇぞ」

 ムルツメクスは同僚からのからかいを無視して列に並ぶ。手には汗がびっちょりとある。

 戦闘は既に一時間前から始まっていた。

 増援は個々の部隊で来るため、自然と戦力の逐次投入となっていた。その一つの部隊がムルツメクスが所属する第一予備大隊だ。

 「よし。中隊を指揮する大尉は私の所に集まれ。他は休憩せよ」

 十分程の部隊振り分けが終わり、やっと地面に尻をつく。

 秋雲達は大丈夫なのだろうか。

 気付いた時にはすでにどこかへ消えてしまっていた。

 深いため息をつく。

 すると、そっと目の前に手を差し伸べてくれた。

 「君がムルツメクスか。私は第四小隊隊長だ。少尉と階級で読んで欲しい」

 ムルツメクスは彼の手を掴んで立ち上がると、すぐに敬礼をする。

 ムルツメクスは自分は第四小隊に配備されたんだなと思った。

 「それでは、第四小隊諸君。これより、我々も市街戦に参加するが、あくまで住民の避難誘導だ。行くぞ!!」

 「「オオッ!!」」

 広場の門をくぐると、バリケードの合間を縫うように避難する一般人が沢山おり、なかなか進めなかった。

 ムルツメクス達はやっとの思いでバリケード群を進み、人気が無い住宅街まで来た。

 「どこに一般人がいるか分からない。慎重に進め」

 少尉の言葉でより一層身に力が入る。だが、実戦慣れしていないムルツメクス達は常に銃を構えて、身の回りしか警戒していなかった。

 「おい、誰かここがどこだか分かる奴はいるか?」

 少尉がそう聞くと、ムルツメクス達はお互いを見回す。なんと、誰も道のりはおろか地図すら持ってきていなかったのだ。

 あまりの出来事に少尉は「もういいぞお前等」と言って、一人でズンズン進んで行った。

 ムルツメクス達はあまりの気まずさに銃を構えず、少尉の後ろにこっそりとついて行く。

 「グワッ」

 余りにも突然の出来事だった。

 「正面より敵!」

 誰かの叫び声で急いで銃を構える。

 すると今度は「三時の方向に敵襲!!」と声が上がる。

 ここからは大混乱であった。

 各自で射撃を開始するも、次々と味方は倒れていく。

 「他の場所に逃げるぞ!!」

 そう言って一人が逃げ出すと、連鎖的に次々と逃げ出す。もちろん、ムルツメクスも逃げ出した。

 逃げている道中もどこからともなく攻撃が降り注ぎ、味方が倒れていく。

 ムルツメクスは敵がどこにいるかは分からないが、ともかく引き金を引いて移動した。

 気がつくと、周りには誰もいなかった。

 銃は弾を何度も装填したのに、空になっている。

 手持ちの弾を見ると、残りは僅かだ。

 心臓の鼓動がとても速い事を身体中で感じる。

 ムルツメクスは恐怖のあまり、ついに道のど真ん中でうずくまった。

 それから、どれほどの時間が経ったのだろうか。

 「大丈夫か?」

 誰かが声をかけてくれた。

 目の前には同じラ国兵士の服装をしている人がいた。

 ムルツメクスは立ち上がりながら、「大丈夫です」と答える。

 「君の所属は?」

 「第一予備大隊、第三中隊です」

 「第一予備大隊!?」

 彼は非常に驚いた表情をして、後退りをした。

 「どうしたんですか?」

 「俺は午前十時に増援として派遣された第四大隊だが、その時間にはすでに第一予備大隊は全滅したと聞いたぞ」

 「え?なぜですか?」

 「第一予備大隊が派遣された場所は実はすでにワ国の支配領域だったんだ。それで、一人も第九師団本部に帰って来なかったから、すでに全滅したと…」

 ムルツメクスは、沈黙した。

 ただ無駄に無言の時間が流れる。

 「そうだ。君も第九師団本部に一旦撤退しないか?誰か一人くらい帰って来てるかもしれないぞ?」

 ムルツメクスは無言で頷き、彼について行く。

 石造りの道には爆発で穴が空いてでこぼことしていた。

 住宅も、場所によっては全壊している。

 ありとあらゆる絶望を見せつけられたが、なんとか第九師団本部に到着した。

 行くときは沢山の一般人が逃げていたところは今は誰もいない。

 広場には沢山のバリケードがところ狭しと設置されていた。

 「おい貴様ら!!何者だ!!」

 バリケードの裏から次々とラ国兵士が出て来て銃を構える。

 「弾薬を補給しに来ました!!」

 彼が大声で叫ぶと、兵士達はまたバリケードの裏でうずくまった。

 「本部はまだ機能してるみたい」

 そう言って二人は本部に入って行った。

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